関係詞はネットのレスバを避ける教養?
「カタルシス英文法」は、中学や高校の英語で丸暗記したものの意味が腑に落ちていない文法事項を取り上げ、「実はこういうことだった」と伏線を回収するゆる言語学ラジオのコーナーです。今回のテーマは関係詞です。
水野さんは、専門用語や厳密な用法よりも直感的な理解を優先して説明すると前置きします。そのうえで、関係詞編全2回の最終的な結論として、意外な主張を用意していると明かしました。
実は関係詞って、日本人がネットでレスバ(レスバトル)をしたりだとか、人と口論を避けるための教養なのだという、そういう結論を最終的には用意しています。
現代を生き抜く教養としての関係詞ってこと?
堀元さんは「こじつけ」「関係ない」と疑いますが、水野さんは大いに関係があると譲りません。ただし、関係詞とレスバの話は第2回で扱い、第1回は高校英語レベルの内容を中心に進めるという構成です。
堀元さんはセンター試験の英語で191点ほど取ったと話し、関係詞には自信を見せます。水野さんは、関係詞の台本を書いていて一番困ったのは、この内容を堀元さんが知っていそうなことだったと打ち明けます。
「ド級の英語オンチ」黒川さんをゲストに迎えた理由
ゆる言語学ラジオのリスナーには、番組は聴いているものの英語は得意ではないという人も多いようです。そこで水野さんは、英語が得意な堀元さんではなく、中学英語で止まっていると話していた黒川さんを聞き手としてゲストに招きました。
黒川さんはゆる学徒カフェ ── ゆる言語学ラジオを中心とする「ゆる学徒ラジオ」系列が手がける実店舗プロジェクトのカフェの店長で、ゆる民俗学ラジオのパーソナリティでもあります。モンゴルなど中央アジアへよく出かける一方で、英語が通じる国にはほとんど行ったことがないそうです。
黒川さんの自己評価では、自信を持って解けるのは中学3年生ぐらいの授業までです。中学3年生の頃から英語のテストの点が目に見えて下がっていったといいます。堀元さんが「想定リスナーじゃないですか」と言うほど、今回の聞き手としてうってつけの人選です。
水野さんによると、関係詞は大学入試に必ず出てきます。特に、どの関係詞が入るかを選ばせる選択式の問題が多いそうです。
そういうwhichとかthatとか、ああいうやつって本質のルールを1個つかむと、絶対に間違えなくなるカモ問題なんですよ、あいつら。
今回の目標は2つあります。関係詞の問題を解く本質のルールをつかむことと、関係詞とはそもそも何かを直感的に理解することです。
黒川さんは関係詞を「5W1H」だと答えますが、それは疑問詞の話です。堀元さんが「後ろに置いて前の名詞を修飾するもの」と答えると、水野さんは黒川さん向けに、関係詞は文を使って名詞を詳しく説明するためのつなぎだと言い換えました。
たとえば「太郎が昨日買った本」は、日本語では何も付けずに言えます。一方、英語では「The book which(that) Taro bought yesterday」のように、whichやthatを挟みます。このwhichやthatが関係詞です。
英文の動詞は原則1つ、関係詞はルール破りの「印籠」
現代英語で関係詞として使われるのは、who、which、what、where、when、why、thatなどです。whateverのような複合関係代名詞もありますが、今回は扱いません。
水野さんは、英語が苦手な人がつまずきやすいポイントとして、「1つの文に動詞は原則1つだけ」というルールを押さえていないことを挙げます。黒川さんは、関係詞が付いた文では動詞がいくつも出てきて混乱すると反論しました。
英語の超基本的なルールとして、まず文に(時制を持った)動詞は基本1個なんだけど、増やすとしたら、増やすために別の何かをつけなきゃいけないっていうサブルールがあって。
関係詞とか、あと接続詞って言われるやつらは、動詞を1個増やしていいっていう、そういう権限を持ってるんですよ。
「高い本」や「きれいな花」なら、expensiveやbeautifulといった形容詞1語で名詞を説明できます。しかし「太郎が昨日勧めてた」を1語で言える形容詞はありません。関係詞は、文で名詞を説明するときに増えてしまう動詞を、ルールの上で許可する存在だという説明です。
マーカーがないといきなりただルール破ったやつになっちゃうから。私はルール破ってるのわかってますよ。でもこの特権ライセンスがあるんですよって見せてる。
水野さんが「通行手形のようなもの」と表現すると、黒川さんは「黄門様の印籠みたいなこと」と例えました。黒川さんはすぐに、黄門様の印籠は無理を通すためのものではないと自分でツッコミを入れ、例えとしてはやや外れていたという笑いにつながります。
原則
英語の文では、時制を持つ動詞は原則1つだけ
問題
「太郎が昨日勧めてた本」のように文で名詞を説明すると、動詞が1つ増える
解決
関係詞や接続詞が、動詞を1つ増やす権限を示すマーカーになる
日本語やモンゴル語に関係詞がないのはなぜ?
