ターゲット1900シリーズ再開、なぜ前回は1単語で終わった?
ゆる言語学ラジオには、英単語帳『ターゲット1900』に載っている単語の語源や覚え方を紹介するシリーズがあります。今回はその再開回で、水野さんによると「多分7回ぐらい」続いてきたシリーズです。
このシリーズの前回は、英語史の専門家である堀田先生をゲストに招いた回でした。専門家が来ればサクサク進むと思っていたところ、evidenceの「vid」の部分だけで1時間以上話し、1単語も終わらなかったと振り返られています。
深掘りすると単語帳っていつまでも終わらないんだなっていう学びがあります。
堀田先生がターゲット(1900)読むなんてやったら、もう多分地球が終わりますよ。
今回の回は前回の続きとして、evidenceの「e」と「ence」の部分も含め、8つの名詞を扱います。堀元さんは8語すべての意味をすんなり答え、「高校基礎単語って感じ」と話しています。
堀元さんはindustryを、漫画『遊☆戯☆王』に出てくる「インダストリアルイリュージョン社」で覚えたと話します。最初は海馬瀬人の会社と言い間違え、ペガサスの会社だと訂正して大げさに謝罪する一幕もありました。
subjectはなぜ「下に投げられたもの」なのか?
subjectについて水野さんは、中学で習う「What subject do you like?」の「科目」の意味でまず覚える人が多いだろうと話します。受験でよく出るのは「主題」や「話題」の意味です。
語源的には、subjectの「ject」はprojectやobjectと同じで「投げる」という意味です。「sub」は以前の回で扱ったsubscribeと同じ「下」なので、subjectは「下に投げられたもの」になります。
ただし水野さんは、主題が「下に置かれたもの」という語源にはあまり納得できていないといいます。代わりに、subjectの「〜の支配下に置く」「be subject to(〜の支配を受ける)」という意味なら、語源のイメージがそのまま使えると勧めています。
語源で全部が全部解決するわけじゃないんですよ。でも便利なやつは使えばええやんっていう感覚で覚える。
堀元さんが挙げたのは、前回ゲストの堀田先生が語源を「技芸」と表現していたことです。ストーリーをいかに美しく組み立てるかが勝負なので、一部を切り出して「これで覚えた」でよいのかもしれない、と二人は話しています。
subjectは言語学用語では「主語」を表し、目的語のobjectと「ject」が対応しています。水野さんは主語がなぜ「下」なのかを生成文法 ── 言語学者チョムスキーが提唱した理論。人間が文を作る仕組みを、規則と階層的な構造(樹形図)で説明しようとしますの樹形図で説明しようとし、堀元さんに止められます。
あんた最近生成文法の勉強しすぎて、何やってても全部生成文法の話するのよくないですよ。
堀元さんは「焼肉を焼いているときにも急に発火するから怖い」とツッコみます。水野さんは否定しつつ、肉を焼いても肉のままなので「構造保持の仮説だな」と思うだけだと答え、結局生成文法の話になっていました。
SNSの「主語が大きい」、実は主題では?
水野さんが気になるのは、subjectが「主語」と「話題」の両方を指してしまう点です。日本語では、話題(主題)は「は」、主語は典型的には「が」で表し分けます。
「は」がつくとなりやすい。例: 「今日は」天気がいい
典型的には格助詞「が」で表す。例: 「天気が」いい
この区別から水野さんが思い出したのが、SNSでよく見る「主語が大きい」という批判です。
例として挙がったのは「日本は治安がいいが、アメリカは治安が悪い」という投稿です。堀元さんの整理では、この文の「日本」は主題で、「治安」が主語にあたります。水野さんも、分析によってはそうなると話しています。
堀元さんは「主語でかいよ」というクソリプには「主語じゃなくて主題ですけど」とさらにクソリプで応戦できる、と笑います。水野さんは、言った人がsubjectを直訳して「主語」にした可能性もある、と別の説も挙げています。
articleの語源は関節。記事とどうつながる?
