バーガーキングはどうやってGoogleに迷惑をかけたのか?
ゆる言語学ラジオの定例コーナー「うんちくエウレーカクイズ」は、答えそのものが友達に話せるうんちくになるクイズです。今回は特別編として、某大手広告代理店に勤める若手広告プランナーが、偽名の「霜田君」として出題役を務めました。
この回は、水野さんと堀元さんに仕事を持ってきたこともある霜田さんが、遊んでいる最中に「広告エウレーカクイズを作って出しに行きます」と申し出た持ち込み企画です。二人は「広告だけで良いクイズを何問も作れるのか」と半信半疑のまま1問目に臨みます。
1問目は、攻めた広告で知られるバーガーキングの話です。過去に流した15秒のテレビCMでGoogleに迷惑をかけ、怒られたことがあるといいます。このCMは1億ドル以上規模のメディア効果があったと言われる伝説的な施策で、その内容を当てるのが問題です。
二人はまず、Googleのサーバーに大量のアクセスが集中した可能性や、競合のマクドナルドを煽る施策などを挙げます。ただ、マクドナルドを煽る案は、バーガーキングがずっとやってきた定番の手法だと指摘され、あっさり退けられました。
質問を重ねるうちに、CMによって特定の単語の検索数が増えたこと、その単語はメニュー名の「ワッパー」であることが判明します。ところが、CMの視聴者がワッパーを検索したわけではなく、そもそも検索した「人」はいないという答えが返ってきます。
検索したのは人間以外のプログラムで、それはCM以前から存在し、テレビの内容に応じて動くものだとわかります。この状況の不可解さに、二人は「ウミガメのスープ ── 出題者が示す不可解な状況について、回答者が「はい・いいえ」で答えられる質問を重ねて真相を推理する水平思考ゲームの代表的な問題名ですすぎる」と頭を抱え、1問目はギブアップとなりました。
「OK Google, What is the Whopper burger?」の衝撃
バーガーキングのCMの正体は、店員がテレビの前に向かって「OK Google, What is the Whopper burger?」と話しかけるという内容でした。この音声にアメリカ中のGoogle Home ── Googleが販売するスマートスピーカー。「OK Google」と話しかけると音声アシスタントが起動し、質問への回答や家電の操作などを行いますやGoogleアシスタントが反応し、ワッパーの説明を読み上げたのです。
さらに、Googleの解説はWikipediaを引用する仕組みだったため、バーガーキング側があらかじめWikipediaのワッパーの項目を書き換えていたことも秀逸だとされています。何が入った、どんなバーガーなのかがきちんと説明されるように整えていたといいます。
CMの放映
店員がテレビ越しに「OK Google」とワッパーについて質問する
スマートスピーカーの反応
家庭のGoogle HomeやGoogleアシスタントが一斉に起動する
ワッパーの解説
事前に整えられたWikipediaの内容をもとに説明が流れる
Googleの対応
放映の数時間後、このCMの音声に反応しなくなった
放映から数時間後、Google HomeやGoogleアシスタントはこのCMの「OK Google」に反応しなくなりました。メディアは、GoogleがこのCMの音声に反応しないよう対応したと見ています。
正解を聞いた二人は「思いつけた」と悔しがります。スマートスピーカーが会話に反応してしまう経験は身近にあり、堀元さんの家では、麻雀中の点数の読み上げに照明が反応して消えたこともあったそうです。
スマートスピーカーっていう核を聞かないと、質問しても全くつかみどころがないものしか返ってこないから。
Xで拡散されてバズったのではなく、スマートスピーカーに直接訴えかけたという発想に、二人は「広告施策だな」と感心しつつ、次の問題から本気を出すと宣言します。
子供が主役の酒CMに隠された演出とは?
