アリストテレスもひっくり返る? 成城でもあり仙川でもあるマンション
水野さんが最初に持ち出したのは、あるマンションの広告コピーです。水野さんはこれを「アリストテレスが聞いたらひっくり返るコピー」と紹介しました。
そこは成城でもなく仙川でもない、そして成城でもあり仙川でもある。
え?矛盾がすごいな。
成城と仙川は、どちらも東京の西側にある地名です。高級マンションの販促チラシに書かれるこうした文言は、マンションポエム ── マンション広告に使われる、情緒的で大げさなキャッチコピーの俗称。物件の具体的な情報より雰囲気やイメージを強く打ち出すのが特徴ですと呼ばれています。
水野さんから「このマンションは成城と仙川のどちらにあるか」と問われた堀元さんは、成城のほうが格上だから、成城なら成城と書きたいはずだと推理しました。堀元さんの答えは「所在は仙川」で、これが正解でした。
コピーの主は「セイガステージ仙川中央学園通り」という物件で、立地は成城の隣の仙川だといいます。成城のブランドを借りたい気持ちが、矛盾した言い回しに表れていると考えられます。
水野さんがアリストテレスを持ち出したのは、このコピーを抽象化すると「AでもなくBでもないものが、AでもありBでもある」という形になるからです。論理学の基本原則である排中律 ── 「Pである、またはPでない」のどちらか一方は必ず真である、という古典論理の原則。アリストテレスの論理学以来の基本とされていますに反しているように見えます。
「Pである」か「Pでない」のどちらかは必ず真になる
「成城ではない」と「成城である」を同時に言っている
ここから二人の悪ノリが始まります。水野さんは、成城と仙川の両方を覆うようにマンションが建っていれば矛盾は解消すると言い出し、堀元さんは「国際的にセンシティブな自治区の問題」に見立てました。
水野さんは、名古屋大学の住所が番地なしで「千種区不老町」だけで済む例も挙げます。話はさらに、マンションの中に役所や町内会がある、成城石井はその支配から独立したレジスタンスだ、という方向まで膨らんでいきました。
これいつやめます?俺2分ぐらい前からこれ(ボケ)いつやめたらいいのかなって見失ってるんですけど。
堀元さんのこの一言に水野さんも「気合いますね」と応じ、二人はようやく本題へ移りました。
「清潔を保つ」は医療業界では意味が違う
堀元さんは、いろいろな業界の用語を集めるのが好きだといいます。そこで水野さんに出したクイズが「清潔を保つ」の意味でした。
水野さんは、手洗いや消毒、入浴で体をきれいにしておくことだと答えます。ところが、看護師や医師の言う「清潔を保つ」は、無菌状態を保つという意味だそうです。
手洗いや入浴などで、体をきれいにしておくこと
消毒後の手や器具が無菌状態のまま保たれていること
堀元さんによると、手術前に消毒した手や器具は「清潔が保たれている」状態です。何かに触れたり落としたりすれば清潔が保たれていないことになり、再び消毒が必要になります。
水野さんはこの用語を、アウトかセーフかをはっきりさせるゾーニングのための言葉だと受け止めました。そのうえで、専門用語が一般の人にわかりにくい形になるのは当然だという見方を示しています。
この「清潔を保つ」とかって、その定義を知らない人が外で使ってて誤解が起きたらまずいですもんね。
堀元さんが驚いたのは、「清潔を保つ」が普通の言葉に見えるため、一般の人も自分なりに解釈できてしまう点でした。
堀元さんはもう1つ、「良質なタンパク質」にも定義があると紹介します。なんとなく良い感じという意味ではなく、アミノ酸スコア ── 食品に含まれる必須アミノ酸が、必要量に対してどれだけ満たされているかを示す指標。すべてが基準を満たすとスコアは100になりますに基づき、必須アミノ酸がバランスよく含まれるものを指すといいます。
ここから話は必須アミノ酸の覚え方へ脱線しました。堀元さんは家庭科で習った「アメフリバストロイヒ」、水野さんは高校で習った「トロリーバスメフヒ」を主張し、互いに相手の語呂を強引だと言い合います。
先生(が)架空のバス作り出してないかってめっちゃ盛り上がって。メフヒに目がいかなかったっす。
「ピペットマンを持つ」とはどういう意味か
堀元さんが次に出した業界用語のクイズは「ピペットマンを持つ」です。ピペットマンは、実験で液体を吸ったり出したりするピペットの一種の専門器具だと説明されました。
水野さんは、医師がメスを持つ覚悟のように、科学者倫理を守るという意味ではないかと答えます。堀元さんの評価は「近いけど行き過ぎ」で、正解は単に「実験をする」という意味でした。
