温泉合宿で始まった「大人の間違い」の企画とは?
今回の収録は、群馬県嬬恋村にある万座温泉の旅館で行われました。水野さんと堀元さんが本を読み込む「インプット奴隷合宿」の合間の収録です。
万座温泉は標高1800メートルにあり、売店のポテトチップスの袋が気圧でパンパンに膨らんでいたそうです。夕食のバイキングでは、節約好きの二人らしく「原価率の高いものを食べまくる」方針で、水野さんは果物、堀元さんはステーキを狙いました。
ステーキ焼いてください、ステーキ焼いてください、ステーキ焼いてくださいって何回も言ったらですね、嫌そうな顔されまして。
本題として水野さんが持ち込んだのは、言語学者の広瀬友紀さんの著書に書かれていた一節です。子どもの言い間違いを扱う番組の定例企画「ジャパン赤ちゃんズミステイクアワード」の大人版をやろう、という提案でした。
広瀬さんは『ちいさい言語学者の冒険 ── 子どもの言い間違いや独特の言葉づかいから、言語を習得する仕組みを読み解く一般向けの本。言語学者の広瀬友紀さんの著書です』の著者で、別の著書『子どもに学ぶことばの認知科学』では、大人の言い間違いも言語処理や認知機能を見るうえで面白い、と書いているそうです。
赤ちゃんに限らず、我々の間違いも何かのメカニズムによって生まれてるから、そのメカニズムを考えるのって面白いよね。
こうして、言葉に限らずカテゴリーの認識違いなども含めて、自分たちの間違いを語る「ジャパンおじさんズミステイクアワード」が始まります。
「相まる」はなぜ間違えた?
堀元さんの最初のミステイクは、「相まって」を終止形に直そうとして「相まる」と言ってしまったことです。水野さんに活用の誤りを指摘され、「相まって」の形しか見たことがなかったと気づいたといいます。
堀元さんは、その原因が匿名ラジオ ── インターネット上で人気の二人組によるトーク番組。パーソナリティの一人がARuFaさんですにあったと主張します。パーソナリティのARuFaさんが「それとそれ相まると」と話していたのを聞いて、そのまま覚えてしまったそうです。
水野さんは、間違えやすい理由自体は共通していると説明します。「つ」で終わる動詞も「る」で終わる動詞も、後ろに「て」が付くと小さい「っ」になるため、「相まって」だけを聞いていると元の形が判断できません。
その試合に勝ってっていうパターンで勝つになることもあるから。両方あり得るってことよね。
バイトに行くのは「出勤」なのか?
水野さん自身の間違いは、大学1年生で初めてアルバイトに行くときの話です。実家を出るときに母親へ「出勤してくるわ」と言ったところ、「お前バイトだろ」とからかわれました。
辞書で「出勤」を引くと「勤め先に出ていくこと」という意味なので、アルバイトに使っても意味のうえでは間違いではありません。それでも堀元さんは、居酒屋のホールスタッフが「出勤してくる」と言うのは確かに出勤っぽくない、と同意します。
水野さんはこのずれを、意味論でいう「典型」と「周縁」の考え方で説明します。日本人にとって典型的な鳥はツバメや鶴で、ペンギンは周縁的な鳥です。それと同じように、スーツを着て正社員として出かけるのが典型的な「出勤」だという整理です。
スーツを着て、正社員などとして勤め先に向かうこと。鳥でいえばツバメや鶴
居酒屋のスタッフとしてアルバイトに行くこと。鳥でいえばペンギン
母親にとっては、ペンギンが鳥っていうのをなんか鳥らしくないなっていうのと同じように、僕がアルバイト先に行くことが典型的な出勤だと思われなかったっていう。
話は水野さんの母親の話題へ脱線します。堀元さんによると、両親に入れ替わって演じたエイプリルフール企画の動画を水野さんの母親が気に入り、場面をスクリーンショットしてラミネート加工し、壁に貼っていたそうです。父親は恥ずかしくて動画を見られない一方で、再生回数は毎日チェックしているとのことでした。
辞書どおりでも不自然な言葉はなぜ生まれる?
