「文系で申し訳ありません」を一語で言う国は?
「おもしろ単語カーニバル」は、ある状況を一語で言い表せる珍しい単語を、世界中から集めて紹介するコーナーです。前回は、フィンランドの言葉とされる「カルサリカンニ」を取り上げました。部屋で一人、下着姿で酒を飲むような気持ちを表す単語です。
今回、堀元さんが最初に読んだのは、視聴者のざれごと使いさんが水野さん向けに送ってきた韓国語の「ムンソンハムニダ」です。意味は「文系で申し訳ありません」だといいます。
堀元さんが調べた範囲では、大学生などが使い始めた新しめの言葉のようです。韓国では政府や企業が理系を優遇することが多く、理科ができないときなどに文系の学生が自虐として使うそうです。
理系が俺に謝れよ。わけわからん学問構築して。
文系の水野さんは、この単語に強く反発します。堀元さんも「文系の学問は素晴らしいのだから誇りを持ってほしい」と応じ、最後には「申し訳ありません」を意味する韓国語「チェソンハムニダ」で締めました。
やってる人間が誇りを持たなくてどうするんですか。
深読みおじさんを英語で何と言う?
続いて水野さんが紹介したのは、自分でストックしていた英語の「アイサジーシス(eisegesis)」です。自分の前提や偏見を持ち込んでテキストを解釈すること、つまり「深読みおじさん」の行為を指す単語です。
水野さんによると、アイサジーシスはもともと聖書を自己流に読むことを指していました。現在は、テキストを自分なりに解釈すること全般に使われるそうです。
すごい、なんかそう言うとおしゃれだね。深読みおじさんですとか言うとなんかかっこ悪いけど。
堀元さんは「アイアムアイサジーシス」と言ってみます。すると水野さんが、アイサジーシスは人ではなく解釈という行為を指す名詞だと訂正しました。
水野さんが挙げた覚え方は、「Mr. Horimoto's eisegesis of the movie led to distorted message」のような例文です。意味は「堀元の映画に関する自己流の解釈は、歪んだメッセージにつながった」です。
ところが、この例文で覚えられるのは結局「distort」や「be criticized for」のような大学受験レベルの表現でした。堀元さんは「肝心のアイサジーシスを覚える意味がない」とツッコみます。水野さんは「読めば読むほど愚かになる」単語帳という企画まで思いつきました。
堀元さんは、アイサジーシスを指摘されたときの切り返しも用意していました。例に挙げたのは、チャタレイ夫人の恋人 ── イギリスの作家D・H・ロレンスの小説。伊藤整による日本語訳がわいせつ文書にあたるとして起訴され、表現の自由をめぐる代表的な判例になりました裁判での逸話です。
堀元さんの説明では、この裁判の検察側は「誤った読み方をする人の気持ちになれば、この本は実質わいせつだ」と主張しました。それに対して弁護側の吉田青磁が、「それはあなたのような読み方、つまりある部分だけを読むという読み方ではないでしょうか」と切り返したといいます。
僕のアイサジーシスを素早く認められて、さすがだなって思った時には、よっ、令和の(吉田青磁)っていうとなんとなくいい感じになります。
水野さんは、機転の利いたエピソードを切り出すためだけに長話をしたのかと呆れます。そこから二人は、多弁で民衆を操るソフィスト ── 古代ギリシャで弁論術を教えた職業的な教師たち。プラトンらからは、真理より言い負かすことを重んじる者として批判されましたや衆愚政治の話へ脱線しました。
すべてを群論で説明したくなる「群論病」とは
視聴者のナブラさんが寄せた言葉は「群論病」です。数学の群論に感動しすぎて、あらゆる物事を群論で扱おうとしてしまう状態を指すといいます。
本題に入る前に、二人は「アーベルは群論の人か、圏論の人か」で迷い始めます。調べると「アーベル群」も「アーベル圏」も両方ありました。さらにウィキペディアには、アーベル圏の具体例としてアーベル群の圏が挙げられていました。
