なぜ「2年後に公開する回」を撮るのか?
この回は、水野太貴さんが堀元見さんに「どうしてもやりたい」と持ちかけた企画です。2023年3月時点の2人は激動の最中にあり、その生々しい実感を閉じ込めて2年後に見返せば、リスナーにも自分たちにも面白いはずだという狙いがあります。
冒頭の2人は、2025年のリスナーに向けて「脳内に語りかけています」とふざけ、堀元さんが「昨日たまごっちを買うために列に並んでいた」と古いネタを重ねるなど、いつもの掛け合いから入ります。
タイムカプセル回と称しまして、僕ら今の段階が結構ね、実はバタバタしてるというか。
激動のタイミングでして、このタイミングの生々しい実感を閉じ込めておいて、それを2年後とかに見返したら、きっとリスナーさんも、そして我々も面白かろうということで。
堀元さんは、この企画を行動経済学の観点からも価値があると評価します。挙げたのは後知恵バイアス ── 物事の結果を知った後で「最初から予測できていた」と感じてしまう認知の偏り。行動経済学や心理学でよく知られた現象ですで、とんでもない出来事でも、後から振り返ると「普通に起こりうることだった」と言いたくなる現象です。
堀元さんによれば、2年後の自分はインタビューで「あの時からこの未来が見えていました」と言っているはずだといいます。実際、ゆる言語学ラジオの初期について「数万人に聞かれると思っていた」と答えることがあるものの、それは完全に盛っているそうです。
だからちょっとね、後知恵バイアスを封じる回という意味でも、非常に価値のある回になるんじゃないかなと。
水野さんも、番組開始時は聴く人を1000人ぐらいと想定し、1万人に届けばいいと考えていたと振り返ります。未来予測を今のうちに外しておくこと自体が、この回の意味になっています。
コロナ初期、「10年絶望が続く」と読んだ経営者はどうなった?
2人が後知恵バイアスの実例として挙げたのが、新型コロナウイルスの流行です。収録時の2023年3月上旬には、マスク着用の規制が緩和され、水野さんはそれ自体を歴史的なタイミングだったと語ります。
水野さんは、コロナが流行し始めた2020年にファスト&スロー ── 心理学者ダニエル・カーネマンの著書。人間の直感的な思考と熟慮的な思考の違いから、さまざまな認知バイアスを解説した行動経済学の代表的な本ですを読み、後知恵バイアスの話がコロナの状況にそのまま当てはまると感じたといいます。
2020年2月ぐらいの段階だと大したことないっていう論が結構あったし。
専門家って、例えばこれ半年続くとか1年は続くとか言ってるんですけど、多分3年続くなんて言ってた人笑われてたと思いますね。
堀元さんが紹介したのは、実店舗を経営していた友人の経営者の話です。感染者が100人に届いたぐらいの段階で「世界恐慌が来る」と判断し、店を撤退しました。
その友人は経済学に深い知見があり、「向こう10年は絶望が待っている」と断言して、株も実店舗も手放したそうです。堀元さんは当時、その決断の早さを「かっこいい」と感じていました。
ところが実際には、政府が補助金を大量に出したことで状況は予想と違う方向へ進みました。水野さんは、バーなどでは1日の売り上げより補助金のほうが儲かったという話もあったと補足します。
早期の判断
感染者が100人程度の段階で「世界恐慌が来る」と予測
撤退
株を売り、実店舗も撤退して流動資産を持たない方針に
想定外の展開
政府の補助金が大量に出て、景気も大きく悪化しなかった
後悔
1年後ぐらいに「店を続けとけばよかった」とツイート
そいつ1年後ぐらいに「なんやこれ補助金めちゃめちゃ出るし、景気も別に悪くなってないし、店続けとけばよかったわ」ってめちゃめちゃツイートしてて。かっこ悪い。