水野さんによると、日本人が関係詞でつまずく理由の1つは、「動詞は1つ」というサブルールを理解していないことです。もう1つの理由は、日本語に関係詞がないため、関係詞の仕事を直感的に理解しにくいことだといいます。
関係詞がある言語が世界でメジャーというわけではなく、関係詞を持たない言語は日本語以外にもたくさんあるそうです。水野さんは、関係詞を持つ言語にはSVOの語順が多く、SOVの言語ではほとんど見られなくなるという傾向を紹介しました。
英語やフランス語など、インド・ヨーロッパ系の言語には関係詞がある言語が多い
日本語、韓国語、モンゴル語など。関係詞はほとんど見られない
黒川さんも、日本語とモンゴル語は語順が近く、日本語と同じ順に単語を並べるとおおむね文として成立すると話します。モンゴル語は、現地の人との会話を通じて覚えた単語が多く、学ぶのが楽しいそうです。
嵐で立ち往生して泣いていたとき、バイクで駆けつけた遊牧民のおじさんが空を見ながら「ボロー」と言ったことで、雨を「ボロー」と言うのだと知ったというエピソードも語られました。ただし、状況が強烈すぎて単語はあまり頭に入らなかったそうです。
水野さんは、モンゴル語が黒川さんにとって入りやすい理由の1つは日本語との近さで、英語は日本語から遠いこともハードルになっているのだろうとまとめました。
関係代名詞と関係副詞、何が紛らわしいのか
黒川さんが投げかけたのは、「関係詞」と「関係代名詞」の違いは何かという質問です。水野さんは、関係詞は広い概念で、その中に関係代名詞と関係副詞などが含まれると答えました。関係副詞は高校で初めて習う項目です。
関係代名詞の代表はwhich、that、who、whatで、関係副詞はwhere、when、whyです。水野さんは、両方を兼ねる語はないため、どちらのグループに属するかを覚えておけばまず大丈夫だと話します。
関係代名詞も関係副詞も、前の名詞である先行詞 ── 関係詞の直前に置かれ、関係詞以下の節によって詳しく説明される名詞のこと。「太郎が昨日買った本」なら「本」にあたりますを詳しく説明する点は共通しています。違いの1つは、どんな先行詞が来るかです。
whoは人、whichは人以外が先行詞になります。関係副詞では、whereなら場所、whenなら時や機会、whyなら理由(the reasonなど)が先行詞として想定されます。
例えばじゃあ先行詞がmountainだった時って、人でもないし場所でもあるじゃないですか。だからwhichの条件もwhereの条件も満たしてるじゃないですか。
先行詞が「人以外」で、しかも「場所」でもある場合、whichとwhereのどちらを使えばよいのか判断できません。水野さんは、関係詞でつまずく人の明確なつまずきポイントはここで、入試問題もまさにここを狙ってくると指摘します。
本質は「後ろに来る文が完全か不完全か」
関係代名詞と関係副詞の本質的な違いについて、水野さんは、後ろに来る文の性質がまったく異なる点だと説明します。堀元さんは、目的語が抜けているかどうかの話だったと思い出し、「完全文」「不完全文」という用語を10年ぶりに聞いたと懐かしがりました。
前提として、英語では文の中に必要な主語や目的語を省略できません。日本語なら「知ってる知ってる」で済みますが、英語ではknowから文を始めることはできず、主語のIを必ず入れる必要があります。
堀元さんは、ゆる言語学ラジオで以前扱った例を挙げました。お笑い芸人のとにかく明るい安村 ── 裸に見えるポーズの後に「安心してください、履いてますよ」と言うネタで知られるお笑い芸人さんが、ネタを英語で「I'm wearing.」と言ったところ、客席から「パンツ!」と声が上がったという話です。目的語がないと落ち着かないため、観客が目的語を補った例だといいます。
不完全文とは、英語で必ず入れなければならない要素が1つ欠けている文です。水野さんは、完全文か不完全文かを見抜く力は英文読解に欠かせないのに、雰囲気で判断すると当たったり外れたりすると話します。
黒川さんは、分厚い文法書を読んでも、この部分は最後までよくわからなかったといいます。「俺が好きな本」のような表現を言えないことに、ずっともどかしさを感じていたそうです。
which、who、what、thatなど。後ろには何かが1つ欠けた不完全文が来る
where、when、why。後ろには欠けのない完全文が来る
例文で見る不完全文と、目的語が「極悪人」な理由
最初の例文は「I saw the man who talked with Horimoto yesterday.」です。who以下の「talked with Horimoto yesterday」には、誰が話したのかという主語がないため不完全文になります。欠けている主語を代わりに受けるので、ここに入るのは関係代名詞のwhoです。
