本紹介ツイート対決、ルールと罰ゲームは?
この回の企画は、水野さんと堀元さんが本紹介ツイートを同時刻に投稿し、どちらがバズらせられるかを競う対決です。きっかけは、水野さんの個人アカウントで本の紹介ツイートが何度か拡散されたことでした。
水野さんは、『言語の本質』や『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を紹介したツイートが、出版社によって新聞広告やPOPに使われた経験を挙げます。そこから「知見が溜まってきた」と感じ、堀元さんを超えたのではと挑発します。
おいおい、聞き捨てならねえな。
堀元さんも、自分が紹介した本がAmazon経由で5000冊売れた経験があると反論します。ただ、本の帯の依頼は水野さんにばかり来て、堀元さんには1件も来ていないといいます。
本売る力は別に俺そんなに水野さんに負けてる気もしないんだけど、好感度で負けてる。
勝負の基準は本の売上ではなく、インプレッション数に絞られました。インプレッションは、みんなのタイムラインに表示された回数の総合計で、リポストやいいねの数は関係ありません。
罰ゲームは、勝った側が「読みたいけれど面倒で読んでいない本」を指定し、負けた側に読ませて要約と面白かった箇所を聞くというものです。堀元さんは、デュルケーム ── フランスの社会学者。社会学の確立者の一人とされ、『自殺論』では自殺を個人の問題ではなく社会的要因から分析しましたの『自殺論』を読み終えたので、次はウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を水野さんに読ませたいと話します。
Twitterは遊びか、営業ツールか
インターネット芸人歴11年ほどの堀元さんは、今回の企画に「燃える」と語ります。一方で、水野さんのTwitterの使い方は、友達の投稿を引用して絡むような、仲間内のコミュニケーションに近いと指摘します。
いかにインターネットで露出を増やして、自分のコンテンツに誘客してお金につなげるかのツールですから、SNSって。
遊びでやってんじゃないんだから、Twitterは。
堀元さんは、ちゃんとバズりに行くときはツイートを推敲するといいます。水野さんは、手応えのあるツイートが伸びず、手癖でつぶやいたものがバズることがあると話します。
実際、水野さんの『言語の本質』の紹介は構成を練ったものでしたが、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の紹介は、ゲラを読んだ感想を推敲せずに書いただけでした。それでも4196リツイート、2.4万いいねまで伸びたといいます。
堀元さんは、狙って練ったツイートの打率を体感で6割ほどと答えます。逆に、日常ツイートは狙わずに書いたものが伸びることが多く、友達の結婚式帰りに酔って書いたツイートが拡散されて怒られた経験も挙げます。
推敲しない編集者と「金をもらえば推敲する」芸人
水野さんは普段ツイートをほとんど推敲せず、誤字をスレッドで直していると明かします。堀元さんが「編集者なのにブランド毀損にならないか」と突っ込むと、水野さんはこう返します。
Twitterから金もらったら推敲しますけど、(Twitterは)職業としてやってるんで。むしろ誤字まみれで出すことこそが僕のプロフェッショナルですよ。
堀元さんはこの返しを「インターネット芸人の始まり」と歓迎し、こち亀 ── 秋本治による漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の略称。主人公の警察官・両津勘吉(両さん)の型破りな行動が描かれますの両さんがギャラ10万円と聞いて態度を変える場面に、自分を重ねてしまうと笑います。
水野さんのTwitterの目的は、ゆる言語学ラジオの最新回の告知、献本の紹介、面白かった本を勢いで投稿することが中心です。国語辞典の通読メモも投稿していますが、こちらは全くバズらないといいます。
投稿時間はいつ?平日夜と土日の違い
堀元さんは「絶対にバズるTwitter術」として、まず投稿時間の大切さを挙げます。ビジネス層を狙うなら、サラリーマンの通勤時間である朝8時と夕方5時がインプレッションを伸ばしやすいといいます。
水野さんは、告知は昼、雑学は夜8時や9時に投稿していたと話し、堀元さんに「全然ダメ」と言われます。ただ堀元さんも、ゆる言語学ラジオはビジネスパーソンを狙っていないので、そこまで関係ないかもしれないと補足します。
基本は、刺したい層から逆算して、その人たちがスマホを見る時間を狙うことです。堀元さんは例として、夏休みの8月にYouTuberの動画投稿が増えることを挙げます。
本紹介ツイートについては、平日夜の8時ごろが基本だといいます。土日は人が薄く長くいるだけで、一斉に集まる時間帯がないため、瞬間風速を出しにくいという考え方です。
仕事を終えて家でリラックスしながらスマホを見る人が一斉にいる。初日に一気に伸ばすのを狙いやすい
人はずっといるが、ボリュームゾーンの時間帯がない。瞬間風速は出しにくいが、土曜昼から日曜夜まで長く見られる可能性がある
一方で堀元さんは、こうした小手先の技術を吹き飛ばす考えとして、インフルエンサーになる方法は「すげえ面白いことを言え」だと書いたnoteを挙げます。水野さんはそれに同意しつつ、本紹介では面白い以上に「拡散したくなる動線」を引かなければならないと話します。
水野さんの論理的思考本ツイートは何点?