一方で水野さんは、2023年4月に日銀総裁が植田和男氏に代わる点に触れ、マイナス金利や長期金利操作の見直し、利上げの議論があることから、2025年はむしろその副作用が出ている時期かもしれないと話します。堀元さんも「10年スパンで見れば、彼の予測は当たっていたかもしれない」と応じ、人間は結局後悔がつきもので、未来予測はみんな外すものだと締めくくります。
『言語沼』発売前夜とカフェ見積もり2100万円
2023年3月時点のゆる言語学ラジオの状況として、まず挙がったのが初の書籍『言語沼』です。出版までにトラブルもありましたが、収録時点ではようやく出そうだというタイミングで、先行販売が始まる1週間ほど前でした。
初の著書がどうなのかって、これスベるとね、もう2度と出版オファーなど来ませんから。大丈夫かな。
水野さんのこうした不安に対し、堀元さんは「2年後にこれを見てくださってるリスナーがいるということは大丈夫」と返しています。
堀元さんの側の激動は、ゆる学徒カフェの開業準備です。前月からテナントを借り、これから内装工事に入る段階でしたが、一番大変なのはお金の話だといいます。
内装費は当初800万〜1000万円ぐらいかかっても仕方ないと考えていたところ、最初の見積もりが2100万円で出てきました。そこから「ドアはこれに変えたほうがいいのでは」「この棚はいらないのでは」と、削るための細かい調整が続いたそうです。
カフェが開けば、収録はそのスタジオに移る見込みでした。水野さんは、今の収録場所の背景もいずれ懐かしいものになると話し、堀元さんも、初期の回を撮った家を見ると懐かしくなるのと同じだと応じます。
堀元さんは、タイムカプセル回を毎年公開し、その収録年がだんだん遡っていく「メメント」形式をやりたいとも提案します。水野さんは「ややこしい」と返し、撮り忘れや言い出した本人が忘れるリスクを指摘しました。
背景に置いていた銀の盾やトロフィー用の据え置き棚も、2100万円の見積もりが出た瞬間に「一番いらない」として計画から消えたそうです。
教習所の○×問題に怒った20歳の堀元さんはどこへ?
水野さんが次に提案したのは、現状の悩みを話すことです。悩みは解決すると忘れてしまい、後知恵バイアスで「そんなことで悩んでいなかった」となるため、今のうちに残しておこうという趣旨です。
堀元さんはまず、過去の悩みの例として自動車教習所の筆記試験の話をします。「夜道は危ないので気をつけて運転しなければならない」という問題の正解がバツで、理由は「夜道でなくても気をつけなければならないから」だったといいます。
これ集合の概念理解してない人が作った問題ですよね。
堀元さんは、論理的に正しい答えがバツにされる世界は間違っていると考え、20歳ごろには「権力者になったら絶対に直す」「30歳ぐらいから運動を始めよう」と本気で思っていたそうです。
今ですね、なんでそんなこと思ってたんだろうって不思議で仕方ないですね。
今の堀元さんは、連絡を返すのに忙しく、教習所の問題などどうでもよくなっているといいます。悩みや「やるぞ」という決意は、時間が経つと風化してしまうという実例です。
水野さんも20歳ごろは塾講師になるつもりで、出版社で働くことも、読者だったブロガーと番組を始めてYouTubeやPodcastで広く聴かれることも想像していなかったと話します。その頃の水野さんは悩みも考え事もしておらず、以前の雑談回で話題になった「人である意味がない」というフレーズもここで再び持ち出されます。
一方、同じ年ごろの堀元さんは「何者かにならないと人生なんてやってられない」と思い続けていたそうです。水野さんに「何者かになれてよかった」と言われ、堀元さんは今は充実していると答えています。
言語学の基礎とユーモアのセンス、2人の目標は?
