「ご無礼」はなぜ名古屋で万能なのか?
番組の冒頭で、水野さんは名古屋弁を使って「どえりゃ長いことやっとるわ」と応じ、この回の趣旨を説明します。これまでも会話の中で名古屋弁を少しずつ使ってきたものの、まとまった形で話したことはなかったため、堀元さんに「明日から使える名古屋弁講座」を開くという企画です。
水野さんは、北海道の方言も知りたいので、途中で北海道弁を挟んでほしいと堀元さんに頼みます。こうして名古屋弁と北海道弁を聞き比べる形で、講座が始まります。
最初に取り上げられたのは「ご無礼」です。以前この番組で、水野さんの父がお風呂を出たときに「ご無礼しました」と言う話を紹介したところ、リスナーから「水野さんのお父さんは武士?侍?」というコメントが多く寄せられたといいます。
意外とこのご無礼が名古屋では存外使われとるもんで、どういう場面で使ってるかっていうのをご紹介したいなと思って。
水野さんによると、名古屋の「ご無礼」は食事、お風呂、訪問、帰宅と、さまざまな場面で使われます。料理を先に勧められたら「お先にご無礼するでね」と言い、「お先にいただきます」の意味になります。
お風呂を勧められたときは「ご無礼します」と言って入り、出たときに「お先にご無礼しました」と言います。水野さんは、招かれた家での料理やお風呂はごちそう、つまり接待にあたるため、そこに感謝の気持ちを込めて使うのだと説明しています。
| 場面 | 言い方 | 込められる意味 |
|---|---|---|
| 料理を先に勧められた | お先にご無礼するでね | お先にいただきます |
| お風呂から出た | お先にご無礼しました | ありがとうございます |
| 家に上がるとき | ちょっとご無礼しようかね | お邪魔します |
| 帰るとき | そろそろご無礼するでね | 失礼します |
堀元さんは何度も「やっぱり武士なの」と冗談を言いますが、水野さんは否定します。水野家では亡くなった祖母も父も「ご無礼」を使っていて、水野さん自身も今使い、自分の子どもにも教えているそうです。
便利であるし、丁寧語でもあるし、角が立たないですね。
水野さんは、名古屋でこの言葉を使えば「この人礼儀正しいわ」と思われるはずだと話します。堀元さんも、礼儀正しく、由緒があって、人間関係を整える言葉だと評価しました。
一方で水野さんは、名古屋弁にも廃れた言葉があると付け加えます。「なも」はもう誰も使わず、「やっとかめ」もほとんど聞かれないそうです。これに対して堀元さんは、いい言葉は残るものであり、言葉は文化だと応じています。
北海道の夜の挨拶「お晩でした」に宿る温かさ
水野さんは、北海道にも「ご無礼」のように汎用性の高い挨拶があるかを尋ねます。堀元さんは、北国にはきちっと人間関係を整える言葉は少ないと思うとしたうえで、夜の挨拶「お晩です」「お晩でした」を紹介しました。
あ、お晩でしたって言うと、なんかこう繋がりが穏やかで、何かこう、人間同士の共感みたいなのが出る。
堀元さんは、「お晩でした」は良い晩ですねという意味だろうと話します。「です」と「でした」の使い分けについては詳しくないとしながら、人によっては、より丁寧に言うときに過去形になる気がするといいます。
堀元さんによると、「お晩でした」は電話でも使われ、「お邪魔しますけどいいですか?」というニュアンスを含んだ、あたたかい響きがあるそうです。今は高齢者が中心で、若い人は使わなくなってきていますが、堀元さんは残したい言葉だと話しています。
北海道の過去形には、名乗りに使う例もあります。会社員が電話で「何々商事の誰々でした」と言い、それで自己紹介を済ませてしまうというものです。
これ自信を持って私を紹介して、これからお話させてくださいよという近しい関係の表現なんだろうね。
「ござる」は武士言葉ではない?
2つ目の名古屋弁として、水野さんは「ござる」を挙げました。年配の人もよく使う丁寧な言い方で、「来る」「ある」「いる」の意味になります。
例えば法事で、お寺さんが予定より早く来たときに「お寺さんござったで」と言います。回覧板を持ってきた隣の人が「お母さんござる?」と尋ねるのは、「お母さんいる?」という意味です。
「ござる」は人の動きだけでなく、状態にも使われます。雨の日に「今日はようけ雨が降ってござるわ」と言うのがその例で、水野さんは、動詞に付ければ成り立つ補助動詞 ── 本来の意味が薄れ、ほかの動詞の後ろに付いて意味を補う動詞。標準語では「〜ている」の「いる」や「〜てみる」の「みる」などがこれにあたります的な使い方だと説明しています。
「お寺さんござったで」(来た)、「お母さんござる?」(いる?)