articleには「記事」「論文」のほかに、条約などの「条項」という意味もあります。水野さんによると、articleの元になったラテン語は「関節」という意味です。
堀元さんは、artificialやartと同じ「技術」から来ていると予想していました。水野さんによると、artなども究極的には関節と同じ仲間で、腕を意味するarmも同じ仲間だといいます。
関節と記事がどうつながるのかについて、水野さんは「全体の中にはまった小さなもの」というイメージを示します。新聞の紙面全体の中にはまった1本が記事、契約書の中にある1つが条項、という見方です。
関節
ラテン語の元の意味。腕の中にはまったもの
部分
全体の中にはまった小さなもの
記事・条項・品物
紙面の一部、契約書の一部、同類の中の特定の品物
水野さんは、articleの多くの意味は「部分」と1つ覚えるとまとめて覚えられるタイプだと話します。以前の回で扱ったtermも「終わり」という核のイメージでまとめて覚えられた単語でした。
statementと駅と国家は同じ語源。伝説のすた丼も?
statementを堀元さんは、英語の教科書に載っていたアメリカの独立宣言のような文章で覚えた気がすると話します。水野さんは、libertyを自由の女神で覚えるのと似た覚え方だと受けます。
語源的には、stateの「sta」の部分は「立つ」を意味するstandと関連があります。ドーンと立っているイメージから、自分の主張をはっきりさせる意味につながる、と水野さんは説明します。
「sta」が「立つ」を表す単語として、水野さんはstation(駅)や、国家を表すstateを挙げます。堀元さんはここで「スタ丼のスタも一緒ですよね」とボケました。
伝説のスタ、伝説も打ち立ててるぐらいですから、ドーンと建ってるってイメージでスタ丼って名付けられましたよね。
スタ丼の「スタ」はスタミナです。水野さんはその場でスタミナの語源を調べ、ラテン語の「糸」のような語から来ているとあるので、ぱっと見は関係なさそうだと答えています。
堀元さんは、伝説のすた丼を運営する会社は元プロボクサーが創業したので「リングに立ち続けた」と食い下がり、水野さんに「過言です」と返されます。なお、エピソード説明の補足では、staminaとstandは語源的に関係があるとされています。
experimentとexperience、カタカナ語は暗記のご馳走
experiment(実験)について、堀元さんは高校時代にexperience(経験)とよく混同していたと振り返ります。水野さんによると、両者は語源的にも関係があります。
水野さんの説明では、experimentもexperienceも核のイメージは「実際に試してみる」です。そこに、知見を多く積んだ人を表すexpert(専門家)も関係しているので、まとめて覚えるとよいといいます。
| 単語 | 意味 | 核のイメージとの関係 |
|---|---|---|
| experiment | 実験 | 実際に試して何かしら結果を出すこと |
| experience | 経験 | 実際に試して得られた知見 |
| expert | 専門家 | 数多くの知見を積んだ人 |
水野さんは高校時代、数学などで習うカタカナ語を単語帳の単語に結びつけて覚える工夫をしていました。例えば積分記号のintegralを見て、「統合する」という意味のintegrateと関連づけたといいます。
全てのカタカナ語が出てくる授業がもうご馳走になりますね。僕ぐらいになると。
水野さんは、現代社会の授業に出てくる国際機関の略称も「ご馳走」だったと話します。「O」がやたら出てくるのでorganizationという単語があるとわかる、といった具合です。
堀元さんは、experimentのexpと「爆発する」のexplodeも関係があるのでは、と尋ねます。水野さんの答えは「関係ないですね」でした。堀元さんは、漫画のキャラクターの自爆も「貴重な経験」になったという説を残念がっています。
figureは形作るもの。査読で図を酷評された話
figureについて水野さんは、語源から他の単語が覚えやすくなるタイプではないといいます。それでも、像、姿、人物、数字など、figureには多くの意味があります。
水野さんによると、figureの意味を束ねる核のイメージは「形で表す」「形作る」です。受験生が最も多く目にする「figure out(理解する)」も、頭の中で形作られたと考えれば覚えやすい、と勧めています。
堀元さんにとってのfigureは、大学のレポートでよく見る「Figure 1」のような「図」です。堀元さんは、博士課程に進んだ友人の話を紹介します。
その友人は、国際学会の査読付き論文誌に論文を出し、その道の権威の先生から英語の査読コメントを受け取りました。そのコメントは内容への指摘ではなく、図が「very poor」だというものだったそうです。