水野さんが挙げた直近の悩みは、言語学の基礎的な内容について一定の理解を持つことです。自分の知識の少なさがボトルネックになり、ゆる言語学ラジオの質を下げているのではないかと感じています。
対策として話されたのが「ちょいガチ言語学ラジオ」という企画で、重要な6科目ほどの基礎知識を身につける構想です。水野さんは、意味論、統語論、形態論、音韻論、語用論、類型論あたりを想定していると説明します。
水野さんの目標は、基礎知識を身につけたうえでユーモアのセンスも忘れないことで、目指す人物として黒島先生の名前を挙げました。
堀元さんは内容には同意しつつ、「ユーモアのセンスも忘れない」という目標は言葉にするとダサいと突っ込みます。ところが水野さんに自分の目標を聞かれると、堀元さんも同じ答えにたどり着きます。
明らかに読書時間とか減ってるし、映画見る時間もめちゃめちゃなくなって、僕本来のそのしなやかさみたいなものが失われていくんじゃないかって恐怖があるので、2年後に向けた目標はユーモアのセンスをなくさないことですね。
うわ、こうやって聞くと、耳から入ってくるとこんなに怖いんだ。
堀元さんは言い直し、肩の力を抜いてふざけていられる状態を維持したいと話します。水野さんは、今の堀元さんの生活は3〜4年前とは真逆だと指摘しました。
当時の堀元さんは、朝7時に起きて12時まで読書にあて、頭が働かない昼食後に連絡を返すという生活で、実働は1日3〜4時間ほどだったそうです。
午前中の約5時間を読書にあて、連絡は昼食後に返す。実働は1日3〜4時間で「完璧」な生活
店の採算など現実的な悩みが増え、読書や映画の時間が大きく減った。本人いわく「最悪」
働きすぎの2人は家庭を持てるのか?
水野さんも趣味の読書ができていないと話し、ワークライフバランスがゆる言語学ラジオに傾きすぎている問題を挙げます。2023年3月時点では、週末に友達と遊ぶ予定を極力入れず、家にこもって台本を書いたり資料を読んだりしていたそうです。
堀元さんは「ごめんな」と繰り返しつつ、質を落としたくない気持ちは自分も同じだと応じます。水野さんには家庭を持ちたいという願望もあり、今の生活で成り立つのかという悩みにつながっていました。
水野さんはこの悩みを、家庭を持つ会社の上司2人に相談したといいます。時間的にも認知的にもリソースがなく、たとえば「急に熱が出たから迎えに来て」といった事態に対応できる余力がない中で、どうリソース配分しているのかと尋ねたそうです。
水野、その家庭ってそういうリソースとかマネジメントとかそういうことじゃないから、多分そういう感じだったらあんまりまだ家庭持つタイミングじゃないと思うって言われて。
堀元さんは、上司の答えを「そもそも根本的に捉え方が間違っている」という指摘として受け止めています。家庭にリソースをどれだけ割くかを計算するような考え方自体が違う、という話として整理されました。
「小人閑居して不善をなす」は忙しさの言い訳か?
水野さんは、番組を始めて2年経ち、使う時間がどんどん増えていると振り返ります。タスクを切り分けない限り仕事は無限に増えるという話に、堀元さんはパーキンソンの法則 ── 「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という経験則。英国の歴史学者パーキンソンが提唱しましたを引き合いに出します。
ここで堀元さんは、最近座右の銘を設定したと切り出します。水野さんがすかさず「ユーモアを忘れない」と返すと、堀元さんは、それを座右の銘にしている人とは顔も合わせたくないと猛反発しました。
堀元さんは相対主義的で、真理を言い当てるフレーズはないと思っていたものの、一生当てはまるかもしれない言葉を見つけたといいます。それが小人閑居して不善をなす ── 中国の古典『大学』に由来する言葉。徳のない人が暇を持て余すと、よくないことをしがちだという意味ですです。
なんか僕めちゃくちゃ暇な時期思い返すと、なんかろくなことやってないんですよね。
その代表例として水野さんが挙げたのが、堀元さんが以前主催した「米粒を数える会」です。代々木公園で、丸1日かけて5キロの米粒を数え切ると宣言し、20人ほどで数えたものの、1キロほどしか数え終わらなかったそうです。
だからこそ堀元さんは、今の忙しさについて悪態はついても、幸福度はそこまで低くないと感じています。
水野さんも、忙しいのは誰かに必要とされているからで、急にオファーがなくなれば焦るはずだと応じます。そのうえで、時間は有限だからうまく使えるようになりたいと話しました。
2年後、水野さんは会社員を続けているのか?
