知らないオノマトペは推測できるのか
今回のゆる言語学ラジオは、水野さんが用意した「作家なら知らないオノマトペの意味を当てられるのか」というクイズ企画です。オノマトペの話が続いて食傷気味だと話す堀元さんは、クイズ形式なら面白いと乗り気でした。
水野さんによると、この回のクイズ全5問は、今後公開予定のオノマトペ回の伏線になっています。2024年上半期はオノマトペ回が続く見込みで、リサーチの「貯金」があるため、今は好きな本を読む余裕があるそうです。
このクイズの回はですね、そのクイズそれぞれが今後来るオノマトペ回の伏線になっております。
あと5回あるの?オノマトペ回。
本題に入る前に、2人は英語論文を読むときの失敗談を語ります。堀元さんは、ゆるコンピューター科学ラジオのゲスト回に向けて先生の英語論文を読み込み台本を送ったところ、褒められた直後に「根本的に理解が間違っています」とコメントされたといいます。
水野さんの失敗談は機械翻訳です。シジュウカラの文法を研究する鈴木敏孝先生の英語論文をGoogle翻訳で読んだところ、先生が「おっぱい」ばかり研究しているような訳文になっていました。
(調べたら)シジュウカラを意味するtitがおっぱいを意味するせいで、先生おっぱい研究者みたいになっちゃってて。
「柳のおっぱい」などの訳を見て、水野さんは英語論文は英語のまま読めたらいいと感じたそうです。鈴木先生本人に伝えたところ、よく言われることだったといいます。
不正解なら黒歴史を公開するルール
クイズには罰ゲームがあります。堀元さんが不正解だった場合、水野さんが堀元さんの過去の文章を「素晴らしい作品」として紹介するというルールです。
幸運なことに、堀本さんの素晴らしい作品を皆さんに知っていただく時間にしたいと思います。
水野さんによると、前回の語源クイズを見た鈴木敏孝先生も、この企画を楽しんでいたそうです。堀元さんは東大先端研の先生にもいじられていると嘆きつつ、全問正解するので過去作は出てこないと宣言しました。
「ガビガビ」はもともと解像度の言葉ではなかった?
第1問は「新たなオノマトペ」がテーマで、ガビガビの意味を4択から選ぶ問題です。選択肢は「画像や動画の解像度が粗い様」「物が詰まっている様」「味がぼんやりしている様」「楽器の音が鈍く重い様」の4つでした。
堀元さんは迷わず1番を選び、劣化したJPEGが送られてきたときに「ガビガビ」と言うと説明して正解しました。
水野さんが掘り下げたのは、ガビガビのもともとの意味です。辞書では、水気や油気が抜けて、ひどく乾いてこわばった状態になる様を指すといいます。
水気や油気が抜けて乾き、こわばった様(鼻の下がガビガビになる、パンがガビガビしている)
画像や動画の解像度が粗い様
堀元さんが挙げた「スマホがサクサク動く」は、物事がサクサク進むという用法がスマホにも広がった「拡張」に近いと水野さんは見ています。一方でガビガビの場合は、乾いている意味と解像度の意味の距離が遠いと指摘します。
僕ちょっとこの意味変化を追ってないんですけど、全く違う系統のルートの可能性もありますよね。
ちなみに水野さんは、ガビガビを解像度の意味で使うことを堀元さんの発言で知ったそうです。そのため第1問の正解は織り込み済みで、ここから難易度が上がっていくと告げました。
北海道方言の「ずらずら」が指すものは?
第2問は方言オノマトペで、北海道出身の堀元さんに向けて北海道方言の「ずらずら」が出題されました。選択肢は「寒い様」「文句を言う様」「舌っ足らずな様」「通り一遍な様」です。
堀元さんはまず、寒い様子は「ずらずら」の響きと合わないと除外しました。寒さの言葉には「冷え冷え」のようなは行が多いという感覚からです。
寒いが一番意味わかんない。寒い時の感じってずらずらじゃないもん。
水野さんは、オノマトペの意味は推測できるという前提で人は言葉を使っているものの、方言オノマトペの世界には推測できないものもあると補足します。
堀元さんは「文句ばっかり言ってるやつの語尾はズラ」という連想から、2番の「文句を言う様」を選びました。しかし正解は4番の「通り一遍な様」でした。
水野さんの出典は『オノマトペ 擬音語・擬態語の世界』の109ページで、ずらずらは「通り一遍に」という意味で、「バスでずらずら通っただけだ」という例文が載っているそうです。
2人ともこの用法は聞いたことがないといいます。堀元さんは札幌の中心部付近で育ったため方言があまり残っていなかったのかもしれないと話し、母親が沖縄出身という家庭環境もあるのかもしれないと水野さんは触れました。
ヒヨコ小屋で途絶えた往復書簡
第2問の不正解で、最初の過去作公開が行われました。水野さんはまず、堀元さんの直近の有料noteの結論が「コツコツ努力することが成功の黄金律」だったことを確認します。
そのうえで水野さんが読み上げたのは、「理屈っぽい二人が理屈っぽい話をする往復書簡」の一節でした。署名の部分だけを読み上げる形です。
2018年4月27日、堀本、鴨川市のあの村でヒヨコ小屋を眺めながら。
売れっ子の先生が後書きに書きそうな締め方だと2人は笑います。この往復書簡は2018年5月5日に相手が返信したきり、堀元さんの返信が途絶えているそうです。
最初は存在すら忘れていた堀元さんですが、話すうちに記憶がよみがえります。始めたきっかけは、夏目漱石と正岡子規の往復書簡に憧れたことでした。
やっぱ俺も死んだ後に往復書簡発掘されて発行されてえなと。
死後まで置いといてくれよそれ。
古事記の「もゆらに」は何の音?