次の例文は「I like the ramen which I ate in Osaka.」です。黒川さんは「I ate in Osaka」は成り立っているので完全文だと答えましたが、正解は不完全文です。何を食べたのかという目的語が欠けています。
水野さんによると、黒川さんのこの判断は、日本人の英語学習者なら誰もがやってしまうものです。英語には5文型 ── 英語の文を、主語S・動詞V・目的語O・補語Cの組み合わせでSV、SVC、SVO、SVOO、SVOCの5つの型に分類する考え方がありますが、関係詞の判別で悪さをするのは基本的に目的語(O)だと説明しました。
Oが極悪人。なんでかっていうと、なんかパッと見、Oが欠けてても、なんか完全文っぽく見えちゃうんですよね。
黒川さんも、SVOからOが抜けてもSVに見え、SVOCからOが抜けてもSVCに見えると気づきます。水野さんは、SVOOからOが1つ抜けた場合もSVOに見えてしまうと付け加えました。
日本語なら、「あそこのラーメン食べた?」に「食べた」と答えれば十分です。しかし英語では、SVOの文なら目的語を必ず付けるという制約が非常に強いといいます。主語の欠けは文が動詞から始まるので気づきやすく、判別問題のほとんどは「主語があるときに目的語が欠けていないか」のチェックに尽きる、というのが水野さんの説明です。
「何を?」と聞けたら他動詞、ピスタチオ式見分け方
目的語が必要な動詞かどうか、つまり他動詞か自動詞かを見分ける方法として、水野さんは、動詞の意味に「何を?」と聞けたら他動詞だと考えればよいと話します。「食べる」なら「何を?」と聞けるので他動詞です。「立っている」には「何を?」と聞けないので自動詞ですが、「建てる(build)」は「何を?」と聞けるので、後ろに目的語が必要になります。
テストでは、黒川さんはrememberを他動詞、goを自動詞と正しく判定しました。すると黒川さんは、この見分け方を「いつも心にピスタチオ」と言い出します。
黒川さんが思い浮かべたのは、「何が?」「何を?」と言うネタで知られるお笑いコンビのピスタチオ ── 白目をむいた表情と、「何が?」「何を?」と聞き返すような独特の掛け合いのネタで知られるお笑いコンビです。水野さんも「ピスタチオ式自動詞他動詞見分け方」と気に入りました。
その「何を?」が聞けた時に後ろに名詞があればOKだし、ないんだったら異常事態、不完全文だと判断するってだけです。
水野さんは、演習を3、4回ほどやれば機械的に判断できるようになると話し、手順を次のようにまとめました。
黒川さんは、1年かけて学ぶ英語の内容をぎゅっと詰め込んでいるようで「精神と時の部屋」みたいだと感想を述べます。それでも、段階に分けてもらったことで、順番に文を見ていけばよいとわかったそうです。
黒川さんによると、英語ができない人は文章を「シルエット」、つまり雰囲気で見ています。読んでみて気持ち悪ければ間違い、気持ち悪くなければ正解、という選び方をしているせいで上達しないのだといいます。堀元さんはこれを「審美眼で解いている」と表現しました。
入試形式の2択問題に挑戦
実戦問題の1問目は「This is the house ( ) I lived.」で、whereとwhichのどちらが入るかを選ぶ問題です。Iという主語はあります。live(住む)に「何を?」とは聞けないため、目的語は必要ありません。SVで完結した完全文なので、入るのは関係副詞です。
ところが、関係副詞がwhereとwhichのどちらなのかという最後の暗記部分が出てこず、答えにはたどり着けませんでした。水野さんが、関係副詞はwhere、関係代名詞はwhichなので正解はwhereだと示します。手元のメモを見てはいけないと思って我慢していたという受験生のような姿勢に、水野さんは「殊勝な心掛け」と笑いました。
堀元さんは、タワーマンションのチラシにある「新しい横浜を住む」のような言い回しなら、「住む」にも「何を?」と聞けるのではないかと考えていたと明かします。黒川さんが「マンションポエム」と名前を付け、水野さんはこれを日本語にだけ許されていそうな用法だと受け止めました。
2問目は「India is the country ( ) I have wanted to visit for a long time.」です。黒川さんは現在完了 ── 「have+過去分詞」の形で、過去から現在までの継続や経験、完了などを表す時制の部分を訳し、どこへ行きたいのかという肝心の場所がないことに気づきます。名詞が欠けた不完全文なので関係代名詞のwhichが入る、と答えました。
水野さんは「全ての工程が合ってる」と太鼓判を押します。visit(訪れる)は「何を」「どこを」と問えるので、後ろは不完全文になり、whichが入るという解説です。
意味を考える必要はなく、完全か不完全かをジャッジするだけのゲームだという説明に、堀元さんは「間違い探しみたいなもの」と応じます。水野さんも、苦手意識がある人にはパズルのように使ってほしいと話しました。