水野さんが次に挙げたのは、2年後も会社員をやっているのかという問題です。リスナーからも「水野さんはいつ会社を辞めるのか」というコメントが定期的に寄せられているそうです。
全く今段階で辞めるつもりはない、こんないい会社ないなっていうふうに思ってるんで、すごいよくしてもらってるし、会社の人にも。
ただし水野さんは、日中の時間をもっとゆる言語学ラジオに投下したくなり、それが我慢できなくなって辞める可能性はゼロではないとも話します。今までの人生で最もボラティリティ ── 価格などの変動の大きさを表す金融用語。ここでは、先行きの振れ幅が大きく予測しにくい状態のたとえとして使われていますが高い時期の1つではないか、という見立てです。
堀元さんは1年ほど前、交差点で水野さんに「会社を辞めても生活できるくらいのビジネス規模にはなっている」と伝えたことがあると明かします。会社を辞めさせたいという意味ではないと伝えようとした結果、歯切れの悪い言い方になり、水野さんに怒られたそうです。
当時の水野さんは「会社は辞めないので、選択肢として提示するまでもない」と答えていました。堀元さんは、今の話しぶりにはその時より角度が下がっている感じがあると指摘します。
水野さんによれば、当時は両立できていたといいます。クオリティを今ほど高めようとしておらず、裏取りや、関わる人が増えたことによる調整業務も少なかったためです。
水野さんは、中学から高校、大学まで「受かるだろう」と思う学校を受け、身近で良さそうな選択肢を手に取り続けてきたと語ります。会社もいい会社に拾ってもらい、辞めるつもりもなかったため、人生の変動が急上昇する時期を避けて生きてきたそうです。
堀元さんが「人生は冒険だからさ」と返すと、水野さんは即座に「座右の銘」と突っ込み、「2度と俺に口きくな」と応酬して、座右の銘ネタがここでも続きました。
「俺はザッカーバーグだ」が再燃した堀元さんの拡大路線
水野さんは堀元さんに、2年後も自分の会社が存続していると思うかを尋ねます。堀元さんはもともとリスクを最小限にして手堅くやるつもりでしたが、人が増え、内装にもお金がかかる中で、立ち行かなくなる可能性も考えていると明かします。
水野さんが転機として挙げたのは、ゆる学徒ハウスを始めると言い出した時の堀元さんです。それ以前の堀元さんはクリエイターであることを重視し、マネジメント業務に否定的でしたが、最近はその優先順位が入れ替わってきたといいます。
その変化の理由を聞かれた堀元さんは、大学生の頃の自己認識を打ち明けます。
僕、大学生の時、自分のことザッカーバーグだと思ってたんですよ。
堀元さんは「自分のプロダクトで世界を変えてやろう」と考えていましたが、24〜25歳ごろ、村を作ろうとして失敗したときに「自分はザッカーバーグではない」と気づいたそうです。ところが、ゆる言語学ラジオが当たったことで、その感覚が少し顔を出したのかもしれないと話します。
水野さんは、カフェを出すことは、堀元さんが「税金の次に嫌い」と言っている固定費を抱える決断であり、大きな変化だったと指摘します。堀元さん自身も、自分の決断に驚いたそうです。
堀元さんは「2年後なので時効」として、開業間近に「なんでこんなことを始めたんだろう」という気持ちが強く来ていると明かします。本人は、それを不安とも違う、マリッジブルーのようなものだと表現しました。
多分出さなかったらさ、ずっと頭の中でさ、出したいな、なんで俺出さないんだろうっていう気になるわけじゃん。
水野さんは、どちらを選んでもブルーは避けられないと指摘し、堀元さんは「限りなく必然に近いブルー」と、村上龍の小説『限りなく透明に近いブルー』をもじって返します。
堀元さんによれば、この感覚は何かを始めるたびに訪れるそうです。ゆる言語学ラジオの初期に自分で動画を編集していた頃や、2022年末の忘年会イベントの1週間前にも同じ気持ちになったといいます。
水野さんは、忘年会イベントの時期に書籍をめぐる騒動が重なり、2022年のクリスマス前日は朝6時まで原稿の赤入れをし、3〜4時間だけ寝て先方との話し合いに臨んだと振り返ります。新番組の公開日も重なり、メンタル的に一番しんどい時期だったそうです。
水野さんの目標は「ピンの仕事」、でも言うことはコロコロ変わる?
