「プルスウルトラ編」は何を集めた回?
うんちくエウレーカクイズは、友達に話したくなるうんちくが答えになっているクイズです。堀元さんは、解く過程も楽しめて、出た結論を翌日に学校や会社で話したくなる「一粒で二度おいしい」クイズだと紹介しています。
今回のテーマは「プルスウルトラ編」です。ゆる言語学ラジオでは、話に何かを付け足すときに「プルスウルトラ」という言い方がよく使われます。
視聴者がコメントで「それについては、この話も面白い」と補足してくれることが多く、そうした付け足しのうんちくを、出題役の武藤さんがクイズに仕立てた回です。
「それについては何々という話が本当は面白いから、その話もしてほしいです」みたいなやつがね、あるので、それをクイズにしてくれたということですね。
アメリカの素数ゼミと違って、日本のセミはなぜ交雑しない?
1問目は、みやびさんからの投稿です。約3年前の「サピア回」で素数ゼミの話題が出たことから作った問題だといいます。
アメリカのセミの多くは素数の周期で大量発生し、捕食や他種との交雑を避ける素数ゼミですが、それに対して日本のセミは複数の種類が同時に地上に出てもほとんど交雑が起こりません。それはなぜでしょう。
素数ゼミの前提について、水野さんは13年と17年の周期のセミを例に説明します。2つの周期が重なるのは13×17年に1度だけなので、交雑を避けやすいという理屈です。2年おきと4年おきのような周期だと、4の倍数の年ごとに重なってしまいます。
水野さんはさらに、2024年はアメリカで素数ゼミの周期が重なり、大変なことになると言われていると補足しました。堀元さんは物流の2024年問題にかけて「素数ゼミの2024年問題」と笑っています。
最初の回答で水野さんは、ヒグラシ ── 夏の終わりから秋口にかけて「カナカナ」と鳴くセミ。俳句では秋の季語として扱われますが秋の季語でアブラゼミが夏の季語であることから、地上に出る年は同じでも時期がずれていると考えました。堀元さんは「縦と横の綺麗な答え」と感心しましたが、これは不正解です。
続いて二人は、交雑できるのは進化の系統樹で近いところで分かれた種だけだという話へ進みます。堀元さんは、ロバと馬が交雑してラバが生まれるものの、ラバには繁殖能力がない例を挙げました。
堀元さんはセミのおしっこの匂い、つまりフェロモンで区別していると答えましたが外れます。最終的に水野さんが「シンプルに鳴き声で区別できる」と答えて正解しました。
解説によると、日本のセミは鳴き声を特徴的にすることで他種と区別しています。そのため、同時に複数の種類が地上にいても、同じ種のつがいを見つけられるのです。
地上に出る周期を素数にして、他種と出会う年そのものを減らす
同じ時期に地上にいても、鳴き声の違いで同じ種を見分ける
堀元さんは、アメリカのセミは鳴き声に違いがないから、仕方なく出てくるタイミングをずらしているのではないかと考えます。
アメリカのセミはだから鳴き声がさ、自分の位置を示すマーカーでしかないわけじゃん。
でも日本のセミは位置と種を示すマーカーだから、より鳴き声の重要度が高いわけじゃないですか。だからよりうるさく鳴いてるのかもね。
水野さんも、海外の人が日本の夏のセミのうるささに驚くという話を挙げ、セミについて調べてみたら面白いかもしれないと締めました。
1問目のあとには、別の早押しで水野さんが出したという草刈機の話題にも触れています。キャニコム ── 農業・林業用の運搬車や草刈機を作る日本のメーカー。製品にダジャレの効いた名前を付けることで知られますの草刈機には「草刈正雄」「草なぎ倒」に続き、最新型として「ブッシュカッタージョージJr.草なぎ」があるそうです。
ちょ、盛り込みすぎだ。
慶應SFCと藤沢市の「取り決め」とは
2問目はNMC1710さんからの投稿で、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、通称SFCが題材です。
慶應大学湘南藤沢キャンパスは藤沢市の行政機関と取り決めをしています。一体どんな取り決めをしているでしょうか。
慶應OBの堀元さんは、SFC以外のキャンパスに通う学生がSFCを少しからかう「あるある」を紹介します。サークルの1年生が「SFCって牛の匂いした?」と話すという内容で、水野さんに「SFCの人に怒られるぞ」とたしなめられました。
回答は、大学発ベンチャーの支援、番地のない郵便物の転送、人気講座の前の車の渋滞対策など、どれも外れます。堀元さんは、SFCが首都圏の大学では珍しく許可制で車通学できるという知識を出しましたが、答えとは関係ありませんでした。
知ってる知識が必ずしも答えになるとは限らないってことは、今後の人生でも役立つのでよく覚えておきましょう。
そこで二人は「はい・いいえ」で答えられる質問で絞り込む方式に切り替えます。わかったのは、SFC以外の大学では成立しない取り決めであること、同じ立地に別の大学があっても成り立たないこと、そして人の命が関係していることでした。
さらに絞り込むと、乗り物と災害が関係し、相手は消防署だとわかります。ただし、消防車の待機場所や大学の自治、燃えやすい薬品の保管といった方向はどれも違い、二人はギブアップしました。
なぜ消防署は建物名がわからなかった?
