鹿ゴロッケは「外来語の連濁」なのか?
大分旅行は、水野さんとムラブリ研究者の伊藤雄馬伊藤雄馬先生が大分の大学で言語学のトークイベントに呼ばれたことがきっかけでした。堀元さん、黒島先生、地元在住の室越さんは、そのイベントを聞きに行く「遊び」の立場で合流しています。
一行はおっさん4人で同じ旅館の一部屋に泊まりました。水野さんが忘れられないと挙げたのは、2日目の夜、イベントの打ち上げで入った郷土料理の飲み屋での出来事です。
その店のメニューに「鹿ゴロッケ」がありました。外来語の「コロッケ」なのに、頭の音が濁っています。連濁 ── 2つの語が結びついたとき、後ろの語の頭の清音が濁音に変わる現象。「やま+さくら→やまざくら」など。一般に外来語では起きにくいとされますしているように見える例です。
その飲み屋で鹿ゴロッケっていう、コロッケなのに連濁してる例あるっぽい。
面白いね。外来語なのに連濁してんだ。
面白いねじゃなくて、お前もいたじゃん。
堀元さんは「驚きをリスナーに伝えなきゃいけない」と、その場にいたのに初耳のようなリアクションを取ります。この時点で、すでに話を演出する癖が顔を出しています。
鹿ゴロッケについては、黒島先生と伊藤先生という2人の言語学者が「なぜこれが許されるのか」と真剣に議論しました。その流れを整理すると次のようになります。
疑問
外来語は連濁しないはずなのに、なぜ「ゴロッケ」になるのか
仮説
黒島先生は、肉が「ゴロゴロ」入っている様子とかけた言葉ではないかと考えた
確認
後で楽天市場で「ゴロッケ」と検索すると、肉がゴロゴロ入った商品が多かった
結論
連濁かどうかは怪しく、黒島先生の見立てがおおむね合っていそう
鹿ゴロッケの議論はおよそ10分続きました。水野さんは、言語学者同士が飲みの席で本気で議論する様子を初めて見て、新鮮だったと話しています。
一方そのころ、堀元さんと室越さんは「文化人類学的に見る正しい外国人の口説き方」のような話をしていたそうで、水野さんは「くだらねえ」と一蹴しています。
この夜は午前3時過ぎまで飲み、足湯付きの部屋で酒を飲みながら過ごしました。堀元さんは、プラス3000円で海が見える足湯付きの部屋になると知って迷わず課金し、その分移動はLCCにしたといいます。
足湯にお金を使い、飛行機切りました。
足が長い水野さんはLCCで足を折り畳むことになり、「畳んだ足を足湯で癒すからプラマイゼロ」という堀元さんに、「帰りでまた痛めました」と返しています。
「俺の会社上場したわ」は盛っていた?
堀元さんにとって印象的だったのは、足湯付きの部屋そのものでした。源泉かけ流しの足湯に浸かり、晴れた日の別府湾を一望していると、自分が成功者になったように錯覚したといいます。
成功者しか見れない景色だと思ったから。だから「俺の会社上場したわ」っていうことを言いながら自分の部屋に戻ってきちゃう。
水野さんの記憶は違いました。実際の堀元さんの言葉は「まるで上場したみたいな気分になりました」程度だったそうです。
盛ってるやん。俺が覚えてるのは「いや、気持ちいいですよ、あそこ。まるで上場したみたいな気分になりました」ですよ、堀元さん。
もう一度話させると、堀元さんの上場エピソードは「すごい声でドアを開けて叫びながら入ってきた」とさらに大きくなります。堀元さん自身も「盛り癖ちょっと出ちゃったかもしれない」と認め、この回の「盛り」というテーマがここで立ち上がります。
ニホンザルの「ジャンピングうんこ」は新発見か?
