寝落ち前提の収録と「左の方がうるさい」という声
この回は、ゆる言語学ラジオを寝る前に流す人が多いと聞いた水野さんが、その聞き方に合わせて企画した睡眠導入回です。二人は実際に温泉旅館の布団に入っており、収録開始は午前2時10分でした。
水野さんは、寝る前に聞く人を想定していつもより小さな声で話します。会話しながら、眠くなったらどちらかが寝落ちするという実験的なスタイルで、編集もほぼ入れない予定だと説明されています。
急にでかい声になったらさ、寝るって言ってんのにちょっとさ、入ってこないじゃないですか。
雑談は早々に、堀元さんへの否定的なコメントの話へ移ります。水野さんは、自分にはほとんど誹謗中傷が来ないのは、堀元さんが引き受けているからではないかと気にかけていました。
一ヶ月に10件ぐらい来てないかな。
堀元さんは「邪魔です」と言われることもあると明かしつつ、インターネットコンテンツはそういうものだと受け止めます。自分も以前は他人のコンテンツに文句を言っていたので、人のことは言えないという立場です。
自分が作るのが忙しいと、人の何かを文句言ってる暇がない。
社長は向いていない?堀元さんが本当にやりたいこと
「もっと寝やすい話を」という流れで、水野さんは堀元さんに、経営者として規模を拡大してみてどうかと尋ねます。堀元さんの答えは率直に「向いてない」でした。
いや、ほんとはさ、社長交代したいなって思ってて。
堀元さんが手放したいのは、お金を稼ぐ部分、つまり自分が作ったものに高い値札を付ける努力です。一方で、新プロジェクトのような大方針を打ち出すことと、ものを作る手を動かすことは自分で続けたいと話しています。
なんかね、普通にやっぱクリエイティブに集中したいんだよね。ものづくりに集中したくて。
実際に、堀元さんがものづくりに使える時間は以前より明らかに減っているそうです。本来クリエイティブに使うべき時間が、クライアントとの折衝に取られていくことが悲しいと話されています。
理想は「スーパー敏腕コンサルタント(クリエイティブわかり男)」のような人材ですが、水野さんは、そこまで能力がある人なら報酬も高く求めるだろうと指摘します。話はそこから、水野さんの肩書きを「OCKM(お茶汲み)」といじる脱線へ流れていきました。
水野さんの悩みが減った理由と、窓口スタッフの効用
今度は堀元さんが水野さんの悩みを聞きます。水野さんは、2023年12月に更新頻度を減らしてほしいと本気で頼みに行って以来、悩みは減ったと答えます。
堀本さんがそうしてくれたから、一ヶ月の土日の半分ぐらい予定入れないっていうのができているんですよ。
空いた土日は家にこもって資料を読み、原稿を書く時間に充てられています。ただ水野さんは、ストレスの総和が一定なら、自分が楽になった分が堀元さんに寄っているのではないかと心配していました。
堀元さんは、ちょうどその時期から裏方スタッフの吉野さんが入ったことを挙げます。誰が返すのか決まらず放置されがちだった問い合わせメールも、吉野さんが対応するようになりました。
堀元さんが気づいたのは、意思決定を自分でしていても、窓口を代わってもらうだけで負担が変わるということです。手間が同じでも、直接クライアントと話していない分、認知資源の減り方が違うと話しています。
なんか一回クッション挟まってる分あんま気にならないみたいな。
水野さんも、温度感だけ吉野さんに伝えればビジネス文章に直してくれることで、時間が浮く以上の効果があったと振り返ります。
「窓なんて文字書いてない」インターネット芸人の完成
吉野さんの判断が合わないことは最初多かったものの、堀元さんの「勝手にやっておきましたけど大丈夫ですか」をひっくり返したことは一度もないと水野さんは言います。水野さんは、堀元さんの中の水野さんモデルが正確すぎただけだと気づいたそうです。
