開口器をつけたままでも、歯科衛生士は言葉を聞き取れる?
この回はリスナーから届いたおたよりを読んでいく回で、最初は水野さんが歯医者にまつわる一通を紹介します。
歯医者に行った時、開口器をつけられた状態で質問されて、わーってなる時ってあると思うんですが、歯科衛生士の人は開口器をつけている状態の口の中を見て、その人が言いたいことを判別できるので、母音しか発音できなくても聞き取れるそうです。嘘です。
ララクラッシュさんのおたよりは、もっともらしい話を最後の一言で「嘘です」とひっくり返すものでした。堀元さんは感心しかけたところを裏切られ、思わずツッコミを入れます。
おい、俺の「あー」返せよ。
水野さんも、読んだ時点では少し本当かと思ったといいます。母音は舌の位置で決まるため、口を開けた状態でも舌の高さや前後の位置を見れば、唇を丸める音以外は区別できそうだと考えたからです。
確かに母音って舌の位置によるんですよ。だから口を開けた状態でも、あーと、おーって舌の高さとか(違ってくる)。
堀元さんは、歯医者で口を開けたまま「あー」と答えても会話が成立していることに気づきます。ただ、よく考えると歯医者の質問は「痛い時はありますか?」のような二択ばかりで、「あります」と「ないです」を聞き分けているだけだと結論づけました。
クローズドクエスチョンなら対応できてる程度か。
「開けてください」ではなく「開いてください」なのはなぜか
おたよりの話題から、水野さんは最近歯医者で感じた疑問を持ち出します。歯科衛生士が「口を開けてください」ではなく「口を開いてください」と言うのが不思議だというのです。
うん、でも開けてくださいであるはずじゃん。
水野さんによれば、「開く(あく)」はドアが開くのように勝手にそうなる自動詞で、意志で動かすときは「開ける」を使うのが普通です。そのため「お口開いてください」は、自分次第で開けられる口について、まるで神様に願っているように聞こえるといいます。
ドアが開くのように、ものが勝手にそうなる自動詞。意志を含まない
ドアを自分で開けるときに使う形。本人の意志で行う動作を表す
水野さんは最初、方言ではないかと考えました。しかし堀元さんは、子どもの頃に通った矯正歯科でも、上京して最初に行った東京の歯医者でも「開いてください」と言われたと話し、地域性はなさそうだと指摘します。
堀元さんは「歯学部で1年目に習うのでは」と冗談を言いつつ、実際には先輩が言っているのを聞いて自然に学んでいくのだろうと考えます。そのうえで、「開けてください」は「お前の意志で開けろ」という威圧感があるからではないか、という仮説を出しました。
だからあれなんじゃない?祈りみたいな。歯医者さん的にはあなたに頼んでないですよ、開くといいなっていう祈りを今喋ってる。
水野さんは「受験受かっててくださいみたいな感じ」と乗っかりますが、最後は「それも嘘です」と、冒頭のおたよりのオチを借りて締めくくりました。「開いてください」の理由は、結局はっきりしないまま次の話題へ移ります。
「盤石」が弱そうに見えるのはなぜ?音につられた誤解
2通目は、堀元さんが読んだ浅瀬嘘さんのおたよりです。テレビドラマで「盤石」という言葉を聞いたとき、なぜか弱い意味だと感じてしまったという内容でした。
先日、テレビドラマを見ていた際、盤石という単語が登場しました。まるまるを現場に派遣すれば盤石と言えようと言った具合です。私はその時、盤石という単語を無意識に弱いんだろうなと思ってしまいました。
後から理由を考えると、どうやら脆弱の親戚だと思ってしまった。脆弱みたいな感じで弱いと書いて盤弱と脳内で変換してしまったから、そう思ってしまった。盤弱という言葉、全く反対の意味に思われるの不思議だなあと思うんですが、お二人はいかがでしょう?