話題は2025年に向けた目標や未来予測へ移ります。水野さんが挙げたのは、雑誌『東京人』から巻頭エッセイの依頼を受け、初めて書き仕事をした経験です。
堀元さんとセットじゃなくて単体で受けた仕事、手応えが違うというか。自分で頑張ってやった仕事だなという感覚はあって。
原稿を書くことは基本的に面倒だと感じる水野さんですが、この仕事は少し楽しかったそうです。そのため、ピンでの仕事や書き物、いずれは単著を出すことを小さな目標として挙げました。
堀元さんはここで、水野さんは言うことがコロコロ変わると指摘します。例に挙げたのは、ゲストの先生と堀元さんが仲良くなれる場を水野さんがセッティングすると言っていた話が、いつの間にか風化していたことです。
水野さんは、その件は忘れていないと反論します。堀元さんが忙しそうで、翌日のゲストの堀田先生とも住む場所が離れているため、あえてセッティングしなかったと説明しました。
むしろ水野さんは、堀元さんが「リスナーアンケートを取りたい」と言いながら実施していないことを持ち出します。堀元さんも、水野さんから届いている約40万円分の経費精算を面倒で処理していないと認め、謝る展開になりました。
「生き残りたい」堀元さんを悩ませるインプット枯れ
2年後にどうなっていたいかを聞かれた堀元さんは、少し間を置いて「生き残りたい」と答えます。
なんか今やっぱすごく応援してくださる方が多いので、一斉にみんないなくなったら全部終わるなと思って。
堀元さんは、お金と影響力の両方を保ちたいとしつつ、より大きいのは多くの人への影響力だと話します。水野さんは、収録時点で公開中だった初回リメイク回が「絶賛バックスベリ中」だと明かし、スタッフが作ってくれたサムネイルに申し訳ないと話しました。
堀元さんによれば、直近でコアリスナーに一番受けたのは、食レポの本を15冊ほど読んで話した回ではなく、酒を飲みながら表現辞典の言い回しを使い「お尻が浮いてくよ」とはしゃいだ回だったそうです。何が受けるかは予測できないという実例です。
水野さんは、番組の伸びが止まり、人気を維持するフェーズに入ったのではないかと感じています。堀元さんは、抜けていく人より入ってくる人が多ければよく、それがコンテンツが衰退しないポイントだと応じました。
堀元さん自身の悩みは、聞き手としての能力の低下です。初期は収録の合間に20冊ほど本を読んでおり、直近のインプットから面白い話を引き出せていましたが、最近はインプットが減り、その頻度も落ちているといいます。
堀元さんは、Kindleの本を流し読みしてラジオに使えそうな知識だけを抜き出す「ファスト教養」も試しましたが、「これじゃない」と感じてやめたそうです。
水野さんは、2年後に話が上手くなっているか、堀元さん以外の場でうまく話せるかも気にしています。堀元さんも、他の番組に出るとき、控えめだと爪痕を残せず、強めに出るとうるさくなるという塩梅がつかめていないと話しました。
知的な下ネタとゾミア、2人が立ち返った原点
インプット枯れに悩んでいた堀元さんが原点を取り戻すきっかけになったのは、『小説新潮』での連載「読むだけでぐんぐん頭が良くなる下ネタ大全」です。2年後には書籍化しているはずだと本人は予測しています。
知的な下ネタです。