SFCの問題の答えは、建物の名前に関係していました。SFCでは建物にギリシャ文字の名前を付けており、消防署から「通報で建物名を言われてもわからない」と連絡が来たといいます。
クイズの解説は「大講義室はシアターからシグマ館、図書室はメディアセンターからミュー館と名を付けたため、消防署では火災通報時に建物の名前を言われてもわからないとお達しが来ました。火災通報時はその時用に取り決めた建物ごとの番号を言うことになっています」。
シグマ館、ミュー館などギリシャ文字の建物名で伝えても、消防署には場所がわからない
火災通報のときは、取り決めた建物ごとの番号で伝える
水野さんは、今井むつみ ── 慶應義塾大学SFCで教えていた認知科学者。言語の習得や思考を研究しており、ゆる言語学ラジオとも縁があります先生の研究室に呼ばれたとき、どの建物かわからなくなった経験を思い出しています。
話は慶應の図書館の呼び方にも広がります。堀元さんによると、慶應の学生は図書館を「メディアセンター」略して「メディア」と呼ぶそうです。
堀元さんは、三田祭で慶應生を装ってナンパする他大学生を見抜くため「ここ何の建物?」と聞き、「図書館でしょ」と答えたら部外者だとわかる、という学生間のライフハックを紹介しました。水野さんには「差別につながるからやめましょう」と止められています。
解説の補足として、SFCの中央付近にある4つの小さな建物は、左からカッパ、イプシロン、イオタ、オミクロンと並び、頭文字で「KEIO」になっているそうです。
堀元さんはさらに、慶應の入試数学ではK・E・I・Oを並べ替える順列の問題がよく出ると話し、過去問4年分すべてに出ていたと振り返りました。
誤植だらけの原稿で、記事が無事に出たのはなぜ?
3問目は、たくま式ボイラーさんからの投稿です。前回のエウレーカクイズで出た、乱数表とパンチカードにまつわる誤植の問題に、自分で「プルスウルトラ」した形だといいます。
男は誤植だらけの原稿を提出した。おかげでその記事は無事に刊行された。一体なぜだろうか。
堀元さんはまず、円城塔 ── 言葉や文字そのものを題材にした実験的な作風で知られる日本の小説家。『文字渦』は漢字やルビをめぐる短編集ですの『文字渦』のように文字とルビがずれていく小説の技法を挙げますが、それは誤植とは呼ばないと退けられます。
誤植を意図して入れたことはわかりますが、暗号を仕込んだわけでも、誤植のある原文を「ママ」で引用したわけでもありません。
堀元さんは途中で、江戸川乱歩が本に暗号を仕込んだという逸話を語りましたが、その場で調べても該当する事例は見当たらず「ない話を喋っていたかもしれない」と訂正しました。少なくとも江戸川乱歩ではなさそうなので、心当たりがあればコメントで教えてほしいと呼びかけています。
時代を絞ると、舞台は1900年より前のヨーロッパで、18世紀の話だとわかります。水野さんは、十戒の「姦淫するなかれ」からnotが抜けてしまった『姦淫聖書 ── 1631年にイギリスで刷られた欽定訳聖書の誤植版。十戒の「姦淫してはならない」から否定語が抜け落ちたことで知られます』を思い出しますが、無事に出版された話ではないので違います。
題材は小説でも学術書でもなく雑誌でした。言ってはいけない言葉をギャル文字のような書き方で通した、という方向も外れます。
クイズ内クイズ、平凡社の社員が明かした誤植は?
