『残像に口紅を』から生まれた新企画
堀元さんが今回の新企画として紹介したのは「残像に口紅をゲーム」です。元ネタは、筒井康隆の小説『残像に口紅を』です。
水野さんによれば、『残像に口紅を』はリポグラム ── 特定の文字を使わずに文章を書く言葉遊び。フランスの作家ジョルジュ・ペレックが「e」を使わずに書いた長編小説がよく知られていますを取り入れた作品です。作中では、使える文字が徐々に減っていきます。
堀元さんは、この小説を下敷きにした場面が漫画にもあると話します。1つは『幽☆遊☆白書』に出てくる蔵馬の海藤戦です。「あ」から1文字ずつ使える文字が減るなかで日常会話をこなし、負けると魂を取られます。
制約がきついな。制約が。
もう1つは、ジャンプで連載された『暗号学園のいろは』に登場する失言半言質疑応答というゲームです。50音表の半分が潰された状態で、質疑応答をスムーズにこなさなければなりません。
(作中では)主人公たちが、特殊能力保持者なんで、めっちゃ頭の回転速くてスムーズに言ってんすよ。
堀元さんは、自分たちも頭の回転の速さでラジオをやっているのだから、同じようなことができるのではないかと考えます。そこで、1分に1文字ずつ使えなくなる文字の中で普通にラジオを続けられるかを試すことにしました。
| 作品 | 縛りの内容 | 番組で語られた見どころ |
|---|---|---|
| 残像に口紅を | 使える文字が徐々に減っていく | リポグラムを取り入れた小説 |
| 幽☆遊☆白書 | 「あ」から1文字ずつ消える中で日常会話をする | 負けると魂を取られる |
| 暗号学園のいろは | 50音表の半分を潰した状態で質疑応答をする | 登場人物がスムーズに言い換える超絶技巧 |
水野さんは、飲み会の「カタカナ語禁止ゲーム」ではめっぽう強かったそうです。水野さんの必勝法は、1人だけ古語の口調で話し続けることでした。
なんか玉転がしの寡婦群れをとか言って言うと。
全然ね、周りの人もね、何言ってるか分かってくれなくて。
古語で話せばカタカナ語は出てきません。その代わりに相手に意味が通じなくなり、会話そのものが成立しなかったというオチがついています。
どこまでが「その文字」?ルール決め
堀元さんの説明によると、今回のゲームでは裏方スタッフの吉信さんが事前に乱数を生成していて、50音の文字が消える順番はもう決まっています。出演の2人には順番が知らされておらず、1分ごとに1文字ずつランダムに消えていきます。
堀元さんは、英語は使ってよいと補足しました。英語を禁止しても喋りにくくなるだけで、ゲームとしての面白さが特に増えないからです。
水野さんは抜け道を探します。音を少しずらせば、禁止された文字を使ったことにならないのではないかという案です。
日本語の音素で言うとこれだなで判断しましょう。
微妙に[[IPA::国際音声記号。世界中の言語の音を1つの記号体系で書き表すための表記法で、日本語の50音よりもずっと細かく音を区別します]]で違う音だからOKとかないっす。
この話から、2人はIPAにしかない音素で話せば無敵になる、という冗談で盛り上がりました。そのあと、実際にゲームを試すことになります。
ルールのまとめとして、アプリで1分ごとにアラームが鳴り、鳴るたびに1文字が使えなくなります。最長で46分続きますが、2人は限界が来たら手を挙げて途中でやめることにしました。
開始直後から苦戦する2人
ゲームが始まった直後は、まだ全ての文字が使えます。そこで堀元さんは、次に消えそうだと予想した「ぬ」を今のうちに使っておこうとしました。
あの漫画のおぬぬめポイントは、登場人物がみんなヌメヌメしていて、すごいヌメヌメぬるぬるの展開にページをぬくる手が止まらぬくなります。
堀元さんが「ぬ」を詰め込んで紹介した漫画は『地獄先生ぬ〜べ〜』です。水野さんからは、古いインターネット老人会のノリだと突っ込まれていました。
最初の1文字が消えると、会話は一気にぎこちなくなります。堀元さんは話す前に、その言葉を言って大丈夫かを頭の中でいちいち確認するようになりました。
濁音をどう扱うか決めていなかったことも、この段階で発覚しました。濁音もダメという扱いになり、堀元さんは「大丈夫」を言い換えようとして別の禁止文字を踏み、早々にアウトを重ねます。
