「知らんのか」はいい意味?はしご酒の気づき
水野さんは、日々単語を収集して自分のデータベースを更新し続けています。その中に「面白い響き」というタグがあり、たまってきた語をこの回でまとめて放出することになりました。
最初に水野さんが挙げたのは「しらんのか」という語です。漢字で書くと「芝蘭の化」で、芝蘭 ── 芝(霊芝)と蘭。どちらも香りのよい草で、昔から優れた人物や美しい交わりのたとえに使われてきましたの香りが移るように、良い友達と交わることで受ける良い感化を意味します。
これ(芝蘭の化)はですね、良い友達と交わることによって受ける良い感化ですね。
だからそのてめえが俺から受けたやつとかってことですね。
あんまてめえって言わない方がいいですよ。良い友達を自認したいなら。
堀元さんは、水野さんの口調が乱暴になったのは「知らんのか」という響きが先行刺激として働いたせいだと指摘します。漢字で見れば意味は明快なのに、平仮名で並べると問い詰めているように聞こえる点が、この語の面白さだと水野さんはまとめています。
ここから堀元さんは、最近の「芝蘭の化」体験を語ります。堀元さんはもともと、飲み屋を次々に変えるはしご酒を、お通し代や移動時間、メニューを眺める時間がかかる「コミュニケーションの時間対効果が悪い」行為だと考えていました。
ところが、1時間に1回ほど店を変える友人たちと出会い、串カツの店、魚介の店、88歳のおばあちゃんがやっている店、バーと巡るコースを体験します。そこで、串カツを腹いっぱいになるまで食べ続けなくてもいいと気づいたそうです。
気づいちゃったの。串カツ途中から実はいらなくなってたなって。
串カツを5本食ってやめて刺身食いに行っていいんだっていうことに気づいて。
水野さんも、餃子の居酒屋では1皿目が一番うまいと感じていたと共感します。一方で、はしご前提のせんべろの街でなければ「これでおしまいですか」と店主に思われそうで怖いとも話しました。
堀元さんは、長居せずにパッと飲んで帰る客はむしろ粋で、店も損をしていないから問題ないと考えています。
店を変えるのはお通し代や移動、メニュー選びの時間がかかり、コミュニケーションの時間対効果が悪いと考えていた
串カツや餃子は少量でやめて別の店に行けばいいと気づき、世界が広くなったと感じている
この変化について堀元さんは、友達に連れて行かれたからこそ得られた「知らんのか」だと話しています。なお、その日は楽しくて飲みすぎ、翌日は二日酔いで後悔したというオチも付きました。
「羽根おっぱい」ではない。ハネオツパイという動物
続いて水野さんが挙げたのは「ハネオツパイ」です。響きを聞いた堀元さんは、おっぱいに羽が生えて飛んできてくれたらいいのに、という欲望を表す言葉だと推測しました。
しかし水野さんが見せた画像に写っていたのは、ネズミのような小さな動物でした。尾に羽のような毛が付いているので「羽尾」、そこにツパイ ── 東南アジアなどに生息する小型哺乳類のグループ。見た目はリスに似ていますが、系統的には別の動物ですという動物名がくっついて「ハネオツパイ」になっています。
尻尾がね、ほら、羽ついてるでしょ?だから(ハネオなんです)。
思っただろ。思わないとメモする理由がないだろ。
水野さんは、メモには辞書のように「ツパイ科の動物」と書いてあり、短歌に詠むと面白いリズムになりそうだからメモしたと主張します。堀元さんはその場で短歌を詠むよう振りましたが、出来上がった歌は「凡作」と一蹴されました。
水野さんは、俵万智さんと短歌を詠んだ際には喫茶店で30分かけて推敲し、納得のいく作品ができたと振り返り、即興で振るのはやめてほしいと訴えています。
統計用語の「賃構」と世界遺産の雲岡石窟
水野さんが次に紹介したのは統計用語です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査は、略称で「賃構(ちんこう)」と呼ばれています。