堀元さんはその正確さの例として、水野さんが「出さないで」と言うとわかっていて友人の情報を公開した件を挙げます。水野さんは、あれが自分のインターネット芸人としての第一歩だったと振り返りました。
その変化を、水野さん自身もこの日の山頂で実感しています。アウトドアには行かないのかと聞かれ、即座に「その時間本読めなくない?」と返してから、自分はこんな会話をする人間ではなかったはずだと思ったそうです。
出会った頃なら「きっかけとかあったら行くんですけどね」とモヤっと答えていたはず
一秒も待たずに「その時間本読めなくない?」と返す
堀元さんは、もっとすごい例として飛行機での一言を持ち出します。
窓際は景色見えるからいいよねって言ったらさ、窓なんて文字書いてないじゃないですかって言うんだよ。
0か100で話すと面白い。インターネット芸人の素質
水野さんは、自分にはインターネット芸人の素質があったのか、仕上がってしまっただけなのかを堀元さんに尋ねます。堀元さんの答えは「素質あったでしょ、絶対」でした。
堀元さんの説明では、普通の人は内心をある程度正確に話そうとするため、発言が80対20や90対10になり、0か100にはなりません。けれど面白さを出すには、本心より極端に言い切る方が効くといいます。
全然適切じゃないんだけど。でも瞬間最大風速を出すにはこれが一番いいから。ゼロか百を喋る。
堀元さんによれば、この盛り方は程度の差こそあれ誰もがやっています。その度合いを数字で並べると、次のようになります。
初対面の新宿で見えた「予備校講師喋り」
堀元さんは、初めて新宿で飲んだときから水野さんに適性を感じていたそうです。英単語のターゲットの語源を全部調べて書き込んでいた話を、水野さんはかなり極端に語っていました。
語源に遡ったら有機的に全てがつながるじゃないですか。だったら全ての語源を調べずにいられないじゃないですかみたいなこと言ってた。
水野さん自身は、日本史の試験をハックした話もしていたはずだと補います。センター試験では、大覚寺統 ── 鎌倉時代後期に分かれた天皇家の系統の一つ。もう一方の持明院統と交互に皇位を継ぐ両統迭立が行われ、南北朝の対立につながりましたと持明院統のような混同しやすい語と、「日本初」と書かれた部分だけを押さえれば70点は取れるという話です。
気持ち?歴史に気持ちなんか導入すんなよ。事実の総体なんだから。
水野さんはこの話し方を、予備校講師になりたかった大学生時代に身につけた「予備校講師喋り」だと分析します。学校の教え方を否定し、こうやれば一発だと対立構造を作る型です。
堀元さんは、予備校講師を突き詰めるとインターネット芸人になるのかもしれないと応じます。水野さんは、話し方を磨くという意味でソフィスト ── 古代ギリシアで弁論術などを教えた職業教師たち。説得の技術を重んじ、ソクラテスやプラトンから批判されたことでも知られますとの共通点も感じていました。
記憶の中の初対面の水野さんは誰の顔?
堀元さんは、初対面のときの水野さんの顔がうろ覚えだと打ち明けます。思い出そうとすると、ロン毛でニット帽、浅黒くて髭があり、眼鏡はかけていない姿になるそうです。
だから俺初めて会った時に水野さんの顔を思い出そうとするとプロオオラレアになるの。
水野さんは、ニット帽は一つも東京に持ってきていないと全否定します。堀元さんは、似ていたのは顔ではなく、よどみなく滔々と喋る感じだったのかもしれないと推測しました。
あんないっぱい喋るやつ初めて見た。
会社四季報は「ぶり」で検索する
日本史の「日本初」に似た検索ハックが、会社四季報にもあると水野さんは話します。会社四季報は上場企業を集めた図鑑のような本で年4回刊行され、記者が独自の業績予想や事業内容をまとめたコメントが載っています。