これがですね、無学者が語る数学です。皆さんお聞きください。
群論病について、水野さんは「アイサジーシスに似ている」と感じます。自分の領域に無理やり話を持っていくからです。すると堀元さんは、何でも「これは言語と一緒」と言う水野さん自身が「言語病」だと指摘しました。
群論病は海外にも同じ表現があり、「グルッペンペスト(Gruppenpest)」と呼ばれます。水野さんは、群を意味する「グループ」がグルッペンになっているのでドイツ語ではないかと推測しました。
堀元さんは関連する本として、みすず書房の『数学に魅せられて、科学を見失う――物理学と「美しさ」の罠』を紹介します。数式が美しすぎるために、物理学者が実態を置き去りにしてしまうという内容で、超ひも理論がその例として挙がっているそうです。
水野さんは、形式化が美しすぎて過剰な抽象化をしているという批判は生成文法 ── チョムスキーが提唱した言語理論。人間が文を生み出す規則を形式的に記述することを目指していますも受けていたと話します。ただし、その批判が事実に基づくのか誤解なのかはわからない、と留保をつけました。
群論の美しさに感動し、すべての物事を群論で扱おうとする
数式の美しさに夢中になり、実態の確認が置き去りになるという批判
堀元さんはこの本を熱心に勧めますが、最後に「一切読んでいないし、買ってもいない」と白状しました。
誰こいつ。マジでなんだこいつ。
捨てるには惜しい「鶏肋」が家に溜まる
水野さんは、辞書を読んでいて見つけた日本語「鶏肋(けいろく)」を紹介します。字のとおり鶏のあばら骨のことです。肉はあまりついていないものの、しゃぶると良い出汁が出ます。そこから、大して役には立たないが捨てるには惜しいものを意味するようになったそうです。
鶏肋の例として堀元さんが挙げたのは、系列番組のオーディション企画で即興ペアを決めるために買った、くじ引きの箱です。1万円ほどの一部透明な箱と大量のカラーボールで、総予算は1万5000円ほど。使い道はもうないのに捨てられず、家に置いてあるといいます。
購入時にミスって後々切ったカーテンの切れ端。これ捨てられん。
水野さんの鶏肋は、カーテンの切れ端です。堀元さんも同じものを持っており、さらに前の家のカーテンもフルサイズで取ってありました。
鶏肋はほかにもあります。靴磨き用のクロスにするつもりでとっておいた首元のよれたTシャツ、雑巾にするかもしれないボロボロのタオルなどです。水野さんは、臭くなってもオキシクリーンで復活するのでタオルには捨て時がない、と悩みます。血がついたときに「やっと捨てられる」と胸をなで下ろしたほどだそうです。
だから実質ウロボロスなのよ、タオルって。終わりがないから。
鶏肋の話は家電にも広がります。使っていないAmazon Echo、無料で送られてきたGoogle Nest、Prime Dayで買ったKindle端末3台やFire HDなどが二人の家に溜まっていました。
堀元さんは、スペックが低すぎるFire端末を捨てたことがあるといいます。キリスト教の内部で「信心があれば踏み絵を踏んでもいい」という解釈がすぐ生まれた、と堀元さんは話し、それと同じで「捨てても罰当たりではない」という理屈を作ればいいと言います。一方で、無料でくれたGoogleのデバイスには忠誠を誓ったので捨てられないそうです。
最後に堀元さんが、フォームに届いた似た単語としてフランス語のソリレス ── 鶏のもも肉の付け根にある小さな肉の部位。フランス語で「愚か者はこれを残す」という意味の言い回しに由来するとされますを紹介しました。食べづらいがうまい部位を「残す者はバカだ」と言ったことが、そのまま部位の名前になったといいます。
肉は少ないが出汁が出るあばら骨。役に立たないが捨てるには惜しいもの
もも肉の付け根。食べづらいが、残すのはバカだと言われるほどうまい部位
