「金玉の土用干し」は息抜きか、ありえないことか
この回は、堀元さんが「難解下ネタ語彙の専門家」を名乗り、水野さんに語彙クイズを出す企画です。辞書を「み」まで読んだという水野さんに対し、堀元さんは「『き』から始まるものばかり持ってきた」と告げます。
僕ね、どうしてもきばっかり集めちゃうんですよ。
1問目は「金玉の土用干し」です。水野さんは「文化人で売ってるはずなのに」と嘆きながらも、静岡にある「金玉落としの谷」という地名を持ち出します。Wikipediaによれば「木の玉落とし」がなまった名前だそうで、2人は「想像し得る中でも最悪のなまり方」と笑い合います。
水野さんは「土用干し」を、土用 ── 立春・立夏・立秋・立冬の直前の約18日間を指す暦の言葉。夏の土用には衣類や書物を干す「土用干し」の習慣がありますの丑の日の「土用」だと確認します。そのうえで、金玉を干したくなるのは休みたいときだろうと考えました。
やっぱり命の洗濯みたいな言葉もありますから。洗濯とか干すってちょっと休むみたいな、休息するみたいなイメージありますよね。
堀元さんが明かした正解は「ありえないこと」でした。休憩の意味だと答えた水野さんは、「休むときに金玉を干している人」扱いされてしまいます。語源を聞かれても堀元さんは「わかんないです」と答え、水野さんから「恥をかかせることに精いっぱいで解説が弱い」と突っ込まれました。
今日僕(水野さんに)損させてやろうって思って問題作ってきてるから。作問者の意図を1問目で見抜いた。
腰を伸ばす、赤、しわ。なぜ日本には金玉ことわざが多いのか
2問目は「金玉をくわえて腰を伸ばす」です。水野さんは、くわえたまま腰を伸ばすにはルフィのゴムゴムの実くらい伸びないと無理だと考え、「ありえないこと」と答えました。正解は「到底できるはずがないことの例え」で、1問目とほぼ同じ意味です。
これさ、なぜこんな似た言葉作ったの?金玉絡みで。
3問目の「金玉の赤ほどもない」について、水野さんは「金玉に垢はないのだから、それほどもないなら全くない」と素直に読み解き、正解します。水野さんは「思った通りに素直に解釈すればいいんだ」とコツをつかみ始めました。
堀元さんはさらに、日本の金玉ことわざを畳みかけます。「金玉のしわを伸ばす」は安心すること、「金玉が引っ張られる」は長時間待たされることを意味するそうです。日本の金玉ことわざの多さについて、堀元さんは江戸時代あたりに量産した人がいたのではないかと想像します。
フランスでは「金玉の皮が剥ける」が寒さの挨拶になる?
堀元さんによると、金玉系のことわざはフランスにもあります。1つ目は「私の金玉を壊すのをやめてくれ」で、水野さんは「ひどいことをするな」と推測し、意味は「うんざりさせるのをやめてくれ」でした。
いやいやいや、(金玉を壊されたら)重症でしょ。復帰が不可能なレベルで。
2つ目は「金玉の皮を剥く」です。水野さんは、子どもの頃に冬場の乾燥で掻きすぎて皮膚科に行った体験を打ち明け、「痛くて治療が必要なこと」と答えます。正解は「とても寒い」で、冬場という連想はかなり近い線でした。
堀元さんは、「最近寒いですね」の代わりに「最近金玉の皮剥けますね」と挨拶するのがフランス流だとふざけます。水野さんも、挨拶で「最近乾燥してきたよね」と言うのと同じノリなのだろうと受け止めました。
出題元は、世界金玉考 ── 金玉にまつわる文化や言葉を集めた本。左右社から刊行されており、作中に「金玉言語学」という章がありますの第2章「金玉言語学」です。ゆる言語学ラジオに貢献したくて読んだという堀元さんに、水野さんは「ファーストアクションが間違ってますね。言語学入門とか読めばいい」と返しました。