水野さんは、反対の意味の言葉と音が似ているせいで真逆に誤解されている語はたくさんあると応じます。代表例として挙げたのが「なし崩し」です。
「なし崩し的に飲みに行くことになった」のような使い方は広まっていますが、水野さんによれば、「なし崩し」はもともと少しずつ返済するという意味です。「なし」は「無し」ではなく、返済するという意味の動詞「なす」だったといいます。
本来の意味
「なす(返済する)」+「崩す」で、少しずつ返済すること
音の連想
「なし」が「ある」の対義語の「無し」だと受け取られる
現在の用法
崩すように既成事実を積み、うやむやにする意味で使われる
浅瀬嘘さんのおたよりには、英語の例として election(選挙)と erection(勃起)も挙げられていました。LとRの違いしかない2語は、日本人が言い間違えやすい組み合わせとしてよく話題になります。
ちなみにですけど、2022年11月にはアメリカの政治家がツイートしちゃったらしくて。この勃起は民衆のためだとツイートしちゃったらしくて。
堀元さんによると、この投稿はトレンド入りしたそうで、二人は「絶対間違えちゃいかん」と笑い合いました。
「凡百」は平凡という意味ではない?辞書通読の必要性
音に引きずられた誤解の話から、水野さんは堀元さんがnoteで使っている「凡百」という言葉を取り上げます。堀元さんは30年間「ぼんびゃく」と読み、ありふれているという意味だと思っていました。
水野さんによれば、辞書で最初に立項されている読みは「ぼんぴゃく」で、本来の意味は「いろいろ」「もろもろ」です。数の多いことから転じて、ありふれてつまらないものの意でも使われるため間違いとまでは言えないものの、多くの人は「凡」の字に引きずられて平凡の意味だと捉えているだろうといいます。
この凡の字はね、全てとかおよそっていう意味の用いられ方の凡なので。
「凡」の字は、グラフの凡例 ── 図表や地図で、記号や色が何を表しているかを示した説明部分。「凡」はここでは「すべて」「おおよそ」の意味で使われていますと同じ使われ方だと聞いて、堀元さんは納得します。
うわぁ、辞書通読の必要性初めて今思った。マジか、これあるんだね、必要性。
書き物をしていると恥ずかしいミスは出るもので、堀元さんは以前「錦の御旗」と書くべきところを「紅葉の錦」と書いてしまった経験も明かします。そこから「そもそも錦とは何か」という話になり、二人は百人一首の句を思い出そうとして迷走しました。
堀元さんは歌の内容から逆算し、錦は布の一種だろうと推論します。水野さんが『新明解国語辞典』を引くと、錦は色糸や金銀の糸で模様を織り出した厚い高価な絹織物で、そこから色彩の美しいものも指すとありました。
ちょっと凡百の推論を外しましたけど、錦の推論はあってました。
「こぎつける」を「こじつける」の意味で使っていた怖さ
同じく思い込みの話として、堀元さんは『小説新潮』の連載原稿で指摘を受けた体験を語ります。「これはそれにこぎつけた後世の創作かもしれない」と書いたところ、纐纈さんから「こじつけたではないですか」と指摘されたのです。
堀元さん自身は、ちょうどいいものがあるからそこに沿わせるという意味の「こぎつける」があると確信していました。ところが辞書を引くと、そんな意味は載っていませんでした。
いやいや、違う違う違う。いいものがあるからそこに沿わせたって意味のこぎつけるを僕は使ってるのに、この人は何言ってんだろうなと思って。
水野さんは、収録語の多い日国 ── 『日本国語大辞典』の略称。小学館が刊行する日本最大級の国語辞典で、古い用例や珍しい語義も広く収録していますなら載っているかもしれないと引いてみます。しかし日国でも、「こぎつける」は船をこいで目的地に着かせる意味と、努力してある状態に到達させる意味の2つだけでした。
ちょうどいいものがあるから、そこに沿うようにする(実際は「こじつける」の意味)
船をこいで目的地に着かせる/努力してある状態に到達させる
堀元さんは北海道の方言でもなく、自分しか言っていないだろうと話し、脳内で勝手に辞書を作り上げていたことに怖さを感じたといいます。
自分の頭の中になぜかあって、っていうのは辞書引いてもわかんないから、それ(誤用)は書き物やって良かったね。見つけられて。
水野さんの指摘は、知らない言葉は辞書で確かめられても、自分が持っていると思い込んでいる用法は辞書を引いても気づけない、というものでした。
数式ゼロの本は、本当に分かりやすいのか?
3通目は、水野さんが読んだ親のすねガブリエルさんのおたよりです。番組で紹介された『物価とは何か』を読んだリスナーが、大学院で素粒子を研究する友人と話した際のすれ違いが綴られていました。
そう、経済系の本なんだけど、めっちゃ分かりやすいんだよって言って。どんな風に分かりやすいの?と聞かれるのに対して、何がすごいって経済の本なのに数式が一切出てこないんだよって。え?数式ゼロって分かりにくくない?