水野さんは、中華圏とフランスの両方で鶏肉の扱いが慣用句のようになっていることに注目し、「昔の人はどれだけ鶏が好きだったのだろう」と感心しました。
「ボブは叔父」がなぜ「簡単」になるのか
視聴者のクリミカさんが寄せたのは、英語の「Bob's your uncle(ボブはあなたの叔父です)」です。意味は「簡単である」だといいます。
堀元さんはこの言葉をクイズにします。水野さんは、ボブ(ロバートの愛称)はとても多いので、声をかければ誰かしら専門技能を持っているだろうという意味ではないかと推理しました。しかし、答えは違いました。
堀元さんによると、由来はイギリス首相のロバート・ガスコイン=セシル ── 第3代ソールズベリー侯爵。19世紀末から20世紀初めにかけて3度イギリス首相を務めた保守党の政治家ですです。この首相が、コネで甥のアーサーをアイルランド担当大臣に就けたといいます。そこから「ボブが叔父なんだから、能力に関係なく大丈夫だろう」という皮肉が生まれたそうです。
首相ロバート(ボブ)
甥のアーサーをコネでアイルランド担当大臣に就ける
皮肉
「ボブが叔父なら、能力に関係なく役職につけるだろう」
意味の定着
「簡単である」を表すフレーズになる
堀元さんは、「It's a piece of cake」のようなノリで使えたらおしゃれだと話します。家庭教師が「この問題は簡単だ」と言うときに使えば、保護者からクレームが来て教え子にも嫌われる「両取り」ができる、と冗談を重ねました。
自分の好みに感動してしまう二人
水野さんは、またしても自分でストックした単語を出そうとします。水野さんが「自分のメモが一番面白い」と言うと、堀元さんは「それはあなたの好みにぴったりだからだ」と指摘しました。
堀元さん自身にも、同じような経験がありました。収録場所のゆる学徒カフェで出すホットコーヒーを飲むたびに「この世で一番好きかもしれない」と思っていたそうです。しかし、その豆をブレンドしたのは堀元さん本人でした。
僕の好みに合わせて作ってるから、めちゃくちゃね、好みにドンピシャでうまいの。
水野さんにも似た体験があります。7月31日に出る新刊『今日、ゴリラをうえたよ』のサブタイトル「愉快で深い子どもの言い間違い集」を、編集者の推敲の成果だと思って絶賛しました。ところが、実は水野さん自身が打ち合わせで提案したものだったといいます。
水野さんの頭、鶏肋ぐらいしか回ってきてないんじゃないですか?
友情にも「メンテナンス」が要る?
水野さんが「言語化されていなかった概念が、この国では一語になっていた」例として挙げたのは、英語の「high maintenance relationship(friendship)」です。手がかかる友情や付き合いを指す言葉です。
友人関係にさ、メンテナンスがいっぱいいるか、少なくて済むかって発想ってなかったんですけど、この単語を言われた瞬間に確かにあるかも。
堀元さんはすぐに共感し、具体例を挙げます。頻繁に連絡を取らないと続かない友達もいれば、5年に1回しか連絡を取らなくても友情が続く相手もいます。
頻繁に連絡のやりとりをしないと関係が保てない
5年に1回しか連絡しなくても友情が続いている
水野さんは、アメリカでこの言葉が使われているのは、そうした人間関係に悩む人がいたからだろうと考えます。そして、日本にも同じ悩みを持つ人はいたはずだと話しました。
恋愛関係に話が及ぶと、堀元さんは「基本的にはメンテナンスコストが低いほうが好ましい」と答えてしまいます。そのうえで、「どんなにハイメンテナンスでも一緒にいたい人がいい」「メンテナンスしている感覚すらない人がいい」と言い直しました。水野さんは、それを「一緒にいたいと思っていたら、気づけばそれがメンテナンスになっていた」とまとめました。
恋人への連絡をタスクリストに入れるのは誠実か
