インプレッション111万対7万2千、勝ったのはどっち?
前回のゆる言語学ラジオでは、水野さんと堀元さんが同じ日の同じ時刻に本の紹介ポストをXに投稿し、どちらがバズらせられるかを競う企画のために、ツイート文を練り上げました。二人は7月6日、雀荘で麻雀を打ちながら実際に投稿しています。
勝負の基準はインプレッション ── 投稿がユーザーの画面に表示された回数のこと。いいねやリポストのような反応の数とは別の指標で、どれだけ多くの人の目に触れたかを表します数です。負けた方は、勝った方が指定した本を読み、面白かったポイントを相方に伝える罰ゲームを負います。
前回の収録では、水野さんは単純に面白かった本を選び、堀元さんは「ここ10年バズりたいと思って生きてきた」と語るほど、バズに最適化した題材を選んでいました。
先に発表された水野さんのインプレッション数は、7月27日時点で111万でした。リポストは2253、いいねは1万に達しています。
まあまあまあ(水野さんのは)普通にちょっとバズったかなぐらいの感じあって素敵ですよね。
水野さんの投稿は5つの連投で、面白かったのは本の書影と書名を入れた4つ目が特に伸びたことです。4つ目はリポスト529、ブックマーク約1400、インプレッション17万を記録しました。堀元さんは、連投では最初と最後がタイムラインに出やすいので、途中の投稿が伸びるのは特殊だと指摘します。
続いて発表された堀元さんのインプレッション数は、なんと7万2千でした。水野さんのおよそ14分の1です。リポストは191、ブックマークは水野さんの5038に対して124でした。
滑り散らかしてるじゃないかお前。
堀元さんのフォロワーは約4万4500人、水野さんは2万6000人で、アカウント歴も水野さんは2023年からと短い側です。さらに、テスラやイーロン・マスクへの反感を狙って「実名企業の名前を出した」ぶら下げ投稿は、3300インプレッション、リポスト7という結果でした。
本紹介を最後の投稿に入れる「技術」を使った堀元さんですが、その投稿も7300インプレッションにとどまり、水野さんの4つ目の投稿とはブックマーク数で桁が2つ違いました。堀元さんは「桁違いだ」と、負けた側なのに言い張ってみせます。
「最初からこうなると思ってた」は後知恵バイアスか
水野さんが「下馬評と違う意外な結果」と言うと、堀元さんは一転して「順当な結果」だと主張し始めます。水野さんはユーザーを信じて純粋に感動したものを届けた、自分は下心が透けていた、というのがその理屈です。
テスラ、イーロン・マスクへのヘイトを煽れば受けるだろうみたいな発想ってユーザーをなめてんすよ。
水野さんは、前回の堀元さんはまったく逆のことを言っていたと反論します。水野さんのテーマは高尚で抽象的すぎる、バズりやすそうな本を選んで投稿文を逆算するのが勝つコツだ、と語っていたというのです。
堀元さんは「証拠がないから言った言わないの争い」とかわし、自分で「後知恵バイアスって怖いですね」とまで口にします。水野さんは、1文字目のかぎ括弧が抜けた誤字入りの自分の投稿にすら負けていると追い打ちをかけました。
手応えゼロの初速から、トゥギャッターで伸びた水野さんの投稿
投稿当日を振り返ると、二人の初速は変わらず、麻雀を打ちながら「どっちも滑ったな」「企画としてイマイチだったのでは」と話していたといいます。水野さんの投稿が伸び始めたのは、麻雀が終わった夕方ごろでした。
水野さんの投稿は、じわじわとリポストが増えて2日ほどで1万いいねに届きました。トゥギャッター ── X(旧Twitter)の投稿をまとめて一覧できるサービス。「トゥギャザー」と「ツイッター」を組み合わせた名前で、まとめられた投稿が話題になって拡散することがありますにまとめが作られ、そこからの流入も大きかったと水野さんは見ています。