内容云々の前に図がプアーすぎるってめちゃくちゃ。
堀元さんによると、学術論文では図を見てわかりやすいかどうかが非常に大事なのだといいます。水野さんは「つらいな」と繰り返し、ハラスメントっぽいコメントだとも話しています。
evidenceは「外から目に見えてわかるもの」
evidenceの「vid」は「見る」という意味で、visionやvideoと同じ仲間です。この部分は前回、堀田先生とじっくり解説済みです。
evidenceの冒頭の「e」は、「ex」と同じ「外へ」という意味です。堀元さんは出口を表すEXITの「EX」と同じかと確認しています。
語尾の「ence」は、convenience(便利さ)などと同じ名詞化する語尾です。水野さんの整理では、evidence全体で「外から目に見えてはっきりわかるもの」となります。
水野さんは、形容詞のevident(明らかな)から考えるとわかりやすいと話します。犯行現場に残った血痕のような、目に見えてわかる証拠をイメージすると覚えやすいといいます。
さらに知りたい高校生向けに、水野さんは堀田先生の無料のVoicy番組英語の語源が身につくラジオを紹介しています。一方の堀元さんは、高校生は他の科目も勉強しなければならないので語源ばかりやっている時間はないだろう、と逆の意見を述べています。
industriousとrespective、pを持ってハンコにする暗記法
industryについて水野さんは、中学生の頃からindustrial society のような形容詞形を知っていたので困らなかったといいます。堀元さんは、小学生の頃に語呂の良さで覚えた「インダストリアルイリュージョン社」のおかげで苦労しなかったそうです。
語源的には、industryの「str」の部分はstructure(構造)、construction(建設)、リストラ(restructuring)と同じで、「建てる」「積み上げる」という意味です。堀元さんは、そう考えると産業っぽいイメージになると話します。
水野さんはさらに、形のよく似たindustrial(産業の)とindustrious(勤勉な)の区別を取り上げます。ここから話は、respectful・respectable・respectiveのような紛らわしい単語の覚え方に広がります。
| 単語 | 意味 | 番組内での補足 |
|---|---|---|
| respectful | 礼儀正しい、敬意を示している | 堀元さん「リスペクトがフル」 |
| respectable | 尊敬されるほど素晴らしい | 水野さんは間違っているかもしれないのでテロップで補うとしている |
| respective | それぞれの | ここでのrespectは「点」の意味 |
respectiveの覚え方として水野さんが紹介したのが、pを持ってハンコにするという独特の方法です。respectiveという文字列を置物のように見立てて、pの下の部分を持ってひっくり返し、ハンコとして押すと点がいっぱい付く、というものです。
リスペクトフルとリスペクタブルと違ってさ、点の位置が揃ってるの。高さが揃ってるからさ、リスペクティブだけ。
水野さんの説明は、respectableのbとl、respectfulのfとlは上に突き出ているが、respectiveは高さが揃っているというものです。respectiveのrespectは「点」の意味で、「in this respect(この点について)」という熟語もあるため、点がいっぱい付くものが「それぞれの」だと覚えたといいます。
堀元さんはなかなかイメージできず、ハンコにしなくても「線の位置が揃っているからそれぞれ」で覚えればいいと提案します。水野さんは「僕のエピゴーネン」と返し、堀元さんは「改善したよね」と反論しています。
industrialとindustriousについては、水野さんは誰かの方法を元にした覚え方を紹介します。industrialの最後のlは煙突に見えるので「産業の」、industriousは最後が「ous」なので「俺ら(私たち)は勤勉だ」で覚える、というものです。
最後のLが煙突に見えるので、工場や産業をイメージ
最後の「ous」に「私たち」を見て、受験勉強する俺らは勤勉だと覚える
堀元さんはこの覚え方を「Pを持ってハンコを押すよりよほど覚えやすい」と評価します。そのうえで、私たちは高度な産業化社会に生きているので逆にややこしい、と文句もつけていました。
economyから行動経済学、花火デートのうんちくへ
economy(経済)について堀元さんは、「エコン類で覚えれば一発」と話します。エコン類とは、合理性だけで意思決定をする、伝統的な経済学が想定した人間像のことです。
