382ページで968円の本は、なぜそんなに安いのか?
この回は、水野さんが出すクイズから始まります。2023年3月22日に日本で発売された、著者が自分自身について書いた本は、382ページもあるのに価格は968円。なぜこれほど安いのか、という問題です。
堀元さんは「著作権切れの作品だから」「上場企業の社長が原価割れでも売りたかったから」と答え、アパホテルの社長の自伝まで挙げますが、どれも外れます。
水野さんが明かした正解は『AIが書いたAIについての本』でした。文章もブックデザインもイラストも生成AIに作らせたため、経費がほとんどかからず安くできたといいます。
実物を手にした堀元さんは、裏表紙の推薦の声から引っかかります。推薦者の肩書きとして『金持ち父さん貧乏父さん』が書かれている人物が、別々に2人も並んでいたのです。
括弧、金持ち父さん、貧乏父さん。嘘ついてるやん。金持ち父さん貧乏父さん(の)著者がこれ言ったことにしとるやん。
ロバート・キヨサキでしょ、著者。
中身も不思議な作りで、変なところに太字が多く、カラーの挿絵が入っています。堀元さんが96ページを開くと「序論」と書かれていて、さらにその手前も「序論」でした。
こいつ学習データに偏りありすぎやって。めちゃくちゃおもろいやん、この本。
堀元さんは最初「そういう出オチね」と思ったものの、パラパラめくっただけで面白かったと話しています。ここから、お互いの本棚にある奇書を紹介し合う本題に入ります。
忍者が好きすぎるセキュリティのプロが書いた本
この企画は以前にも行われていて、今回はその第2弾です。堀元さんが最初に出したのは、翻訳書の『サイバー術 プロに学ぶサイバーセキュリティ』でした。
著者はアメリカのセキュリティの専門家で、堀元さんの記憶では国防総省などに勤めていた人物です。エンジニアにはオタクが多く、オタクが好きなものといえば忍者。この著者は忍者が好きすぎて、セキュリティを全部忍術にたとえて説明しています。
え、ごめん、それ成立して成功してるんですか?それ。
僕もそう思って最初のほうだけちょっと読んでみたんですけど、忍術が入ったせいで分かりづらくなってます。
水野さんは、たとえを入れてかえってわかりにくくなるのは「どっかのYouTubeチャンネル」のようだと笑います。堀元さんも、姉妹番組のゆるコンピュータ科学ラジオでたまにやる失敗を、一冊通してやっている本だと認めます。
水野さんは「忍者はセキュリティを突破する側では」と疑問を出しますが、堀元さんによると、序文で「侵入の方法を知っておかないと防げない」という趣旨の説明があったそうです。第0章のイントロダクションは「初めに言っておきますが、私は忍者ではありませんから」という一文で始まります。
この本の驚きは、セキュリティより忍者の説明に紙幅が割かれていることです。各章の扉には忍びの歌が引かれ、万川集海 ── 江戸時代前期にまとめられた忍術書。伊賀・甲賀の忍術を集大成したもので、忍者研究の代表的な史料とされますのような古文書にまで当たり、忍者研究者の名前も記されているといいます。
セキュリティのこと書いてよ。セキュリティのこと書いてよ。
堀元さんはゆるコンピュータ科学ラジオのネタにしようと読み始めたものの、セキュリティの内容が専門的すぎて難しかったそうです。忍術のたとえで平易になるどころか、難しい内容に忍者という要素が足されている構図です。
セキュリティを忍者にたとえて、やさしく説明してくれる本
専門的なセキュリティの内容に、忍者の解説を足した本。忍者の説明に紙幅が割かれ、かえってわかりにくい
堀元さんは「一冊で忍者にもセキュリティにも詳しくなれるから得だ」と冗談で返しますが、水野さんは別々に学んだほうがいいと突っ込んでいます。
「小学生が国語辞典を読み通すのを助けたい大人」は誰なのか
水野さんは、堀元さんの本がゆるコンピュータ科学ラジオ向きだったことを受けて、言葉ネタの本を出します。タイトルは『小学生が国語辞典を読み通すのを助けたい大人のための本』です。
そんな大人いる?