水野さんは「出勤」の例から、辞書的な意味では使えるはずの語を不自然に感じる人がいること自体が、日本語学や意味論、語用論で考えるべきテーマだと話します。
堀元さんも似た経験を挙げます。会社の振込は、スタッフが登録して堀元さんが承認する仕組みです。スタッフから「50人分振込処理した」と連絡が来たとき、「承認」が出てこず「認可しておきますね」と返してしまいました。
認可って認めるって意味でしょ。おかしくないと思いつつ、この文脈だと何か変だなと思って。
水野さんは、承認・認可・許諾のような似た語の使い分けは、日本語学習者にとってかなり難しいはずだと指摘します。英語でも、聞き返すときの「pardon」はイギリスではかなり形式ばって聞こえるといい、学校で習った知識と実際の運用がずれることがあると話しています。
伊藤博文は侍だった?写真が作るイメージ
堀元さんが紹介したのは、中学校にあまり通っていなかった友人の話です。幕末を舞台にしたゲーム「ライズオブザ浪人 ── 幕末の日本を舞台にしたアクションゲーム。正式表記は『Rise of the Ronin』で、坂本龍馬など実在の人物が登場します」を遊んでいて、刀を差した伊藤博文が出てきたことに強い衝撃を受けたそうです。
初代内閣総理大臣だよ。スーツ着てるやつだよって言ってて。
日本史の流れを知っていれば、維新の志士が新政府の要職に就いたことは自然に受け取れます。しかし友人にとって伊藤博文はスーツ姿の文人のイメージで、夏目漱石と同じランクだったといいます。一方で坂本龍馬や西郷隆盛は、写真が強そうなので「戦う人」だと思っていたそうです。
堀元さんはここから、人のイメージは実際に何をしたかではなく、有名な写真1枚に写った服装やアイテムで作られてしまう、という仮説を立てます。友人は伊藤博文の件で3時間ほど驚き続けていたそうです。
何を着てるかみたいな、アイテムによってイメージ形成されちゃうから、実際何やったかと関係ないんだなっていうのをめちゃくちゃ思ったの。
仮説を確かめるため、堀元さんはアインシュタインを何だと思うかを友人に聞きました。答えは「物理学者」で、目論見は外れたといいます。続けて二人は、足尾銅山の公害問題に取り組んだ田中正造の名前を挙げ、見た目と実像がずれていそうな偉人を探します。
「ティーバッグ」と言った瞬間に何が起きた?
水野さんの次のミステイクは、女友達とアフタヌーンティーのようなおしゃれなカフェに行ったときのことです。「家ではティーバッグでしか淹れてないから」と話した直後、自分が下着の「Tバック」と同じ発音をしていたことに気づきました。
俺そのお湯にパンティー浸してお茶飲んでるやつみたいに多分なっちゃって、その子。
場が静まり返ったため、水野さんは慌てて「そうそう、ティーバッグ」と言い直し、聞き手の中で二つを足して割ってもらう形で、なんとかごまかしたそうです。
堀元さんは、この日まさに同じテクニックを使っていたと明かします。雪に囲まれた旅館を見て水野さんが「殺人事件でも起こりそう」と言ったとき、クローズドサークル ── 雪山や孤島などで外部と行き来できなくなった状況を舞台にするミステリーの定番設定と言うべきところを「ミステリーサークルできるわ」と言ってしまったのです。
「ミステリーみたいだね」と「クローズドサークルものみたいだね」が混ざった結果の言い間違いでした。堀元さんは後から突っ込まれないよう、小さな声で「クローズドサークルできるな」と言い足していたそうです。
「ティーパック」は存在しない?濁音の制約という落とし穴
「Tバック」と誤解されるのは致命的だと反省した水野さんは、防ぐ方法を考えました。下着はバックの部分がTの形だから「Tバック」、お茶は袋状のパックだから「ティーパック」と言えば間違えない、という整理です。
ところが、周りに「ティーバック」と言う人が多すぎることを不審に思って調べると、「ティーパック」という言葉は存在しませんでした。正しくは、茶葉を入れたカバンを意味する「ティーバッグ」だったのです。
水野さんは、日本語には1つの単語の中に濁音が2つ出にくいという音韻的制約 ── ある言語で、どの音がどう並ぶかについての決まりごと。日本語では和語に濁音が重なりにくい傾向が知られていますがあると説明します。和語で濁音を2つ含むのは複合語くらいで、だから「ビッグマック」も「ビックマック」と発音されがちだといいます。
濁音の制約
日本語では1語に濁音が2つ並びにくい
濁音が減る
「ティーバッグ」が「ティーバック」に聞こえる発音になる