トゥギャッターのコメントは概ね好意的で、「自分の論理の組み立てを見直すきっかけになりそう」といった声が並びました。堀元さんは、結婚式での下ネタツイートがまとめられて荒れに荒れた自分の過去と比べ、好感度の高さをうらやみます。
水野さんは、実は燃える可能性も考えていました。水野さんの紹介した本は文化類型論的な内容で、実際には連続的なものを4つの型に当てはめるのは乱暴だと批判されうるからです。
原著ではアメリカ型とかイラン型っていう言葉を使ってない。
水野さんの投稿の図は、本の内容を水野さんが翻訳して作ったものでした。それでも批判はほとんど来ず、水野さんは「民度が高かった」と振り返ります。堀元さんは「せめて炎上してほしい」と悔しがりました。
百数十冊売れて在庫が消えた本と、1冊だけ売れた本
水野さんの投稿は、本の分野の研究者や版元の岩波書店の関係者にもリポストされました。二人の紹介した本は事前にVALUE BOOKSが仕入れていましたが、水野さんの本は即座に在庫がなくなったといいます。
VALUE BOOKSの担当者の飯田さんからの速報では、投稿の2〜3日後の時点で水野さんの本が百数十冊売れていました。一方、堀元さんが紹介したダークパターン ── ユーザーをだましたり誘導したりして、本人の意図しない購入や登録をさせるWebデザインの手口のこと。ここでは堀元さんが紹介した同名の本を指しますの本は、1冊売れたのみでした。
やっぱ桁が違うんですよ、君とは。やってる年季が全く違うから。
以前、二人でビブリオバトルをしたときは、堀元さんが紹介したサマセット・モームの『サミングアップ』と水野さんの『物価とは何か』が197冊と198冊で競り合い、飯田さんも毎日のように報告をくれていました。今回は、それ以降一度も報告が来ないそうです。
水野さんの紹介をきっかけに、著者である渡辺雅子さんの『納得の構造』などの関連書までAmazonから消え、友人から苦情を言われたほどでした。水野さんは「友達にLINEで送った方がまだ売れた」とからかいます。
俺が何一生懸命発信してきたなんか5万人弱ぐらいのフォロワーっていらないの?もしかして。
堀元さんは、ダークパターンの本自体は面白かったとして、ゆるコンピューター科学ラジオで改めて取り上げて売ると約束しました。
ハイライト芸はなぜ今回ウケなかったのか
反省会では、まず水野さんの投稿の図が話題になります。図はゆるコンピューター科学ラジオのサムネイルを手がけるデザイン事務所ダンデライオンに依頼したもので、国旗だけだった案に「いらすとや」のイラストを入れる提案や、色味の調整をしてもらったといいます。
堀元さんはデザインを発注せず、自分の定番であるKindleのハイライト画像を貼る手法で臨みました。このスタイルで過去に5万リポストほど出してきたので、今回もいけると考えたそうです。
改めて振り返った堀元さんは、過去にウケたハイライトは情報が詰め詰めだったと気づきます。例に挙がったのが、5700リポストほどされた『封印されたアダルトビデオ』の紹介です。
『封印されたアダルトビデオ』の投稿では、ページ丸ごとが面白いスクリーンショットを4枚貼り、特にすごい所だけをハイライトしていました。フィリピンの熱心な信仰の祭りにAV撮影であることを隠して参加し、後に国際問題になった男優の話などが載っています。堀元さんは、嘘をついて海外の行事に参加するのは絶対にやめてほしいと念を押しました。
今回バズりたいって思ってるから、情報量が少ないの。
今回のダークパターンの投稿では、文字が多いと読むのが面倒がられると考え、ハイライトする範囲を極限まで狭めていました。純粋に面白さを共有したかった過去とは、同じ手法でも中身が変わっていたわけです。
面白いページを丸ごと複数枚貼り、衝撃の部分をハイライト。情報がギチギチで、読書体験の一部になっていた
読みやすさを狙って範囲を極限まで狭めた。情報量が少なく、滑った
下馬評を覆したのは素直さだった?
