accountの意味はなぜこんなに散漫なのか
英単語accountの意味を問われた堀元さんは、まず「説明」を挙げ、説明責任を意味するアカウンタビリティや、SNSのアカウントにも触れます。
水野さんによれば、accountには説明のほかに口座、勘定、考慮、評価、理由といった意味まであります。お会計の勘定と説明が同じ単語で表されているのは、たしかに不思議な組み合わせです。
説明と口座と勘定(が)一緒でいいわけないもんな。
この回は、受験生向けの単語帳を頭から読んでいく人気企画「ターゲット回」の一環です。ゲストには、以前もこの企画に出演した歴史言語学者の堀田隆一さんが招かれています。
前回の出演時は、evidenceという単語の「vid」の部分だけで1時間が終わってしまったといいます。そこで今回は、1ページ分にあたるaccord、thought、interest、account、cause、sound、individualの7語を扱うと宣言して本編が始まります。
本日もターゲット1900(を)頭から読んでいくの会(が)始まりましたね。
堀田さんは、この回で扱う単語の語源的な面白さを「10段階で平均6ぐらい」と評します。面白いものもあれば、面白くないものもあるという率直な前置きです。
accordの語源は「心を1つに」、Discordは不一致?
最初の単語accordは、「一致」「合意」といった意味を持ちます。堀田さんの解説では、接頭辞のacはラテン語のadに由来し、英語のtoやatに近い軽い前置詞のような要素です。
本体の「cord」はラテン語で心を表し、英語のheartと同じ語源だといいます。見た目はかけ離れていますが、ラテン語のkの音が英語では大体hに対応するというグリムの法則 ── ゲルマン語派の子音が、ラテン語などほかの印欧語と規則的にずれて対応することを示した法則。童話で知られるヤーコプ・グリムが体系化しましたがきれいに当てはまる例だそうです。
accordの語源は「心を1つに」という発想になり、合意や協定という意味も覚えやすくなります。心が一致しなければdiscord、つまり不一致です。
ここで堀元さんは、チャットアプリのDiscordの名前がそもそも「不一致」という意味だと知って驚きます。
え、あのチャットアプリでしょ?でもあれ。心(が)一つになった方が良くない?
堀田さんは、アプリ名や会社名は固有名詞であり、作り手それぞれの考えがあるのであまり追いかけないと話します。代わりに話題に上ったのが、デンマークの王に由来するBluetoothです。ロゴがルーン文字に由来するという堀元さんのうんちくに、英語史の身近なネタだと場が盛り上がります。
cordを含む基本語として、堀田さんはrecordを挙げます。reは「再び」「繰り返し」を表すので、recordは「心に何度も刻む」という成り立ちです。
楽器のアコーディオンもaccordの派生語だといいます。accordに「和音」の意味があり、クラリオンという楽器の作りを真似て名付けられたそうです。ただ、堀元さんはクラリオン自体を知らず、すっきりしない様子を見せます。
thinkの過去形と名詞thoughtは、なぜ同じ形なのか
2つ目のthoughtは、動詞thinkの過去形でもあり、「考え」を表す名詞でもあります。品詞が違うのに同じ形なのはなぜか、という疑問から話が始まります。
途中で、2人が着ていた「スルー515通りTシャツ」の宣伝も挟まります。堀田さんが集めたthroughの綴りのバリエーションを、印刷できる範囲で詰め込んだ公式グッズです。thoughtにも含まれるghは、nightやeightのように読まないことがほとんどだといいます。
堀田さんによると、thinkとthoughtの関係は不規則活用として暗記するものの、thoughtの末尾のtは本来edにあたり、基本的には規則動詞なのだそうです。
thinkとthoughtは、1つの語根にそれぞれ現在形と過去形の語尾が付いた形です。その後、数百年から千年ほどかけて別々に音変化した結果、今の形に落ち着きました。
一方で、同じ語根に名詞を作る語尾(tやth)が付いた形も、独立して変化した末に、たまたま過去形と同じ形になったといいます。つまりthoughtは、過去形がそのまま名詞になったわけではありません。