第3問はオノマトペと歴史がテーマで、古事記に登場する「もゆらに」の意味が出題されました。堀元さんは最初に「萌えアニメのタイトルみたい」と反応します。
選択肢が出る前に、堀元さんは「萌ゆ」との関係から草木が芽吹く様子だと予想しましたが、これは選択肢にありませんでした。選択肢は「波の立つ様」「玉の触れ合う音」「熱い様」「子供が泣きわめく音」です。
水野さんは、「もゆらに」は「もゆら」に、「パタパタと」の「と」のような助詞「に」が付いた形だと説明します。「やにわに」の「に」と同じだろうという補足です。
堀元さんは一度「波の立つ様」を選んだあと、最後に「玉の触れ合う音」へ変更しました。波には代わりの表現がありそうで、玉がぶつかり合う専用の言葉ならおしゃれだという理由です。
玉がぶつかり合う時専用のオノマトペ、副詞として、玉がぶつかり合ってもゆらになっている。これはね、おしゃれだし、語彙として入れときたくなりますから、こっちです。
正解は2番の「玉の触れ合う音」でした。古事記では、首飾りの玉の紐をゆらゆらと揺らす場面で使われているそうです。
ただし水野さんによると、もゆらにの意味は辞書によって「ゆらゆらと」とも「玉などが触れ合う音」とも書かれています。意味ははっきり確定していないものの、玉が音を立てている場面で使われていたことはわかる、というのが水野さんが読んだ資料の説明でした。
ニュートンのゆりかごは「カチカチ玉」
もゆらにの正解を受けて、堀元さんは昔の人がニュートンの振り子を見たら「もゆらに」と言うのではないかと連想します。中学の理科の授業で先生が持ってきた、玉が並んで両端だけが揺れる装置のことです。
調べてみると、正式にはニュートンのゆりかごで、フーコーの振り子と混ざっていたことがわかりました。Wikipediaには、アイザック・ニュートンにちなんで名付けられたもので、発案者ははっきりしないと書かれていたそうです。
堀元さんが紹介したのは、ニュートンのゆりかごの日本での別名でした。水野さんの「モユラニゆりかご?」という回答に対し、正解は「カチカチ玉」です。
てかアプローチ近。オノマトペでいったな。
さらに堀元さんは、ガリレオにちなんで「ガリレオ砲」や「ボールピラミッド」と呼ばれる器具の日本語名が「すっ飛びボール」だと紹介しました。
韓国語の「オルマンジョルマン」を当てる
第4問から外国語のオノマトペに移ります。水野さんは、英語の鶏の鳴き声「クックドゥドゥルドゥ」のようにピンとこないものは避け、感性の近い韓国語を選んだと説明しました。
韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を全話見たばかりの堀元さんは、なだめる「どうどう」の韓国語版が出てきたと語り始めますが、肝心の言葉を思い出せません。
え、何今の語り出し。え、初めて見たこのパターン。え?何それ。すご、発明じゃん。
出典は『絵でわかる韓国語のオノマトペ』です。韓国語のオノマトペだけで本が出ていることに堀元さんは驚きます。水野さんは、日本語に対応する一語がないオノマトペを選んだと話しました。
出題されたのは「オルマンジョルマン」です。水野さんによると、韓国語には「オルマン」のような形を重ね、後ろの子音を変えるタイプのオノマトペがあるそうです。
選択肢は次の4つで、正解以外の3つは水野さんが作ったダミーです。
| 番号 | 選択肢 | 堀元さんの感触 |
|---|---|---|
| 1 | 少人数の中で抜きん出て優れた様子 | 少人数が合わない |
| 2 | 可愛くて同じ年頃の子供たちがたくさん集まっている様子 | 量が多い感じで最有力 |
| 3 | 漁や農業で成果がはかばかしい様子 | 量が多い系で候補 |
| 4 | 相手から見て非常に離れ、目に見えない位置にある様子 | ありえない |
堀元さんは「ノルマン・コンクエストが来た時の音」と脱線を繰り返しながらも、オルマンジョルマンには量が多そうな響きがあると判断し、2番を選びました。正解は2番です。
ちょっとこれ当てられるとは思ってなかったな。
4問中3問正解となった後、堀元さんがドラマの「どうどう」を検索すると、韓国語では「ウォウォ」に相当するとわかりました。パーティーのような響きとのギャップで、強く記憶に残っていたそうです。
カナナ・ブリュッと・ノー・チュンの共通点