あのね、正解はね、ブリ。
狙うのは「〇〇年ぶりに黒字」「〇〇年ぶりに最高益更新」といった記述です。水野さんは、赤字から黒字に転換するV字の上がり始めの企業は、常に好調で業績を織り込まれている企業より投資妙味がある、という意味だと理解しています。
堀元さんも、4年ぶりの黒字なら、低迷中に社内制度を整えたり不要な部署を捨てたりした結果で、しばらく好調が続きそうだと納得します。この話は四季報の元編集長の本に書かれていたもので、四季報オンラインのスクリーニング機能で「ぶり」と検索すると便利だそうです。
ここで堀元さんは、四季報を買ったことがあるものの、就活生向けだと思い込んでいたと告白します。株価の情報しか載っていないのを不思議に思っていましたが、水野さんの説明で2種類の四季報を取り違えていたとわかりました。
上場企業の直近の業績と、四季報記者による業績予想が載った本。堀元さんがKindle日替わりセールで買ったのはこちら
就活生向けの四季報。堀元さんは四季報をこちらだと思い込んでいた
水野さんは、就職を考える人でも会社四季報を読めば、平均年収や海外売上比率、各事業の利益率から隠れた優良企業が見つかると話します。米国会社四季報や未上場企業版も買ったそうで、いつか言葉の話と絡めて四季報の回をやりたいと語りました。
事故、辞書、行旅死亡人。まとまったデータは面白い
データがまとまったものを読むのが好きだという話から、堀元さんは工場などの事故事例を集めたデータベースを紹介します。フォークリフトの転倒事例などが並び、製造業の現場での再発防止のために作られているようだと話しています。
水野さんは、データベースのような本を中心に出す出版社があると話します。例として挙がったのは、刊行されている辞書だけを網羅した目録で、エピソード説明では版元の日外アソシエーツと『辞書・事典全情報2013-2020』が紹介されています。
水野さんによれば、こうした本は既存のまとめを集め直すのではなく、一次情報をリサーチしないと作れない点に価値があります。市販はあまりされていないため、大きな図書館で借りるのがよいそうです。
二人がこの回で挙げたデータの集まりを並べると、次のようになります。
| 名前 | 中身 | 話した人 |
|---|---|---|
| 事故データベース | 工場などで起きた事故の事例集。再発防止が目的 | 堀元見 |
| 辞書の目録 | 刊行されている辞書だけを網羅した本 | 水野太貴 |
| Wikipediaの世界三大まとめ | 世界三大夜景や世界三大食事法などの一覧 | 堀元見 |
| 追悼文大全 | 追悼文だけを集めた書籍 | 水野太貴 |
| 恋愛四季報 | 会社四季報に似た形式で、合コンや結婚の相手としての会社をまとめた本 | 水野太貴 |
| 行旅死亡人のデータベース | 身元不明のまま亡くなった人の情報。所持金で並べ替えられる | 堀元見 |
堀元さんが驚いたのは、Wikipediaに載っていた「世界三大食事法」です。箸と手は水野さんの予想どおりでしたが、3つ目は「ナイフ、フォーク、スプーン」でした。
そこを無理やり一個にまとめるんだっていう。気持ち悪さがありました。
堀元さんは、積読チャンネルで扱った行旅死亡人 ── 身元がわからないまま路上などで亡くなった人を指す法律上の呼び名。自治体が官報で公告し、引き取り手を探しますの話もします。ウェブで見られるデータベースには所持金のランキングがあり、1位の人は3000万円ほど持っていたそうです。その人を追ったノンフィクションが、エピソード説明にある『ある行旅死亡人の物語』です。
睡眠学習で覚えたい「得する情報」とは?