水野さんは、番組を始めた直後に堀元さんから聞いて一番引いた話を持ち出します。堀元さんは恋人への連絡をタスクリストに入れていて、毎朝自動で「連絡をする」が上がるようにしているというものです。
当時の堀元さんは、友達との飲み会も恋人とのデートも業務も、すべてタスクとして扱っていました。タスクでないのは、家でぼーっと考え事をする時間と映画を見る時間だけで、全部を平等に扱っているだけだと話していたそうです。
なんなら誠実ですよね。毎日連絡しようって決めたら、毎日連絡を欠かさないようにちゃんとタスクリストに入れているわけですから。
堀元さんによると、恋人を好きな気持ちはあります。ただ、何かに夢中になると連絡を忘れる可能性があるので、万が一に備えたフェイルセーフ ── 故障や失敗が起きても安全側に働くようにしておく設計の考え方。もともとは工学の用語ですとしてタスクリストに入れているのだといいます。過去に失敗したからかと水野さんに聞かれると、「回答を差し控えさせていただきます」とかわしました。
水野さんが気づいたのは、外から見える結果の逆転です。タスクで管理して毎日連絡を返す堀元さんと、本当に好きでも管理せず、ときどき返信し忘れる人とを比べると、相手から誠実に見えるのは前者のほうでした。
毎日連絡が確実に届き、相手からはマメで誠実な彼氏に見える
本当に好きでも、ときどき返信を忘れると不誠実だと思われかねない
この話から二人は、哲学的ゾンビ ── 外から見た振る舞いは人間とまったく同じなのに、内面の意識や感覚を持たない存在を想定した思考実験やチューリングテスト ── 機械が人間と区別できない受け答えをできるかで、知能の有無を判定しようとするテスト、「中国語の部屋」へと話を広げます。堀元さんは、アウトプットとして彼氏の振る舞いをしていれば、ちゃんとした彼氏になると「彼氏チューリングテスト」を説きました。
ただし、定期的に「好き」と言うことまではリマインダーにしていないそうです。堀元さんは「常時言ってるから。好きなんでね。自然に出てきます」と強調しました。
結局、自分の単語ばかりだった回の締めくくり
最後に水野さんは、投稿を募れば楽ができると思って始めたのに、自分の集めた単語ばかり紹介していたと気づきます。堀元さんは、面白い投稿はほかにもたくさん届いているので、今後は定例コーナーとしてハイペースで読んでいきたいと話しました。
締めに堀元さんが紹介したのは、視聴者のビューティカさんから届いた韓国語の「プッスル」です。「味もわからず飲む酒」を意味するといいます。
水野さんは、ハングル2文字ほどの短い語形でなぜそんな意味になるのかと疑問を持ちます。検索しても韓国語のページばかりで答えは見つからず、韓国語に詳しい視聴者に補足を呼びかけて回を終えました。
そんなわけで我々もプッスル飲みに行きますんで、皆さんもぜひガンガン面白単語を送っていただければ幸いでございます。
まとめ
今回のおもしろ単語カーニバルでは、韓国語、英語、ドイツ語、漢語、フランス語の珍しい単語が次々と紹介されました。どの単語も、「その状況を一語で言えるのか」という驚きを入口に、二人自身の深読み癖、捨てられないモノ、恋人との関係の話へと広がっていきました。
- 韓国語「ムンソンハムニダ」は「文系で申し訳ありません」という自虐の言葉で、理系優遇の風潮から生まれたとされる
- 英語「eisegesis」は自分の前提を持ち込む深読みを指し、「群論病(Gruppenpest)」は自分の分野ですべてを説明したくなる状態を指す
- 「鶏肋」は役に立たないが捨てるには惜しいもので、フランス語の部位名ソリレスと並んで、鶏にまつわる言葉として楽しまれた
- 「Bob's your uncle」はイギリス首相の縁故人事に由来するとされ、「簡単だ」を意味する
- 「high maintenance relationship」から、恋人への連絡をタスク化する誠実さと、外から見える振る舞いの関係まで話が広がった



