女性だけに売れたドイツの本は何が入っていた?
この回は、前回に続いて若手の敏腕広告プランナー・下田さんが出題者を務めます。1問目は、ドイツで女性に大量に売れ、初版が1日、第2版も1週間で売り切れた本の特徴を当てる問題です。
水野さんは「邦訳されていないがピンとくる」「本として機能しているかは微妙」というヒントから、ドイツの税制で本が優遇されているかを確かめます。答えは「はい」で、水野さんは本の形を借りて本ではないものを売る手法だと見当をつけました。
法律上(ドイツで)本が優遇されていて、それをハックしたってことでしょ。
水野さんはここで、日本の宝島社が雑誌より大きな付録を付けて本を売った事例も引き合いに出しています。その後、堀元さんが「おまけ」を、水野さんが「女性」から生理用品を持ち出し、最後は堀元さんが答えをまとめて正解しました。
生理用品を普通に売ると高い税率になるところを本のおまけとして売ったエウレカ。
下田さんの解説によると、本の名前は「タンポンブック」です。ドイツの消費税率は基本19%で、食品などの生活必需品は7%に下げられていますが、生理用品はその生活必需品に含まれていませんでした。
ドイツの衛生製品ブランドであるフィメールカンパニー正式表記は、この問題を広く知ってもらうキャンペーンとして、ハードカバーの本の中に15本のタンポンと、月経をイラストで解説したページを収めて販売しました。
堀元さんはこの手法に、広告とアートの共通点を見ています。
話は日本の軽減税率 ── 消費税で、食品など特定の品目だけ標準より低い税率を適用する仕組み。日本では2019年の消費税10%への引き上げとともに導入され、8%が適用されていますにも及びます。新聞が軽減税率の対象だという話から、水野さんは新聞に付録を付けてみてはと提案しますが、堀元さんは日本の差は2%で小さく、ドイツのように12%差あればやる意味があると返しました。
堀元さんはさらに、Amazonが実際の拠点はシアトルでありながら、州内販売にしか消費税がかからない仕組みを踏まえて別の州で登記したという話を紹介し、「消費税ハック」は税だけで1本の企画ができるほどあると盛り上がりました。
税金つながりで下田さんが追加したのが、ユニクロの事例です。税抜き表示ができなくなった際、ユニクロは税抜き価格をそのまま税込み価格に据え置く実質値下げを行い、「プラスタックスをプラスサンクスにします」という新聞広告を出しました。
鼻につくな。いや鼻につかん?それ。ちょっとやりすぎじゃないですか。
ところが水野さんが「1990円プラスサンクス」という締めのコピーまで紹介すると、堀元さんは一転して「一生ついていきます、柳井さん」と絶賛。旗色が悪いとすぐ勝つ側につく、と開き直る掛け合いで1問目は締めくくられます。
ルパンの娘の広告はなぜ稲毛海岸だったのか
2問目は、フジテレビの木曜劇場ドラマ「ルパンの娘」の屋外広告です。新宿、東銀座、稲毛海岸、金沢文庫などの駅に広告が出されましたが、どれもOOH ── Out Of Homeの略で、駅や街頭、交通機関など家の外で目にする広告の総称。屋外広告とも呼ばれますとして視認率が高い駅ではありません。それでも話題を集めた理由として、駅の選定基準が問われました。
作中の舞台とは関係なく、「ルパンの娘」というタイトルから想像できる知識で解けるというヒントが出ます。堀元さんは早い段階で、東銀座と金沢文庫に「金」と「銀」が入っていることに気づきました。
東銀座と金沢文庫って金と銀が入ってるから(ルパンが)盗むのに足る地名なのかなって思ったんですけど。
方向性は「ほぼ合っている」とされますが、残る稲毛海岸と新宿が難問でした。二人は「稲」「毛」「胃がん」「外科医」「ナゲット」と迷走し、ダンディ坂野さんのギャグの話にまで脱線します。
カイ、絵画だ。
稲毛海岸の「絵画」が決まったあと、新宿も「珠」「塾」と行きつ戻りつし、最後に堀元さんが「真珠」にたどり着きました。水野さんは途中で「珠」とまで言っていたのに通り過ぎたことを、パターではなくアイアンで打ってしまったゴルフにたとえて悔しがります。
| 駅名 | 盗まれたもの |
|---|---|
| 東銀座 | 銀 |
| 金沢文庫 | 金 |
| 稲毛海岸 | 絵画 |
| 新宿 | 真珠 |
| 愛甲石田 | 愛 |
| 宝町 | 宝 |
下田さんの解説では、各駅に駅名表示を模した広告を掲げ、その上に「真珠はいただきました」「銀はいただきました」といった張り紙で文字を隠す展開でした。視認率ではなくコンセプトで場所を選び、SNSでの二次拡散 ── 広告を直接見た人がSNSなどで共有し、実際の掲出場所を超えて情報が広がることを狙って成功した事例とされています。
堀元さんは鹿児島の財宝温泉は盗まれていないのかと尋ね、水野さんが「広告効果が弱いから」と答えたことで、鹿児島をバカにしたと責められる一幕もありました。
Jackeryは正月に何をした人へ賞品を贈った?