堀元さんは、せっかくの睡眠コンテンツなので、覚えておくと得する情報を話そうと提案します。最初に出したのは、31までの素数の語呂合わせ「兄さん5時にセブンイレブン…」でした。
ただ水野さんは、30や50ぐらいまでなら素数かどうかはすぐ判断できると反応し、堀元さんも「いるか?これ」と認めます。水野さんは節約やポイ活の知識ばかり浮かぶと悩みました。
堀元さんが「真似しないで欲しい」と念を押しつつ挙げたのは、不法侵入の要件の話です。うろ覚えなので各自で調べてほしいとしたうえで、柵や門など明確な境界を越えなければ不法侵入になりにくいと聞き、登山中に脇道へ入るときの不安が減ったと話しています。
水野さんが出したのは、Amazonギフト券を銀行と見立てる考え方です。まとめ買いで5%ほどのポイントが付き、期限も10年程度と長いので、Amazonで使う予定があるなら入金した瞬間に金利が付く銀行のようなものだと説明しています。
そうかも。入金した瞬間に5パーつくのはすごい。
堀元さんのギフトカード残高が18万円ほどあると聞いた水野さんは、麻雀の全自動卓を買ってほしいと頼みます。全自動卓があれば自分が必要とされる、という自虐的な理屈に、堀元さんは「自己肯定感めっちゃ低いやつみたいなこと言うじゃん」と返しました。
岩と石の区別、泥と砂、断熱材の話
堀元さんは、睡眠中に何度も聞くなら語呂合わせのようなものが良いと考え、最近読んだ『三つの石で地球がわかる』から岩の話を始めます。岩と石には明確な区別がないそうです。
水野さんが驚いたのは、岩や石と砂が連続的につながっているという点でした。堀元さんは、中学理科で習う礫・砂・泥の区別を挙げ、一番粒子が小さいのが泥だと説明します。
水野さんは、友人の家に勝手に1トンの砂を入れるYouTube動画でも砂が沈殿していたと話し、家を解体する同じチャンネルは建築の勉強にもなると勧めます。堀元さんも、実家の壁に父親が穴を開けたら断熱材がもこもこと飛び出してきた体験を思い出しました。
ところが、岩に含まれる鉱物の話に戻ったところで、堀元さんは内容を思い出せなくなります。石英、長石、黒雲母、流紋岩、安山岩と名前は並ぶものの、本人いわく「ブルーバックス一冊読んだ程度の知識量」でした。
全部忘れてこの話終わりっすか。
ワンナイトラブ・ブルーバックスと「読み終えた実績」
堀元さんは、ブルーバックス ── 講談社が刊行する一般向けの科学新書シリーズ。数学・物理・生物などを専門外の読者向けに解説していますを酔った状態で一気に読むのが好きで、翌日には驚くほど何も覚えていないそうです。半分ほど読んで放置している本も多く、『三体問題』も6割ほどしか読んでいないと話します。
水野さんはこれを「ワンナイトラブ」と呼び、自分には途中でやめる読み方ができないと話します。読み始めたら最後まで読むのが最も価値が高い、とポイ活のように考えてしまうからです。
堀元さんが理解できなかったのは、本の終盤が長い注釈や参考文献で、本文ではないときに「助かった」と感じる感覚です。水野さんはこれにはっきり共感しました。
読み終わったという事実を得るためにさ、読み飛ばしていい箇所が30ページあるなんてさ、一周回って得してるから。
これに対して堀元さんは、もっとコスパのいい方法として、分厚い本を3割ほど読んで内容がつかめたら読み終わったことにすると明かします。水野さんは、堀元さんの引用は本の序盤に偏っているのではないかと見抜きました。
終わりに引用してれば全部読んだやつ。空気出るから。
水野さん自身は、尻上がりに面白くなる本を取りこぼすのが怖いことと、編集者として最後まで読んだときの仕上がりを評価する必要があることから、最後まで読むそうです。それでも、読みたいところだけ読むのは良い読み方だとも話しています。
新婚生活は変わらない?半同棲と議論型の喧嘩
水野さんは話題を変え、堀元さんに新婚生活について尋ねます。堀元さんはまだ同居しておらず、引っ越しが面倒で半同棲のような暮らしを続けているため、交際していた頃と何も変わらず、結婚した実感も全くないと答えました。