途中で「唇」の話題になったときには、堀元さんが言い換えを重ねた結果、「コラーゲンオノマトペ」という謎の言葉が生まれました。水野さんからは「もっと喋れ」とテーマの提案を求められます。
靴箱の炭の話はどう伝わったか
この段では、堀元さんが出した「靴」というテーマについて、水野さんが残った文字だけで身の上話をします。書き起こしでは話者表記が乱れている箇所ですが、流れから語り手は水野さんと読み取れます。
水野さんの話は「靴箱に炭入れてた」から始まりました。臭いを取るために靴箱に炭を入れていたところ、炭がだんだん小さくなったという内容です。
炭が小さくなった理由を問われた水野さんは、「使用に伴い漸減的減少を果たす」と、使える文字だけで硬い表現を組み立てました。さらに「横軸が時間、縦軸が快適」とグラフのたとえまで持ち出し、堀元さんに「難しい説明」と笑われています。
消臭
臭いを取るために靴箱に炭を入れていた
縮小
使ううちに炭が小さくなった
放置
小さくなったあとも放置していたら靴箱がひどく臭くなった
交換
最近、炭を買い換えた
オチとして「臭い消えた」と言おうとした場面では、禁止文字を含む言い方をしてしまいます。堀元さんは「なんであえて死にに行ったんだよ」と突っ込みました。
続いて水野さんが出した「鉄道うんちく」のテーマでは、堀元さんが「鉄道によって人、生き、死ぬ」のような断片的な言葉しか出せなくなっていきます。
フィラーは許されるのか
ゲームの途中で堀元さんは一度タンマをかけました。「えー」「うーん」といったフィラー ── 話の合間に入る「えー」「あのー」などのつなぎの言葉。意味は持たず、考えている時間を埋める働きをしますは除外してほしいと提案するためです。
ところが、堀元さんは「フィラー」という言葉そのものが言えませんでした。代わりに口にした「いらーはあれ」は、水野さんに「知らないっすそれ」と一蹴されます。
全然意思疎通できない。
結局、堀元さんはフィラーもどれかの音素にあたると考え直し、フィラーも禁止のまま再開することにしました。
2人は、5文字消えただけでここまで喋れなくなることに驚いています。水野さんは、5文字ぐらいの縛りがゲームとしてはちょうどよかったと振り返りました。
使える文字だけで「うんちく」を語る
再開後、堀元さんは使える文字だけでうんちくを披露しようとしました。「そこをお湯を丸ごと聞くと、死ぬ」という文をなんとか組み立て、これをうんちくだと言い張ります。
水野さんに「生成AI?」と突っ込まれながらも、会話はテーマを「四季」に変えて続きます。水野さんは「春、夏、秋、冬」を言おうとして、「夏」を「なう」と言い換えるなど苦しい対応を迫られました。
さらに「聞かない」の「か」が使えなくなったことで、水野さんは否定の返事ができなくなります。堀元さんが「館山聞く?」と尋ねると、水野さんは思わず「聞かない」と言ってしまい、「この方言不利だ」と嘆きました。
否定できない会話と、オノマトペの発見
堀元さんは再びタンマをかけ、この縛りならではの現象を説明しました。否定形の「聞かない」が言えないため、何を尋ねられても「聞く」と肯定するしかなくなる、という点です。
聞かないって言えないなと思って。その結果、全てのものに聞くって答えなきゃいけないんだよねっていうことを言いたかったんだけど、
それ(聞かないと言えないこと)をなんとか残った文字数で表現して。否定ない肯定聞く。
「聞く」「聞かない」のどちらでも答えられる
「聞かない」が言えず、何にでも「聞く」と肯定するしかない
その後は「褒めろ」「飴ある?」「クキ食う?」など、短い言葉だけの応酬が続きます。水野さんが「クッキー」を言えずに「クキ」と縮め、堀元さんは否定を「食ない」と崩して返しました。
終盤には、お段の文字と「ろ」がまだ残っていることに気づき、堀元さんがオノマトペを次々に並べます。
おろおろ、ころころ、そろそろ、とろとろ、のろのろ、ほろほろ、よろよろ。
堀元さんは「オノマトペ」の「ぺ」が言えず、「おのとけ」と言い換え続けていました。このあたりで堀元さんが「もう無理です」とギブアップし、最初のゲームは終わります。
振り返り:なぜここまで喋れなくなるのか
堀元さんは、今回の収穫として「ろ」の汎用性を挙げました。お段の文字に「ろ」を足せば、多くのオノマトペ ── 擬音語・擬態語の総称。「ころころ」「よろよろ」のように音や様子を言葉で表したもので、日本語は特に種類が豊富とされますを作れるという発見です。