「ようけ雨が降ってござるわ」(降っている)
堀元さんは、武士の話にもつながるので、目上の人への尊敬語なのかと尋ねます。水野さんの答えは、必ずしも目上の人に使う言葉ではなく、目下の相手にも使うというものでした。
僕たちそんな意識せずに自然に喋っとるもんで、そんなあまり分析とかはしとらんのですけど。
最後に堀元さんが『忍者ハットリくん』の「ござる」を思い浮かべると、水野さんは、ハットリくんはおそらく三重県だろうと返していました。
しんどい・すごく・無理まで、「えらい」の守備範囲
3つ目の名古屋弁は「えらい」です。水野さんによると、標準語では「偉い人」のように使われますが、名古屋では意味の幅がずっと広い言葉です。
仕事が朝からバタバタした日の「体えらいわ」は、疲れたという意味です。熱っぽい生徒が「先生ちょっとえらいで保健室行っていい?」と言えば、しんどいという意味になります。祭りの日の「えらい人出とるがね」では、非常にという意味で使われます。
水野さんは、父から聞いた祖父の話も紹介しました。高いおもちゃをねだられた祖父は「えらねやか」と言い、無理だよという意味で使ったそうです。学校の先生が「あんたえりやど」と言えば、これ以上やったら大事になるぞという警告になります。
| 例 | 意味 |
|---|---|
| 体えらいわ | 疲れた |
| ちょっとえらいで保健室行っていい? | しんどい |
| えらい人出とるがね | 非常に |
| えらねやか | 無理だよ |
| あんたえりやど | 限界だ、大事になる |
堀元さんは、北海道弁で近い言葉として「こわい」を挙げます。北海道の「こわい」は恐ろしいではなく、かったるい、つらいという意味で、階段を上がって息が切れたときにも、雪かきを切り上げるときにも使うそうです。
何かこう、標準語ではさ、言い表しがたい体の状態ってあんでないかな。
水野さんは、名古屋の「こわい」は「今日のご飯こわない?」のように、硬いという意味だと返します。堀元さんは、沖縄では軟らかい雑炊を「ジューシー」と呼び、ご飯に近い硬いものを「コアジューシー」と呼ぶという話を加えました。
「なげる」「ごんぼほる」、北海道弁の逆襲
名古屋弁の3語を振り返ったあと、堀元さんは北海道独自の表現も紹介させてほしいと話を広げます。最も有名な例が、物を捨てることを意味する「投げる」です。
堀元さんによると、北海道らしい一文は「痛ましがってないで投げれ」です。インクの出ないボールペンについて言うもので、この中には北海道らしさが3つ入っているといいます。
「ごんぼほる」は、子どもが駄々をこねて手を焼かせることです。堀元さんは、ごぼうを掘るのに手間暇がかかることから来たらしいと説明しています。「あずましい」は温泉宿のキャッチフレーズに使われるほど堂々とした方言になっているそうです。
堀元さんは「これした方がいいっしょ」のような言い方に、北海道的な人間関係の親しさを感じるといいます。きれいな言葉とは違い、同じ生活者としてぐっと惹かれるところがあるという話でした。
いやいやいや、今日ね、名古屋弁講座なんで僕が喋る番なんですよ。
止まらない北海道弁を水野さんが制して、講座は締めくくられます。最後は「でれえ嬉しい」「なまら楽しかった」と、それぞれの方言でコメントを呼びかけていました。
まとめ
この回では、名古屋弁の丁寧で汎用性の高い言葉と、北海道弁の生活に根ざした言葉が、例文とともに聞き比べられました。1語で多くの場面をまかなえる方言の便利さと、残したい言葉への愛着が伝わる回です。
- 「ご無礼」は、食事・お風呂・訪問・帰宅の挨拶をまとめてこなせる、角の立たない丁寧語です
- 「ござる」は「来る」「いる」「ある」の意味で使われ、目下の相手や状態にも使えます
- 名古屋の「えらい」は、しんどい・非常に・無理だよ・大事になるまで、幅広い意味を持ちます
- 北海道弁には「お晩でした」「投げる」「ごんぼほる」など、標準語では言い表しにくい味のある言葉があります