水野さんに「胸を張って言わないで」と突っ込まれても、堀元さんは帰省したら両親に感謝を伝えつつ、一番好きなのは知的な下ネタだと言えると言い切ります。
堀元さんによれば、何かのために行うインプットは打算的で、ラジオで話す分の知識を得るために読むことになりがちです。一方、下ネタ大全のリサーチでは面白い本を最後まで読み通すことができ、最近では『体の文化史』が最高だったそうです。
水野さんにとっての原点回帰は、ゾミア ── 政治学者ジェームズ・C・スコットの著書。東南アジア大陸部の山地に暮らし、国家の支配から逃れてきた人々の歴史を描いていますという本を読んだ体験です。久しぶりに「俺はこういうのだった」と感じたといいます。
読むのはスムーズで、ラジオ用の知識は拾えるが、本当に面白いものにはたどり着きにくい
積読が発酵したタイミングで手に取り、いい本に出会えたときの体験は何にも代えがたい
堀元さんはここ2か月ほどで初心に戻り、小説、とくにずっと読みたかったSFを読み始めて楽しくて仕方がないと話します。水野さんは、小説はまだ読めていないと認めました。
水野さんの時間を圧迫しているのは、国語辞典の通読です。事情があって2冊を同時に進めており、1冊は「き」まで、もう1冊は「い」まで進んでいるそうです。
水野さんは、毎日酒を飲みながら見開き1つ、つまり2ページずつ進めるルーティンを続けています。日本国語大辞典の回で知った、編纂者が毎日のように用例カードを整理していたという話に触発されて始めたものだといいます。
実際には毎日読めているわけではないものの、読めそうな日は必ず読むようにしているそうです。水野さんは、2年間続けられれば1つの自信になると話し、堀元さんも個人的な日課で2年間続けられたものはないかもしれないと認めていました。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の図版に怒る堀元さん
堀元さんが最近読み始めたのが、アンディ・ウィアーのSF小説『プロジェクト・ヘイル・メアリー』です。大ファンだというSF作家イスカリユバ先生も絶賛しており、会った際には読んでいないのに読んだような顔で話をすり抜けたと明かします。
堀元さんは、まだ上巻の7分の1ほどしか読んでいないものの、すでにワクワクが止まらないといいます。ラジオで使えるかどうかではなく、楽しみのために読むのが最高だと感じているそうです。
もうめちゃくちゃ面白いらしいっていうんで、あらすじにも触れないように気をつけて生活してきたんですよ。
名作古典ならあらすじを全部知ってから読む堀元さんにとって、前情報ゼロで読み始めるのは珍しいことでした。ところが文庫本冒頭のカラーページに、回転して遠心力を発生させるロケットの図版が載っていたといいます。
第1章は、目覚めた主人公が状況をまったくわからないまま探索し、最終的に「ここは地球ではなく、人工的に重力を発生させているロケットの中だ」と気づく展開でした。図版を見ていた堀元さんには、その結論が先にわかってしまったそうです。
堀元さんは、自分の2大好きなことは知的な下ネタと、本の本題ではないところでキレることだと話します。本の作りが悪いと怒るのはすごく好きで、一生やっていきたいと思えたことで初心を取り戻せたそうです。
2人は喧嘩せずに続けられるのか?