3問目は、ポータブル充電器のJackeryが2024年の正月に行ったキャンペーンです。あるアクションをした人に賞品が当たる施策で、Jackeryの理念と機能を広めて話題になりました。
水野さんが最初に思い浮かべたのは、財布の中のレシートや期限切れのクーポンを集めて購買データを得るという、別のマーケティング手法でした。しかし「客の個人情報を取っているか」という質問の答えは「違います」でした。
ヒントは、Jackeryの充電器が持つある機能を使うこと、そして「光」が関係することです。堀元さんはライトを使った初日の出づくりを答えますが外れ、ライトではない光だと補足されます。
Jackeryのそのポータブル充電器を初日の出の光で給電した人に何かが当たるキャンペーンをしましたか?
水野さんのこの質問が正解になりました。水野さん自身も問題文の「正月」を聞き逃していたと打ち明け、堀元さんに「お前の取ったのは正月の部分」と言われる掛け合いになります。
理念
グリーンエネルギーをあらゆる人にあらゆる場所で提供する
行動
ソーラーパネルで初日の出の光をポータブル充電器に充電する
共有
その様子をSNSに投稿する
結果
抽選で賞品が当たり、ソーラー充電の機能と理念が広まる
解説では、Jackeryが世界初のポータブルソーラーパネルを発売した会社であることも紹介されました。さらに、この施策は誰でも応募できる公募賞 ── 広告業界で、企業が課題を示し、一般の人やプランナーからアイデアを募るコンテスト形式の賞の入賞作が実際に実施された、珍しい例でもあります。
企画を出してくれた下田さんへの仕打ちとは?
公募の話から、堀元さんはゆる言語学ラジオでも企画を募ってはどうかと提案します。すると水野さんは、下田さんが以前出した「寝落ち用にそのまま回してみては」という提案を、名前も出さずに採用したことを持ち出しました。
いい企画を無料で出してくれる便利な装置だなと思ってます、僕。下田くんのことを。
二人は「言われた直後に偶然思いついた」と冗談を重ねますが、下田さんがクライアントから本当にそう言われることもあると明かし、場の空気が一瞬ひやりとします。
その寝落ち用の動画は3時間ほどあり、公開15分ほどで二人が布団を直すシーンにタイムスタンプを付けるコメントが現れるなど、一部の視聴者から独特の評判を得たと振り返られました。
Luxがビーチバレーのユニフォームに載せたものは?