水野さんは、高校の政治経済で習う「市場参加者は合理的に振る舞うので価格が適切に収まる」という考え方に触れます。実際の人は一番安いスーパーを選んで買っているわけではない、と気づいて生まれたのが行動経済学 ── 人間が必ずしも合理的に行動しないことを前提に、実際の意思決定の傾向を心理学の知見も使って研究する経済学の分野ですだと説明しています。
堀元さんは、語源を覚えるのに必要ない情報だとツッコみます。それでも二人は、高校生が興味を持つかもしれないとして、行動経済学の本『予想どおりに不合理』をすすめています。
話はさらに、うんちくで高校生活を「無双」する妄想に広がります。堀元さんは花火大会で炎色反応やスタンダール症候群の説を語ると言い、水野さんは音が聞こえるまでの秒数から距離を計算すると言い出します。
(水野さんは)教科書のコラムのところにいる博士。人格を与えられてないあいつじゃん。
経済クイズ大会の惨敗と、エポニムは覚えない作戦
economyの話の流れで、堀元さんは高校時代に「エコノミー甲子園」という高校生向けの経済クイズ大会に出たことを明かします。堀元さんの記憶では、当時マネックス証券が協賛していたといいます。
堀元さんによると、勝ち進めばニューヨーク大会に呼んでもらえる仕組みでした。ただで行けるチャンスだと友人とチームを組んで出たものの、8組しかいない札幌予選でボロ負けしたそうです。
大会に向けて堀元さんは、ラスパイレス指数、ブラック・ショールズ方程式、ギッフェン財などの用語を覚えたといいます。ギッフェン財は、値段が上がると需要がかえって増える逆転現象を起こす財です。
水野さんは、ギッフェン財もラスパイレス指数も人名由来なので、英単語の暗記には役立たず覚えるだけ無駄かもしれない、と言い出します。人名に由来する語をエポニム ── 人名などの固有名詞から生まれた一般名詞。カーディガンやサンドイッチなど、人物の名前が言葉として定着したものを指しますと呼びます。
語源に役立つもの以外覚えてもしょうがないですから、やっぱり。
堀元さんはこの理屈を広げ、カーディガンもたくあんもエポニムだから言えないことになると皮肉ります。水野さんは悪ノリし、仲の良かった女の子が好きなスポンジボブを「生活雑貨」と呼び、校歌の校名を「X高校」と歌っていた、と存在しない高校時代の話を重ねます。
最後は自分の名字も覚えず「マイナンバー」で通していた、とまで言い出したところで、堀元さんが「ない高校生の話、捏造するのやめてもらっていいですか?」と止めました。
オイコスとエコノミー、クセになってんだギリシャ語で喋るの
economyの語源として水野さんが面白いと紹介したのが、ギリシャヨーグルトの「オイコス」です。水野さんによると、economyはギリシャ語の「オイコノミア」から来ていて、その「オイコ」の部分が「家」を意味するオイコスから来ています。
オイコス
ギリシャ語で「家」
オイコノミア
オイコスを含むギリシャ語
economy
英語の「経済」
つまりヨーグルトのオイコスは「家」という名前のヨーグルトです。堀元さんは、ハウス食品もあるので「食品家界隈」がぐちゃぐちゃだと笑います。
ここから水野さんは、「家」を何でもオイコスと言い換え始めます。横浜家系ラーメンを「横浜オイコス系ラーメン」、吉村家を「吉村オイコス」と呼び、堀元さんも慶應生のソウルフードとして「武蔵オイコス」を挙げます。
堀元さんがタレントのゆうこすさんを「オイコス」と呼ぶボケを挟みつつ、最後に8単語を復習します。水野さんによると、もう少しで名詞編も終わりそうだといいます。
締めくくりに水野さんは、好きな子に「オイコス帰る?」と言ってしまう人物を演じます。漫画『HUNTER×HUNTER』のキルアのセリフをもじって、こう言い訳していました。
癖になってるんだよね。ギリシャ語で喋るの。
堀元さんは「ギリシャ語の家庭で育てられたキルア」とツッコみ、リスナーに高校時代の痛いエピソードを募集して回を終えています。
まとめ
今回のターゲット1900シリーズでは、8つの基本名詞について、語源で核のイメージをつかむ方法と、カタカナ語や文字の形に結びつける独自の覚え方が紹介されました。語源は全部を解決するものではなく、便利な部分を使えばよいという姿勢が、脱線の多い雑談の底に一貫しています。
- subjectは「下に投げられたもの」で、「支配下に置く」の意味なら語源がそのまま使える
- articleは「関節」から「部分」へ広がり、記事・条項・品物をまとめて覚えられる
- experiment・experience・expertは「実際に試す」でつながり、evidenceは「外から目に見えてわかるもの」
- industriousは語尾のousを「私たち」と見て「勤勉な」と覚える方法が紹介された
- economyはギリシャ語で「家」を表すオイコスと語源的につながっている