水野さんは、大分旅行で「学術的な発見をした」と言い出します。舞台は、大分の人ならすぐわかるという野生のニホンザルがいる山高崎山です。
その猿山は、人間に餌付けされてはいるものの野生の猿の群れが山から下りてくる場所で、柵がありません。入場料はおよそ1000円で、猿が足元を普通に通り過ぎ、喧嘩や毛づくろいを観察し放題だったといいます。
堀元さんによると、猿は約1500頭おり、900頭と600頭ほどの群れに分かれていたそうです。群れ同士の争いで敗れていなくなった群れがあるという看板もあり、2人は「ちゃんと野生なんだ」と感心しています。
水野さんは、シジュウカラの鳴き声を研究する鈴木俊貴鈴木俊貴先生の本『動物たちは何をしゃべっているのか』の編集者です。鈴木先生がシジュウカラの声から文法を見出したように、自分も猿から何か発見できないかと素人なりに考えたといいます。
猿って実際は現代人より多分やること多かったりすると思うんですよね。多分忙しいなと思うんですけど、ジャンプしながらうんこしてたんですよ。
ジャンピングうんこっていう行動って書いてないんですよ、霊長類学の本に。
水野さんは、鈴木先生の「各動物には得手不得手があり、人間にできないことができる動物もいる」という話を引き合いに出します。そこから、ジャンピングうんこは人間にはないニホンザルの認知機能であり、猿は現代人より忙しいという「2つの帰結」を導きました。
そんなカスみたいな洞察から導くんじゃないよ、結論を。
話は、編集者の箕輪厚介箕輪厚介さんの新刊にある「ZOOM会議をしながらフットサルをする」というエピソードへ広がります。堀元さんは「パワポ資料を見てるうちにゴールを決められちゃう」とツッコみ、どれほど忙しい人でもジャンピングうんこはしないはずだという話に戻ります。
マルチタスクを自認する堀元さんも、トイレでは集中してうんこをするそうです。水野さんは「現代投資の基本は分散ですよ」と返し、堀元さんは「卵を一つの皿に盛るな」に乗りかけてから「投資の話関係ないよ」と打ち消しています。
黒島先生は本当に野に放たれたのか?
堀元さんは、水野さんの新発見の話が「むちゃくちゃ盛っている」と指摘します。実際は、猿がジャンプしながらうんこをするのを見たという話にすぎません。
水野さんは「テンションも上がってない」「その後に論文を出して学会発表します」とさらに盛り、堀元さんが「話盛るのなしでいきましょう」と提案します。旅行の振り返りなのだから、正しい事実を伝えようという趣旨でした。
ところが、盛るなと言ったはずの堀元さんが、猿山での黒島先生の話を始めます。黒島先生が2頭の猿の毛づくろいをじっくり観察し、仲良くなっていく様子に感銘を受けたという内容です。
で、最終的に猿が帰っていく山の斜面におんなじように四足歩行で帰っていって、そのまま野に放たれたんです、黒島先生が。
堀元さんは、黒島先生は熊本学園大学の籍もなくなり野生になったとまで語り、水野さんに「お前、一線超えたな」と止められます。さらに、そもそも黒島先生が毛づくろいを観察していた事実もなく、一番見ていたのは堀元さん自身だったことが明かされます。
水野さんは、この盛り方を言語学の用語で説明しました。本当の出来事を深層構造 ── 生成文法の用語で、文の背後にある基本的な構造のこと。変形規則が加わることで、実際に発話される表層構造になると考えられてきました、盛った話を表層構造とみなす見立てです。
はしゃぐ水野さんと堀元さんを、黒島先生が冷静に遠い目で見ていただけ
黒島先生が猿の毛づくろいに感銘を受け、四足歩行で山に帰り、野生になった
帰りの車が3人だったのは事実ですが、黒島先生は空港ではなく駅から帰っただけでした。堀元さんは「ジャンピングうんこの話が面白くて羨ましくなっちゃった」と動機を明かします。
一を1.5ぐらいにしてましたもんね。僕、0を10ぐらいしてました。
何かけてもゼロはゼロですからね。
室越さんの温泉案内は、なぜ龍の話になったのか?