最終問題は、別々の言語のオノマトペ4つが共通して指す意味を当てる形式です。出題されたのは「カナナ」「ブリュッと」「ノー」「チュン」でした。
選択肢は「犬の鳴く様子」「温厚な様子」「静かな様子」「眠る様子」です。堀元さんは「ブリュッと」も「カナナ」もうるさい響きだとして、温厚と静かを外しました。
カナナーもならないし、うるせえもん、カナナー。だから温厚静かでもないんですよ。
堀元さんは、漫画のZZZに似ていて意外性もあるとして4番の「眠る様子」を選びます。しかし正解は、除外していた3番の「静かな様子」でした。日本語の「シーン」に相当するオノマトペです。
水野さんは、日本語の「シーン」は日本語にしかない表現だという言説に触れ、静かな様子を表すオノマトペは他の言語にもあると説明しました。
| オノマトペ | 言語 | 地域 |
|---|---|---|
| カナナ | 支う語 | ガーナ |
| ブリュッと | ビット語 | 東南アジア |
| ノー | トゥンブカ語 | 南部アフリカ |
| チュン | ケチュア語 | 南アメリカ |
ほかにもハウサ語では「ツイット」、チェワ語では「チェーテ」のような形になるそうです。堀元さんは、高音の多いホワイトノイズはノーとも聞こえるとして、トゥンブカ語の感覚には親しめると話しました。
Steemitに眠っていた「嘘をつく仕事」の記事
最終問題の不正解で、2つ目の過去作が公開されます。今回は、堀元さんがかつて書いていたSteemitの記事です。
Steemit ── ブロックチェーンを使ったブログ型のプラットフォーム。記事への評価に応じて独自の仮想通貨が報酬として配られる仕組みで、2016年ごろから話題になりましたについて堀元さんは、広告費ではなく読まれた数に応じて仮想通貨が配分される仕組みだったと説明します。結構稼いだものの、引き出しには条件があり、あまり回収できていないそうです。
水野さんは、堀元さんがSteemitで最後に「思い出した時に投稿していきたい」と書いてから5年間更新がないことを指摘し、直近のnoteの教訓である「コツコツ」との矛盾を突きます。
罰ゲーム内のクイズとして出されたのは、「経営者の仕事とは〇〇だ」の穴埋めです。堀元さんは「非情さと親しみの二面性を持つこと」と答えましたが、正解は「嘘をつくこと」でした。
経営者の仕事とは嘘をつくことだ。例えば、お金を出す人に対して嘘をついている。
水野さんは補足として、記事の「嘘」は約束を破ることではなく、値付けで最適な価格とは別に経営者として妥協しなければならないことを指していたと説明しました。堀元さんは「割とちゃんとした内容だ」と驚きます。
記事の書き出しは、友人の女性に「君は正直だよね」と言われ、「そうかな。嘘ばっかりついてるよ」と返す場面でした。2人はここに、現在の堀元さんの逆張り芸の原型を見ています。
オノマトペから言語学を学ぶ
クイズを終えて水野さんは、今後のオノマトペ回で扱う切り口を整理しました。5問のテーマがそのまま予告になっています。
水野さんは、オノマトペは言語学や日本語学を見てもらう上でいい題材だと話し、今後も扱い続けたいといいます。堀元さんも切り口の多さには納得しつつ、内心では飽きてきたとも打ち明けました。
まあだけど人を狂わすだけの魅力がオノマトペには眠っている。
最後に堀元さんは、オルマンジョルマンを使ってみたいと話します。家に同じ年頃の子供が集まっているときに「なんなんだ今日はオルマンジョルマンして」と言えばいい感じだ、という妄想で締めくくりました。
まとめ
今回のクイズでは、堀元さんは5問中3問に正解しました。ガビガビの意味変化、推測しにくい方言、意味の定まらない古語、日本語にない一語の韓国語、世界中にある「シーン」と、オノマトペを照らす角度の多さが示された回です。
- ガビガビは本来「乾いてこわばった様」を指し、最近になって解像度が粗い様にも使われるようになった
- 北海道方言の「ずらずら」は「通り一遍に」の意味で、響きから推測しにくい方言オノマトペの例
- 古事記の「もゆらに」は玉が触れ合う場面で使われるが、意味は辞書によって異なる
- 韓国語の「オルマンジョルマン」は、可愛い同じ年頃の子供がたくさん集まっている様子を表す
- 静かな様子を表すオノマトペは日本語の「シーン」だけでなく、さまざまな言語にある

