じゃがいも・かぼちゃに隠れた共通点は?
番組の冒頭は、水野さんが出す「隠れた共通点クイズ」から始まります。挙げられたのは、じゃがいも、さつまいも、かぼちゃ、トウモロコシ、トウガラシの5つです。
堀元さんは「芋だな」と考えかけますが、かぼちゃやトウガラシが混じっているため、単純な分類では当てられません。共通点は3つあると水野さんは告げます。
最初の答えは原産地です。5つはすべてアメリカ大陸が原産で、大航海時代にヨーロッパへ渡り、そこから日本へ持ち込まれた植物でした。
全部アメリカ大陸からヨーロッパに、大航海時代にヨーロッパに行って、それが日本に持ち込まれた。
2つ目は、中世末期から近世初期にポルトガルやオランダとの交易を通じて入ってきた渡来植物 ── 外国から持ち込まれ、日本に定着した植物のこと。この回では大航海時代以降にアメリカ大陸からもたらされた作物を指していますである点です。
3つ目のヒントは名前そのものにありました。トウモロコシやトウガラシの「トウ」、さつまいもの「さつま」のように、名前の中に地名が隠れています。
トウモロコシ、トウガラシ、唐の国が入ってんだ。で、さつまいもは摩の国が入ってんだ。
水野さんによれば、じゃがいもはジャカルタ、かぼちゃはカンボジアが由来とされています。堀元さんは、かぼちゃに海外由来のイメージがまったくなかったと驚きます。
かぼちゃやっぱおばあちゃんが煮付けにしてくれるイメージだから、海外から来たイメージが全くないですね。
「トウ」は唐の国、つまり中国を指す
薩摩の国が由来
ジャカルタが由来
カンボジアが由来
渡来植物の名前に潜む「中国」の重複
水野さんは今回のテーマを「渡来植物の名前」と紹介しますが、堀元さんは「全然キャッチーじゃない」と切り返します。それでも渡来植物の呼び名には面白い特徴があると水野さんは続けます。
渡来植物の方言に現れる地名を調べると、上位に来るのが「唐」で、次いで訓読みの「カラ」、さらに高麗、朝鮮、琉球、ジャカルタ、カンボジアなどが並びます。
1位は唐ですね、やっぱり。で、2位が唐をまあ訓読みしたカラですね。
面白いのは、地名を2つ重ねた語形が存在することです。トウモロコシには、以前の回で扱った「唐モロコシ」だけでなく、さらに重複した呼び名がありました。
唐唐きびですね。
「唐」も「モロコシ」も中国を意味するため、「唐唐きび」は「中国中国きび」のような形になっています。さらに「南蛮唐きび」という、外国の意味まで重ねた呼び名も登場します。
南蛮が外国のって意味ですよね。だから外国の中国のきびですね。
一方、北海道の「トウキビ」は「中国キビ」となり、意味の重複がありません。堀元さんの地元の呼び名が、この中では筋の通った形だと確認されます。
トウモロコシとモロコシ、境界は地形ではない
トウモロコシの呼び名は、全国を単純化すると「モロコシ」と「トウモロコシ」に分かれて分布しているといいます。堀元さんは、フォッサマグナで味付けが変わるような境界線を思い浮かべます。
ところが、この分布は地形に沿っていません。方言の有名な東西対立、たとえば「いる/おる」や否定の「ない/ん」は、おおむね浜松糸魚川構造線 ── 静岡県の浜松付近から新潟県の糸魚川付近を結ぶ、方言の東西を分ける代表的な境界線。フォッサマグナ西縁とほぼ重なりますあたりを境に分かれます。
しかしトウモロコシとモロコシの分布は、この地形の境界とは一致しません。堀元さんは「海辺に近いかどうか」ではないかと予想しますが、水野さんは全否定します。
なんか海に近いところの人はこういう料理法を発展させて、山に近い人はこういう料理法を発展させて、その料理法にちなんだ呼び方をみんなしてるみたいな。
全然違います。
水野さんによれば、地図を見ても、どういう理屈で分布しているのかがすぐには読み取れないほど、この分かれ方は一見わかりにくいものだといいます。
地名が作物そのものを指すようになるとき