堀元さんの反省は、1投稿1トピックという方針自体は一貫していたものの、バズりたいという気持ちで「フォーム」が崩れたという点に集約されます。
次にやるなら題材はストレートに選ぶべきだ、と二人は意見を合わせます。水野さんは、素直に面白かったことが文面から伝わるかどうかが大事だと語り、自分が本当に面白いと長文で投稿する癖も効いたかもしれないと付け加えました。
実は堀元さんの投稿も、水野さんの投稿と同じ人がトゥギャッターにまとめていました。ところが、水野さんのまとめが28万ビュー、お気に入り725だったのに対し、堀元さんのまとめは7700ビュー、お気に入り14、Facebookシェアは0でした。
水野さんは、下馬評では堀元さんが絶対勝つ流れだったと振り返り、二人とも想定ユーザーを舐めすぎていたのだろうとまとめます。ここでも堀元さんは「お客様を舐めている商売人は足元をすくわれる」と語り、水野さんに「どの面下げて」と突っ込まれました。
バズはタイミングが命、好きな人間発表ドラゴンの妙
水野さんは、同じ文面を別の日に投稿していたら伸び方がまったく違った可能性もあると指摘し、堀元さんも時流の影響を認めます。
堀元さんがタイミングの例として挙げたのが、ネットミーム「好きな惣菜発表ドラゴン」から生まれた「好きな人間発表ドラゴン」です。好きな惣菜発表ドラゴンは、オリジナルの歌に乗せて数字のドラゴンが好きな惣菜を順に発表するフォーマットで、ドラゴンが平和なことを言うギャップが面白さでした。
好きな人間発表ドラゴンは、そのギャップの逆張りの逆張りで、ドラゴンが人間を次々と食い尽くしていきます。最後は姫を食べようとするドラゴンの前に「使命を背負って戦うやつ」という名の英雄が現れ、戦う場面で終わる物語性まで備えていると堀元さんは絶賛します。
ある程度好きな惣菜発表ドラゴンがもう出揃って、みんなこのフォーマットに慣れた時にやらないと意味ないから、多分これ1ヶ月早くても遅くてもダメだったと思うんですよね。
好きな人間発表ドラゴンは170万回再生されました。堀元さんは、自分の投稿もAmazonの詐欺的な画面設計に米国の当局が警告を出したような時期なら受けたかもしれないと言いますが、水野さんは「それも含めてテーマ選び」と返し、立場が逆転した堀元さんは悔しがります。
元ネタ
ドラゴンが平和に惣菜を発表するギャップで流行
フォーマット浸透
作品が出揃い、みんなが形式に慣れる
逆張りの逆張り
ドラゴンが人間を食べ、英雄との物語まで描く
完璧なタイミング
170万回再生されるバズに
再戦の条件と、経験が足かせになるという誤算
堀元さんがリベンジを申し出ると、水野さんは「頭を下げたらいい」「他の人に一度勝ってから」と条件を出し、堀元さんは「J2で戦って昇格したら挑む」と乗ってみせます。
二人とも、この企画は楽しかったと振り返ります。水野さんは、投稿を面白くする観点で本を読むのは、番組で紹介するために読むのとは違う筋肉を使うと語りました。
読書家がよくやるテクニックだと思うんですけど、読んでないけど確実に面白いことを知っているって状態あるじゃないですか。
水野さんは紹介した本を、帯の内容から絶対面白いと思いつつ未読のままにしていました。この企画を持ちかけた理由の3割ほどは、その本を読むきっかけを無理やり作ることだったそうです。
堀元さんは、自分が過去の経験に足を取られたのかもしれないと分析します。以前、Netflixのドラマで全話に「自殺描写」の警告が出るためネタバレになる、という仕方なさを投稿したところ、Netflixへの反感を持つ人の引用ツイートが殺到してバズった経験がありました。
堀元さんはダークパターンでも同じ怒りを呼び込めると考えて本を選びましたが、結果は「凪」でした。水野さんも、日本語は非論理的という主張に一言ある人を狙った仕掛けを入れたものの、実際の反応は内容への感心が中心で、感情的な人はあまりいなかったといいます。
水野さんはフォロワーにそういう人が少ないのは恵まれていると考えますが、堀元さんは、2000リポストされれば普段見ていない人にも届くので、フォロワーの民度とはあまり関係ないのではと返しました。
罰ゲームで堀元さんが読む本は?
