「竹冠にバナナ」はどの漢字か?
ゆる言語学ラジオのおたより回は、約4000件たまったおたよりを読むところから始まります。最初の1通は、ラジオネーム「ロン毛こそ至高」さんからの漢字クイズです。
私には小学1年生の弟がいます。先日、その弟から草冠にバナナって何て読むの?と聞かれました。あーほにゃららねと家族全員すぐわかりました。
出題された水野さんは、最初はカタカナの「バ」と「ナ」を組み合わせる字を考えて混乱します。堀元さんの「バナナっぽい図を入れる」というヒントと、草冠ではなく竹冠だという訂正を経て、水野さんは正解にたどり着きました。
竹冠に、分かった、尺だ。(中略)聖徳太子が持ってるあれだ。
答えは、竹冠の下に「尺」の右側のような形が付く笏 ── 「しゃく」と読み、束帯姿の貴人が手に持つ細長い板を指す字。聖徳太子の肖像画で手にしている板として知られますの字です。おたよりの家族は「あー、支笏湖の笏ね」とすぐわかったといい、堀元さんはこの字の下の部分が「言われたらバナナ」に見えると認めています。
何かの形に見える漢字の話はさらに広がり、堀元さんは「顔に見える漢字8選」という記事を紹介します。「谷」や利益の「益」が顔に見えるほか、フロッピーディスクのような形の字は「ジオン」と読むと記事に書かれていました。
ただ、二人は「ジオン」という読みに自信が持てず、その場で辞書を引きます。その字は窓の形を表すらしく、「明」は窓と月の組み合わせで、月明かりが差し込む様子から来ているという説明が角川新字源にあるとわかりました。
へー。そんな意味だったんだ、あれ。困り顔じゃないんだ。
話の最後に、堀元さんは実家から車で1時間ほどの支笏湖について語ります。支笏湖のヒメマスは「人生で食ったものの中で一番うまい」かもしれないほどで、鮭に似ているけれど鮭よりだいぶうまいそうです。
やっぱね、支笏湖といえばバナナって印象がついちゃうのが悔しかったんで。支笏湖といえばヒメマスなんで。
「ジャミジャミ」は定着するか?画質を表すオノマトペ
2通目は、水野さんが読み上げた「ジャミい」「ジャミジャミ」という言葉についてのおたよりです。投稿者は、推しのVTuberがこの言葉を使うのを聞き、意味を調べたそうです。
推しがたまにジャミいとかジャミジャミしてるというのですが、用法や音を見るにジャギーではないかと感じていました。
ジャギー ── デジタル画像を拡大したときなどに、斜めの線や輪郭がギザギザの階段状に見える現象。英語の「jaggy(ギザギザした)」に由来しますの意味で使われているらしいものの、ネットで調べてもほとんど情報が出てこないといいます。投稿者は、福井で「目がショボショボ疲れる」という意味で使われる方言「ジャミジャミ」が、白黒テレビの時代から砂嵐やノイズを指すようになったのではないかと推測していました。
ジャミジャミという言葉をきっかけに、二人は質の低い画像・動画・音声をどんなオノマトペで言い表すかを整理していきます。堀元さんの感覚では、画像と音には「ガビガビ」、動画には「ジャミジャミ」が合うそうです。
いや、多分ね、画像にはガビガビなんですよ。で、動画にはジャミジャミなんですよ。
堀元さんによると、音の場合はイコライザー ── 音声の特定の周波数帯を強めたり弱めたりして音質を調整する機能。語源の「equalize」は「均等にする」という意味ですをかけすぎて人工的になった音や、性能の低いマイクのガサガサした音を「ガビガビ」と言いそうだといいます。一方で、細かい格子を映したときに出る波模様のモアレは、ガビガビではなくジャミジャミがしっくりくるそうです。
| 対象 | オノマトペ | 場面 |
|---|---|---|
| 画像 | ガビガビ | 解像度が低い |
| 音 | ガビガビ/ガサガサ | イコライザーのかけすぎ、性能の低いマイク |
| 動画 | ジャミジャミ | モアレが出ている |
| 動画 | ヌルヌル | フレームレートが高い |
| 映像全般 | パキッと/バキバキ | 解像度が高い、くっきりしている |
水野さんが面白がったのは、解像度のような現代の概念を表すオノマトペが今まさに生まれつつある点です。視聴者が「ジャミジャミええやん」と使い始めれば、そのまま広がっていく可能性があります。
だってモアレ出てる時にさ、今までいい表現なかったんだけど、ジャミジャミしてるなはめっちゃしっくりくるから。
堀元さんは今後の人生でジャミジャミを使うと宣言し、二人はこの言葉を流行らせていこうと盛り上がりました。
QRコードの冗長性が夫婦を救った?