水野さんが紹介するのは、渡辺先生の『「論理的思考」の文化的基盤』です。4500円、ハードカバー300ページ弱の学術書で、ツイート案は、論理的な構成や合理的な行動は社会によって作られ、4タイプの文化差があるという主張を紹介し、「非合理的、非論理的な人に腹立ってる人は絶対に読んでほしい」と締めるものでした。
水野さんの狙いは、人の感情を刺激することです。合理性や論理性を求められる場面が増えるなかで、非論理的な人に腹を立てている層に当てにいく仕掛けを最後の一言に込めました。
いや、52点。
堀元さんの評価は、主張がパッと見て難しいというものでした。「4タイプの文化差がある」は一発でピンとこないので、「皆さん落ち着いて聞いてください。実は論理なんてないんです」くらい言い切ってもいいと提案します。
さらに堀元さんは、連続ツイートを前提に「1ツイート1トピックの原則」を挙げます。水野さんの案は本の面白さ、狙う層、要約を1つに詰め込んでいたため、とんでもない主張1つで突き抜けるべきだといいます。
(とんでもない主張)一個がすげえぞっていうのだけで突き抜けるべき。この主張やばすぎない?っていう。
堀元さんの『ダークパターン』ツイートは何を仕込んだのか
堀元さんのツイート案は、「通販サイトとかで送料がバカ高いのを後から知らされるクソ体験あるじゃないですか」と始まります。続けて、合理的な経営者はそれをやってしまう運命で、最終確認画面で上乗せしたほうが売上が21%増えるというデータを示します。
添付画像はKindleでハイライトした本文のスクリーンショットです。堀元さんは自らを「Kindleのハイライト芸人」と呼び、フォロワーはハイライト部分を読むのに慣れていると話します。
ただ堀元さん自身、書いたあとで「無理にバズらせようとしてフォームを崩した」と感じたといいます。普段は「運命なんです」や「〜あるじゃないですか」とは言わないからです。
普段僕っぽいツイートしてるんだけど、バズろうって強く思うと怪しいビジネス系アカウントになる。あれもう必然なんだ、あの文体。
堀元さんが意識したもう1つの点は、具体性です。本の中では「隠れコスト」と呼ばれる現象を、あえて「通販で送料がバカ高い」という体験に置き換え、読者が「私もその経験ある」と感じるようにしました。
水野さんも、尼崎の連続殺人事件を扱った『家族喰い』は具体性があってツイートにしやすいと考えましたが、普段のフォームを崩すと思い候補から外しました。堀元さんは、アメリカではTrueCrime ── 実在の犯罪事件を題材にしたノンフィクションのジャンル。アメリカではPodcastやドキュメンタリーで特に人気がありますがウケるものの、日本では犯罪ものは怖がられて拡散されにくい印象があると話します。
ツッコミどころはなぜ残すのか
堀元さんが次に挙げた工夫は、あえてツッコミどころを残すことです。引用リツイートやリプライで反発してもらうことで拡散が進むからです。
合理的な経営者はあれをやっちゃう運命なんですって書いてるんですけど、運命ではないんす。
データから言えることを逸脱した「運命」という言葉に、ツッコミが集まると見込んだといいます。水野さんは「倫理的にまだできない」と驚きます。
水野さんは、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』のツイートにも「働いてる人はこの本読めなくね?」という冷笑的な反応が多く来たと振り返ります。ただ、水野さんはその本は誰がつぶやいてもバズると考えています。
みんながそのモヤモヤしてることを的確に言語化しつつ、かつ何か物申したくなるっていう両方の層が重なった書名だから。
堀元さんも過去に『欠乏の行動経済学』を紹介し、3万6000いいね、2万リツイートまで伸びた経験があります。普段なら6000リツイート程度の比率のところ、「人は貧乏だとIQが下がる」という書き出しに物申したい人が集まり、「貧すれば鈍する」とだけ引用する人が2000人ほどいたといいます。