水野さんがこの語に出会ったのは『技術流出の構図 エンジニアたちは世界へとどう動いたか』という本でした。冒頭から「賃金構造基本統計調査(以降、賃構)」と出てきたそうです。
こんなの気にしてるの多分この本(技術流出の本)読んでる中で俺だけだったから。
なんか水野さんの魅力ってやっぱそのギャップだよな。
さらに水野さんは、中国の石窟寺院である雲岡石窟 ── 中国山西省大同市にある仏教石窟寺院群。北魏時代に造営が始まり、2001年にユネスコの世界遺産に登録されましたを紹介します。堀元さんは画像を見て「ローマのコロッセオみたいな見た目」と感想を述べつつ、響きに笑いをこらえきれません。
なんでヘラヘラしてるんですか?世界遺産ですよ。
確かに現地もすごいんですけど、それより響きがやっぱ(雲岡石窟って)すごいですよね。
水野さんが、あれほど大きな石窟が5世紀後半にできていると補足すると、堀元さんは「5世紀」という言葉にまでビクッとしてしまったと話しています。水野さんはいつか行ってみたい場所だと語りました。
入道雲を「彦太郎」と呼ぶ理由と、太郎という名前の歴史
続く語は「彦太郎」です。九州地方では入道雲を彦太郎と呼ぶそうで、福岡と大分の県境にまたがる標高1200メートルの彦山 ── 福岡県と大分県にまたがる英彦山のこと。古くから修験道の霊山として知られていますの方角に入道雲が出ることに由来するといいます。
彦山
福岡と大分の県境にまたがる標高1200メートルの山
入道雲
彦山の方角に出る
彦太郎
山の名前を取り、人名のように呼ぶ
水野さんによると、雲を「〇〇太郎」と呼ぶ例は歳時記に多く、足立太郎足立太郎という季語も積乱雲を指します。レファレンス協同データベースでは、坂東太郎、信濃太郎、丹波太郎など各地の呼び名が紹介されているそうです。
突然の雨をもたらす積乱雲を、まあ身近な男に例えたんじゃないかということですね。
この流れで堀元さんが調べると、太郎という人名は嵯峨天皇 ── 平安時代初期の第52代天皇。在位は809年から823年で、多くの皇子女をもうけましたが子どもに付けたのが始まりとされ、西暦800年ごろからの歴史があるようです。堀元さんは、太郎を手抜きの名前だと思っていたと口を滑らせ、慌てて「一周回らないと付けられない名前」と言い直しました。
話は名前の由緒へと広がり、水野さんは「ナイト」「ノア」のような英語の影響を受けた名前には歴史がないため、太郎は歴史を誇っていいと話します。そこから二人は、コムドットやちょんまげ小僧といったYouTuberのメンバー名を「由緒正しい」と持ち上げる冗談を重ね、堀元さんは「YouTuberってやっぱ伝統の仕事」とまとめました。
「百千(ももち)」は、ももちがたくさんいるという意味?
水野さんが次に出したのは「百千」です。堀元さんはすぐに、アイドルの嗣永桃子さんの愛称「ももち」を思い浮かべました。
実際の意味は「数の多いこと」で、雅語だといいます。水野さんは新明解国語辞典 ── 三省堂の国語辞典。語釈や用例の個性的な書きぶりで知られ、言葉好きの間で人気がありますに「百千の秋の草花」という例文が載っていると紹介しました。
これを聞いた堀元さんは、最近ネットニュースで「ももち結婚」がトレンド入りした際、嗣永桃子さんだと思ったら別の人で、多くの人が同じ勘違いをしていたと話します。そこから、ももちという名前はそもそも「たくさんいる」という意味だったのだと冗談めかして結論づけます。
あなたの周りにもももちはいますし、私もももちですっていう意味のももちのももちだったんだあれは。
堀元さんは、嗣永桃子さん名義の数少ない楽曲『ももち!許してにゃん♡体操』も、ももちがたくさんいて混乱を招くけれど許してほしいという意味だと解釈してみせます。
水野さんが調べると、結婚を発表したのは美容系の起業家の牛江桃子牛江桃子さんで、さらにプロゲーマーにも本名が百地祐輔百地祐輔さんという「ももち」がいることがわかりました。名前由来と苗字由来の両方のももちがいることを、水野さんは「ももちのももち」と噛まずに言ってのけています。
「あっちじに」は響きが軽すぎる?