3通目は、姉妹チャンネル「ゆるコンピュータ科学ラジオ」のおかげで世界がちょっと平和になった、というカトリーナさんからの報告です。
私は35歳、2児の父で、やんちゃな子供の世話に手一杯、妻のリソースもそちらに割かれ、今ある夫婦の会話は事務的なもの、最小限しかありません。10年前の大恋愛はどこへやら、相手の心が見えない日々を過ごしていました。
転機は、ゆるコンピュータ科学ラジオのQRコードの回でした。QRコードは一部が塗りつぶされても読める、つまり冗長性 ── 必要な情報に余分な情報を重ねて持たせ、一部が欠けたり壊れたりしても全体が伝わるようにする性質。通信やデータ保存で広く使われる考え方ですがあると知り、同じ情報を繰り返し伝える大切さに気づいたそうです。
QRコードの回を聞く
一部が欠けても読める冗長性を知る
「愛している」を3回言う
繰り返せば一部が聞き取れなくても伝わると考えた
妻が苦笑する
最初の反応は苦笑だった
家庭が平和になる
妻の雰囲気が柔らかくなり、関係がよくなった
「妻を苦笑させることに成功しました」というくだりに水野さんはツッコみますが、最終的にはいい話に着地します。家で同じことを言っているかと聞かれた堀元さんの答えは、あっさりしたものでした。
一回も言ってなかったのを三回言うようにしたんでしょうね。
堀元さんによれば、カトリーナさんは一度も言っていなかった「愛している」を3回言うようにしたのだろうとのことです。そのうえで堀元さんは、1回で聞こえるので1回言うのがおすすめだと締めくくりました。
「彼は自分の言ったことをわかってない」は二通りに読めるか?
4通目は、水野さんが読み上げた20グラムのチョコレートさんからの文法の疑問です。
彼は自分の言ったことをわかってないという文は、彼は私の言ったことをわかってないと、彼は彼の言ったことをわかってないの二通りに解釈できませんか?
彼は、彼自身が言ったことをわかっていない
彼は、私が言ったことをわかっていない(一人称に「自分」を使う人の場合)
堀元さんは最初、「自分」を話し手と取るのは難しいと感じます。ただ、普段から一人称を「自分は」と言う人なら成り立つと気づき、「軍人っぽい口調にしたらしっくりきた」と納得しました。
水野さんによれば、この疑問を扱う理論は生成文法 ── 言語学者チョムスキーが提唱した理論で、人間が文を生み出す仕組みを規則として明らかにしようとするもの。文が成り立つかを例文で一つずつ確かめる研究が多くありますだといいます。「自分」の振る舞いや、英語のmyselfやyourselfは、生成文法でさかんに研究されてきたテーマです。
こういう疑問をめちゃめちゃ一生懸命考えて、わけわかんないね、複雑すぎる例文でいろいろテストしてるのが生成文法なので、こういうの気になる人は門叩いてみたらいいと思います。
水野さんは、文の中に埋め込むと読みが変わるという話を例文で示そうとしますが、その場でうまく作れずに苦戦しました。プロの研究者は簡単に試せる例文をすらすら作れるという話になり、二人は投稿者に生成文法の扉を叩いてみることを勧めています。
名前に似た職業に人は就きがち?早口言葉をもじった論文
5通目は、カツラじゃないカツラさんから届いた「おしゃれタイトルの論文」の報告です。堀元さんは内容を伏せ、タイトルだけで中身を当てるよう水野さんに出題します。
論文のタイトルは「Why Susie Sells Seashells by the Seashore」で、早口言葉「She sells seashells by the seashore」をもじったものです。水野さんは女性の労働の話かと推測しますが、外れでした。
堀元さんが明かした答えは、人は自分の名前に似た職業に就きがちだという傾向を示した統計の論文だというものです。デニスという名前の人はデンティスト(歯科医)になりやすく、ルイという名前の人はセントルイスに住んでいることが多いそうです。