誤解を避ける
水野さんは存在しない「ティーパック」と言い換える
自意識が透ける
下着の話を避けたい人だと周りに思われかねない
日本語の音韻体系の中に採用しちゃいけないやつ入れちゃってんですよ、ティーバッグって。
水野さんは、言い換えた側にも問題があると気づきます。どちらを選んでも恥ずかしいという状況で、存在しない語をあえて使っている人は、下着の話を避けたい自意識過剰な人だと思われてしまう、というわけです。
堀元さんは、これを「羹に懲りて膾を吹く ── 一度の失敗に懲りて、必要以上に用心することのたとえ。熱い吸い物でやけどした人が、冷たい料理まで吹いて冷ますことからきています」のようだと言い間違え混じりにたとえます。最終的に二人は、お笑い芸人のエドはるみさんのギャグのように有声音をはっきり発音すれば紛れがない、という冗談の結論にたどり着きました。
「TP」と「G式パンティ避け」第二世代の悲劇
堀元さんは、身近にも「ティーパック」派がいると明かします。堀元さんの会社のスタッフのよしのぶさんです。ゆる学徒カフェでハーブティーを出す相談の書類に、「入荷量候補500TP(ティーパック)」と書いていたそうです。
ずっと入荷量候補500TPかっこティーパックって書いてて、略語まで生み出すやん。
ただ水野さんは、本当に単なる勘違いで「ティーパック」と覚えている人に、変なレッテルが貼られることを心配します。水野さんのように意図して言い換えた人の言葉を聞いて覚えた人がいるかもしれないからです。
堀元さんは、意図的な言い換えが確定しているのは水野さんだけで、ほかの人はそこから広まった第二世代、第三世代かもしれないとまとめます。そのうえで、この話をいじめのネタに使わないよう視聴者に呼びかけました。
「冷しゃぶ」をなんと読む?
温泉から戻った堀元さんのミステイクは、「冷しゃぶ」の読み方です。ファミレスのメニューで漢字の「冷」にひらがなの「しゃぶ」と書かれたものを、ずっと「ひやしゃぶ」だと思い込み、友人の前でも「ひやしゃぶ定食」と注文していたそうです。
そんなわけないじゃん。だって冷やし中華はさ、冷じゃん。
堀元さんは「冷やし中華」「冷やしラーメン」など食べ物は全部「ひや」だと主張しますが、水野さんに「冷麺」を挙げられ、あっさり崩れます。それでもX(旧Twitter)で検索すると、同じ思い違いをしていた人は意外に多くいたといいます。
水野さんは別の要因を考えました。「しゃぶしゃぶ」は擬音語由来の和語で訓読みです。そこに音読みの「冷(れい)」を組み合わせると、音読みと訓読みを混ぜた重箱読み ── 熟語の上の字を音読み、下の字を訓読みする読み方。「重箱(じゅうばこ)」が代表例で、逆の組み合わせは湯桶読みと呼ばれますになり、直感になじみにくいという説明です。
「冷」も「麺」も音読みで、読みとして違和感がない
音読みの「冷」と和語の「しゃぶ」の重箱読みで、直感になじみにくい
堀元さんは、冷やし中華では「冷」の後に「や」が入るので話が成り立たないと途中で気づいていたものの、黙って押し通していたと白状しました。
辞書を読まないと気づかない「食客」の誤解
水野さんは趣味で国語辞典を読んでいて、意味を全く違う形で覚えていた語に気づくことがあるといいます。以前は「物々しい」を「物騒だ」という意味で原稿に書き、上司に突き返された経験もあったそうです。
最近気づいたのは「食客 ── 貴人の家に養われ、その家のために働く客分のこと。中国の戦国時代には、一芸に秀でた人材を多く抱える有力者がいました」です。水野さんは食客を、舌の肥えたグルメな人のことだと思い込んでいました。
北大路魯山人みたいな人に対して「食客だな」みたいな。って言ったら、「いやいや、誰が居候やねん」って。
堀元さんは、漫画『キングダム』で有力者が「わしのところで食客になりなさい」と言う場面を読めば気づくはずだと突っ込みます。水野さんによれば、読むときは文脈で適当に変換していても、単体で意味を聞かれると全く違うものが出てきてしまうのだといいます。
個別で取り出した時にさ、これどういう意味?って聞かれた時にさ、適切に言えるとわかんないじゃないですか。
関連して、小学館の子ども向け辞典で「逮捕」が「警察が罪を犯した人を捕まえること」と説明されていたことが、辞書好きの間で話題になったと水野さんは紹介します。堀元さんは、誤認逮捕があるので罪が確定しているわけではないと指摘しました。易しく書こうとするほど意味がずれることもある、という例です。
オマール海老とロブスターは別物?