言い切る
「運命」「IQが下がる」など、少しはみ出した表現を入れる
物申したくなる
読者が「それは違う」「その言葉知ってる」と反応したくなる
引用・リプライ
反発や自分語りの引用ツイートが増える
拡散
リツイート比が普段より大きくなる
負の感情が集まる題材をどう選ぶか
堀元さんは、題材選びの時点で負の感情を意識していました。紹介する『ダークパターン 人を欺くデザインの手口と対策』は、決済時に急に送料が現れる、解約しようとしても延々と質問に答えさせられるといった、誰もが身近でイライラした経験のある手口を扱う本です。
インターネットってさ、人間の負の感情が一番伸びるからさ。
候補にはもう1冊、真夏の工場の暑さなど工場勤務のあるあるを集めた本もあったといいます。水野さんは「気に入っている本をバズるように紹介するのではなかったのか」と問いますが、堀元さんの答えは逆でした。
堀元さんによれば、まず怒り、憎しみ、悲しみが集まる場所を探すことからバズは始まります。解約させてくれないサービスへの怒りは実際によく伸びているので、「あなたのイライラを昇華する術がここにある」と投げ込む意味でも良い題材だと考えたといいます。
5連ツイートの設計と、テスラ・Airbnbの実例
堀元さんの案は5つの連続ツイートで構成されています。1つ目がハイライト付きのデータ、2つ目が引用元の本の紹介で、有名企業の実例が豊富だと書いてツリーの続きへ誘導します。
3つ目では実例を並べ、1番目にテスラを置きました。4000ドル(60万円)のアプリをワンタップで購入させ、返金に応じないという事例で、Twitterに多いイーロン・マスクのアンチが引用ツイートしたくなると見込んでいます。
目突き金的ありのバーリートゥです。
2番目の実例は、宿泊料の他に隠れコストがあり、見た目より35%高くなるAirbnbです。堀元さんは4年前ごろ、1泊1万円のはずがタックスやサービスフィー、清掃料で1万5000円ほどになった経験を挙げ、体験者の多い例を選んだと話します。
本にはもっと意味のある例も多くありましたが、バズらないものは一切取り上げていないといいます。4つ目はイギリスの調査で、望まないサブスクリプションに年間1万〜2万円程度払っているという話、5つ目で改めて本を紹介します。
堀元さんは、バズることだけを目的にツイートを作ったのは初めてで、「こんな感じになるんだ俺」という自己発見があったと語ります。
バズの天井を突き抜けるには何が要るのか
水野さんは、自分のツイートを何でもいいねしてくれる層の外まで届く途中で、「一晩で4000いいね、1万はいかない」ような中間があると話します。その中間と、天井を突き抜けるケースの違いがよくわからないといいます。
堀元さんは、SNSマーケティングでよく言われる考え方として、自分のクラスタには確実に届くものの、外に広げるには他のクラスタともつながるインフルエンサーの拡散が大事だと説明します。ブロガー界隈にいた頃は、特定の傾向のツイートをするとけんすうさんがリツイートしてくれる、といった狙い方もあったそうです。
水野さんは計算社会科学 ── SNSの投稿データなど大量のデジタルデータを使い、社会現象を計算機で分析する学問分野の知見として、コロナワクチンのデマは多くのフォロワーを持つ10人ほどの拡散者に拾われると一気に広がる構造だったという話を紹介します。堀元さんは「わずかなハブの人たちが全ての伝播を担っている」とまとめます。
そのうえで水野さんは、自分の案が堀元さんの案と違ってビジネスパーソンを狙っている点に気づきます。「ビジネスパーソンこそ読んでほしい」とペルソナをはっきりさせ、具体性を増す方向で作り直す案が出ました。
酒を飲んでいても読めるか?編集者の推敲