共通の語根
thinkとthoughtの大元になる1つの動詞の語根がある
語尾の付加
現在形の語尾、過去形の語尾、名詞を作るtやthの語尾がそれぞれ付く
別々の音変化
数百年から千年ほどかけてそれぞれ独立に変化する
現在の形
現在形はthinkに、過去形と名詞は偶然同じthoughtに落ち着く
堀元さんは、原形の形が変わったなら過去形を規則的に直そうとする動きはなかったのかと尋ねます。堀田さんは、形をそろえようとする類推の圧力は言葉に常にかかっていると答えます。
ただしthinkは使われる頻度が高すぎたため、その圧力に屈しなかったといいます。世界の言語では一般に、高頻度の語ほど不規則なまま残りやすいそうです。日本語でも変格活用が残るのは「来る」「する」、英語ではgoやdoがその例として挙がります。
理由の1つは、よく使う語は幼いうちにそのままの形で覚えて固定されることです。もう1つは、頻度の高い語は現在形と過去形が頭の中で別々の引き出しに入っていて、1ステップで取り出せるほうが効率的だという認知上の説明です。
堀元さんは、掛け算を自力でできても九九を丸暗記しているのと同じだとたとえ、この説明に納得します。
interestは「中にいる」、実はネガティブ寄りの興味
3つ目のinterestについて、水野さんは堀元さんに2つに分けるならどこかを尋ねます。堀元さんはinternationalやinternalからの連想で、interとestに分けて正解します。
堀田さんの解説では、interはラテン語で「中に」「間に」、estはラテン語のbe動詞で英語のisにあたります。interestは語源的には「is in」と言っているに等しい単語です。
さらに、学校で習う「be interested in」も、beはis、inはinterのinなので、語源的には「is in is in」と同じことを2回言っている形になります。堀元さんは「全然情報増えてない」と笑います。
堀田さんによれば、このinは何かの中に入り込み、渦中にいて周りが見えなくなっている状態を表します。エコーチェンバーやフィルターバブルのように、中にいて外が見えなくなる状態に近い語源だと話します。
そのため英語のinterestは、ニュートラルからどちらかといえばネガティブ寄りの興味を表すといいます。そこから利害関係という意味も生まれました。
否定の接頭辞disを付けたdisinterestedは「公平無私な」という意味で、中にいないからこそ客観的に物事が見えている状態を表します。
前向きでポジティブな響きで受け取られやすい
中に入り込んで周りが見えない状態に由来し、利害やお金の貸し借りにも結びつく
堀元さんは、高校生のときにinterestが「利子」を意味することを不思議に思った記憶を話します。堀田さんは、お金の貸し借りに巻き込まれていることから、利子や利害という意味が生じたと説明します。
興味と利益(は)関係ねえだろっていう。でもそういう理由なんだ。
curiosityもconcernも、興味系の単語はなぜ後ろ向きなのか
では、純粋にポジティブな意味の「興味がある」は英語でどう言うのか。堀田さんはcuriosityを挙げつつ、この語も元々は悪い意味だったと話します。
「好奇心は猫を殺す」というイギリスのことわざがあるように、curiousには「妙な」「おかしな」という意味もあります。元々はネガティブ寄りだったものが、前向きに生きるというポジティブな意味合いを後から帯びた経緯があるそうです。
堀田さんによれば、一番簡単な「興味がある」の言い方は実は「be into」です。「I'm into language」だけで言葉に興味があると伝えられ、ここにも「中に入り込む」発想があるといいます。
類語のconcernも「関心」と訳されることがありますが、「心配」「懸念」というネガティブな方向に振れます。堀元さんは「興味系の単語が全体的に悪い」と、英語での興味の扱いに驚きます。
estの親玉esseから広がる、essenceとベネッセ
interestのestの大元は、ラテン語のbe動詞esseです。堀田さんは、esseを含めると関連語は「無限に広がる」と話します。
代表例はessenceとessentialです。essenceは「あること」「存在すること」、essentialは存在そのものに付随するという意味で、be動詞をそのまま形容詞にしたような語だといいます。