堀元さんは、オマール海老とロブスターを別物だと思っていたと告白します。水野さんも同じ勘違いをしていて、二人で喜び合いました。
オマール海老の専門店で、同行者に「ロブスター頼んどいて」と言われた堀元さんは、「オマール海老だよ」と何度も訂正しましたが、話がかみ合いません。後で調べると両者は同じもので、オマール海老はフランス語、ロブスターは英語の呼び名だったそうです。
お前オマール海老だぞ。エビの仲間だぞ、オマール海老は。ほんでロブスターは全然別の名前ついてんだから、全く違うものに決まってるじゃないか。
堀元さんは同じ例としてカフェラテとカフェオレを挙げます。どちらもコーヒー牛乳という意味ですが、慣用的にはエスプレッソとコーヒーで使い分けていて、「同じものだよ」と言われると腹が立つそうです。
| 呼び名 | 呼び名 | 番組での説明 |
|---|---|---|
| オマール海老 | ロブスター | 同じもの。フランス語と英語の違い |
| カフェオレ | カフェラテ | 意味は同じだが、慣用的にコーヒーとエスプレッソで使い分ける |
ラガーとピルスナー、パスタとスパゲッティの包含関係
水野さんは、ビールのピルスナーとラガーも混同されやすいと話します。堀元さんは「上面発酵がピルスナーで下面発酵がラガー」と答え、根本的に間違えていると指摘されました。
水野さんの説明では、上面発酵がエール、下面発酵がラガーで、ピルスナーはラガーの中の一種です。キリンの一番搾りやアサヒのスーパードライなどは「ラガー」と打ち出していますが、実際にはピルスナーでもあり、エビスはラガーでもピルスナーではなくドルトムンターだといいます。
堀元さんは、これがパスタと同じ現象だと気づきます。パスタは小麦の粉物を茹でて食べる類の総称で、ペンネやマカロニも含みます。それなのに、細長い麺のスパゲッティを、おしゃれだからと上位の「パスタ」で呼んでいるのです。
でかい方で呼んでいく法則が結構あるのかもしれない。
水野さんも、ピルスナーと言っても伝わる人は一部なので、ラガーと言ったほうがイメージがつきやすいと同意しました。正確な下位語より、伝わりやすい上位語で呼ぶ傾向がある、という見立てです。
最後に二人は、この企画を「大人のミステイクアワード」と改め、リスナーからも言い間違いや覚え違いを募集すると告知しました。食べ物の話に限らず、伊藤博文を侍だと思っていなかったような話でもかまわないとしています。
まとめ
今回のエピソードでは、言い間違いや覚え違いを笑い話で終わらせず、音韻の制約、典型と周縁、重箱読み、包含関係といった仕組みから眺めています。大人の間違いにも、それぞれ理由があることがわかる回です。
- 「相まる」は、「〜って」の形だけでは元の動詞が「つ」か「る」か区別できないことから生まれる
- 「ティーバッグ」は濁音が重なりにくい日本語の制約で「ティーバック」になりやすく、避けて「ティーパック」と言うのも誤り
- 「冷しゃぶ」の読み違いは、音読みと訓読みを混ぜた重箱読みの違和感が一因と考えられる
- 「食客」や「逮捕」のように、文脈では読めても単体で意味を説明すると誤りが出る語がある
- オマール海老とロブスターは同じもので、ラガーやパスタのように上位の語で呼ぶ慣習も混乱のもとになる