大分出身の室越さんは、旅行中ずっと車を出して運転し、観光案内をしてくれました。1日目には、舗装されていない砂利道を10〜15分進んだ山の中の野湯へびん湯温泉へ連れて行ってくれたそうです。
室越さんは、関サバや関アジがおいしい理由も海を見ながら説明してくれました。狭い海峡の急な流れを越えてくるので筋肉質になる、という話に、2人は「へー」となったといいます。
堀元さんは、名産品を食べることを「実績解除」と呼び、正直想像がつくという野生馬野生馬まで義務感で食べました。水野さんはこれを、ゲームのトロフィーを集める感覚だと評しています。
最終日、二日酔いのまま慌ててチェックアウトした一行を、室越さんは古い木造建築の渋い温泉へ案内しました。シャンプーもない地元の温泉で、天窓から差し込む日を浴びながら、旅の思い出を話したといいます。
ここで水野さんが盛ります。湯船に入ってほっとした室越さんの歯が抜け落ち、白髭の生えた老人になり、「よきかな」と言って龍になって天井を突き破り、天に昇っていったという話です。
水野さん、漢文のオチと大分のエピソードとか混ぜるのやめた方がいいですよ、絶対。
話はさらに膨らみ、室越さんが夏の大三角の「室越座」になったから名前が龍之介なのだ、という設定まで加わります。堀元さんは「話盛るとかじゃない、ファンタジーに辿り着いちゃってる」と嘆きます。
実際の出来事は、室越さんが温泉に入って「気持ちいい」と言っただけでした。堀元さんは「そのエピソード弱すぎるんで、盛ってほしい、だったら」と、今度は逆の要求をしています。
堀元さんの「ブチギレた」は本当に怒っていたのか?
水野さんは、堀元さんの盛り方の癖をすでに見抜いていると言います。その代表が「ブチギレた」という表現で、実際には怒っていない、というのが水野さんの指摘です。
例に挙がったのは、YouTubeの「堀元見のゆるせない話」の初期作で、「蟹」という漢字を失敗プロジェクトだと批判した回です。虫や刀はわかるが、角と牛が入っているのはバグだ、と堀元さんは語っていました。
偉そうな部長がなんか牛っぽくない?って言ったから、全然否定できなくて、部下がみんな、あ、そうっすねって言ってしまったせいで受け入れられちゃったんでしょうね、あの漢字は。
ところが、その原体験を問われた堀元さんの答えは、驚くほど平熱でした。
字を知ってブチギレた。企画会議の失敗で生まれた失敗プロジェクトだ
「蟹って角と牛が入ってるの不思議だな」と思っただけ
俺怒んないから。怒んないのに怒ったってことにいっつもしてるわ、そういえば。
堀元さんによれば、イラッとした程度の話では形がまとまらないため、怒った話にしているそうです。「一晩眠れなかった」と書いても実際はぴったり8時間寝ている、と本人が明かしています。
話の途中で堀元さんは、諸子百家も王に気に入られるために迫力ある主張をしていたのでは、と持論を展開します。先従隗始 ── 中国の故事成語「まず隗より始めよ」。燕の昭王に、凡庸な自分を厚遇すれば優秀な人材が集まると説いた郭隗の話に由来しますを例に、諸子百家はインターネット芸人だと語りました。古典研究をばかにする意図はないとも添えています。
「念頭を去らない」ものは何だったのか?
水野さんが次に挙げたのは、堀元さんがnoteで軽く使っていそうな言葉「念頭を去らない」です。堀元さんは、内田樹さんが本のまえがきで使っていたこの表現を気に入り、10回ほどnoteで使ってきたといいます。
ところが、念頭を去らないと書いたものを挙げてほしいと言われると、堀元さんは1つも思い出せずギブアップします。
念頭去ったものしかないのに、人生で。去らないって言ってて。
唯一思い出せたのが、「ゆるせない話」の日高屋の親子のなぞなぞでした。混雑した金曜の夜、母親が娘に「こういうの何て言うか知ってる?」と尋ね、堀元さんは満員御礼か商売繁盛かと考えたそうです。
水野さんなら「門前市を成す」と答えると言いますが、母親の正解は「ひっきりなし」でした。
いや、そういう時って大体名詞じゃん、答え。副詞を答えにすることある?納得いかなかったですね。腹立つな。
水野さんは、念頭を去らないと書いたことは全部忘れているのに、日高屋のなぞなぞだけは覚えているのは順序がおかしいと突っ込みます。堀元さんは最後に「黒島先生が野に帰った後ろ姿は念頭を去らない」と、再び盛り話に戻ってしまいます。
水野さんもインターネット芸人になったのか?