「おばさんにもし金玉があったら」の続きは?論理学で挑む水野さん
金玉ことわざの最後は、フィンランド語の慣用句の続きを当てる問題です。お題は「おばさんにもし金玉があったら」で、水野さんは大喜利のようだと戸惑いながらも、ことわざ辞典を読んだ知識から推理を始めます。
おばさんにもし金玉があったらの後ろに来るのも、ありえないことが来るはずなんです。
水野さんは、論理学では「PならばQ」のPが偽なら、Qに何が来ても命題は真になると説明します。堀元さんも「人間が8本足ならば地球にはどこでもドアがある」という例でそれに乗りました。水野さんは、どんな答えでもいいはずだとして「ムーミンは実はアブラナ科の野菜である」と答えます。
意味が「ありえないこと」なのは合っていました。ただ正解の文言は「おばさんにもし金玉があったら、そりゃおじさんだ」で、水野さんは「そこの部分伏せて問題にすんな」と怒ります。
堀元さんが強調したのは、日本の「金玉の土用干し」とフィンランドの慣用句が同じ「ありえないこと」を意味している点です。水野さんも、離れた地域で同じモチーフが使われる共通点は面白いと認めました。
| 言語 | 表現 | 意味 |
|---|---|---|
| 日本語 | 金玉の土用干し | ありえないこと |
| 日本語 | 金玉をくわえて腰を伸ばす | 到底できるはずがないことの例え |
| 日本語 | 金玉の赤ほどもない | 全くない |
| 日本語 | 金玉のしわを伸ばす | 安心する |
| フランス語 | 私の金玉を壊すのをやめてくれ | うんざりさせるのをやめてくれ |
| フランス語 | 金玉の皮を剥く | とても寒い |
| フィンランド語 | おばさんにもし金玉があったら、そりゃおじさんだ | ありえないこと |
表にすると、日本とフィンランドで「ありえないこと」を表す金玉ことわざが重なっていることがわかります。
江戸の四十八手「袋入」とはどんな状況か
次の問題は「袋入」という言葉の意味です。水野さんは最初、セカンドバッグのような入れ子状態を思い浮かべますが、堀元さんの答えは「性交時の状態の一つ」でした。
「袋入」は、菱川師宣 ── 江戸時代前期の浮世絵師。「見返り美人図」で知られ、春画も多く手がけましたが描いた恋のむつごと四十八手の1枚のタイトルです。堀元さんによれば、この作品は現代に伝わる四十八手の由来とされますが、中身は現代の四十八手とは異なります。
水野さんは、男性を袋に入れるというヒントやフェチという方向性をもとに推理を重ねます。そして最後に、袋から男性器だけが出ている状態で性交する、という正解にたどり着きました。
正解です。すごい。よく当てたね。こんなわけわからん問題当てるんだ。
菱川師宣はすべてのアダルトコンテンツを先回りしていた?
水野さんが「袋入」を当てられたのは、現代のアダルトビデオに似た構図の作品があると思い出したからでした。堀元さんは、同じ発想が江戸時代にすでにあったことに驚きます。
堀元さんによると、菱川師宣の絵そのものは1枚の着物を男女で分け合うような普通の図で、「袋入」の内容はキャプションで文字だけで説明されています。描くのがグロすぎたのかもしれない、と2人は推測します。キャプションに忠実に描いた、絵師不詳の二次創作の絵もあるそうです。
菱川師宣描いただけだったらさ、実体があったってことなんじゃないの?