堀元さんによると、妻は下ネタが人類で一番好きかもしれないほどで、水族館で見つけた生き物の写真を送ってくるといいます。そうした写真を送り合うことで夫婦の絆が保たれている、と冗談めかして語っていました。
付き合い始めて3年ほどで、大きな喧嘩は4回ほどあったそうです。堀元さんは直情的に怒らず、時間が経ってから嫌だった点と今後の希望をまとめて伝えるタイプです。
その時言えお派の気持ちはわかるんだけど、まとまってないんだよね、俺の中で。
伝えた内容がうまく受け入れられないと、「人生観の戦い」になります。喧嘩になったときは冷却でも譲歩でもなく、論点を整理して議論するのが堀元さん夫婦のやり方で、解決のパターンは見えてきたと話しています。
幸福な家庭像のすれ違いと「怒らないの?」
水野さんは、最近結婚した友人の話をします。その友人は、子どもがいなければ夫婦も独立した個人で、各自が楽しく過ごすほうが幸福が最大化すると考え、誘われた飲み会にはすべて行っていました。
ところが妻にとって、幸福な家庭の典型的な場面は夕食をみんなで食べることでした。父親が単身赴任していた友人にはその経験が少なく、飲み会を早めに切り上げて帰っても、夕食を一緒に食べていない時点で妻の評価は低かったそうです。
夫婦も独立した個人。各自が一番楽しく過ごすほうが幸福が最大化する
幸福な家庭の典型は、夕食をみんなで一緒に食べること
堀元さんは、幸福とは何かをすり合わせられていれば、むしろルールは簡単に作れると指摘します。水野さんは、自分にとっての幸福な家庭をすらすら言葉にできる人ばかりではない点が難しいと応じました。
堀元さんも、かつての交際相手から3対3の飲み会が楽しかったと聞き、「よかったね」と答えたら「なんで怒らないの?」と怒られた経験を話します。少し気にはなっていたものの、相手の楽しさが最大化される方がいいという優しさからの反応でした。
人間って複雑だなってめっちゃ思って。
水野さんは、友人の女性たちに聞いた話を踏まえ、「今度3対3の飲み会に行く」と報告されたときの答えを堀元さんに考えさせます。堀元さんの答えは下ネタか、「ちょっと気になるけど」という自分でも引くほど気持ち悪いものでした。
水野さんが感心した答えは「その会終わったら迎えに行こうか」です。行くこと自体は前提にしつつ、気にかけていることを伝えられるからで、「迎えに行く」と言い切らず「行こうか」と尋ねる形にしている点も絶妙だと話しています。
水野さんは、こうした答えを英語構文のような暗記集で教えてほしかったと言います。堀元さんは「その発想がモテないんだ」と返し、公式ではなく相手をちゃんと見なさいということだとまとめました。
自己評価がずれている?今井先生と鶴見さんの分析
水野さんは、親しい友人たちから「メタ認知能力が極めて低い」とよく言われると打ち明けます。堀元さんも、水野さんの自己評価がおかしいと感じた場面を挙げました。
以前のイベントの大忘年会で、水野さんは今井むつみ先生に基調講演をしてもらう案を出しました。堀元さんは、オープニングから自分たちが出たほうが盛り上がるし、お客さんもそれを求めていると考えたといいます。
水野さんは、自分の代わりに今井先生が来たら、誰でも喜ぶはずだと本気で考えていました。堀元さんは「やったーってならないのよ。あれ、水野は?ってなるの」と否定します。
高校時代からの友人の鶴見さんは、水野さんの本当の持ち味は辞書を読むことではないと指摘したそうです。
底抜けに明るく喋っているっていう部分において、本当は評価されるべきなのに。
鶴見さんも堀元さんと同じく、水野さんの行動モデルはほぼ完成していて予測を裏切らないと言っていました。堀元さんはこれを、入力に対して決まった出力が返る「ありがたいAPI」と表現しています。
RESTAPIとしての条件を十分満たしている。
最古参の友人・武藤くんの伝説
鋭い分析をする友人の話から、堀元さんの古い友人である武藤くんの話題になります。武藤くんはサポーターコミュニティのアドベントカレンダーに、堀元さんは底抜けのナルシストなので、未熟だった頃の作品も自分込みで良いと思って消さないのだと書いており、堀元さんも当たっていると感じたそうです。
