努力できない人と「努力中毒者」、この本はどちらの説明書か
この回は、行動経済学の観点から努力を続ける方法をまとめた本『努力は仕組み化できる』をもとに、水野さんが「努力の続け方」を解説する回です。積読チャンネルの飯田さんをゲストに迎えたコラボ回で、次回は水野さんが積読チャンネルに出演して別の本を紹介する構成になっています。
冒頭で継続が得意かを聞かれた堀元さんは、noteの定期更新なら6年くらいすぐ続けられると答えます。一方の飯田さんは、筋トレを始めて2日でやめたという、継続がとことん苦手なタイプです。
水野さんは、本業で毎週雑誌を作りながら、週2回のYouTubeへの出演と台本制作、単行本の執筆、月刊誌の連載を並行し、辞書も毎日読んでいます。ただ水野さん自身は、自分を努力できるタイプだとはあまり思っておらず、忙しかった時期も「締め切りがあるから書いた」という感覚だといいます。
今年の上半期に本の執筆と連載が一段落したところで、水野さんはこの本に出会いました。読んでみると、自分が無意識にやっていたことがそのまま書かれていて、新しい発見というより「やっぱり合っていた」という確認になったそうです。
著者は行動経済学者で、企業や自治体に向けて、利用者に行動を続けてもらうためのコンサルティングをしている人物だと紹介されます。たとえばジムが利用者に運動を続けてもらうには、といった場面で知見を活かしているといいます。
「自分を意志のある存在と見なさない」とはどういうことか
水野さんが挙げる努力中毒者の特徴の1つ目は、「自分を意志のある存在だと見なさない」というものです。飯田さんは「意志のないムキムキマシンになれってこと?」と反発し、ディストピアだと突っ込みます。
聞いてください、聞いてください。ここで言いたいのは。努力は意志によって行うという前提を捨ててくださいってことです。
水野さんによると、この本の主張は「努力は意志で続けるのではなく、仕組みで続けるべきだ」というものです。成功者がノウハウ本で意志の力を語るため、多くの人が意志でやろうとしてしまいますが、行動経済学の知見からすると、意志ほど当てにならないものはないとされます。
頑張るぞと思う気持ちに頼る。成功者のノウハウ本などで語られがちな考え方
いつ・どこで・どう行うかを事前に決め、環境を整えて自然に行動が続くようにする
そこで水野さんが導入するのが、本に出てくる「実行意図 ── 行動を「いつ、どこで、どのように」行うかを事前に具体的に決めておくこと。心理学では目標達成を助ける手法として研究されています」という用語です。「できるだけジムに行こう」ではなく、「今週の平日5日のうち4日は会社帰りにジムに行く」のように、行動を具体的に決めておくことを指します。
堀元さんはフリーランス1年目のころ、締め切りのない依頼にも「今日中にやります」と返すことにしていたといいます。宣言したことで、その日のうちに仕上げるしかなくなったそうです。
あれでだいぶね、宣言することの大事さ知りましたね。今日やりますって決めちゃえば、もう今日やるしかなくなるなっていうのを発見しましたね。
飯田さんも締め切りを毎回確認するそうですが、確認したうえで破ってしまうと告白し、「人間だもの」と相田みつを ── 詩人・書家。「にんげんだもの」という言葉を含む作品で広く知られていますの言葉を言い訳に使って笑いを誘います。
辞書は酒と一緒に、YouTubeは筋トレ中だけ。報酬と環境の仕組み化
水野さんが毎日辞書を読む習慣にも実行意図があります。水野さんの場合は「仕事から帰った後、自分の部屋で酒を飲みながら読む」と決めていて、お酒は飲みたいので、飲み始めると自動的に辞書を読むことになるという仕組みです。
堀元さんはこれを「報酬とセットにする」テクニックだと整理し、自分の筋トレにも使っていると話します。堀元さんは、日中にYouTubeを見てよいのは筋トレをしている間だけというルールを自分に課しているそうです。
飯田さんも、妻と毎月行う「ワンオンワンミーティング」を必ず外食しながら行うことで、楽しい時間にしているといいます。ただ飯田さんは、妻との約束と違って筋トレは自分しかいないので、つい自分を許してしまうとも語ります。
水野さんが挙げるもう1つの工夫が、環境に手を加えることです。実家の和室では勉強机の横にすぐ布団が敷ける状態で、帰宅すると布団に飛び込んでいました。今の家では寝室と作業部屋を分け、作業部屋からすぐ寝転がれる場所をなくしたといいます。
(作業部屋の椅子に座るとPCを起動して)返さなきゃいけない連絡とか書かなきゃいけない原稿とかがいっぱい立ち上がってくるから、帰宅してもうほんと3分とかでもう作業を始められるんですね。
もっとも飯田さんは、ベッドがなくてもフローリングに転がってしまうタイプだと明かします。飯田さんは、効率を最大化する生き方を、廊下で早歩きを計測する工場に重ねて「怖い」とも感じたそうです。
遅刻が減ったのは駅近に住んだから?