いやいや、誰が見ても一番誤解が生まれないのが数式なのに、なんで数式で記述できるものをわざわざ言葉で説明すんだよ、そっちのが難しいって。以後、会話はずっと平行線でした。
堀元さんも大学時代、数式嫌いの理系の友人と「数式が出てこないブルーバックス」を勧め合っていたところ、数式がわかる物理専攻の友人が加わって気まずい空気になったことがあると振り返ります。
水野さんは、数式のほうが分かりやすいという人は少数派だろうとしつつ、友人の言い分にも理があると認めます。数学の板書を口頭で読み上げるととても長くなるように、数式は端的で、誰が見ても同じ意味になるからです。
平易な言葉や具体例で説明されるほうが分かる。多くの人はこちらだと水野さんは推測
数式や定義から入るほうが端的で誤解が少ない。数学・物理好きに多いのではと二人は考える
だからこの数式をゼロにするっていうことを分かりやすいからだと思ってやってるのが、意外とむしろ人によっては分かりにくくなってるっていうのはちょっとあんまり考えたことなかったですね。
堀元さんは「話が分かりにくいから、もっと抽象的に話してくれ」と言った人のエピソードを思い出し、水野さんの話だと勘違いしていましたが、数学者の吉田耕作さんの話だったと訂正します。ただ、その話自体も出典が怪しいそうです。
水野さんは、理論言語学の島村先生の分かりやすい本が、定義を導入し、分析と問題点を示し、また新しい定義を導入する形で進むことを例に挙げます。自分は結論や具体例が先に欲しいと感じるので、分かりやすさのタイプが違うのだろうと話しました。
水野さん一回あたり4回ぐらい言ってるから。一人監修者来るたびに4回ぐらいちょっと具体例お願いしますって言ってるから。
北海道で「へっぺ」は別の意味?お叱りのおたより
4通目は、ア女子のたっくア女子のたっくさんからのおたよりです。第338回で、1音節の単語は子どもが切り出しにくいので「は」を「はっぱ」、「わ」を「わっか」にするように、おならの「へ」は「へっぺ」にすればよいと水野さんが話した件についての内容でした。
へっぺは北海道弁でセックスを表します。ポッドキャストという公共の場でへっぺを聞くとは思いませんでした。
堀元さんに促され、水野さんは大げさに謝罪します。ただ、実際の文面は「驚きました(笑)」という調子で、まったく怒ってはいなかったと水野さんは明かしました。
この度はポッドキャストという非常に公共性の高いメディアにも関わらず、セックスを意味する「へっぺ」と申し上げてしまい、大変失礼いたしました。
北海道出身の堀元さんも、「へっぺ」は一度も聞いたことがないといいます。おたよりの主は1960年生まれで大学卒業まで北海道にいたそうで、堀元さんの両親の世代にあたるため、親世代では使われていたのかもしれないと話しました。
水野さんは、この言葉が「へ」から来ているのかどうかも気になると話し、『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』で読んだ例を紹介します。戦後に使われた売春婦を指す「パンパン」は擬音語のように見えて、語源は未詳だというのです。
おたよりをきっかけに、堀元さんは親世代のリスナーもいることへの感謝を口にします。水野さんは、ゆる学徒カフェにオーストラリアから来た人がいたことや、今井先生がプラハの大学で講演した際に、現地の人がゆる言語学ラジオで先生を知っていたという話も紹介しました。
「百の質問」は嫌いだった二人が、質問コーナーをやる理由
5通目は、2021年8月に届いていたハートマンさんのおたよりです。彼氏に「象は鼻が長い」の動画を勧められてハマったという内容で、最後に二人の関係性が気になるので質問コーナーを設けてほしいと書かれていました。
言語学とは全く関係ないのですが、動画を見ていてお二人の関係性がとても気になりました。堀元さん、水野さんの質問コーナーをぜひ設けてください。
ところが水野さんは、「百の質問」のような企画が大の苦手だと打ち明けます。
百の質問みたいな企画さ、反吐が出るほど嫌い。
水野さんの理由は、ああいう企画は大谷翔平さんやアイドルのように、何を答えても面白がられる人がやるものだというものです。自分たちが「シャンプーが先」と答えても誰も興味がないし恥ずかしい、と堀元さんも同意します。実際、1年目から質問コーナーの案は出ていたものの、毎回却下してきたそうです。