水野さんは、武藤くんを堀元さんの両親の次に古い最古参だと考えています。初期のブログの手伝いからずっと協力していて、もがいていた頃から今までの堀元さんを見てきた人だからです。
堀元さんによると、大学生時代は暇すぎて武藤くんとばかり遊んでいました。その中で生まれたのが、CDにも収録された「AVウミガメのスープ」で、二人で4時間ほど続けていたそうです。
武藤くんは、堀元さんが講師をしていた塾の後輩でした。集団授業の模擬授業では緊張でホワイトボードマーカーのキャップを外す手が震え、授業がなかなか始まらなかったといいます。
武藤くんは中学3年生からその塾に通っていたため、当時の記録も残っていました。有名なのは、受験生の数学の授業中に椅子の上で膝を立て、すね毛を剃っていて注意された事件です。
(すね毛を)なんで切り始めたの?って聞いたら、「いや、スネ毛切りたくなったから」って。
「ハマれていない」と言われる堀元さん、ハマれる水野さん
武藤くんは最近、堀元さんの妻に「堀元さんにハマれてないんで」と伝えたそうです。水野さんによれば、堀元さんは室越さんにも同じことを言われていました。
室越さんは、水野さんと話しているときのように堀元さんを楽しそうにさせたかったが、自分にはできなかったと話していたそうです。堀元さんは、ハマれた・ハマれないは何を根拠に感じているのだろうと疑問を口にします。
水野さんは、自分にはこの人にハマりたいと思った相手にはほぼ確実にハマれる特殊能力があると話します。その秘訣は、相手から話を引き出すための聞き方にあるそうです。
僕がその人の目線になった時にこう考えそうなのに、あなたはそうしなかったけど、なんでですかって話をめっちゃ聞くんですよ。
自分なりの仮説を叩き台として出すので、相手は話しやすく、興味を持たれていることも伝わります。仮説を返されても話が広がらない相手には、どうやってそれに気づいたのかと聞くそうです。
水野さんはこれを持ち上げるためではなく、純粋な好奇心で聞いていると強調します。最後には、相手に興味を持てた場合に、それが正しく相手に伝わると言いたかったのかもしれないと言い直しました。
アキネーターにならないメチクロさんの聞き方
堀元さんは、年々人への興味がなくなっていると打ち明けます。人の話を引き出すことは頑張ればできるものの、質問を続けていると自分がアキネーター ── 質問に「はい」「いいえ」などで答えていくと、思い浮かべた人物を当てるウェブ上のゲームのように思えてくるといいます。
水野さんも、質問ばかりだと共鳴やシンクロが生まれないことを課題に感じています。一方で、二人とも話したいことが多すぎて、自然にしていると会話の主導権を奪いすぎてしまうと認めます。
二人が理想として挙げたのが、クラフトビールとカレーを提供するポッドキャスト収録スタジオ「雑談」を運営するメチクロさんです。話したいことがありそうなのに表に出さず、相手の話を聞きながら共鳴もする人だと水野さんは語ります。
え、俺のことこんなにわかってくれてるのこの人だけではっていう気持ちにさせる。
堀元さんは、メチクロさんを腕のあるドラマーにたとえ、さらに、ゲストの話を膨らませて自分の話も混ぜつつ気持ちよく帰らせるタモリさんの技術だと評します。メチクロさんの仮説をぶつける聞き方がアキネーターにならないのは、自分の意見も適切に言っているからだという結論です。
ただ堀元さんは、水野さんが無理に真似するとフォームを崩すと忠告します。それでも、ゆる学徒カフェではお客さんのサインに「雑談じゃなくてこっちに来てください」と添えて対抗している、と冗談を言っていました。
「相手に喋らせろ」は嘘?量産されるアキネーター
堀元さんは、メチクロさん的な会話を真似した失敗例を多く見てきたと話します。特に多いのは、首都圏の高学歴な人が旅人コミュニティで、会話がよどみなく続くことをコミュ力だと後天的に誤って学習したケースだそうです。
堀元さんは、結婚式でそういう人を観察した経験を語ります。隣の人に定番の質問を次々と投げても盛り上がらず、2時間半経つと聞くことがなくなっていました。
2時間半経った時点での質問が何が一番美味しかったですかなんて聞いてて。