環境の仕組み化の例として、水野さんは遅刻が減った理由を振り返ります。水野さんの結論は、駅に着くまでの不確定要素が多いほど遅刻しやすくなる、というものでした。
実家時代、水野さんの家から駅までは自転車で15分から30分ほどの幅がありました。極力寝たい水野さんは、信号に一度もつかまらず全力でこいだ場合の15分で見積もってギリギリに出発し、毎回遅刻していたといいます。
ところが駅から歩いて2分の場所に住んだところ、楽観的な見積もりが成り立たなくなり、ずれても30秒程度で済むようになりました。飯田さんは「誤差を減らしたってことだね」とまとめています。
実家から駅まで自転車で15〜30分。最も楽観的な15分で見積もり、毎回遅刻していた
駅から徒歩2分の家に住むと、ずれても30秒程度。遅刻しにくくなった
ただし今の物件は再び駅から遠く、この日の収録には遅刻したと水野さんは明かします。堀元さんには「言い訳を仕組み化している」と突っ込まれていました。
実行意図は「自分へのプロンプト」なのか
水野さんは実行意図の話に戻り、本で紹介されたフロスの実験を紹介します。フロスを使っていない人を集め、使うタイミングを事前に決めさせた群と決めさせなかった群を比べると、決めさせた群のほうがフロスをよく使ったという結果です。
この実験を聞いて水野さんが連想したのは、AIへの指示でした。「できるだけ面白いものを挙げて」のようなふわっとした指示ではAIはうまく動かず、「引用数が多い順にいくつ挙げて」のように具体的に渡すと動く、という話です。
堀元さんも、作家で研究者の友人の例を挙げます。その友人は、リサーチをAIに任せても面白い事例が出てこなかったため、1000個出させて一晩中動かすことで解決したそうです。堀元さんは、これを数を明確に与えることでうまくいった実行意図の例として受け止めています。
一方の飯田さんは、実行意図を自分で決めること自体がだるいと言い、「俺にプロンプトを出してほしい」と訴えます。
だからわかった、わかった。飯田さんは実行意図を決める実行意図がないんだ。
飯田さんは、何時に起きて何時にパソコンに向かうかを指示したうえで、定期的にチェックもしてほしいと話します。堀元さんは、飯田さんが台本の締め切り前でも、昔人気だったYouTuberの近況を追っている様子を暴露していました。
話の後半では、営業のゴール設定との共通点も挙がります。飯田さんが読んだ話では、「売上を上げる」ではなく「1日100件回る」だけをゴールにした営業会社で、行動しやすくなり売上が上がったそうです。堀元さんは、名刺の枚数をKPIにするような目標の立て方は嫌いだと付け加えています。
外発的な動機は続かない。内発的な動機はどう育てる?
水野さんが挙げる努力中毒者の特徴の2つ目は、「内発的な動機を育てろ」です。本によると、運動を続ける人と続かない人の差の1つは、動機の違いにあるといいます。
能力を向上させたいからやる、など自分の中で閉じた動機。努力の継続につながりやすい
儲けたい、褒められたい、評価されたい、ご褒美が欲しいなど外からの動機。最初はやれても長く続かない
飯田さんはこれを「手段を目的化しろ」という話だと言い換えます。モテるために筋トレをするのは外発的で、筋肉がついていくこと自体が楽しいのが内発的だ、という整理です。
水野さんはこの教えを、努力を続けるコツは結局自分の内側にしかないという話だと受け止めます。だから自分をじっくり見つめ、ある意味で自己中心的に生きることが、努力を続けるコツなのではないかと考えたそうです。
水野さんの例は受験期の話です。最初は楽しくなかった受験勉強のなかで、単語帳を作ることだけは楽しいと気づき、日本史や倫理政経の正誤問題を単語帳に書く作業に没頭しました。100均で買った単語帳を20個ほどカバンに詰めていたそうです。
水野さんによれば、単語帳を作り続けるうちに点数は勝手に上がり、間違えた問題の単語帳を作り直すのが面倒なので覚えるようにもなったといいます。
その時の自分の心の中の単語帳楽しいって声ってちっちゃいから、忙しくしてたり余裕ないと気づかないんですよ、その小さな声に。
水野さんは、その小さな声に耳を澄ませて心の中で増幅したことが、勉強を嫌いでなくする第一歩だったと振り返ります。飯田さんは、勤怠の打刻が苦手でも好きなプログラミングで自動打刻システムを作った話を披露しましたが、労務チームから止められたそうです。
成長が見えると人はのめり込む。『モチベーション3.0』とYouTubeの数字
堀元さんは、この話からダニエル・ピンク ── アメリカの作家。『モチベーション3.0』では、報酬と罰に頼らない内発的な動機づけの重要性を論じていますの著書『モチベーション3.0』を思い出したといいます。堀元さんによると、この本は結果を出すモチベーションを3つの要素に分けています。
| 要素 | 中身 | 堀元さんの受け止め |
|---|---|---|
| 自律性 | 自分で判断して動けるか | うるさく言われるとやる気がなくなるのでわかる |
| 成長 | 成長を実感できるか | 入っているのが面白い。ゲームと同じでのめり込む |