堀元さんは、菱川師宣の四十八手を見ていると現代のアダルトコンテンツが次々に思い浮かぶと話します。例えば「こたつ隠れ」はこたつの中で事に及ぶ図です。「曲茶臼」は三味線を弾く芸者が、演奏を乱さないようにしながら騎乗位で性交する図で、恋人と電話しながらバレないようにする作品と同じ構図だといいます。
水野さんが「全然俺らって変わってないなって思いますね」と応じると、堀元さんは「現代の自分って別に特殊じゃない」と学んだとして、これを「リベラルアーツ」と呼びました。水野さんは「ちょっと断言できないですけど」と留保しています。
「割る」と「散歩させる」。使役には2種類あるという話
続いて堀元さんは、言語学の知識が活きる問題を出します。『日本の童貞』などで知られる社会学者の澁谷知美さんが、ある卑俗な単語について仮説を立てているそうです。時代の変化によって使役動詞のニュアンスが時代にそぐわなくなり、新しい表現に置き換わったというもので、その単語を当てる問題です。
水野さんはまず、使役には「語彙的使役」と「迂言的使役」の2種類があるという立場を説明します。
使役の本質って、行為者をもう一個足すっていうことなんですよ。
水野さんが挙げた例は、英語の「My dog waits outside」を「I made my dog wait outside」にすると、Iという行為者が増えるというものです。日本語では「コップが割れる」を「堀元さんがコップを割る」にするように、「割れる」を「割る」に変えるだけで行為者が1人増えます。この「割る」のような動詞が語彙的使役動詞です。
一方で「散歩する」のように対応する他動詞がない語は、「させる」を付けて「散歩させる」にします。こうした遠回りな言い方が迂言的使役です。
動詞そのものに使役の意味が入っている。例: 割れる→割る
「させる」を付けて使役にする。例: 散歩する→散歩させる
長い講釈を聞いた堀元さんは「えらい長い講釈聞かされましたね」と驚きつつ、答えの単語は迂言的使役、つまり「させる」が付くタイプだと明かしました。
「させ子」から「ヤリマン」へ。女性の主体性と言葉の変化
堀元さんは追加のヒントとして、この変化はフェミニズムと関係があり、女性の主体性が認められたことで起きたと伝えます。時代は1990年ごろです。
堀元さんによると、この時期には日本社会党の土井たか子 ── 日本社会党の委員長を務めた政治家。1989年の参院選で党を躍進させ、女性候補の当選が相次いだ現象は「マドンナ旋風」と呼ばれましたさんが人気を集め、「マドンナ旋風」と呼ばれました。女性の主体性が認められていく流れの中で、この言葉の変化が起きたのではないかという仮説です。
水野さんは「挿す」と答えて外し、正解は古い表現「させ子」でした。気軽に性行為をさせる女性を指す言葉で、女性の主体性が認められる中でニュアンスが時代に合わなくなり、「ヤリマン」という主体的な表現に置き換わったというのが澁谷さんの仮説だと、堀元さんは説明します。
させ子。「させる」が付く迂言的使役の形
ヤリマン。自ら積極的に「やる」主体的な表現
ただし水野さんは、「させ子」が本当に使役なのかという点に引っかかります。使役なら別の参与者が命じる構造になるはずで、「させてやる」「させてくれる」なら使役ではなく許可ではないか、という指摘です。
させるだったら使役だと思うけど、させてやるとかさせてあげるはさ、許可じゃないですか。
堀元さんは、誘ってきた男性に「じゃあお前にさせよう」というニュアンスがあるとして使役として理解できると反論します。水野さんは、「させる」に「てやる」「てくれる」のようなベネファクティブ ── 恩恵の授受を表す文法形式。日本語では「てやる」「てくれる」「てもらう」などが該当しますが付いているから話がややこしいと整理しました。
水野さんは使役と許可の関係は自分も勉強できていないと認め、以前の「させていただく」シリーズとつながる話だとも話しています。2人はこのテーマを「させ子から見る使役動詞」として、今後の宿題にしました。
雲を消す装置「クラウドバスター」の驚くべき仕組み
次はテクノロジーの問題として「クラウドバスター」の意味が出されます。水野さんは「雲(cloud)を壊す」から、天気を良くする技術だと当てました。堀元さんも、北京オリンピックの開会式で雨を事前に降らせた例を思い出します。
ところが方法を問われると、航空機から化学物質をまくという答えは不正解でした。堀元さんが持ち出したのは、精神分析家ヴィルヘルム・ライヒ ── オーストリア出身の精神分析家。晩年はアメリカで「オルゴン」と呼ぶ生命エネルギーの研究を進めましたが、科学的根拠は認められていませんが唱えた「オルゴン」です。