話は、トウモロコシの語源のおさらいへ進みます。もともと「モロコシキビ」という穀物があり、外国から来たことを示す「トウ」が付いて「トウモロコシ」となり、本体だった「キビ」が抜け落ちた、という説です。
渡来作物の地名は、2つの働きに分かれると水野さんは説明します。「海外から来た」ことを示す形容詞的なものと、地名そのものが作物を指しているものです。
たとえば「かぼちゃ」は、もはやカンボジアとは意識されていません。だから「かぼちゃキビ」とは言わないわけです。
同じように「モロコシ」も、当時から中国という意味は意識されず、単体でモロコシキビを指していたのではないか、と考えられています。
当時から中国って意味は意識されず、モロコシ単体でそのモロコシキビを指しているというふうに考えられたんじゃないか。
堀元さんは、これを現代の「フレンチ」にたとえます。フランスのという意味を残しつつも、実際には料理そのものを指すのと同じ現象だという理解です。
フランスのって意味だけど、完全に料理だよね、さすがに。みたいな感じですかね。
水野さんは、これをメトニミー ── あるものを、それと関係の深い別のものの名前で呼ぶ言い方。「鍋を食べる」で鍋料理を指すような表現がこれにあたりますと呼びます。鍋を食べる、茶碗蒸しを食べるといった言い方も、道具の名で中身を指す同じ仕組みです。
呼び名を分けていたのは平均気温21度
いよいよ答えです。トウモロコシとモロコシの分布を分けていたのは、7月の平均気温21度という境界でした。堀元さんは「気温が高い低いで呼び方が変わるのか」と驚きます。
水野さんは、この話をイナサク、つまり稲作 ── 稲を育てて米を作ること。この回では、稲作が可能かどうかが穀物の呼び名の分布を左右した背景要因として語られますという補助線でつなげると告げます。バラバラに見えた話が一気に回収されると予告し、堀元さんの興味を引きます。
参考文献の地図では、気温で塗り分けた地域の白黒と、呼び名を示す黒丸・白丸の分布がよく一致しています。堀元さんも「これはハッキリ分かれてます」と確認します。
気温高いところはトウモロコシ。低いとこはモロコシになってますね。
一見わかりにくい分布に、平均気温21度という境界を重ねると急に一致する。この発見の鮮やかさに、堀元さんは「発見した時嬉しいでしょうね」と反応します。
関東中南部から静岡にかけて。トウモロコシと呼ぶ
山梨・長野の甲信地方や岩手県東部。モロコシと呼ぶ
寒い土地と暖かい土地で呼び名が分かれた理由
謎解きの中心は稲作です。寒冷な甲信地方は稲作に適していませんでした。ここで堀元さんが、かつて読んだ美味しんぼの知識を思い出します。
日本系の米って品種改良をかなり進めて、寒いところでできるようにした。
もともと米は暖かい土地で育つ作物で、寒い地域での稲作は品種改良による逆転現象だという話です。水野さんは「めっちゃ繋がってきた」と、自分の弱点だった稲作の知識が補われたことを喜びます。
寒い地域では稲作が難しく、育てやすいモロコシキビが歓迎されました。その直後にトウモロコシが渡来し、これも一層歓迎されます。
ここで重要なのが、寒い地域では「モロコシ」がすでに主食級の優良作物を広く指す総称になっていた点です。総称があったため、新しく入ってきたトウモロコシにも新しい名前を付ける必要がありませんでした。
モロコシっていう語が一般化していて、それでトウモロコシってのも包含できたので、特に新しい語形を必要としなかった。
堀元さんは、これを仮想通貨の「アルトコイン」にたとえます。ビットコイン以外を広くアルトコインと呼ぶように、新しい穀物も総称のモロコシに組み入れられた、という理解です。
一方、暖かい関東では稲作という主食がすでにありました。だから、あとから入ってきたトウモロコシを、旧来のモロコシキビと区別するために「トウ」を付けて呼び分けたと考えられます。