2問目は、サントリーのプレミアムモルツのロングCM『無言の父たち』についてです。妊娠中の禁酒期間を終えた夫婦の子育てのリアルを描いて高い好感度を得たこのCMは、作品のクオリティ以外に、ある演出方法でも話題になりました。その手法を当てるのが問題です。
二人は、全編ノーカットで撮影された戦争映画を思い出したり、撮影スタッフがプレモルを飲んで酔った状態で手ブレだらけに撮ったのではと想像したりします。酔っ払い撮影の案は不正解でしたが、霜田さんが「いつか絶対にやります」と気に入る一幕もありました。
質問を重ねると、特徴はカメラアングルにあること、一家以外の出演者もいて重要であること、複数の家庭の父親たちの1日を描いたストーリーであることがわかります。主人公はドキュメンタリーの一般人ではなく、あばれる君が普通の会社員を演じていました。
さらに霜田さんは、アングルそのものより「何のためのアングルか」が重要で、広告のルールを知っている人なら問題文を聞いただけで違和感を持つはずだとヒントを出します。ここで堀元さんが、妊婦の飲酒に関する注意書きのような、広告の自主規制が関係するのではと切り出しました。
自主規制が関係あると確認できたところで、水野さんが「酒のCMに子供を出さない自主規制があったのに、それを破って出した」と回答します。霜田さんの判定は「ほぼ正解」で、先に自主規制に気づいていた堀元さんは「奪うなよ」と猛抗議しました。
子供を映さずに子育てを描くという解決策
『無言の父たち』の答えは、子育てがテーマのCMなのに、子供が1人も画面に登場しないカメラアングルを使ったことでした。酒類の広告審査委員会 ── ビールや日本酒などの酒類メーカーや酒類小売業で構成される組織。酒類広告の自主基準を定め、表現の審査を行っていますの自主基準には、20歳未満の者を広告のモデルに使用しないというルールがあります。
そのため、子育てをテーマにした酒の広告は作りづらく、避けられる傾向にありました。『無言の父たち』では、授乳を待つ間に眠くなる父、筒型の滑り台から子供が出てくるのを待つ父、父親だけエレベーターに乗れない場面などを、セリフと演出だけで構成しています。
20歳未満をモデルに使えないため、子育てテーマは作りづらく避けられがち
子供を画面に映さず、父親の姿とセリフ・演出だけで子育てを描いた
霜田さんによると、この施策は制約を乗り切った演出に多くの視聴者が反応したものだったそうです。堀元さんは、禁酒期間明けの一杯の心地よさは誰もが想像できるテーマなのに、ルールのせいで描けなかった点に注目します。
(ビールがテーマの企画会議で)絶対に出てくる目線ではあるんですが、いや、こういうルールがあるからさっていうので潰れるんだけど。
水野さんはこの話を、漫画『ラーメン発見伝』シリーズの3作目『ラーメン再遊記 ── 久部緑郎原作・河合単作画のラーメン漫画。『ラーメン発見伝』『らーめん才遊記』に続くシリーズ作品です』のエピソードに重ねます。酒を使った創作ラーメン対決で、職人2人はアルコールを飛ばしたのに対し、主人公の若い女性は酔っ払うラーメンを出して周囲の想像を上回ったといいます。
水野さんの解釈では、職人たちには車で来る客や下戸の客を考える無意識の制約があり、主人公はそれを越えてみせました。ただ堀元さんからは「全然繋がってない」と一蹴され、長いうんちくは笑いに変わります。
こいつに負けんの嫌っすよ。こいつに負けんの嫌だって。
サッカニーがスポンサーした学生は誰か?