勝敗の振り返りを終えた水野さんは、再戦は年に1回ぐらいならと応じ、堀元さんは「来年は広告に100万つぎ込む」と手段を選ばない構えを見せます。二人は、たまに気合を入れて文面を考えるのはいい修行になると話しました。
罰ゲームの本選びでは、堀元さんが絵本の『おおきなかぶ』を勧めて即却下されます。水野さんは、堀元さんが最初の3割だけ読んで「読んだ」と言う癖を警戒します。
堀元さんは、ブルーバックス ── 講談社が刊行する一般向け科学書のシリーズ。数学・物理・生物・食など幅広い分野を扱っていますの『おいしい穀物の科学』で、ソバがある軸とある軸のマトリックスで特異な位置に来るのが面白かったと語ります。ところが軸が何かを答えられず、飛行機で20分読んで寝落ちしただけだと白状しました。
水野さんが候補に挙げたのは3冊です。1冊目は、堀元さんが卒論で引用したグライス ── 言語哲学者ポール・グライス。会話で人が暗黙に守っている「協調の原理」を提唱したことで知られますの『論理と会話』でした。
2冊目は戸田山和久さんの『論理学をつくる』で、プログラミング言語の制作とも結びつく内容として挙がりました。3冊目はハーバート・A・サイモン ── アメリカの経済学者・認知科学者。ノーベル経済学賞を受賞し、人間の合理性には限界があるという考え方を意思決定の研究に持ち込みましたの『意思決定と合理性』です。
| 書名 | 分量 | 水野さんの紹介 |
|---|---|---|
| 論理と会話 | 384ページ | 堀元さんが卒論で引用したグライスの本 |
| 論理学をつくる | 約400ページ | 人工言語の話で堀元さんにもわかる内容。水野さんは3章ほどで中断 |
| 意思決定と合理性 | 192ページの文庫 | 合理性を資源と捉える考え方の本。行動経済学好きに向く |
水野さんによれば、サイモンは合理性を資源と捉え、人間は有限の資源の中で関心を振り向けていると考えました。スーパーの1円の差を調べるかどうかも、その資源とのトレードオフで判断されるという話で、堀元さんは「資源として捉えるんだってことが大きい」と興味を示します。
締め切りは年内です。堀元さんはまた「大きなかぶ」と言いかけて叱られ、最終的に200ページ弱の『意思決定と合理性』を読むことに決めました。
(水野さんに)ちょっと間違ったことを吹き込んでしまっても、こいつがその責任を負うから構わんなっていう。非常に合理的な意思決定を僕は今しています。
最後に二人は、なぜ一方の投稿は拡散し、もう一方はしなかったのか、リスナーからの「後知恵バイアス」も含めた考察を募集して回を締めくくりました。
まとめ
バズを知り尽くしたはずの堀元さんが、素直に面白い本を選んだ水野さんに約14分の1のインプレッションで大敗した回です。二人は、ユーザーを舐めない題材選びと、バズを狙ってフォームを崩さないこと、そして時流やタイミングの大切さを振り返りました。
- 水野さんの投稿は111万インプレッション、堀元さんは7万2千で、売れた本も百数十冊対1冊と大差がついた
- 堀元さんは、バズを狙って情報量を削ったことでハイライト芸の強みが消えたと反省した
- 二人とも想定ユーザーを舐めすぎており、素直に面白さが伝わる投稿が強かった
- 好きな人間発表ドラゴンの例から、バズには出すタイミングが欠かせないと話された
- 罰ゲームとして、堀元さんはサイモンの『意思決定と合理性』を年内に読むことになった