トウモロコシは甘みが強く食感もよく、モロコシキビとは風味が違いました。堀元さんは、前のモデルとは違う新製品を売り出すマーケティングのようなものだと表現します。
レベル上がったやつが来たぜって言って、ちょっとモロコシって名前だともうみんなそのモロコシキビのトラウマがあるから名前変えて出現したみたいな感じですかね。
つまり、稲作が可能かどうかという初期条件の違いが、同じ作物への呼び名を分けたわけです。米という主食が豊かにあった地域だけが、新しい名前を必要としたのです。
寒い地域
稲作が難しく、穀物が貴重
モロコシが総称化
主食級の作物を広く「モロコシ」と呼んでいた
トウモロコシもモロコシ
総称に組み入れ、新しい名前は不要
暖かい地域
稲作という主食が既にあった
区別の必要
旧来のモロコシキビと分けて「トウ」を付けた
今回はトウモロコシ案件、その正体は
ここで水野さんが「今回は広告案件です」と切り出します。堀元さんはトウモロコシ協会かと茶化しますが、実際の依頼元は大修館書店で、新刊『方言はなぜ存在するのか』の紹介でした。
話の脱線として、堀元さんがトウモロコシの雑学を披露します。トウモロコシは近縁種が少なく、系統樹の上で他と大きく離れているため、宇宙から来たのではないかという説まであるといいます。
究極の由来は宇宙モロコシである可能性がある。
水野さんは、大西先生の前著『言葉の地理学』を先に読んでいて、もともと紹介したかったと明かします。今回は依頼された『方言はなぜ存在するのか』を前半2回で、『言葉の地理学』を後半2回で扱う、全4回のシリーズになると告げます。
同じ方言研究でもアプローチが違う
水野さんは、大西先生が言語地理学 ── 言葉の地域差を地図に落とし込み、その分布から言語の歴史や変化を探る研究分野。「地図を使う方言研究」とイメージするとわかりやすいと説明されていますの研究者だと紹介します。平たく言えば、地図を使って方言を研究する立場です。
同じ方言を扱っても、アプローチは大きく異なります。以前ゲスト出演した高田先生は、東北方言の文法形式から日本語そのものの時制や歴史的な変化を探る立場でした。
高田先生は別に地図上でマッピングしたいとかじゃなくて、日本語というものを探るために方言を見ようっていうアプローチなんだ。
一方、大西先生は「何と呼びますか」を全国で調べて言語地図を描く立場で、日本でもトップ10に入るほど多くの地図を描いてきたといいます。堀元さんは、方言研究者は皆同じことをしていると思い込んでいたと驚きます。
方言の文法形式から日本語そのものの時制や歴史的変化を探る
全国調査で言語地図を描き、地図の面から言葉を見る言語地理学
方言ができるのは、言語が変化するから
後半のテーマは「方言はなぜ存在するのか」です。その答えとして水野さんが示すのは、「言語が変化するから」というものです。堀元さんは最初トートロジーではと感じます。
水野さんは、最初から方言があるわけではないと説明します。ある地域に人が流入し、最初は均一だった言葉が徐々に変化していく。その変化した言葉を、後から方言と呼んでいるのだ、という捉え方です。
堀元さんは、体育会系コミュニティの飲み会コール「学生注目」「なんだ?」を例に出します。誰かが始めた言い回しが発達し、特定のコミュニティで使われるようになる過程と重なる、というわけです。
言語は変化するので、そして変化するからこそ、それが後に方言になる。
すると、解き明かすべき本当の問いは「なぜ言語が変化するのか」に移ります。堀元さんは「よりでかい問いが出てきたね」と身構えます。
気温が言葉を変えるメカニズム
言語が変化する要因の一つが外部要因です。外から作物や外来語が入ってくると、単語や文法のシステムが変わる。トウモロコシの渡来で旧品種を「カギモロコシ」と呼び分けるのも、その一例です。
そして、こうした変化が地理的に一部の地域に限られると、それが結果的に方言になります。その分布を左右した要因の一つが、今回見たように気温だったわけです。