堀元さんは、自分も23歳ぐらいまでそうだったと自戒を込めて話します。コミュニケーションが苦手だと気づいて慌てて直そうとすると、すぐできて間も持つ「とにかく質問する」方法に頼りやすいからです。
その仕組みを堀元さんの説明どおりに並べると、次のような流れになります。
焦り
19歳ぐらいで人と仲良くなれていないと気づき、慌てて直そうとする
即効薬
手近な事例から「何でも聞きまくる」方法を取り入れる。すぐでき、自分に話すことがなくても間が持つ
副作用
深い洞察を必要としないため、会話から何も洞察が生まれない
結果
表層のアキネーターを続ける人が量産される
相手に喋らせなさいみたいな。あれ嘘だよっていうのはね。生涯をかけて言っていこうよって。
水野さんは、ふんふんと聞いた後に高解像度の洞察を差し込むマツコ・デラックスさんの名前も挙げます。ただ堀元さんは、マツコさんは単独で勝てる力が強いため、ゲストが舞台装置になることも多く、メチクロさんとは違うと見ています。
室越さんはメチクロさんと話した直後、自分がとても良い話をしたと思って上機嫌で帰ったそうです。後で音源を聞いて、すべてメチクロさんの演出だったと気づいたといいます。
修羅場をくぐった人の話し方と、作れない笑顔
堀元さんは、修羅場をくぐった人特有のコミュニケーション様式があると話します。愛想を振りまかず、淡々と言いたいことを言う傾向で、例として高野秀行さんや偉い店長さんを挙げました。
メチクロさんは人生経験がありそうなのに、そうした話し方になっていない点が貴重だと堀元さんは見ています。そして自分は、愛想を振りまく回数が減ったことで修羅場方向に向かっているのかもしれないと感じています。
昔はね、なるべくニコニコずっとしてよっていう、人と会う時、全然面白こと何も言われてなくてもずっとニコニコしてたんだけど。
自然体になったことが、ハマれていない印象につながっているのかもしれないと堀元さんは考えています。一方、水野さんの悩みは、場面に合った表情がわからないことでした。
水野さんは、結婚式のチャペルで新郎新婦が入場するとき、拍手しながらするべき顔ができないといいます。そのため披露宴の最後に流れるムービーにも、ほとんど映らないそうです。
堀元さんは、コミュニケーションでの挫折や反省から後天的に振る舞いを身につけた自分と、そうした経験なく育った水野さんの違いに気づきます。
コミュニケーションの挫折や反省をもとに、後天的に振る舞いを身につけてきた
そうした経験なく自然に育ったため、どの場面でどんな顔をすべきかを学んでこなかった
ワイプに映る能力が高い柴田理恵さんにたとえ、堀元さんは水野さんを「逆柴田理恵」と呼びます。また、収録中に水野さんが迫力のある顔をするのはカリスマ演出だと思っていたと明かしました。
あれはだから、一つも面白くねえなこいつって思うよ。
浴衣とトイレの落とし穴、乳首照りリスク
空腹を訴えた堀元さんは、トイレへ行きます。その間に水野さんは、今回のような「インプット奴隷合宿」で、堀元さんが予約や交通手段、チケットの発券まですべて手配してくれていることを語りました。
水野さんは温泉ソムリエの資格を持っており、行きたい温泉と旅館の候補を3つほど出すところまでを担当しています。その先の手配を、堀元さんは恩着せがましいことを一切言わずにやってくれると話しています。
戻ってきた堀元さんは、浴衣の裾が勢い余って便器に入り、足元がびしょびしょになったと報告します。気をつけて裾を持ち上げたのに、その動作の途中で鞭のようにしなって入ってしまったそうです。
外が明るくなりかけてきたところで電気を消すと、カーテンが全開のため、寝ている二人が朝日に照らされる「乳首照りリスク」が浮上します。水野さんがこれを「乳首テロリスト」のような英語っぽい響きだと言い、さまぁ~ずの大竹さんの「It's that's so(いつでっそ)」の話へつながりました。
明晰夢の研究と、夢の中のハイドレーション
睡眠学習らしい情報を最後に詰め込もうと、水野さんは明晰夢の研究を紹介します。眼球運動をパラメータにすることで、明晰夢ができると言う人が実際にコントロールできているかを確かめられるようになり、神経科学系の研究者が注目しているそうです。