ここから水野さんは、センシティブな意味の語に移ります。紹介したのは「熱死(あっちじに)」で、高熱に苦しんで死ぬことを意味する語です。
意味の知りやすさと響きが合ってないですよ。
堀元さんは、ブラック・ジャック ── 手塚治虫の医療漫画。ピノコは主人公の助手の少女で、舌足らずな話し方が特徴ですのピノコが言いそうだと笑います。さらに、腹上死は起きている状況がコミカルなのに文字面が切腹のようにシリアスだと指摘しました。
そこで堀元さんが提案したのが、腹上死を「えっちじに」と読み替えて、状況と響きの帳尻を合わせる案です。水野さんはこれを「くだらん」と一蹴しました。
話はさらに、堀元さんが熱中症で亡くなった場合の話へ転がります。水野さんが弔辞で「最後にあっちじにした」と読み上げると宣言し、堀元さんは葬式で笑いを取ろうとしないでほしいと抗議しています。
怖くなさそうで怖い病名。ムズムズ脚症候群と原田病
怖い内容なのに名前が怖くなさそうな例として、水野さんはムズムズ脚症候群を挙げます。夕方から夜中にかけて脚の内部に虫が這うような不快感が生じ、動かさずにはいられなくなる睡眠障害です。
なんかちょっと状況のシリアスさと響きのコミカルさが合ってないですよね。
堀元さんは、親がよく話していた「原田氏病(はらだしびょう)」を紹介します。原田さんが見つけた病気なのに、響きだけ聞くとお腹を出していたせいで起きる病気のように聞こえるという話です。
実際の原田病は、目、耳、脳、皮膚などのメラニン色素を持つ細胞が自分の免疫細胞に攻撃される自己免疫疾患で、両目の激しい炎症や網膜剥離を引き起こすといいます。堀元さんが調べたところ、最近は「原田病」と呼ばれることが多いようだとわかりました。
| 語 | 実際の意味 | 響きの印象 |
|---|---|---|
| 熱死(あっちじに) | 熱に苦しみ身もだえして死ぬこと | ピノコが言いそうな軽さ |
| ムズムズ脚症候群 | 脚に強い不快感が生じる睡眠障害 | 子どもの病気のよう |
| 原田氏病 | メラニン色素を持つ細胞を攻撃する自己免疫疾患 | お腹を出して起きる病気のよう |
「ああそうかい」と「無愛想」。ユーモラスで的確な命名
水野さんが次に出したのは「ああそうかい」です。返事のように聞こえますが、パイナップルの木のような見た目の植物の名前で、漢字では「亜阿相界」と書きます。
原産地のマダガスカルがアジア(亜)とアフリカ(阿)の境界にあるため、両者が相接する世界という意味で名付けられたといいます。命名者は小説家でサボテン研究家の人物だそうです。
ユーモラスだし、意味はちゃんとマダガスカル原産だってことにかけてるわけですからね。
堀元さんも、おしゃれな命名として白洲次郎の晩年の家「武相荘(ぶあいそう)」を挙げます。武蔵国と相模国の境にあることから文字を取り、「無愛想」と響かせた名前です。
アジアとアフリカの境界にあるマダガスカル原産の植物に付けられた名前
武蔵国と相模国の境にある白洲次郎の晩年の家
堀元さんは、白洲次郎がマッカーサーに天皇からの贈り物を「その辺に置いといてくれ」と言われて叱りつけ、「従順ならざる唯一の日本人」と呼ばれたエピソードを紹介しました。まさに無愛想な人物が武相荘に住んでいたのがかっこいいと話しています。
すると水野さんは、堀元さんが晩年に建てる家の名前はもう決まっていると言い、「守銭堂」を提案します。さらに堀元さんは、自身の会社ペダンティックで始めた寺のチャンネルの収録で、住職から「大嘘院悠通無量居士」という戒名を付けてもらったと明かしました。
(悠通無量は)YouTubeです。
僕、晩年は守銭堂に住んで、最後墓に大嘘院悠通無量居士って書かれる。これ完璧だと思います。
「い」はいくつ?母音の長さを聞き分ける日本語話者
最後に水野さんは、自分もこうありたいという語として、「い」が続く語語の表記を紹介します。意味は「のびやかで美しいさま」で、四字熟語だといいます。
ところが、なぜその字でその意味になるのかを堀元さんに問われると、水野さんは「知らん。AIに聞け」と答えてしまいました。
水野さんはここから言語学の話につなげます。英語は同じ母音を続けることが少なく、母音の長短をあまり区別しないため、英語母語話者は「い」がいくつ続いたかを数えるのが難しいはずだといいます。
英語って同じ母音を何個も続けるみたいなことってあんまないんですよ。母音の長短をあんまり区別しないんですね。
二人は実際に「い」の数を当て合うゲームを始めます。3つや6つは正解できましたが、堀元さんが数を決めずに長く発音した回は、本人もいくつ言ったかわからなくなってしまいました。
水野さんは、母音の長さを聞き分けられるのは日本語話者として誇っていい能力だと話します。ただし、日本語話者も英語の母音の違いを聞き分けにくいので、できない人をバカにしてはいけないとも付け加えました。
おまけとして水野さんは、飛鳥時代の宗教家の大宇弁王大宇弁王という名前を紹介し、日本語ならではの音の並びだと締めくくっています。
まとめ
この回は、水野さんが収集した「面白い響き」の語を通じて、意味と音が噛み合わないときに生まれる笑いと、日本語の音の特徴が浮かび上がる雑談になりました。二人は、リスナーにも響きの面白い言葉をコメントで寄せてほしいと呼びかけています。
- 芝蘭の化、ハネオツパイ、賃構、雲岡石窟など、意味は真面目なのに響きが別の意味に聞こえる語が次々に紹介された
- 彦太郎や亜阿相界、武相荘のように、由来を知ると納得できるユーモラスな命名も多い
- 熱死やムズムズ脚症候群、原田氏病のように、深刻な内容と響きの軽さが釣り合わない病名や語もある
- 日本語話者は母音の長さを聞き分けられるため、「い」がいくつ続いたかを当てるゲームが成立する