1時間ほど話したところで、水野さんは一番避けたいのは、2年後にこの番組そのものがなくなっていることだと話します。2人が喧嘩してチャンネルごと削除されていれば、この回も公開されていないはずだからです。
水野さんは、堀元さんと喧嘩したら知識もなく考え事もしない自分は絶対に勝てないと話します。堀元さんも冗談めかして、水野さんを創業者にして自分が100%出資し、労働基準法の外で無限に働かせる「悪いハック」があると語り、「絶対に真似しないでください」と付け加えました。
水野さんは、10周年を迎えるバンドを見ると、喧嘩や解散危機を乗り越えて続けていることのすごさを以前より実感するようになったといいます。
堀元さんが「ずっとやっていけそうだ」と感じた理由は、水野さんが収録の合間にずっとふざけていることでした。カメラの前で「イエーイ」とやったり、寝起きのパジャマ姿で「収録やりましょう」と言ったりする水野さんを見て、常に一定の出力の人だと思ったそうです。
夫婦とかカップルとかの倦怠期ってだんだん会話の量減ってくみたいなのあるじゃん。始めた時からずっと一緒だなと思って。
水野さんの側がほっとしたのは、堀元さんの業務を減らすために「ゆるコンピュータ科学ラジオを畳めば集中できるのでは」と提案したとき、堀元さんが「それは一番やりたいやつだ」と答えたことでした。
堀元さんによれば、自分がコスパを気にするのは、やりたくないことや面倒なことに限られます。調べて面白いと思ったことを話したり、聞き役として気の利いたことを言ったりするための準備は本質的な仕事なので、コスパを気にせず最後までやりたいと話しました。
2人は、収録時点でまだ1度もガチの喧嘩をしたことがないと確認し合います。向いている方向が大きく違うことがあまりないうえ、水野さんが会社員を続けてビジョンを堀元さんに任せている棲み分けが良かったのかもしれない、という見方です。
最後に2人は、共通の目標を「ちゃんと続けること」と確認します。新スタジオに「いつも仲良し」と貼り出そうという話から、「ダサい」「お前のほうがダサい」と言い合う茶番に発展し、こうしたしょうもない小ネタこそ原点かもしれないと笑い合いました。
新番組には「長寿」で負けたくない
水野さんは、新番組も始まったが、長寿であることだけは負けたくないと話します。人気で負けても長寿では負けないことを目標にしたいという考えです。
もうその様子想像したら地獄の老害でしたけどね。いや、俺たちが一番古くからやってるから、このフォーマットやってるの俺たちの方が先だから、地獄。
2人は、再生数121回の番組が再生数50万回の新番組に大きな顔をする様子を演じてみせ、「そうならないようにしたい」と締めます。
最後に堀元さんは、2年間続けてこられたことへの感謝を伝え、チャンネル登録者数を「38万2511人」と具体的な数字で読み上げて回を終えます。収録時点では2年後の数字を知りようがないため、このくだり自体も2年後の答え合わせを意識した遊びになっています。
まとめ
2023年3月に収録されたこの回は、書籍の発売やカフェ開業を控えた2人が、忙しさや将来の不安、未来予測を率直に残したタイムカプセルです。後知恵バイアスを封じるという狙いどおり、外れるかもしれない予測も含めて記録しておくこと自体に価値がある回になっています。
- 未来予測は外れやすく、人は後から「最初から見えていた」と思いがちです。この回は、それを防ぐために当時の実感を記録しています
- カフェの内装見積もりが2100万円になるなど、2023年3月の2人は激動の最中にあり、読書や遊びの時間も削られていました
- 堀元さんは「小人閑居して不善をなす」を引き、忙しさに文句を言いながら生きるほうがいいと考え始めています
- 2人とも、使える知識を拾うための読書ではなく、知的な下ネタやゾミア、SF小説など、楽しみのための読書で原点を取り戻しました
- 2人の共通の目標は、喧嘩をせずに番組を長く続けることでした