堀元さんは、ふつうは「20代で結果を出したい人」のようにターゲットを絞るものだが、この本の想定読者は日本に20人くらいしかいないのでは、と驚きます。水野さんは、ゆる言語学ラジオのリスナーが26万人いると返します。
いないいない。みんな、みんな思ってないですよ。26万人みんな思ってない。
水野さんによると、著者は教育関係者で、国語辞典の語釈にツッコミを入れるなど、辞典を教材として使う方法を提案しているようです。帯には、小学6年生の保護者から「小5の模試でほぼ最下位だった国語が、小6の模試で上位になった」というコメントが寄せられています。
ここで二人は、前の『サイバー術』と比べ始めます。忍者を知りたい層とサイバーセキュリティを知りたい層は重ならず、水野さんいわく「想定読者は空集合」。それに比べると、国語の成績を上げたい保護者という読者層がある分、こちらは成り立っているという見方です。
堀元さんは、ふだんなら「興味ないっす」と言うところが、この本を種本にした回には一周回って興味があると話します。表紙の折り返しには「国語辞典は読み通すものである」と書かれ、外来語の発音から元の英語の発音を知る、といった楽しみ方が紹介されています。
最後は、こうした本が世に出ること自体への評価に話が移ります。映画を撮るのは大変でも出版ならできるので、ふつうなら日の目を見ない発想を広げられる、と二人は語ります。
出オチだと思っていた『文体練習』の本当の面白さ
堀元さんが次に出したのは、レーモン・クノー ── フランスの作家・詩人。言葉遊びや実験的な文学で知られ、『地下鉄のザジ』などの作品がありますの『文体練習』です。水野さんに「奇書のクリシェ(定番)」と言われそうだと前置きしつつ紹介します。
『文体練習』は、バスの中で人の足を踏んだかどうかで人が怒る、というだけの出来事を、99通りの文体で書き分けた本です。堀元さんによると1947年に書かれ、筒井康隆さんがエッセイで「いつか翻訳したい」と書いていたそうです。
水野さんは、文豪の文体でカップ焼きそばの作り方を書く『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』のような本だと理解し、堀元さんは「それのはしり」だと答えます。
堀元さん自身、名前は知っていてもアイデアだけの出オチ本だろうと油断していたといいます。実際に買ってめくると、ブックデザインに驚かされました。文字が鏡文字になったり、組版からはみ出したり、ページに対して斜めに印刷されたりしています。
これもう職業編集者が見たら冷や汗かくよ。やべえ印刷ミスってる。これ返品されるってなります。
合ってるんすよ。
堀元さんは、電子書籍にはできない、紙で持つ意味がある本だと評価しています。水野さんも、200ページもない本が縦長のハードカバーになっている装丁を気に入った様子です。
さらに堀元さんは、続編のような位置づけの『プログラミング文体練習』も出します。同じ処理を、アセンブリ言語のような低水準の言語、Pythonの現代的な機能、関数型の書き方など、さまざまなスタイルで書き分ける本です。
| 本 | 書き分ける対象 | 書き分け方 |
|---|---|---|
| 文体練習 | バスの中の小さな出来事 | 99通りの文体 |
| もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら | カップ焼きそばの作り方 | 文豪の文体 |
| プログラミング文体練習 | 同じプログラム | さまざまなプログラミングスタイル |
ところが、この本も趣旨はふざけていても中身は本格的で、モナド ── 関数型プログラミングで、入出力などの副作用を扱うために使われる抽象的な仕組み。理解が難しい概念として知られていますを使った実装などの技術解説がしっかり付いています。水野さんが一節を音読すると、声がどんどん小さくなっていきました。
堀元さんは『サイバー術』とこの本で懲りたといいます。面白そうな切り口に本格的な技術を掛け合わせた本は、技術の部分が難しくて挫折する、というパターンです。
水野さんは、言語学者の川原繁人さんの話を引きます。院生時代にラップの分析というキャッチーなテーマで論文を書いたときこそ、統計的な手法をがっつり使ったという話です。
チョケかけるチョケを期待して買うやつがたまに引っかかるっていう事件が起きてます。
『月刊ムー書評大全』が見せる知らない本棚