副題は「Implicit Egotism and Major Life Decisions」です。水野さんは、名前と本人の仕事や業績が結びついている例を指すアプトロニム ── 名前がその人の職業や特徴にぴったり合っている例を指す英語。aptは「ふさわしい」という意味ですの、範囲を広げたバージョンだと位置づけました。
堀元さんは、子どもに就かせたい職業に似た名前を付ければ誘導になるかもしれないと言い出します。水野さんが「水野外資系コンサルタンティヌス」を提案すると、堀元さんは「面接で落ちます」と退け、プロ野球選手の藤川球児さんを運命づけられた名前の例に挙げました。
水野さんは集めているアプトロニムを披露します。京都市の桂出身で、苗字は小杉、それなのに髪が薄いブラックマヨネーズの小杉竜一さんや、苗字にエロが入っているどぶろっくの江口さんが例に挙がりました。
増岡弘さんっていう、あのマスオさんの声優やってる人がいる。
だからこの論文の著者はさ、アメリカ人だったからこのタイトルになったけど、日本人が書いてたとしたら、「なぜ増岡さんはマスオさんの声優をやるのか」これになってたでしょ。
あごが長い絵は愛情表現だった?ビジュアルシンカー回への反響
6通目は、三十六さんからの「絵でおたよりを送れない」という声です。二人が『ビジュアル・シンカーの脳』という本を紹介した回には、視聴回数に対して番組でも類を見ないほど多くのコメントが付いたといいます。
コメント欄では、堀元さんが芸大の知り合いから受け取った絵の話にも反応がありました。堀元さんのあごが長く伸びた絵は、実は愛情表現やラブレターだったのではないか、という声です。
俺の顎デローンって伸びてる絵送られてきましたけど、あれラブレターだったんですかね。いじられてるだろ、どっちかっていうと。
堀元さんがボケのつもりで首を長く描いたキリンの絵にも、コメント欄では「そんな風に世界を見たことがなかった」と擁護する声が多く寄せられました。絵を描く人たちは同じように受け止めるのかもしれない、と堀元さんは振り返ります。
時系列では、あごの長い絵を受け取った後にキリンを描いたそうです。あごの長い絵は二人で食事に行き「めっちゃくちゃ楽しかった」と言われた後のLINEで届いたもので、堀元さんは好意の表現ではあったかもしれないと認めています。
人間って共存するのなんて難しいんでしょうね。
考える様式と、アウトプットのうまさは別の話
ビジュアルシンカー回の公開後、水野さんが新たに考えた論点があります。頭の中で絵で考えるか言葉で考えるかという思考の様式と、それを出力するのがうまいかどうかは別だということです。
二人は言語で考え、言語での出力も得意で、絵は鑑賞も描くのも苦手です。その組み合わせが自分たちに当てはまっていたために、思考の様式と出力のうまさを一緒くたにして語ってしまったと水野さんは振り返ります。
頭の中で絵で考えるか、言葉で考えるか
考えたことを絵や言葉として上手に出せるか。練習すればうまくなる
堀元さんは、頭の中ではキリンっぽいものをイメージできるのに、描くと全然違うものが出てきて驚くといいます。画家が「頭の中にはあるのにうまく描けない」と言うのは、そのレベルの高いバージョンではないかと考えました。
一方で、言葉については「うまく言葉にできない」という感覚が二人にはほとんどないそうです。堀元さんは、SF短編『宇宙ラーメン重油味』の面白さを聞かれれば、ペラペラと説明できるといいます。
言語化もできてないんですよ。多分ちゃんと。でも喋った方が正しいから、喋ったやつが俺の心になるっていう感じな気がします。
水野さんは、多くの人が言葉にしたものと本心のずれに悩む中で、僕らは喋ることによって自分を騙すから悩みがないのだろうと話します。言語化が苦手でもそのままでいいわけではなく、練習すればうまくなるという点も付け加えられました。
コメント欄では、ビジュアルシンカーの多い美大生が入学後、講評で作品の意図を説明させられて苦戦するという声も寄せられていました。漫画ブルーピリオド ── 美術に目覚めた高校生が東京藝術大学を目指し、入学後も制作に向き合う姿を描いた山口つばさの漫画にもそうした描写があり、美大時代に言語化が得意になったという人もいたそうです。