関係代名詞の省略は「名詞と名詞の激突」が目印
関係代名詞は動詞を1つ増やすための魔法のような存在ですが、実際にはしばしば省略されます。堀元さんは、それではルール破りのままではないかと指摘します。黒川さんは、この状態を「黄門様が印籠を忘れてきた状態」と例えました。
水野さんによると、省略できるタイミングははっきり決まっていて、そのしくみも合理的です。教科書的には「関係代名詞は、関係詞節の目的語が欠けているときのみ省略できる」と説明されますが、覚えるのはもっと簡単でよいといいます。
単純に名詞と名詞がぶつかったら省略できて、名詞と動詞がぶつかるケースでは省略できないんだって覚えればいいんですよ。
「The book which I bought」はboughtの目的語が欠けているので、whichを省略できます。一方、「The boy who was running」は主語が欠けているので省略できません。
英語では、前置詞を挟まずに名詞が2つ連続することはほとんどありません。例外は「She gave me a present」のme と a presentのようなSVOOの文型くらいです。そのため、英語話者は「The book I bought」を見ると、名詞が続く異常事態から省略に気づくといいます。
名詞の激突
The bookの直後にIが来ており、名詞が連続している
省略を推測
異常事態なので、関係代名詞が省略されていると考える
確認
boughtの目的語がないので不完全文だとわかり、whichがあったと判断できる
逆に、主格の関係代名詞まで省略できるとどうなるかを示すため、水野さんは「The boy is talking with the girl is my friend」という文を挙げます。2か所のwhoを両方消すと、少年と少女のどちらが友達なのかわからなくなってしまいます。主格を省略すると文が多義的になるのです。
黒川さんも、「The boy who was running is my uncle」からwhoを取ると意味がまったく変わると気づきました。主格の省略は問題を生むものの、目的格の省略は問題を生まないので、そこは省エネする。水野さんはこれを「計算され尽くした省エネ」と呼びます。
関係詞が省略された節は接触節 ── 関係代名詞が省略された関係詞節のこと。英語ではcontact clauseと呼ばれますと呼ばれます。水野さんは、名詞と名詞が接触しているから接触節と呼ぶのだろうと話しました。堀元さんは、大学の教科書にある「自明なので証明は省略」を、主格を省略してしまった良くない省略だと冗談めかして例えました。
おさらいと次回予告、そして黄門様の民話
最後は、黒川さんへの穴埋め形式のおさらいです。黒川さんは、関係詞の後ろの文が完全文か不完全文かを確かめ、名詞が1つ欠けていればそれを補う関係代名詞が入ると答えました。関係代名詞の例はノータイムで「忘れました」と言いましたが、メモを見てwhich、who、whatを挙げ、関係副詞はwhere、when、whyだと答えています。
黒川さんは、大学受験の勉強でずっとモヤモヤしていた部分と、あやふやだった自動詞と他動詞の区別が同時に氷解し、十分なカタルシスがあったと話します。水野さんは、自動詞と他動詞をきちんと区別できる人は多くなく、できなくても恥ずかしくないと応じました。
そういうことだったのかじゃなくて、お前いたのかみたいな。
堀元さんのカタルシスは、受験期に身につけた知識が脳の奥で眠っていたのを再発見する「同窓会カタルシス」でした。次回は、制限用法と非制限用法が中心になるそうです。第1回の内容は次回にあまり持ち越さないので、関係詞は文で名詞を修飾するもの、とだけ覚えておけばよいとのことでした。
エンディングでは、黒川さんが水戸黄門こと水戸光圀 ── 江戸時代前期の水戸藩主。後世の講談やドラマ「水戸黄門」では諸国を旅して悪を懲らしめる人物として描かれますの民話を紹介しました。黒川さんの見方では、生前に大きな権勢を誇り、神社整理などを進めたために民衆から嫌がられていたので、民話ではけちょんけちょんにされることが多いそうです。水野さんは「番組が違う」とツッコみました。
まとめ
関係詞は、文で名詞を詳しく説明するときに増える動詞を許可するマーカーです。入試で問われる関係代名詞と関係副詞の選び分けは、後ろの文が完全か不完全かを確かめる作業に還元できる、というのがこの回の要点です。
- 英語の文の動詞は原則1つで、関係詞は動詞を1つ増やすための「通行手形」の役割を持つ
- 関係代名詞の後ろには不完全文、関係副詞の後ろには完全文が来る
- 判別のカギは目的語で、動詞に「何を?」と聞けるのに名詞がなければ不完全文
- 関係代名詞を省略できるのは目的格のときだけで、名詞と名詞がぶつかる形が省略の目印になる