4問目は、ヘアケアブランドLuxを展開するユニリーバの事例です。南アフリカのビーチバレー大会に協賛し、ブランドロゴではない「あるもの」をユニフォームの一部に載せて、社会的な評価を得ました。何をどこに載せたかが問われます。
水野さんは、中学の英語の授業でLの発音をLuxのCMで覚えさせられたという思い出を語ります。質問を重ねるうちに、載せたのは文字でもイラストでも写真でもなく、街中でよく目にする図形の組み合わせの記号だとわかってきました。
こういう質問しすぎた時って、一回さ、元の問題文に戻るの意外と大事だなと思っていて。
問題文を読み直したあと、載せた場所は背中側の下半身、つまりお尻の両側だと判明します。男性選手に載せても意味はなく、女の子の選手なら意味があるという答えから、女性を取り巻く社会問題が関係していると絞り込まれました。
途中で堀元さんは、ルイ14世が穴あき椅子に座ったまま公務をしていたという話や、女性のほうが痔になりやすいという話を披露しますが、どちらも答えとは関係ありませんでした。
盗撮問題にQRコードで答えた「チェンジザアングル」
社会問題が性犯罪、しかも盗撮に関係するとわかると、堀元さんは女子アスリートの盗撮被害に気づき、盗撮する気がなくなる記号を印刷したと答えます。ほぼ正解でしたが、記号そのものを当てる必要がありました。
ドクロ、警察のマークと候補が外れるなか、「記号だけでは意味をなさず、その後に情報をくれる」という大きなヒントが出て、QRコードが正解になりました。
データ
女性スポーツ中継の時間の17%がお尻、20%が胸元を映していた
問題意識
ユニリーバがこの映し方を問題視した
仕掛け
選手のお尻にQRコードを記載した
誘導
カメラで読み込むとLuxの映像と施策の概要に飛ぶ
水野さんは、この問題には社会問題への気づきと、QRコードという解決策のひらめきという二段階の面白さがあると話します。
そこでQRコードっていうのにもまた一つひらめきがいるじゃないですか。二段階だよね。
堀元さんも、いい気づきをいい広告に昇華するのがプランナーの役割だと語り、油断すると「盗撮は犯罪です」というポスターを貼るだけになってしまうと付け加えました。
問題のあとは、ルイ14世の話で1ポイント取ったと主張する堀元さんに対抗して、水野さんが自分の父親の車中でのトイレ事情を暴露し、「家族の名誉を下げて終わった」と笑いに包まれます。
Mastercardが偽名カードを勧めた相手は誰?
最後の問題は、Mastercardが特定の理由を持つ人にだけ偽名のクレジットカードを勧めたプロモーションです。本名が明かされると危険になる人で、職業ではなく、先天的・後天的の両方がありうる性質の人たちだとわかっていきます。
堀元さんはスパイ、さらにナチスから逃れたアインシュタインを挙げて外しますが、ノンバイナリーの性別が関係すると聞いて一気に正解へたどり着きました。
男性名で付けられてるんだけど、私は女性名を選びたいみたいな。トランスジェンダーとかの方のために作られたエウレーカ。
カードは本名表記のため、見た目と名前が違い、会計のたびにトランスジェンダーだと知られる恥ずかしい思いをしていた
トランスジェンダーなどの人に限って、選んだ名前でカードを発行できるサービス「TrueName」が提供された
偽名のカードに「TrueName」と名付けた点も、皮肉が効いておしゃれだと評されます。水野さんは、カードを使う場面でマイノリティの人が傷ついていることを知らなかったこと自体が気づきだったと話しました。
まさかマイノリティの人がその構造で傷ついてるってことを知らなかった俺。それもまた気づきだなっていうか。
堀元さんは名前を書く手続きがすべてストレスだという話を以前聞いていたため早く答えられたと説明し、アインシュタインの回答部分だけカットしてほしいと懇願しますが、水野さんに却下されます。
広告プランナーが続ける「デコンストラクション」とは
こうした事例はいくらでもあるのかと聞かれた下田さんは、プランナーとしてデコンストラクション ── 本来は哲学用語で「脱構築」の意味。広告業界では、既存の広告を要素に分解して作られ方を分析する作業を指して使われていますという作業をしていると明かします。
下田さんによると、世の中の広告について、キーファクト、インサイト、ターゲットがどこにあるかを分解して、なぜその形になったのかを整理する作業です。二人はこれを、市販品を分解して部品を確かめる作業になぞらえました。
最後に二人は、リスナーに思い出した広告事例や下田さんへの激励を寄せてほしいと呼びかけ、水野さんの著書『会話の0.2秒を言語学する』の紹介で回を締めくくっています。
まとめ
今回の5問に共通していたのは、税率の差、駅名、太陽光、カメラの視線、カードの名前といった既存の仕組みを使って、見た人に考えさせたり行動させたりする広告の発想です。クイズを解く過程で、二人は広告が社会問題への気づきから生まれることを実感していきます。
- タンポンブックは、生理用品が19%、本が7%というドイツの税率差を使って問題提起した
- ルパンの娘の広告は、視認率ではなく「盗めるものが入った駅名」というコンセプトで駅を選び、二次拡散を生んだ
- Jackeryは初日の出でソーラー充電する習慣を提案し、機能と理念を同時に伝えた
- LuxのQRコードは、中継のデータから生まれた問題意識を意外な解決策につなげた二段階の発想だった
- MastercardのTrueNameは、会計の場面でトランスジェンダーの人が受ける負担に目を向けたサービスだった