ビジュアルシンカー概念の暴走への懸念と、通ぶった指摘のツケ
水野さんには、ビジュアルシンカー回について懸念もあります。ビジュアルシンカーという概念が実験的な裏付けや科学的なコンセンサスをどの程度得ているのかがわからず、概念が暴走するとまずいということです。
なんかみんなすぐビジュアルシンカーだからみたいな、適当に使い始めるとちょっと良くない気がしますね。
水野さんはこの話を認知心理学者の今井むつみ先生に話したことがあります。思い出すときに視覚領域が活性化したという実験の話をしたところ、思い出すときはみんな視覚領域が活性化すると返され、答えに詰まってしまいました。
我々の得意の読んだ本の内容をペラペラ喋って、それってどうなの?って聞かれた瞬間にあれ?そうなんだろうってなる。
あの回をきっかけに『ビジュアル・シンカーの脳』が重版になったという嬉しい知らせもあった一方で、無責任に話したからこそ心配だと水野さんは話します。二人は、乱用せず「そういう考え方もあるんだ」くらいに受け止めてほしいと呼びかけました。
堀元さんにも最近、似た恥ずかしい経験がありました。バディブックスの飯田さんと旅館で収録した回で、通ぶれる動きとして翻訳の失敗を指摘してみせたのです。
その指摘は、ある本の一節をゴーギャン ── 19世紀フランスの画家。「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」という題の大作で知られますの作品名の定訳に合わせるべきだ、というものでした。ところが後日、サポーターコミュニティにいるプロの翻訳家が原文を確認すると、著者自身が元の言葉を念頭に置きつつずらして書いていたことがわかりました。
だからあの時は通ぶるためにプロがやった仕事を素人がダメ出ししたっていう状態ですね。
間違いしか喋ってないんだなっていうつもりで聞いていただけるとありがたいです。
「エッチ」の語源説はなぜこんなに多いのか?
最後のおたよりは、灰原さんがおすすめするWikipediaの「エッチ」の記事です。この記事には、パッと見で15個ほどの語源説が並んでいるといいます。
水野さんがすぐに挙げた「変態の頭文字」説は、明治20年からある古い説です。性的な隠語として、女学生の間で使われたそうです。
ほかにも、英語の綴りや人名、アルファベットの並びに由来を求める説が次々に出てきます。堀元さんが読み上げるたびに、水野さんは「何でもありじゃないですか」とツッコみました。
「助平」説には、大日本帝国海軍の兵隊がシャレで使い始めたという由来があります。海軍では他にも、りん病をR、妻をKA(母ちゃん)と呼んでいたそうで、水野さんも「急に信憑性増してきた」と反応しました。
こんなさ、明治ぐらいにできたのにさ、わからんことあるね。
エンディングでは、ビジュアルシンカー回のように多く見られる回を出すとおたよりが読み切れない、という悩みも話題になります。堀元さんは、見られ続けつつ、いいおたよりもたくさん読みたいと締めました。
最後に堀元さんは、「姿ばかりを飾って役に立たない柔弱なもの」を指す「エッチもの」という言葉が由来だという説も紹介します。水野さんは、公の場で自分を「エッチもの」と呼ぶのは絶対にやめてほしいと念を押していました。
まとめ
今回のおたより回では、漢字の見立てや新しいオノマトペ、名前と職業の関係、語源の諸説など、身近な言葉に潜む不思議が次々に取り上げられました。ビジュアルシンカー回については、思考の様式と出力のうまさを分けて考える補足と、概念を乱用しないでほしいという呼びかけもありました。
- 「竹冠にバナナ」は支笏湖の「笏」で、言われれば下の部分がバナナに見える
- 動画のモアレを表す「ジャミジャミ」は、堀元さんの語彙に新たに登録された
- 人は自分の名前に似た職業や土地を選びがち、という傾向を示した論文がある
- 頭の中で何で考えるかと、それをうまく出力できるかは別の話
- 「エッチ」の語源には、Wikipediaに15個ほどの説が並んでいる