「今年のひどかった誤植特集」という回答が外れたところで、水野さんは『本の雑誌』の誤植特集を紹介します。出版社の人が、過去にやってしまった恥ずかしい誤植を語る企画です。
そこから水野さんは、恒例の「クイズ内クイズ」を出題しました。その特集で平凡社の社員が明かした、雑誌での誤植は何だったかという問題です。
堀元さんは「団塊の世代」を「団魂の世代」と書いた例を挙げます。これは加藤綾子アナウンサーが原稿を読み間違えて話題になった件だと補足しましたが、正解ではありません。
答えは、雑誌の記事の誤りを次の号で訂正しようとして、「おわびと訂正」を「あわびと訂正」と書いてしまった、というものでした。誤植のおわびの中で、また別の誤植が生まれたわけです。
だから誤植のおわびと訂正をしたいところで、また別の誤植が生まれたということですね。すげえ。
水野さんはクイズ内クイズで1ポイントを主張しますが、堀元さんは認めません。クイズ外でポイントが入ったのは、以前の「草なぎ倒」だけだそうです。
本題に戻ると、記事のテーマは誤植と関係がなく、誤植に法則性もないことがわかります。堀元さんは、利用規約にボランティア労働の条項を紛れ込ませても、ほとんどのユーザーが読まずに同意したという実験の話も持ち出しました。
水野さんは、単語の最初と最後の文字が合っていれば読めてしまうタイポグリセミア ── 単語の途中の文字を入れ替えても、最初と最後の文字が正しければ意外と読めてしまう現象。ネット上で広まった言葉ですの記事だったと答えますが、これも外れです。
誤植には目的があり、向けた相手は読者でも社内の人でもなく、ある機関でした。堀元さんが「検閲機関に向けた誤植だ」と迫り、最後に水野さんがまとめる形で正解にたどり着きます。
検閲官は誤字の訂正に気を取られた
クイズの解説は「舞台は18世紀のハプスブルク帝国。当時のヨーロッパでは出版物の事前検閲が義務付けられていました。雑誌記者のヨハネス・シックは、警察長官のゼドルニツキーに提出する原稿をあえて誤字だらけにしました。ゼドルニツキーはその誤字の訂正に気を取られてしまって、内容の確認がおろそかになってしまい、結果、記事は無事世に出ることになった」。
事前検閲
出版物は事前に警察長官の検閲を受ける必要があった
誤字だらけの原稿
記者のヨハネス・シックが、あえて誤字だらけの原稿を提出する
訂正に集中
検閲する側が誤字の訂正に気を取られ、内容の確認がおろそかになる
無事に刊行
記事はそのまま世に出た
出典は菊池良生菊池良生の『検閲帝国ハプスブルク』だそうです。
水野さんは、目の前の「ここを直さなきゃ」にばかり目が行き、全体を見失うことはよくあると受け止めました。堀元さんは、ゆる言語学ラジオの動画チェックでも同じことが起きると話します。
カットの場所微妙におかしくて、変なブレスが入っちゃってる時にテロップに誤字があると誤字の方ばっか気になるから、誤字直してくださいって言って、その変なブレスを見逃して公開されたやつ(がある)。
堀元さんは、この学びを応用して、噛みながら話せば悪口も聞き流されるのではと実演しますが、狙って噛むのは思ったより難しかったようです。
誤字に注意を奪われると内容が素通りされる、という人間の注意の限界を突いた手口だったといえそうです。
ナイトホークより40年前に、ステルス性を持っていた爆撃機は?