水野さんの職場の後輩は、夢日記をつけていたら中学生の頃に明晰夢を見られるようになったといいます。空を飛べたものの、性的な体験をしようとしたときは、現実のデータがなさすぎて解像度の荒い体験しかできなかったそうです。
堀元さんは、ゆる言語学ラジオの公式サイトで使っているNext.js ── ウェブサイトやアプリを作るためのJavaScriptのフレームワーク。ページを事前に生成しておく仕組みなど、表示を速くする機能を持っていますの仕組みを持ち出します。ページの枠組みを事前に作っておき、後からユーザー固有のデータを流し込む方法です。
プレレンダリング
みんなに見せるページの枠組みを事前に作っておく。Twitterならタイムラインの形
ハイドレーション
ログイン後、その人固有の文字情報などを後から流し込んで仕上げる
効果
最初に用意しておく分、余計な時間がかからない
堀元さんは、夢でもこれと同じ処理が起きていたと感じています。小学生の頃の同級生カガヤくんが遊びに来る夢で、玄関を開けると足元から姿が描かれていきましたが、顔を思い出せなかったため、顔の段階でエンドーくんに入れ替わったそうです。
その後で必要になってから顔面とかって描いてるんだなって。
水野さんは、言語思考者だと強く意識するようになってから夢の中でも本を読んでいると話します。寝る前に本を読み、夢で本を読み、起きてまた本を読む自分に「何してんの?」と呆れていました。
寝言、繰り返す夢、擦った車の告白
話は寝言と、繰り返し見る夢へ移ります。堀元さんは妻から、真剣な形相で起き上がり「ミ、ミズノ!」と叫んでいたと聞かされたそうです。
水野さんがよく見るのは、ブレーキをいくら踏んでも車がクリープで進み続ける夢です。運転は一瞬で命に関わるため本質的に怖いからだと考えています。堀元さんも、国道で無理に右折してトラックとぶつかりかけた記憶が、年に3回ほど昼間に突然よみがえるといいます。
水野さんは、後輩と北陸の先輩に会いに行ったとき、後輩の親の車をサービスエリアで擦った話を打ち明けます。擦ったかもしれないと思いながら、後輩に「ガリガリって音しませんでした?」と聞かれ、とぼけてしまったそうです。
運転うまいやつだと思われたかったから。
堀元さんは、文学とは無縁だと思っていた水野さんの意外な一面を「純文学じゃん」と評します。水野さんは、後にちゃんと謝り、ネタにもできるようになりましたが、話すたびに傷を隠しているだけだと感じるそうです。
堀元さんも、駐車場で人の車を擦ったとき、一瞬逃げられないかと考えた経験を話します。結局は警察を呼びましたが、そう考えた自分の醜悪さが今でも嫌な記憶として残っていると語りました。
なんか出るね、そういう時、人間の醜悪さが。
外がすっかり明るくなり、二人は収録を終えることにします。水野さんは、饒舌すぎていつまでも眠らなかったと振り返り、この形式で眠れる人が多ければまたやりたいと締めました。堀元さんは、再生時間に応じて広告収入が入るので、音量ゼロでもいいから寝るたびに流してほしいと冗談を言っています。
まとめ
寝落ちを目指した深夜の収録は、結局二人とも眠らないまま夜明けまで続きました。経営の悩み、会社四季報の読み方、聞き上手の条件、夢の仕組み、自分の醜さと向き合った記憶まで、雑談だからこそ出てきた本音の多い回です。
- 堀元さんは社長業より、ものづくりと大方針づくりに集中したいと考えており、窓口を任せるだけでも認知資源の負担が減ると実感している
- 会社四季報では「ぶり」で検索すると、何年ぶりかの黒字や最高益を出した、V字回復の上がり始めの企業が見つかるという
- 「とにかく質問して相手に喋らせる」会話は表層のアキネーターを生みやすく、メチクロさんのように仮説と自分の意見を適切に混ぜることが聞き上手の条件として語られた
- 夢の中で同級生の顔だけが後から別人に描き替わった体験を、堀元さんはウェブのプレレンダリングとハイドレーションになぞらえた
- 擦った車をごまかした水野さんの告白をきっかけに、二人は自分の小ささや醜悪さが出た記憶を打ち明け合った