| 目的 | 社会の役に立っているという気持ち | なんとなくわかる |
飯田さんは大学受験のとき、覚えていない単語に付箋を貼り、覚えたら剥がすことで、毎日できる付箋の山によって覚えた量を可視化していたといいます。水野さんは、成果のフィードバックを目標設定に活かせると努力が続きやすいという話が、本の第2章あたりにも出てくると補足しています。
筋トレが流行っているのも、回数や重さ、見た目で成長を実感しやすいからではないか、という話にもなります。英語の勉強のように成長を実感しづらいものとの対比です。
堀元さんは、YouTuberが再生数のグラフに夢中になる一方で、数字が取れなくなるとすぐ消えていく理由もここにあると見ています。
グラフがひたすら下がり続けていくのって、もうモチベが完全に折られるじゃん。全く成長してないっていう感覚にずっとなるから、上げても上げても成長しないってなったらやめちゃうよね、そりゃ。
飯田さんは、YouTube Studioの「直近10本中何位です」といった表示が自分を必死に努力させると語り、社内の成績表も同じデザインにしようと提案しているそうです。水野さんは、どれだけ言っても変わらなかった飯田さんを変えたのはYouTubeだと笑います。
台本作りも宣言と配信で仕組み化
ここで水野さんは、今回の主張を「自分の意思なんか信じるな」と言い換えます。そのうえで、この回の台本自体も仕組み化で作ったと明かします。
単著『会話の0.2秒を言語学する』の予約が好調でバタバタしていた時期に、水野さんは積読チャンネルの台本を1回分引き受けました。そこでサポーターコミュニティで「この時間から台本を作ります」と宣言して配信し、サボれない状況を作って効率よく書き上げたそうです。
飯田さんも積読チャンネルのコミュニティで台本配信を始めたものの、始めて5〜10分ほどで「やっぱやめます」と中断したと語ります。堀元さんは、始めてしまえば乗ってくる作業興奮 ── 作業を始めると脳が刺激され、やる気が後からついてくるとされる現象。「とりあえず始める」ことの効果の説明に使われますがあるはずだと不思議がっていました。
最後は、自分の行動の成績が常に表示されるARグラスがあれば飯田さんも努力できるのではないか、という冗談で盛り上がります。
時間割引率がほぼゼロの努力中毒者は幸せなのか
水野さんは単著の執筆でも仕組み化を使ったといいます。編集者に言われていないのに、自分で2か月後の締め切りを設定し、1章分を送ると宣言したそうです。
執筆中に水野さんが気づいたのが、本に出てくる「時間割引率 ── 将来得られる価値を、現在の価値に比べてどれだけ割り引いて感じるかを示す度合い。高いほど目先の利益を優先しやすくなります」が、自分は異常に低そうだということでした。今1000円もらうか、1年後に1500円もらうかで迷うのは、1年待つというコストがあるからだと水野さんは説明します。
お金の例
今すぐ1000円か、1年後に1500円か。待つコストがあるため迷う
執筆に置き換え
今飲みに行くか、2年後にいい本ができるか
多くの人
2年後の目標より、直近でしたいことが優先される
水野さん
時間割引率がほぼなく、2年後の本の質が気になって今を楽しめない
だから僕、飲みに行った時とかも、2年後に出る本がこれクオリティ落ちるの嫌だなってなって楽しめなくなったんですよね。
水野さんは旅行に誘われても、本が進まないほうが嫌だと感じて遊びに集中できなかったといいます。そのおかげで執筆は間に合いましたが、水野さんは「努力中毒者に本当になりたいですか」とリスナーに問いかけます。
俺、現代社会に向いてるなとは思うんすよ。その発想のおかげで生産高をキープできてるから、うまくいってるなと思いながら、これ俺って幸せを取りこぼしてるんじゃないか、損してるんじゃないかって思うことよくあって、その答えが知りたいです。
次回は積読チャンネルで、努力中毒になって今に集中できなくなった人と、努力が続かない人の間を取るための本を紹介する予定です。水野さんによると、その本は哲学書で、答えを示すというより3人でディスカッションする回になるそうです。
まとめ
この回では、水野さんが『努力は仕組み化できる』をもとに、意志に頼らず努力を続ける方法を、自身の体験とともに紹介しました。実行意図、報酬や環境の設計、内発的な動機、成長の可視化といった仕組みが語られる一方で、時間割引率がほぼゼロの努力中毒者は今を楽しめないという悩みも示されています。
- 努力は意志ではなく仕組みで続けるもので、「いつ・どこで・どう行うか」を決める実行意図が効果的だとされる
- 報酬とセットにする、寝転べる場所をなくすなど、環境に手を加えることも仕組み化になる
- 外発的な動機は長続きしにくく、自分の中の小さな「楽しい」に気づいて育てることが継続の鍵になる
- 成長が可視化されると人はのめり込み、逆に数字が下がり続けるとモチベーションは折れやすい
- 努力中毒には今を楽しめなくなるという側面もあり、次回はそのバランスを積読チャンネルで議論する