もう3年も包丁を持ってないわっていうのと同じ感覚で。
科学研究者はいやもう3年もピペットマン持ってないわっていうらしい。
二人はこれをシネクドキ ── 提喩とも呼ばれる比喩の一種。「花見」で桜を見ることを表すように、上位概念と下位概念の一方で他方を表す言い方ですだと整理しました。特定の実験器具を持つことが、実験をすること全体を指しているわけです。
堀元さんが面白がったのは、見たこともないほど限られた道具が、こうした言い回しになっている点でした。この表現は、生命科学系の人が話すポッドキャストで聞いたものだといいます。
話は「他の分野なら何と言うか」へ広がります。物理学なら加速器を回す、日本語史の研究者なら日国を開く、JapanKnowledgeにログインする、といった案が出ました。
水野さんは、言語学者一般に当てはまる言い方はなくても、分野ごとならありそうだと話します。コーパス研究者ならBCCWJ ── 国立国語研究所が構築した「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の略称。日本語研究で広く使われる大規模な言語データですを開く、プログラマーならターミナルやエディタを開く、という案も挙がりました。
もっとも、堀元さんは「3年エディタを開いてないと言う人を見たことがある」と話したあと、それは架空の記憶だったと白状しています。
話の(辻褄が)合うなと思って、そういう人いてくれっていう願いで今言っちゃったんですけど。
水野さんは、この「願いで言う」態度を言語行為論 ── 発話を、情報を伝えるだけでなく約束や命令などの「行為」として捉える言語哲学の理論。オースティンやサールが知られていますだと持ち上げ、堀元さんは「よくわかんないけど褒められてよかった」と返しました。
初の全国ツアー「初ゆるし」は5都市で開催
堀元さんから、ゆる言語学ラジオ初の全国ツアーを開催するという発表がありました。ツアータイトルは「初ゆるし」です。以前、別の動画の末尾で、スポンサー募集とあわせて少しだけ情報を出していました。
名古屋と福岡のチケットは先行して販売され、どちらも即日完売しました。名古屋公演は水野さんの誕生日にあたり、水野さんは「30になった瞬間を見届けてくれよ」と話しています。
札幌、大阪、東京のチケットは、動画の公開時点で一般販売が始まっているそうです。キャパはどれも200〜300席ほどで、札幌は173席とされています。
札幌の会場はJR琴似駅付近です。札幌出身の堀元さんは、琴似は札幌市民から少し下に見られていると冗談めかしつつも、札幌駅から近く住みやすい場所だとフォローしました。
ツアーの告知の合間には、水野さんの腕が長すぎてジャケットが短く見えるという話や、水野さんの家族から関係者席を頼まれた話など、二人らしい掛け合いも挟まれました。
各地の「ここだけの話」は何を語るのか
全国ツアーは基本的に、各地で公開収録と「ここだけの話」を行う構成です。たとえば名古屋では言語とコンピューターの公開収録を2本行い、編集されたものが後日YouTubeに上がります。
一方の「ここだけの話」は、会場に来た人しか聞けない内容です。都市ごとの演目は次のように紹介されました。
| 都市 | 演目 | 内容 |
|---|---|---|
| 名古屋 | 水野太貴無能戦記 | 誕生日の水野さんが地元で語る |
| 福岡 | 水野太貴の怒られるから有料でする話(再演) | 2025年の頭に大阪で行ったイベントの再演 |
| 札幌 | 2010年代インターネット論、オンラインサロンの思い出 | 主に堀元さんが語る |
| 大阪 | ゆる脱税学ラジオ | 堀元さんが集めた脱税の資料の話 |
名古屋の演目について、水野さんは格好をつける気持ちがないことを堀元さんに指摘され、こう答えています。
笑わせないと。そのために生まれてきたんだから。
札幌の演目では、堀元さんがかつて大量に入っていたオンラインサロンの思い出が語られる予定です。ホリエモンのサロンで行われたマグロ解体パーティーの出席者と話したことは、一生忘れないほど驚いたといいます。
大阪の「ゆる脱税学ラジオ」は、脱税を推奨するものではないと堀元さんは念を押します。堀元さんは知的好奇心から行政の資料を読んでおり、大阪の行政資料が日本で一番面白い脱税の資料だから大阪でやる意味があると話しました。
東京公演は、村長時代の相方と7年半ぶりの再会