堀元さんは、日本語に無理やり直せば「いる的な」「ある的な」だと言い、「水野ってこのラジオに本当に出ある的だよね」と冗談を飛ばします。
身近な例として、堀田さんは進研ゼミで知られるベネッセを挙げます。benは「よい」を意味するのでbonusと同じ由来で、ベネッセは「よくある」「well being」という成り立ちです。固有名詞は追わないと言っていた堀田さん自身が社名に触れる場面でした。
好奇心が危険だった時代と、大和言葉の「ゆかし」
堀元さんは、interestやcuriosityがネガティブな意味を帯びた背景に、歴史が関係しているのではないかと考えます。厳しい封建社会では、地動説を広めると殺されるように、知ることがマイナスになりえたからです。
堀田さんは、権力のない者が知識を得ようとする行為は、中世では基本的に危ないものと見なされてきたと応じます。この観点から調べたことはないと断ったうえで、「鼻を突っ込むな」という発想が社会にあった可能性はあると話します。
一方で、堀田さんは「ジャーナリストが粛清されやすい国とそうでない国で『興味深い』の使われ方を比べて論文にしては」と堀元さんに振り、堀元さんは好奇心が自分に跳ね返ってくることを身をもって知ります。
日本語ではどうだったのかという話題では、大和言葉の「ゆかし」が挙がります。検索すると「知りたい」「心が惹かれる」という意味で、ネガティブな響きはほとんどありません。
さらに、日本語の「ゆかし」は「行く」から派生し、西洋語は「ある」から派生しているという対比も指摘されます。日本では地動説で殺されるような学問弾圧の話はあまり聞かないため、それが語彙のニュアンスに影響したのかもしれない、という仮説で話がまとまります。
accountは「数えて読み上げ、公開する」ことだった
いよいよ本題のaccountです。堀元さんは、これまでの流れからacとcountに分かれると推測し、countが「数える」だと答えます。数えるなら口座や勘定にはつながりやすいものの、説明や考慮、理由とのつながりは見えません。
堀田さんによれば、countの1つ前の形はcomputeです。ラテン語のcomputareがフランス語に入って短くなりcountになり、元のcomputeとcountの両方が英語に入りました。
同じ語源から別々の語が生まれた二重語 ── 同じ語源を持ちながら、異なる経路で借用されるなどして、形も意味も別の語になった組み合わせのことに水野さんは興奮しますが、堀田さんは「二重語じゃやっぱ興奮しない」と返し、以前の出演時に六重語で興奮していた話が持ち出されます。
computeはさらに、意味を強める接頭辞のconと、「考える」を意味するputeに分かれます。「考える」という基本の意味から、計算する、数えるという方向へ展開していきました。
そして「数え上げる」ことから「読み上げる」、さらに「述べる」「説明する」へと意味が広がったといいます。堀田さんは、考えるだけ、暗算するだけでなく、声に出して公開するところまでがcountやcomputeの原義に込み込みなのではないか、という仮説を示します。
考える
computeの本体putが持つ基本の意味
数える・計算する
考えることから、演算する方向へ展開する
数え上げる・読み上げる
数えた結果を声に出して公開する
説明する・理由を述べる
読み上げることが説明へ、説明が理由へとつながる
堀元さんは、市場で「1、2、3…10個ね」と口に出して確認しながら売り買いする場面を想像し、数えることが説明することになるのは自然だと納得します。
堀田さんは、英語のtellも原義は「数える」で、銀行で数える人をテラーと呼び、ATMのTもtellerのTだと紹介します。tellはcountとは別系列の本来の英語ですが、数えることと話すことがつながる発想は同じだといいます。
水野さんは、ゆるコンピュータ科学ラジオで堀元さんが「見積もりで必要なのは数えること」と話していたことを思い出させます。堀元さんは、現代のビジネスパーソンが「定量的に説明しろ」と言われるのもまさにaccountだと気づきます。
あれめちゃくちゃアカウントを求められてますね。数字で説明しなきゃいけないんだ。