それでも今回やってみようと決めた理由は、ゆる言語学ラジオのチャンネル登録者が30万人を突破したことでした。ハートマンさんがおたよりを送った頃は3万人ほどで、約10倍になったといいます。
いや、そうでしょ。チャンネル登録者30万人超えたって、実質大谷翔平でしょ。
30万人記念の大阪イベントは二部構成
30万人突破を記念して、二人はこれまで一度も開いてこなかった大阪でのイベントを行います。会場は難波のLOFT PLUS ONE WESTで、120人ほどが入れる規模です。
関西のリスナーから「東京でばかりやるのはずるい」という声が多く届いていたことが理由で、サポーターから「交通費5万円出すので大阪で飲み会をしませんか」と誘われたこともあったそうです。愛知で育った水野さんも、地方でもイベントをやりたいと考えていたと話します。
チケットはサポーターに優先販売し、残りを一般販売する形です。イベントは二部構成で、第一部は事前フォームやライブのコメントから集めた質問に答えるコーナー、第二部は水野さんがスピーカーを務める「表に出せない話」です。
| パート | 内容 | 視聴方法 |
|---|---|---|
| 第一部 | 二人がパーソナルな質問に答える | 現地、YouTubeライブ(アーカイブあり) |
| 第二部 | 水野太貴の怒られるので有料でする話 | 現地とゆる学徒カフェのライブビューイングのみ |
| 二次会 | 早押しクイズなどで朝6時まで遊ぶ交流会 | 現地のみ(トークイベント参加者が対象) |
炎上はしないですよ。怒られるから。怒られるから有料です。
第二部はアーカイブもライブ配信もなく、CD化もしないため、一切形に残りません。関東向けには、収録場所のゆる学徒カフェに30人分のライブビューイング席が用意されています。
堀元さんはスパチャの質問を優先すると冗談を言い、1万円以上の赤スパチャが目立つと話して水野さんに「最低だなこいつ」と突っ込まれていました。
朝6時までの交流会と、2025年1月18日の開催日
大阪会場は通常23時撤収ですが、追加料金7万円で翌朝まで借りられるとわかり、朝6時まで使える交流会を開くことになりました。トークイベントに参加した人が、追加のチケットで参加できる形です。
イメージしているのは、サポーターと毎年行っている「インプット奴隷合宿」の夜です。去年は40人ほどで旅館を貸し切り、クイズをしながら朝まで遊んだそうで、今回も早押しクイズ機を持っていくといいます。
だから午前3時とか4時とかに急に眠くなってビジネスホテルに戻っていく可能性はあるんですけど、そちら(途中退場)だけご承知おきください。
開催日は2025年1月18日です。水野さんは「30万人突破してすぐやらないと、みんな飽きている」と機動力のなさを嘆き、堀元さんは水野さんが勤め人でスケジュール確保に時間がかかることを理由に挙げました。
最後に水野さんは、おたよりフォームを見ても二人のパーソナルな情報に興味を持つおたよりがほとんどなかったと明かします。堀元さんは、二人が「言語の話をする装置」として認識されているからだと笑い、イベント用の質問を広く募って番組を締めくくりました。
まとめ
この回は、歯医者の「開いてください」をはじめ、盤石・なし崩し・凡百・こぎつけるなど、音や思い込みで意味がずれる言葉を、おたよりをきっかけに掘り下げていく内容でした。数式の分かりやすさをめぐる話や、30万人記念の大阪イベントの告知も含まれています。
- 歯医者の「開いてください」は、自動詞「開く」を使う不思議な言い方で、二人は威圧感を避ける「祈り」ではないかと冗談まじりに考えた
- 「なし崩し」は本来「少しずつ返済する」、「凡百」は本来「いろいろ・もろもろ」という意味で、字や音に引きずられて誤解されやすい
- 辞書で確かめられない「自分の中にだけある用法」は、書き物で指摘されて初めて気づけることがある
- 数式なしの説明が分かりやすいかどうかは人による。具体例を求める人もいれば、数式や定義を好む人もいる
- 30万人記念イベントは2025年1月18日に大阪で開かれ、質問コーナー、形に残らない第二部、朝までの交流会が予定されている