入ってきたものがある。それに対するリアクションが地域ごとで違うので、取る方略も違うから、言語の体系も変わっていき、その変わった体系のことを我々は方言と広く呼んでいる。
水野さんは、方言と標準語の順序についても補足します。標準語があってその変種として方言があるのではなく、まず方言があり、そのうちの一つを標準語として決めただけだといいます。
日本語では山手言葉を元に標準語が制定されました。堀元さんが挙げた『日本語を作った男』のように、明治維新期にバラバラの方言をつなぐ共通語を作った経緯があります。
一方で、標準語を持たない言語も少なくありません。共通語を作るにはコストがかかるため、その選択をしなかった地域では、標準語という概念自体が前提として存在しないのです。
外部要因の流入
作物や外来語などが外から入ってくる
リアクションの違い
地域ごとに取る方略が異なる
体系の変化
単語や文法のシステムが地域ごとに変わる
方言
その変わった体系を方言と呼ぶ
トウモロコシの分布が見せてくれたもの
ここまでの話を水野さんがまとめます。渡来植物、とりわけトウモロコシの地域ごとの分布は、一見すると地味で取り組み甲斐のないテーマに見えます。
しかし実際には、私たちの言葉がどう変化するのかを駆動するメカニズムの一例を見ることができました。渡来植物、気温の差、傾斜地の多さといった初期条件の違いが、入ってきたものへのリアクションを変え、異なる呼び名を生んだのです。
面白いじゃん、方言。なめてましたわ。
水野さんは、日本が世界有数の言語地理学、方言地図の蓄積を持つ国だと強調します。明治期からすでに地図が描かれ、国語研の母体となる機関などがその蓄積を積み重ねてきました。
そうした蓄積をもとに、キャッチーで面白いテーマを1回約30ページで完結する形にまとめたのが『方言はなぜ存在するのか』だといいます。次回はこの本から一つ取り上げて話が進みます。
飲み会コールに見る言語変化の実例
最後は、方言や言語変化の身近な例として飲み会コールの話になります。堀元さんは自動車教習所の呼び名の地域差に触れ、水野さんは自身の地域では「車校」だと答えます。
水野さんは、飲み会コールに地域差と時代による変化の両方がありそうだと語ります。高校の同級生が鳥取大学から持ち帰ったコールが、名古屋では全く流行っていなかったといいます。
全くこっちで流行ってないコールを持ち帰ってくるわけですよ。これ面白いなと思って。
その鳥取のコールは、開口一番「堀元が飲みます?」と始まり、続けて「肘がクイックイクイ」というものでした。水野さんの地域では、これを「フランシスコ・ザビエル」と呼んでいたそうです。
水野さんは、こうしたコールが誰によって作られ、どう伝わるのかに関心を示します。関東の体育会系コミュニティで生まれたコールが交流戦を通じて各地へ伝わる、いわば「伝道合戦」の動きを追ってみたいと語ります。
二人は最後に、面白いからといってアルコールの強要は良くないと念を押します。水を使ってコールをやればいい、という一言で回を締めくくります。
肘がクイックイクイも面白いからっていう理由で人にアルコール強要してはいけないですね。
まとめ
トウモロコシとモロコシという呼び名の境界は、地形ではなく平均気温21度、その背後にある稲作の可否によって生まれていました。渡来植物の呼び名という地味なテーマが、方言と言語変化のしくみを見せてくれる導入回でした。
- じゃがいも・かぼちゃなど渡来植物の名前には、ジャカルタやカンボジアといった地名が隠れている
- トウモロコシの呼び名は地形ではなく、7月の平均気温21度を境に分かれていた
- 稲作が可能かどうかという初期条件の違いが、同じ作物への呼び名を分けた
- 方言は標準語の変種ではなく、言語が変化した結果として先に生まれるもの
- 大西先生の言語地理学を入り口に、方言と言語変化を4回シリーズで扱っていく