考慮を表すtake into accountは「計算に入れる」から、理由を表すon account ofは「説明するときには理由を話す」ことから説明できます。tellにも「tell A from B(AとBを区別する)」という用法があり、説明するには違いがわかっていなければならないという含意がありそうだ、という話にも発展します。
堀元さんは「ビジネスパーソン向け語源講座で1講座100万円取れるかもしれない」と盛り上がります。ただし水野さんは、堀田さんが最近Voicyで「語源的にこうだからこうしなさい」という語源論法に注意を呼びかけていることも付け加えています。
becauseに見る、機能語でも新語は生まれる
5つ目のcauseについて、堀田さんは「そんなでもない」と評します。cause自体は最終的に語源不詳で、広がりはあまりないそうです。
面白いのはbecauseのほうです。becauseはbe動詞ではなくbyとcauseの組み合わせで、「〜の理由で」という表現が1語の接続詞になったものです。
前置詞や接続詞は機能語 ── 名詞のように具体的な事物を指すのではなく、文法的な関係を示す語。助詞、前置詞、接続詞などがあたり、数が少なく増減しにくいとされますと呼ばれ、普通は増えたり減ったりしない語類です。しかし英語では、古英語から現代にかけて接続詞がむしろ増えてきた歴史があるといいます。
犬や食べ物のように具体的な事物を指す。外国の技術に名前をつけるなど、新語が簡単に生まれる
助詞や接続詞のように文法的な関係を示す。数が少なく、めったに増えない
堀元さんは、in so far asのようにin so farは1語なのにasは独立しているといった、英語の接続詞の自由さを指摘します。
水野さんは、日本語でも新しい接続詞が生まれつつあると話します。国語辞典編纂者の飯間浩明さんが指摘していた、文頭で使われる「なんですが」の例です。
「なんですが」って、今までは文の中で「なんとか何とかなんですが」って来たのを、もうこの「なんですが」の部分だけ切り出して独立して使ってる用法が見られると。
堀元さんは、中学生のときに数学の証明で使う「ゆえに」がクラスで流行った体験を語ります。古い言葉遣いを資源として使い直した、事実上の新しい接続詞だったというわけです。
さらに、人の話を受けて「だし、これもあるよね」と言うときの「だし」も新しい接続詞ではないか、という話に広がります。堀田さんも、文頭で使えるようになった切り出しの用法は実際にはかなり多いのではないかと応じます。
二重語の喜びはまったくわからなかった堀元さんも、機能語が増えることには素直に面白さを感じます。「らむー」「どびー」といった架空の接続詞を試しに作ってみる一幕もありました。
英語は機能語にまで外国語を取り込む、日本語の「is何」は?
堀田さんが特に面白いと考えるのは、becauseのcauseがフランス語、byが本来の英語だという点です。外国語と本来語を混ぜて、よく使う接続詞を作ってしまっています。
日本語で新しい接続詞が生まれつつあるとしても、外国語が入り込むことはまずないだろう、と堀田さんは話します。英語をカタカナ語にして「causeで」と接続詞のように使うレベルのことが、英語ではこれまで次々に起きてきたといいます。
機能語と同じく閉じた語類である代名詞でも、英語のsheやtheyは外から入ってきた語だそうです。英語には自分の語彙を守る意識がきわめて希薄で、何でも混ぜる言語文化が古くからあるという点が日本語と違うと、堀田さんは指摘します。
なんか日本人ってすぐ外国語取り入れてみたいなこと言う人いるけど、英語を見てごらんなさいっていう感じしますね。
そこで堀元さんが持ち出したのが、ネットで知らないものに出会ったときの「ゆる言語学ラジオis何?」という言い方です。語順は日本語のまま、isだけを取り込んでいる点が面白いと話します。
堀田さんは、英語にも知らないキーワードの後に「which is」と続けて相手に答えを促す言い方があり、それとそっくりだと指摘します。写しではないとしながらも、外から入ってきた新しい言い方として非常に面白いと評価します。
「is誰」「isどこ」とも言い換えられる生産性の高い構文なので、定着すれば辞書に載る可能性もあると話が盛り上がります。byとcauseが合体したbecauseのように、「is何」が1語になる未来を想像し、長生きして見届けたいと語り合います。