全国ツアーの最終地・東京だけは例外で、公開収録はなく、YouTubeにも上がりません。代わりに配信チケットがあり、オンラインでリアルタイムに見られるうえ、アーカイブも無期限で見られるそうです。
東京公演の演目について、堀元さんは「僕の出せる一番強いカード」を出すと言います。堀元さんが起業し1年で倒産した「月額会員制村づくりサービス」の副村長、つまり当時の相方をゲストに呼ぶという企画です。
俺とその副村長が7年半ぶりに話すから。
水野さんはインタビュアー役を任されました。険悪なムードになった場合に場を回すのは水野さんの力量にかかっていると、堀元さんは話しています。
堀元さんは準備のために当時の写真や日記を見返し、謎が次々に出てきたといいます。喧嘩別れした直後、副村長は堀元さんを1か月ごとに褒めたり貶したりしていたそうです。その答え合わせを、事前の打ち合わせなしでステージ上で行う予定です。
堀元さんは副村長にSNSで貶されたことについて、好きな人に貶されるとめっちゃ落ち込むと明かしました。顔も知らない人に貶される分には何とも思わないそうです。
さらに堀元さんは、整理する中で初めて気づいた事実があると言います。それは、副村長から水野さんへの相方交代が、たった24時間の間に起きていたという事実です。
俺もまさにマジで今回これ構成してて、「あれ、これノンフィクションいけるぞ。極上のノンフィクションじゃん」ってなったんすよ。
水野さんはこの企画を、2021年末のライブ配信「ゆる言語学ラジオができるまで」のさらに一歩前にあたる話だと位置づけました。村の活動を辞めたのは2018年だそうです。
前半(1時間10分ほど)
副村長を呼び、当時の答え合わせや村あるあるを語る
副村長が退場
ステージには堀元さんと水野さんが残る
後半
副村長から水野さんへの相方交代が一瞬で起きていた話
水野さんは、この交代劇を「恋人がいる間に次の相手を見つけて乗り換える人」に例えました。堀元さんは倫理的に問題あることはしていないと否定しつつ、真相は東京公演で確かめてほしいと呼びかけています。
東京公演は12月27日の土曜日です。堀元さんは、配信チケットを早めに買ってもらえると必要な配信サーバーの規模を見積もれると話し、格闘技のライブ配信で回線がパンクしたU-NEXTの例を挙げました。
サポーターコミュニティの人を大切にしたい理由
名古屋と福岡のチケットがすぐ売り切れた理由の1つは、月額1000円から入れるサポーターコミュニティで先行販売していたことでした。水野さんによると、半分ぐらいはコミュニティ内で売り切れていたそうです。
堀元さんは、普段から支援してくれる人にチケットを買いそびれる不便をかけたくなかったと、その意図を説明します。今後もイベントなどでは、サポーター優先で進めたいと考えているそうです。
水野さんは、先行販売などをXで宣伝しない方針について理由を語りました。告知すると人が一気に入ってきて、特典を求めずに入っていた人が不便な思いをしたり、治安が悪くなったりするかもしれないからです。
何の見返りもなく、毎月1000円我々に支援してくださってる方を大切にしたいということで。
堀元さんは、嵐が活動終了のライブのチケットを、ファンクラブに入り続けていた人向けに販売した例を挙げます。一度抜けた人を優遇しなかったことで叩かれてもいたそうですが、堀元さんはその姿勢を「気骨ある」と評し、支え続けてくれる人を優先するスタンスを自分たちもとりたいと話しました。
水野さんは、サポーターでないからといって引け目を感じる必要はなく、見てもらえるだけでありがたいと付け加えています。最後は、コミュニティで見られる水野さんの漢字書き取りテストの特典映像をめぐる掛け合いで締めくくられました。
まとめ
今回のゆる言語学ラジオは、矛盾したマンションポエムや、一般の意味とずれる業界用語を入り口に、言葉の面白さを語る雑談から始まりました。後半は全国ツアー「初ゆるし」の各公演の演目と、支援者を大切にする番組の姿勢が語られています。
- 「成城でもなく仙川でもない、そして成城でもあり仙川でもある」は、論理学の排中律に反するように見えるマンションポエム
- 医療業界の「清潔を保つ」は、きれいにすることではなく無菌状態を保つことを指す
- 「ピペットマンを持つ」は実験をすることを意味する、研究者のシネクドキ
- 全国ツアーは名古屋・福岡・札幌・大阪・東京の5都市で、東京公演では村長時代の相方との答え合わせが行われる
- サポーターコミュニティでは、支え続けてくれる人を優先するため、先行販売などを大々的に告知しない方針