水野さんの次の一冊は『月刊ムー書評大全』です。オカルト雑誌の月刊ムーには書評ページがあり、そこで取り上げた本と書評をまとめた本です。
帯によると、超古代文明やUFO、陰謀論だけでなく、天文学、考古学、理論物理学まで幅広い本を扱っています。水野さんは、講談社現代新書やブルーバックス、中公新書もふつうに出てくると話します。
堀元さんがめくると、『風水神札タロット占い』のようにムーらしい本もあれば、UFOに関する軍部関係者の証言をまとめた『ディスクロージャー』、虫を共食いさせる呪いを扱った『中国最凶の呪い 蠱毒』もあります。
俺らが行かないところにね。
そうだ、俺らが行かない棚だ、これ。
水野さんは、紹介された本を選ぶときにはリテラシーが問われるとしたうえで、ほとんどの人が触れてこなかったムーの書評ページに、こんなに面白い世界が広がっていると伝えるコンセプトが面白いと話しています。
堀元さんは、ここで穴埋めクイズを出します。「パワースポットはほにゃらら」のひらがな5文字です。水野さんは「作られる」と答えますが、正解は『パワースポットはここですね』でした。
この本は、ノンフィクション作家の高橋さんがパワースポットに興味を持ち、ムーの三上編集長に指南を受けて全国を巡る内容です。ムーの書評は、取材と文献の読み込みを重ねる著者の姿勢を称え、軽く見えるタイトルに深い意図が込められていると評しています。
二人は、本の魅力をしっかり書いて読みたい気持ちにさせる点で、書評としても立派だと評価しています。堀元さんは「ムーの知られざる側面」だと話しています。
興味のない本を読むと何が見つかるのか?
ムーの本をきっかけに、堀元さんは「まったく興味のないジャンルの本を持ち寄って読む収録」を提案します。例に挙げたのは、Kindleのセールで買って30ページほど読んだ『「城取り」の軍事学』です。
水野さんが「城取りは城を奪うことでしょ」と言うと、堀元さんは「素人」と返します。本によると、城を取るという言い方は昔は築城する意味で、攻め落とす意味で使うのは近世以降のイメージだそうです。
僕も4日前までそうやって間違ってましたけど、3日前にこのこと知ったんで。
堀元さんが衝撃を受けたのは、城のイメージの話です。名古屋城のような天守のある石造りの城は近世以降のイメージで、ほとんどの城は土で作られていたといいます。
城を取るのは攻め落とすこと。城は天守のある石造りの建物
城を取るは本来、築城すること。ほとんどの城は土作りで、今は土山のように残っている
本物の城巡りは土が盛られた場所を見に行くことになる、と言う堀元さんに、水野さんは「それを見に行って何が楽しいんですか?」と尋ねます。堀元さんは、まだ30ページしか読んでいないのでわからないと答えています。
二人は、興味のないものを面白がることには自信があると話します。ただし水野さんは、純文学だけは読んでも何も残らず、事実が書いてある本なら大体楽しめるといいます。
コンピュータのチップを揚げる本は、なぜ真面目なのか?
堀元さんの次の一冊は、前回の選手権でも話題に出た『揚げて炙ってわかるコンピュータのしくみ』です。ゆるコンピュータ科学ラジオのネタになると思って読んだものの、ならなかったといいます。
堀元さんは、面白いブロガーのような文体を想像していましたが、実際はハードウェアを学べる本格的なコンピュータアーキテクチャの本でした。
堀元さんによると、著者はふざけて揚げているわけではありません。チップの中身を見たいが外側が邪魔で見えない、どうすれば剥がせるかを考えた結果、油で揚げるという方法にたどり着いたのだといいます。
目的
チップの内部構造を見たい
課題
外側の被膜が邪魔で中身が見えない
方法
温度を測りながら油で揚げ、被膜をきれいに剥がす
本には、秋葉原での部品の入手方法や、きれいに中を見るための揚げ方のコツが丁寧に書かれています。水野さんが「以下の作業はくれぐれも火災や火傷に注意しながら行ってください」という一文を読み上げると、堀元さんは「真面目」と繰り返します。
この気づきは、この選手権そのものへの反省にもなっています。書影だけ見て変な本だとはしゃぐのは違うという見方です。
著者は金沢大学の先生で、著者略歴のページには「無駄な抵抗コースター」という、どこにもつながっていない抵抗を描いたコースターが載っています。二人は、真面目な顔で淡々とボケるタイプなのかもしれないと話しています。
動物のペニスから人生の教訓は学べるのか?