堀元さんは、3年近く一緒にラジオをやるうちに、盛り癖が水野さんにも移ったと主張します。証拠として挙げたのが、親知らずを抜いた隙間にぶつ切りの鶏肉が挟まり「貯食している」という水野さんの過去の話です。
水野さんは否定しつつ、さらに話を広げます。口の中に衣類保管サービスのサマリーポケットサマリーポケットのようなものがあり、鶏肉を預けて必要なときに取り出せる、という設定です。
十徳ナイフってあるでしょ。あんな感じで僕、炭水化物もビタミンもタンパク質も全部口の中に保存してあるんですよ。
堀元さんも乗っかり、「IoTだ」「口の中にAmazonダッシュ ── ボタンを押すだけで登録した日用品を注文できたAmazonの専用端末。現在は販売が終了していますがある」と盛り上げます。水野さんは、これは遺伝で、祖母の時代には「蓄え人」と呼ばれていたと語ります。
作り話は、辞書の立項、江戸時代の見世物小屋、寛政の改革での禁止、桶狭間の戦いの敗因へと際限なく広がりました。最後は2人とも「引き返す」と言い、堀元さんは戦国時代の話がしたくて舵を切ったのが間違いだったと反省しています。
蓄え人って何?
この回、スベってない?
締めに入った2人は、大分旅行のハイライトを振り返ります。ただし水野さんのまとめは、室越さんが龍になり、黒島先生が山に帰ったという盛った話がそのまま混ざったものでした。
一番まずいのは、こんだけやってめちゃくちゃ滑るという最悪です。
2人は酔っ払っているので面白いかどうか判断できない、と不安を口にします。そこからまた、スタジオが涙で埋まる、低評価が多いと水野さんの母親が「色即是空、空即是色」と言って失踪する、といった盛り話が続きます。
堀元さんも負けずに、高評価が2万件つけば両親が大間で競り落とした400キロのマグロを一尾まるごと寿司にして出してくれる、と語ります。
最後に堀元さんは、本『「幸せをお金で買う」5つの授業』を挙げ、日常的に募金をする人は幸福度が高いという話につなげて高評価を呼びかけました。人にいいことをすると嬉しくなる、という趣旨です。
過去一ひどい回は、どう締めくくられたのか?
水野さんは、雑談回でも何か持ち帰れる知識を入れるようにしてきたのに、この回は「嘘しかない」と振り返ります。堀元さんも「過去一、ぶっちぎりひどい」と認めました。
今回嘘しかない。
慌ててうんちくを足そうと、水野さんは植物学者のローズマリー・オクレールローズマリー・オクレールを紹介します。植物学者の名前がローズマリーというだけでも面白いのに、その研究内容はさらに上回るものだったといいます。
水野さんによると、その研究はホタルなどが持つ発光遺伝子を植物に組み込み、街路灯の代わりに街路樹そのものを光らせるプロジェクトです。堀元さんは「マッドサイエンティストだ」と驚き、水野さんは電気を使わない点でSDGsにもつながると話しています。
水野さんは「よし、俺の仕事終わり」と、ようやく1つ本当の知識を届けて回を閉じました。最後はゆる言語学ラジオ初の書籍『言語沼』の告知で、またしても小ネタが挟まれています。
まとめ
大分旅行の思い出話から始まったこの回は、「話を盛るのはやめよう」という宣言をきっかけに、かえって盛り合戦がエスカレートしていきました。盛った表現と実際の出来事のギャップそのものが笑いになり、最後は本人たちも認める「過去一ひどい回」として着地しています。
- 鹿ゴロッケは連濁ではなく「ゴロゴロ」とかけた言葉らしい、という言語学者の議論が数少ない実話のひとつ
- ニホンザルのジャンピングうんこから、黒島先生の野生化、室越さんの昇龍まで、話は徐々に事実から離れていった
- 堀元さんの「ブチギレた」「念頭を去らない」は、話の形を整えるための誇張だと本人が認めている
- 終盤は口内Amazonダッシュや蓄え人など完全な作り話が続き、最後に光る街路樹のうんちくで帳尻を合わせた