4問目は、歩くウォーカーさんからのミリタリーの問題です。以前のクイズで扱われたアメリカの攻撃機ナイトホークに関連しています。
以前、うんちくエウレーカクイズで取り上げられたアメリカの攻撃機ナイトホークは、世界初の実用的なステルス機として有名です。このナイトホークの初飛行は1981年なのですが、そこから遡ること40年。第二次世界大戦中に開発されたイギリスの傑作爆撃機モスキートは、ある特徴ゆえにすでにステルス性を有していました。その特徴とは何でしょう。
二人はまず、ナイトホークの前回のうんちくをおさらいします。機体の前で写真を撮ろうとしたら、カメラのオートフォーカスが合わなかったという話でした。今回問われているのは、レーダーに映らないという意味でのステルス性です。
モスキートは、ステルス機を作ろうとして作られたわけではありません。レーダーの仕組みについて、堀元さんは電波(マイクロ波)を当てて跳ね返りを捉えるものだと確認しました。
水野さんはここで、キューバ原産のつる性植物マルクグラビア・エヴェニア ── 中南米の熱帯に分布するつる性植物の一種。コウモリが花粉を運ぶ植物として研究されていますの話を持ち出します。葉がパラボラアンテナのような形で、超音波で周囲を探るコウモリに音を反射しやすくし、花粉を運んでもらうのだといいます。
ただ、モスキートの答えは形とは無関係でした。塗料、サイズ、羽音、速度、飛ぶ高さもすべて関係なく、当時のレーダーの性能が低かったことだけは関係するようです。
その特徴は、機能を高めるためのものでも、見た目のためのものでもありません。行き詰まったところで、堀元さんが「コストを安くするためのもの」と言い当てます。
さすが経営者。頭横振りするだけで。
材料が関係していると確認したうえで、堀元さんは「節約のために本来使わない材料を使ったせいでレーダーに映らなくなった」と答えて正解しました。
金属の代わりに木で作られた爆撃機
モスキートの特徴の答えは、機体が木で作られていたことでした。
クイズの解説は「このモスキートは戦時中における金属不足を補うために、機体のほぼ全てが木材で構成され、稼働していない家具工場で製造されました。それゆえに、原始的なレーダーでは探知が困難だったと言われます」。
金属不足
戦時中で金属が足りなかった
木材で製造
機体のほぼ全てを木材で作り、稼働していない家具工場で製造した
探知が困難
原始的なレーダーでは探知しにくかったと言われる
めっちゃ嫌じゃない?家具工場で作られた戦闘機乗りたいわ。
解説は、時代遅れの手法の副次的な効果で、当時最新鋭のレーダー技術に対抗できた点が興味深いと結んでいます。出典は白石光『第二次世界大戦 世界の爆撃機』書名だそうです。
水野さんは、アナログが一周回ってデジタルに勝ったと表現しました。堀元さんは、素人すぎて逆に面白いYouTube動画のように、技術力が低いことがかえって良い結果を生んだ例だと例えています。
それが飛んでちゃんとその爆撃ができるっていう事実がすごい。
全4問の結果は、セミと誤植の問題を取った水野さんが2ポイント、モスキートの問題を取った堀元さんが1ポイントで、SFCの問題はどちらも正解できませんでした。堀元さんは誤植の問題を「ネコババだった」として、実質引き分けだと主張しています。
最後に二人は、ゆる言語学ラジオを聴いて「これに関してはこんな話もある」と思ったうんちくも、ぜひ専用の投稿フォームから送ってほしいと呼びかけました。おたよりフォームに送られると答えを見てしまうので、クイズは専用フォームに送ってほしいそうです。
まとめ
今回のプルスウルトラ編では、視聴者が付け足したうんちくから、生き物の進化、大学の建物名、検閲、戦時中の兵器まで幅広い話題が出題されました。どの問題も、意外な理由が一見関係なさそうなところに隠れていたのが特徴です。
- 日本のセミは、周期をずらすのではなく鳴き声の違いで同じ種を見分けている
- 慶應SFCはギリシャ文字の建物名が消防に通じないため、火災通報では建物番号を使う取り決めがある
- 18世紀ハプスブルク帝国の記者は、原稿をあえて誤字だらけにして検閲官の注意をそらした
- イギリスの爆撃機モスキートは金属不足で木製になり、結果的に当時のレーダーに探知されにくかった
- 水野さんは「おわびと訂正」を「あわびと訂正」と誤植した、平凡社の社員の例も紹介した