今度は水野さんが堀元さんの案を推敲します。「正直に金額を見せた場合よりも、最終確認の画面でいきなり上乗せした場合の方が売上が21%増える」という一文は、読む負荷が大きいと指摘しました。
僕、バズツイートの特徴って酒飲んでてもわかる。
水野さんの代案は「正直に金額を見せない方が売上が21%増える」です。何と比較しているのかと気になって、かえって読みたくなるといいます。
さらに「後から知らされる」を「後から発覚する」に変える案も出ます。水野さんは、「知らされる」はニュートラルだが「発覚する」は悪いことっぽく響くと説明し、堀元さんは編集者らしい視点だと感心します。
送料がバカ高いのを後から知らされる/正直に金額を見せた場合よりも、最終確認の画面でいきなり上乗せした場合の方が売上が21%増える
送料がバカ高いのが後から発覚する/正直に値段を見せるよりぼったくった方が売上は20%増えるらしい
水野さんは、「合理的な経営者はあれをやっちゃう運命なんです」には感情の動きがあまりないとも指摘します。被害者感を出したい堀元さんに対し、隠された世の仕組みに気づいて愕然とした、という書き方もあると提案しました。
最終的に水野さんは、「世には広めたくないデータです」という前置きと「ぼったくった方が」という強い言葉を提案します。怒りの矛先が「合理的な判断」という言葉を通して経営者に向く、という設計です。
詐欺してくる経営者に対する怒りの導線がこの上なく綺麗に舗装されている。
本の切り抜きより「送料9999円」の画像?
水野さんは画像についても、本の切り抜きではなく「単価1円、送料9999円」のような通販画面のスクリーンショットのほうがいいのではと提案します。堀元さんは、Amazonを貼るのは敵を作りすぎだと感じつつ、通販サイトっぽい画像を自作する案に乗ります。
水野さんは、雑誌でイメージ写真を使うのと同じで問題はなく、ダークパターンが知られれば詐欺が減ることにもつながると話します。ハイライト画像は2つ目のツイートでじっくり読ませればいいという構成です。
堀元さんも、本の中の図は小さいうえに英語でわかりにくく、切り抜きながら損をしていると感じていたと明かします。正解は、日本語で典型的な高額送料の画像を作って置くことだと納得しました。
積極的な動詞を選ぶ編集者の技術と次回予告
推敲が長引いたため、実際の投稿と結果発表は次回に持ち越しになりました。堀元さんは、昔死ぬほどやったWebマーケティングの話ができて楽しかったと振り返ります。
水野さんは、ニュートラルな動詞ではなく積極的な動詞を選ぶのが編集者の視点だと説明します。自分の案でも、「見せる」より「言っちゃう」のような補助動詞で差を出すと、正直に言ってしまうのは過失だというニュアンスが出るといいます。
普段はなんか読者の方がそれこそお酒飲んで経済系の入門記事みたいに読んでも読めるように凝るみたいなことはしてるので。
水野さんによれば、雑誌の読者のために普段している工夫を応用すると、こうなってしまうということです。堀元さんは「これで水野さんの好感度も下がった、同じところまで引きずり下ろした」と笑い、帯の依頼も来なくなると締めました。
まとめ
本紹介ツイート対決の準備回では、インターネット芸人として長くTwitterと向き合ってきた堀元さんの手法と、編集者である水野さんの言葉選びがぶつかり合いました。投稿時間や構成、題材選びから一語の動詞まで、拡散される文面は細部の設計でできていることが見えてきます。
- 本紹介ツイートは平日夜が基本で、土日は瞬間風速を出しにくいと堀元さんは話す
- 1ツイート1トピックで、パッと見てわかる具体的な主張1つで突き抜けるのが基本
- あえてツッコミどころを残すと、引用リツイートやリプライで拡散が進む
- 堀元さんは、怒りや憎しみなど負の感情が集まる題材から選ぶのが早いと考えている
- 水野さんは「発覚する」「ぼったくる」など積極的な動詞を選び、酒を飲んでいても読める文面にする推敲を提案した