soundのdはどこから来たのか
6つ目のsoundは「音」「響き」、動詞では「That sounds good.」のように「聞こえる」を表します。水野さんは覚えるのに苦労しない単語だと考え、単語帳にも何も書き込んでいなかったといいます。
しかし堀田さんは、まあまあ面白い単語だと話します。音という基本語なのにフランス語から入ってきた語で、さらに遡るとラテン語のsonusにたどり着きます。
同じsonを含む語として、スーパーソニック(超音速)、ユニゾン、ソナタ、そして子音を意味するconsonantが挙がります。consonantは母音と「一緒に出てくる音」という成り立ちだと堀田さんは考えています。
堀元さんが「歌のsongも関係ある?」と聞くと、堀田さんは「関係ないんですよ」と返し、堀元さんは「絶対関係ある流れだったじゃないですか」と裏切られた様子を見せます。
堀田さんによれば、語源的にはsonであって、末尾のdはどこにも出てきません。soundのdはどこから来たのかという問題は、英語史や語源の世界では割と熱いテーマなのだそうです。
多くの語源辞典は「dが後から挿入された」という事実だけを書き、理由までは説明していないといいます。nの後にtやdが加わる単語はancientなどポツポツとありますが、nで終わる単語全体から見れば1〜2パーセントほどで、なぜこの単語なのかは未解決です。
堀元さんは、throughの綴りが516通りもあるなら1文字くらいの揺れは当たり前だと思っていたと話します。堀田さんは、1つ1つの揺れは類例がたくさんあって説明できるものの集まりであり、孤立して説明できない例にこそ語源学はこだわるのだと答えます。
スラム街から一人だけ成功した世界的経営者みたいな。何が彼を作ったのかっていうドキュメンタリー撮りたくなるのと一緒だよね。
堀田さんも、特別すぎる例があると人は理由を求めてしまい、それが日常語だとさらに注目が集まると応じ、soundはその典型だと話します。
individualは「分けられない」、そして金融の単語たち
最後のindividualについて、堀元さんは「inとdivideで分けられないという意味でしょ」と答えを言い当てます。高校で使った単語帳『DUO3.0』の最初の単語がindividualで、1回目の英語の授業で分解の仕方を習った記憶があるそうです。
堀田さんは、divideを含む単語として、名詞のdivision(分割)、「分割できない」を意味するindivisible、配当金を意味するdividendを挙げます。
分割、分けること
分けられない、分割できない。科学でよく使われる
分けられないもの、個人
分けられた配当金
indivisibleはinvisible(見えない)ともindividualとも響きが似ていて、舌を噛みそうだと3人は苦笑します。
配当、利子、口座と、この回はお金に関わる単語が意外に多く出てきました。そこから堀元さんは、SNSのアカウントも口座から来ているのかと疑問を持ちます。
堀元さんは、Xをやっているのは広告料のためで、バズった月は1万円ほどもらえると話します。マネタイズしていない人のアカウントは「引き出せない口座」だという堀元さんの極端な見方に、水野さんは「すごいこと言ってるなお前」とツッコみます。
『英語語源ハンドブック』は語源辞典の最強のアンチョコ
7語を振り返ったあと、水野さんはリサーチに使った本として『英語語源ハンドブック』を紹介します。著者は唐沢克友さん、小塚芳孝さん、堀田隆一さんの3人で、この回は研究社によるPR回です。
水野さんによれば、この本は以前堀田さんが「世界に誇れる辞典」と薦めた『英語語源辞典』から、重要な単語だけを選んで簡潔な語源説明を付けたものです。『英語語源辞典』は省略記号が多く凡例を覚えないと読みにくいのに対し、ハンドブックはその必要がありません。
約1000の基本語を扱い、語源的に一番面白い話を最初に小見出しとして立てている点が特徴です。たとえばlittleには「less、leastとは別語源」、ifには「yesと同根」と書かれています。