オルゴンが今我々の周りにあるんだから、それをぎゅっと集めて凝縮して空に打ち出せば、雲を消して晴れさせることができますよね。
堀元さんの説明によると、ライヒはオルゴンを集める「オルゴンボックス」を作り、オルゴン研究所を設立しました。晩年には、集めたオルゴンを空に打ち出して雲を消す研究をしていましたが、うまくいかなかったそうです。
オルゴンの提唱
性的絶頂のもとになる気が周囲に充満していると主張
オルゴンボックス
オルゴンを集める箱を作り、がん治療に効くとして販売
クラウドバスター
集めたオルゴンを空に打ち出して雲を消す研究を晩年に行う
発売禁止と裁判
オルゴンボックスは米国の当局に発売禁止とされ、ライヒは不当だと争った
水野さんは、ライヒがもっと昔の人だと思っていたため、1954年ごろまでオルゴンボックスを売っていたと聞いて驚きます。そして最後には、こうした話は現代では笑えない、と真顔になりました。
あのね、笑えないですよ、現代だとあんまり。
「知の巨人になりたい」。水野さんの文化人願望
クイズを終えると、水野さんは不愉快だったと抗議します。堀元さんは、水野さんを文化人から遠ざけるという目論見が成功したと満足げです。
水野さんは、大学4年生の頃、塾のアルバイトを卒業するときのスピーチで「知の巨人になりたい」と語ったことを打ち明けます。今思えば、知の巨人は目指すものではなく結果的になるものだったと振り返りました。
明日から僕のこと知の巨人って呼んでくださいとか、あるいはメディアに出演する時に、肩書き知の巨人でお願いしますとか(本物の知の巨人は)言ってないと思うんですよね。
堀元さんはこれを「いい材料」として、今後は水野さんを「知の巨人」と呼ぶと宣言します。水野さんは今回の企画を「ブランドイメージの毀損」と言い、所属事務所を通じて抗議すると冗談めかして返しました。
5月14日発売の新刊『下ネタ大全』はどんな本か
堀元さんは、この企画の目的が新刊『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』の告知だったと明かします。発売日は5月14日で、小説新潮 ── 新潮社が発行する月刊の文芸誌での約2年間の連載をまとめた、約2年ぶりの著書です。
水野さんは、連載が終わったことで、堀元さんが番組の脱線で話す下ネタが減るはずだとリスナーに伝えます。連載のためのリサーチがすぐ口から出てしまっていた、と堀元さん自身も認めました。
本の予約はバリューブックスで受け付け、この後に収録する「ひどすぎて出せないエクストラ問題」などを特典にする予定だと堀元さんは話します。水野さんは、出版社は発売前の予約から発売後1〜2か月の売れ行きで本のポテンシャルを見る商慣習があると補足しました。そのため、初速の予約が著者にとってありがたいということです。
担当編集者はサピエンス全史 ── ユヴァル・ノア・ハラリによる世界的ベストセラー。人類の歴史を大きな視点で描いた本ですのような本にしたいと話していたそうです。見せられた本文デザインはゴリゴリの明朝体で、水野さんも「かっこいい」と認めるポピュラーサイエンス風の仕上がりでした。
一番リサーチに時間かけられたから、一個一個の記事がちゃんと複数分野から検討してるんですよ。
例として堀元さんが挙げたのは、おしっこの用途を検討した説です。現代中国の文化、古代中国の文献、化学、生物学、医学、薬学までリサーチしたといいます。水野さんから「そのリサーチ能力を他で活かそうとは考えなかったのか」と聞かれると、堀元さんは「僕の力が一番生きるのこれなんで」と答えました。
まとめ
この回は、金玉ことわざや四十八手といった下品な語彙を入口にしながら、地域をまたぐことわざの共通点、論理学、使役動詞の分類、疑似科学の歴史まで話が広がりました。下ネタの語彙にも言語学の論点が潜んでいることが、2人の脱線まじりのやり取りから見えてきます。
- 日本とフィンランドには、金玉を使って「ありえないこと」を表す、意味の重なることわざがある
- 菱川師宣の四十八手「袋入」は、現代のアダルトコンテンツに通じる発想が江戸時代にすでにあったことを示している
- 使役には語彙的使役と迂言的使役があり、「させ子」から「ヤリマン」への変化は女性の主体性と結びつけて論じられている
- 「させ子」が使役なのか許可なのかは結論が出ず、今後の宿題になった
- 堀元さんの新刊『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』は5月14日発売で、複数分野のリサーチを重ねた本だという