水野さんの最後の一冊は、堀元さんの連載「読むだけでぐんぐん頭が良くなる下ネタ大全」に使えそうな本、『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』です。
無理だって、ペニスから人生の教訓学ぶのは。
堀元さんは、『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』のような砂場ならわかるが、動物のペニスはそんなに話すことがないと反論します。自分で試しに、シロナガスクジラのペニスが3メートルあるという知識から教訓を引き出そうとしますが、「ペニスの教訓」にしかなりませんでした。
目次には「ペニスの消し方」「クジラのペニスを立たせるには」といった見出しが並びます。ところが「ペニスの消し方」を読むと、BMP4 ── 骨形成タンパク質4。骨や器官の発生に関わるタンパク質で、発生生物学で重要な研究対象ですをコードする遺伝子がペニスの退縮に関わるという、真面目な発生学の話でした。
そこで水野さんがペニスの話題を出し、堀元さんが教訓を引き出す練習をします。お題はアイスランドにあるアイスランドペニス博物館です。
寒いところって普通はペニスが縮こまるんですよ、寒いから。でもそこであえてペニス博物館をやる。人間は追い込まれた時ほどチャンスで逆に打開していいアイデアが出る。
大きくなったね。合格だ。
性器を扱う本が、意外とフェミニズムの本だった理由
ふざけた話をした後で、水野さんは『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』が実はフェミニズムの本だと明かします。動物の性行動や生殖器を扱う本の多くは、男性優位社会の文化的背景の影響を受けすぎてきた、と論じているそうです。
原題には、男根を意味するファルスと、誤謬を意味するfallacy ── 英語で「誤った考え」「誤謬」を意味する語。原題はこれと男根を意味するphallusをかけた言葉遊びになっていますをかけた合成語が使われています。帯には「現代にいまだ蔓延る男根幻想と戦う科学読み物」と書かれています。
動物のペニスの話から人生の教訓をひねり出す、ふざけた本
性や生殖器をめぐる研究が男性優位の文化に影響されてきたことを論じる、フェミニズムの科学読み物
堀元さんは、性器を扱う本は意外とフェミニズムの本だったりする、という「あるある」を挙げます。例は『ヴァギナ 女性器の文化史』で、女性の著者が前書きで「ヴァギナあり人間」としての視点を書くと述べていたそうです。
水野さんは、ペニス中心主義を逆に皮肉る書き方だと受け止めます。話はさらに、男性器について論じた『せいきの大問題』にも及びます。
持ってきたかった全120巻の大シリーズ
締めくくりに水野さんは、持ってこようと思っていた本として、明治書院の『新釈漢文大系』を挙げます。全120巻あり、シリーズ累計165万部売れているそうです。
勘弁してください。絶対経費として精算しないでください。弊社出さないんで、その金。
二人は、この企画は評判もよいのでストックがたまればまたやりたいと話しています。水野さんは変わった本が出るとメモしていて、以前のコメント欄でリスナーから教わった本を買ったこともあるといいます。
最後に、リスナーにも知っている奇書をコメント欄で教えてほしいと呼びかけて、この回は終わります。
まとめ
キショ奇書自慢選手権の第2弾では、タイトルや見た目で目を引く本が次々に紹介されました。ただ、実際に読んでみると、真面目に作った結果として奇書に見える本が多いことが、この回のいちばんの発見になっています。
- 生成AIが作った『AIが書いたAIについての本』は、推薦文や「序論」の重複など、生成の失敗も含めて面白い一冊でした
- 『サイバー術』や『プログラミング文体練習』は、面白い切り口に本格的な専門内容が組み合わさり、堀元さんは挫折したといいます
- 『文体練習』はアイデアだけの出オチではなく、紙でしかできないブックデザインに見どころがありました
- チップを揚げる本や動物のペニスの本は、ふざけて見えても、著者の真面目な問題意識から生まれていました
- ムーの書評ページや興味のないジャンルの本など、ふだん行かない棚にも発見があるという話も出ました