ifとyesが同根だと聞いた堀田さんが「そうなんですか」と驚く場面もありました。3人で分担して書いたため、自分が書いた部分でも忘れて何度でも驚けるのだそうです。
本の構想は10年前、3人が学会後の飲み会で「作ろうか」と話したことから始まりました。進まない時期もありながら、通算10年ほどかけて完成したといいます。
堀元さんは、ページを開くと別の単語も引きたくなり、Wikipediaのリンクを踏み続けるように読み進めてしまう作りだと評します。実際に収録中、ifからyes、隣のyellowへと引き続け、「yellowがgoldと同根」という見出しに驚いていました。
堀元さんがsoundを引いてみると、見出しは「dは後から付け加えられた」でした。ソナタとの関係も本文には書かれているのに、あえてdを見出しにしているところに堀田さんらしさが出ています。
堀田さんは、学生時代に先生から「このdはわかんないんだよな」と聞いた記憶を思い出し、dへのこだわりは師匠から受け継いだものかもしれないと話します。
| 書籍 | 価格 | 特徴 |
|---|---|---|
| 英語語源辞典(旧版) | 8000円ほど | 読むために省略記号や凡例を覚える必要がある |
| 英語語源辞典(新版) | 税込1万1000円 | 旧版から値上がりしている |
| 英語語源ハンドブック | 3500円+税(税込3850円) | 約1000の基本語を収録し、面白い語源を小見出しに立てている |
堀元さんは、この本があればターゲットシリーズの更新を待たなくても大体書いてあると太鼓判を押します。堀田さんも、まずハンドブックから入り、物足りなければ『英語語源辞典』に進む形を勧めています。
1000語はすべて頻度順、面白くない単語も逃げずに書いた
堀田さんによれば、収録した1000語は、ある団体が出している英語学習用の頻度リストの上位から選んだものです。そのため見出しに知らない単語はほぼありません。
ただし見出しにない単語も本文に埋め込まれていて、たとえばcountは見出しにありませんが、computerの項を引くとこの回で話したcount周りの話が書かれているといいます。単なる語彙増強の本ではない、というのが堀田さんの説明です。
語源的に面白い語だけを選ぶのではなく、頻度リストで決め打ちにしたため、何を書けばいいか浮かばない単語も出てきたそうです。小見出しが初稿、再稿まで埋まらない語や、日常語に多い語源不詳の語には特に苦しんだと明かします。
堀元さんが見つけたのは、soの見出し「様々な単語に組み込まれている」です。隣のsocialには「最初は不穏な意味だった」と引きのある見出しが付いているのに比べ、書くことがなかったのだろうと笑います。
堀田さんも、soは機能語に近い単語なので、意味のあるsocialに比べて語れる歴史的背景が少ないのだろうと応じます。苦戦した小見出しを探すのも、この本のもう1つの楽しみ方だという話になります。
英語史の専門家が教えるつまらない単語ベスト10みたいな。そういう企画になるな。
締めくくりに堀元さんは、何を聞いてもすぐ答えてくれる堀田さんのような人こそパーソナリティをやるべきだと話します。普段のターゲット回では、疑問が出るたびに15分ほど調べる時間が入ることもあるそうです。
まとめ
今回のエピソードでは、ターゲット1900の7語を手がかりに、accountが「数えて読み上げ、公開する」ことから説明や理由へと意味を広げたという仮説、interestが「中に入り込む」ネガティブ寄りの興味であること、機能語にまで外国語を取り込んできた英語の開放性が語られました。何気ない基本語にも、語源をたどると意外な歴史が隠れています。
- accountはcomputeと同語源で、「数える」から「読み上げる」「説明する」「理由」へと意味が広がったと考えられる
- thinkとthoughtは同じ語根から別々に変化した形で、名詞thoughtが過去形と同じ形なのは偶然による
- interestは語源的に「is in」で、渦中にいて周りが見えない状態を表すため、英語ではネガティブ寄りの興味になる
- becauseはbyとフランス語のcauseの合成で、英語は接続詞や代名詞といった機能語にまで外国語を取り込んできた
- soundのdがなぜ付いたのかは未解決で、『英語語源ハンドブック』でも見出しに取り上げられている