水野さんは、喋れなくなった原因を、訳のわからない発言に思わず突っ込んでしまうことだと分析します。突っ込もうとした瞬間に、禁止された文字を言ってしまうのです。
堀元さんも、突っ込めないことが苦しかったと認めます。そのうえで、外来語禁止ぐらいの縛りなら突っ込みもでき、制約としてちょうどよいのではないかという話になりました。
脳内で常時生成した文を一瞬にして却下して正しいやつに直してるから不可能ですね、あれ(暗号学園のいろはの会話)はね。
ゲーム中に堀元さんが「ムヒの効きいい?」と尋ねていたのは、北軽井沢でブヨに刺されたときにムヒを塗った件でした。水野さんは、あれだけの断片からその意図を正確に読み取っていたそうです。一方で、水野さんの答えは「いい」の一言だけで、会話はまったく膨らまなかったと笑い合っています。
水野さんは、文字が1本ずつ減っていくと、そのたびに戦略が変わってしまうと話します。5文字程度に絞ったほうが戦略性も生まれそうだという意見です。
た行禁止で見えた「インフラ」
改良案として、堀元さんは「た行禁止ゲーム」を提案しました。ところが、テーマを出そうとした時点で「テーマ」も「題目」も「話題」も言えず、始める前からつまずきます。
うん、意外と頼ってる。だって俺さ、なんとかしたが聞けないじゃん。
た行禁止のまま、2人はメガネを話題に会話を試しました。水野さんは好きな店として表参道の店を挙げようとしましたが、「表参道」の「と」で引っかかってしまいます。
堀元さんは、デスクワークのときはメガネをかけていると言おうとしました。しかし「デスクワーク」「机作業」「パソコンなどの」の順に言い換えるたびに、た行が引っかかったといいます。
デスクワーク
「デ」が言えない
机作業
「つ」が言えない
パソコンなどの
「ど」が言えない
水野さんは、た行が東京電力、中部電力、東京ガスといったインフラ企業の名前にも多く入っていると付け加えました。堀元さんは、生活必需品であるた行ではなく、娯楽品のようなや行などを禁止していくほうがよいと話します。
や行禁止で「おティー」と拗音の罠
や行禁止ゲームでは、堀元さんが「お気に入りの飲み物」というテーマを出しました。コーヒーが飲めない水野さんは、「お茶」の「ちゃ」がや行の拗音にあたるため言えず、「おティー」と言い換えます。
おティーって言ったせいでお嬢様言葉になっちゃった。
「おティーよ」と言ってしまった水野さんに対し、堀元さんは、ティーに行った時点で敗北が決定していたと振り返りました。その後の会話でも、水野さんは「そばティー」「ほうじティー」と言い換えを続けます。
会話を続けるうちに、2人は拗音がとても使いにくいことに気づきます。「めちゃめちゃ」も「ちょっと」も言えなくなるのです。
よう音やばいな。これゲーム性あるぞ。もうちょい続けようか。
一方で、堀元さんが「コーラとかくれよ」と「よ」を言っていたことに、水野さんは気づきませんでした。最終的に堀元さんは、ちゃんとしたラジオとして成立させるには修行が足りなかったと締めくくっています。
外来語禁止は必勝法がありすぎる?逆接禁止へ
次に水野さんが挙げた定番の外来語禁止ゲームは、始めた途端に古語での会話になりました。
申し遅れた。拙者は水野太貴と申す。
どんな攻撃も通さない無敵の男となりけり。
水野さん自身も、外来語禁止ゲームは古語調にするだけで勝ててしまうため面白くないと認めています。堀元さんも、必勝法がありすぎると同意しました。
そこで水野さんが提案したのが、「でもさ」「いや」「ところが」などの逆接の接続詞を禁止するゲームです。堀元さんは、すぐ否定から入る話し方の矯正にもなりそうだと応じました。
水野さんの父親は、すぐ否定から入る人だそうです。何が嫌なのかと聞かれても「嫌」と答えるというエピソードに、堀元さんは「親父どうなってんの?」と驚いていました。
堀元さんの父親は、同意できないことを言われると、腕を組んで上を見上げ、じっくり考えてから「俺なんかに言わせると」と話し始めるそうです。
実際に試してみると、水野さんがわざと逆張りを誘う発言をしました。堀元さんは、思わず否定したくなる振りはやめてほしいと抗議しています。
レシートを貯めるのはバッチ処理?