3問目はアメリカの学生スポーツの話題です。NCAA ── 全米大学体育協会。アメリカの大学スポーツを統括する組織で、近年は学生選手が企業とスポンサー契約を結ぶことを認めていますが学生と企業のスポンサー契約を認めるなか、ナイキやアディダスは強豪のバスケやアメフトのチームに協賛しています。
一方でシューズメーカーのサッカニーは、ある学生たちと契約を結び、その社会的な取り組みが注目されました。その学生たちの特徴を当てるのが問題です。
質問を重ねると、対象は特定のスポーツでも大学でも選手でもなく、共通の特徴を持つ集団だとわかります。さらに、何かを専攻している学生で、サッカニーの靴を履いてよく歩く人たちであることも見えてきました。
二人は考古学の発掘、文化人類学のフィールドワーク、散歩好きで知られる哲学者などを挙げますが、どれも不正解です。番組に合わせて言語学かと読んでも外れ、文系ではなく理系、そして医学部だと絞り込まれます。
医学部生は病院内を歩き回るという方向は合っていたものの、救急や産婦人科と診療科を当てにいっても外れ続けます。霜田さんから「医者の何科かは特定しても意味がない」と補足され、二人は将来の進路によって分けられる医学部内の集団へと考えを進めます。
答えは看護学生。見落とされていた「アスリート並みに走る人」
サッカニーの問題は、看護師が関係するかという質問をきっかけに解けます。水野さんが「医学部には医学科だけでなく看護学科もあり、走り回って大変そうな看護学生にあげた」と答えて正解となりましたが、ヒントを出した堀元さんは「ダウト」と抗議しました。
しかも俺らにその医学部って言われると看護学科が抜け落ちるっていう、そういうバイアスが今出ちゃいましたよね。
解説によると、看護学生は1週間でマラソンランナーと同じくらい走るというリサーチがあり、サッカニーはそれを元にスポーツクラブではなく看護学生へのスポンサーを発表しました。看護学生たちがサッカニーのスニーカーを履いて現場で活躍する様子は、PVとして作られています。
エッセンシャルワーカーが注目を集めていた時期に、看護師の離職を防ぎつつ新しいマーケットを開拓したことが評価されました。施策名は「Run Like A Nurse(ナースのように走れ)」です。
スニーカーを渡す相手として、まずアスリートを思い浮かべる
アスリート並みに走っている看護学生がいる、というリサーチから相手を選ぶ
堀元さんは、誰も見つけていない事実から広告を作るこの発想には再現性があると話します。面白い統計を見つけたら広告に生きるか考える、あるいは広告を作るときにリサーチから入る、という2つの方向で応用できるというわけです。
めっちゃ悔しいというか、なんか今自責の念がすごいっす。これは当てれなきゃいけないはずだったっていう。
「広告はクイズになる」という発見と、クリシェなグッズ紹介
3問を終えた二人は、気持ちいい正解が少なかったと悔しがり、時間が許せばもう1本収録したいと話します。堀元さんが「広告ってクイズになるという発見をした」と言い出すと、水野さんは霜田さんの持ち込み企画であり、過去回でも広告コピーのクイズをやっていたと指摘しました。
手柄を主張する堀元さんに、「これ俺の発見だからな」と言う先輩プランナーは実際にいる、という業界あるあるも飛び出します。傾向と対策はつかんだので、次回は爆速で解く姿を見せたいと意気込みました。
後半はグッズの紹介です。いずれもクイズ回の「クリシェな広告」にも通じる、番組ならではの小ネタが詰まっています。
- 日本語の疑問に答えられなかった一幕から生まれた「母語話者」Tシャツ
- フォント、黒パーカー、メーカーまで常套句にこだわった「クリシェ」パーカー
- チャックを下ろすとペリカンが裂ける「ディバイドアンドコンカーペリカンパーカー」
- 順調な人生を意味することわざを描いた「エビサンドに乗って滑っていく」Tシャツ
クリシェ ── フランス語由来の言葉で、使い古されて新鮮味を失った表現や常套句のこと。番組ではベタなうんちくを指して使われてきましたパーカーは、番組でベタなうんちくを「クリシェだね」と言っていたことから生まれたものです。水野さんはイベントで着ておくと、普通のことを言ってしまっても「あえてですよ」という顔ができると話します。
ペリカンパーカーはチャックぎりぎりまで印刷できる業者を20社ほど探したため、販売価格は1万円です。エビサンドのTシャツは、しらほししらほしうの先生のイラストをご厚意で安く描いてもらったため、価格を抑えられたといいます。最後に水野さんの著書『会話の0.2秒を言語学する』も紹介されました。
まとめ
今回の広告エウレーカクイズでは、スマートスピーカー、酒類広告の自主規制、看護学生の歩行量という、それぞれ見落とされがちな一点が施策の核になっていました。二人は3問とも苦戦しましたが、制約やバイアスの外に答えがあるという広告の発想を、身をもって味わう回になりました。
- バーガーキングはCMで「OK Google」と呼びかけ、家庭のスマートスピーカーにワッパーを説明させた
- プレミアムモルツ『無言の父たち』は、20歳未満をモデルにしない自主基準のもと、子供を映さず子育てを描いた
- サッカニーは、1週間でマラソンランナー並みに走る看護学生をスポンサーする「Run Like A Nurse」を展開した
- 医学部と聞くと看護学科が抜け落ちるというバイアスが、答えを遠ざけていた
- 統計やリサーチから広告を発想する手法には再現性がある、と二人は語った