逆接禁止ゲームで水野さんが出したテーマは、「財布にレシートをいっぱい入れてる人は品がないのかどうか」でした。財布がパンパンな堀元さんは、これには一家言あると応じます。
経費精算をまずしなきゃいけないから、自営業者はまずそもそも溜まりやすいっていう性質になってるし。
堀元さんによれば、出費には法人、個人事業、個人の3種類があり、それぞれを仕分ける必要があります。一方の水野さんは、ほぼ毎日帰宅後にレシートを1枚ずつ仕分けしているそうです。
堀元さんは、自分がレシートを貯める理由を、コンピュータサイエンスのバッチ処理 ── データをある程度貯めてから一括で処理する方式。1件ずつ処理する逐次処理に比べて、切り替えのコストを抑えやすいとされますで説明しました。
ほぼ毎日帰宅後に1枚ずつ仕分けする。溜まるのが嫌いで、作業自体も好き
しばらく貯めてから一気に仕分ける。ただし、なくすこともある
堀元さんは、毎日処理する水野さんを「非常に効率が悪い計算機」と評しました。その直後、レシートをなくさないかと聞かれて「しますよ」と即答し、水野さんを呆れさせています。
ゲームとしては、2人ともお互いに仕掛け合ったのに、逆接はほとんど出てきませんでした。2人は、普段からあまり否定していないのかもしれないと話し、この縛りは簡単すぎたと結論づけています。
ちょうどいい縛りを探して:ゲームの提案募集
ちょうどいい難易度が見つからなかったため、2人はリスナーにゲームの提案を呼びかけました。以前には、リスナーの提案で四字熟語を会話にどれだけ入れられるかを競うゲームをしたこともあったそうです。
水野さんは、今回は手探りでルールを調整したものの、「これは面白いぞ」というレベルまでは届かなかったとまとめています。
堀元さんは、以前に遊んだ何こいつ気ものように、無理やり何かを放り込むために会話の流れを作るゲームのほうがちょうどよかったかもしれないと振り返りました。堀元さん自身は、そのための材料をすでに貯めているといいます。
堀元さんによれば、これはパスツール ── 19世紀フランスの細菌学者・化学者。狂犬病ワクチンや低温殺菌法の開発で知られますがセレンディピティ ── 思いがけない幸運な発見や、それを見つけ出す能力のことについて語った言葉です。偶然は運ではなく、構えのある心が生み出すものという意味だと解説していました。
堀元さんは最後に、リスナーにも「これはゲームになるのでは」と常に構えておいてほしいと呼びかけ、ゲームのアイデアを募集して回を締めました。
| 縛り | 起きたこと | 2人の評価 |
|---|---|---|
| 1分に1文字ずつ消える | 5文字ほどでほぼ喋れなくなった | 5文字程度に絞るほうがよい |
| た行禁止 | テーマすら言えない | インフラ級で厳しすぎる |
| や行禁止 | 拗音で「お茶」などが言えない | ゲーム性はあるが難しい |
| 外来語禁止 | 古語調にすれば勝てる | 必勝法がありすぎる |
| 逆接禁止 | 逆接がほとんど出なかった | 簡単すぎる |
まとめ
1分ごとに文字が消える「残像に口紅をゲーム」は、わずか数文字の欠落で会話が崩れることを実感させる企画でした。た行や拗音のように普段頼っている音ほど、失ったときの打撃が大きいことが見えてきます。縛りの強さを色々と変えてみても、ちょうどいい難易度はまだ見つかっていません。
- 1分に1文字ずつ消える縛りでは、5文字ほど消えた段階でほとんど喋れなくなった
- 否定形や突っ込み、フィラーが使えないことが、会話を続けられなくなる大きな原因だった
- た行は日常会話のインフラと言えるほど多用されていて、や行禁止では拗音が罠になった
- 外来語禁止は古語調という必勝法があり、逆接禁止は簡単すぎて、どちらもゲームとしては物足りなかった
- 2人は、ちょうどいい縛りのゲーム案をリスナーから募集している



