Podcast Expo 2026の手作り感とぐちゃぐちゃの距離感
収録は2026年5月13日。話題は前週末に開催されたPodcast Expo 2026ポッドキャスト関連の展示・カンファレンス・マルシェを束ねた大型イベント。会場には体育館や教室を備えた元小学校が使われた。から始まります。樋口さんが当初「Podcast Summit」と呼んでいたのをけんすうさんが訂正する一幕も。正確には、全体イベントがPodcast Expo、マルシェ部分がPodcast Weekend、有料カンファレンス部分がPodcast Summitという構造でした。
会場は池尻大橋の元小学校。教室や体育館、広場をフルに使い、出演者がグッズを売る出店も並んだといいます。
Spotifyの人は「これすごい東京っぽくてめっちゃクール」って言ってましたね。
樋口さんが指摘するのは、このイベントの思想の独特さです。一般的なポッドキャストイベントは「番組を聴いてね」が前面に出ますが、Podcast Weekendは「ポッドキャスターたちが売っているものを売ってください」という発想で始まっているとのこと。たとえばキャンプ番組「金曜日の焚き火会」は焼肉のタレを、阪神タイガースの近本選手の番組ChikaBlend阪神タイガース・近本光司選手が関わるポッドキャスト番組。コーヒー豆などのグッズ販売も行っているとされる。はコーヒー豆を販売していたそうです。
演者・関係者・リスナーが混ざる空間
樋口さんが特筆すべきと語るのが、会場の「ぐちゃぐちゃ感」です。著名なポッドキャスターも、業界仲間も、リスナーも、同じ空間を普通に歩いている。YouTuberのイベントなら演者は控室に隔離されるのが普通ですが、ポッドキャストではその段差がない。
もうひとつ話題になったのが、赤坂サカスで開催されたジャパンポッドキャストフェスティバル。アンガールズや永野などお笑い芸人の公開収録もあり、こちらは企業主体の作り込まれたイベントとして対照的だったと振り返ります。けんすうさんは永野の「永野はMr.TBS」を生で観て大笑いし、その流れで対談の入り時間に遅れそうになるという小ネタも飛び出しました。
番組名「マダナイ」に込めた意図
3回目にしてようやく番組名が決定。タイトルはカタカナで「マダナイ」。意図は二重です。タイトル自体が「まだない」ことと、「まだないポッドキャストを作るためのアイデアを話す番組」であること。アル株式会社の「アル」と対になる響きも狙っているそうです。
けんすうさんによると、ポッドキャストを始めたい人は増えているものの「何を話せばいいか」で悩む人が多いとのこと。そこで、番組ではアイデアを次々と出し、リスナーからもアイデアを募り、使った人がいれば紹介するという仕組みを目指しています。樋口さんは「皆さんの番組のワンコーナーでやってもらってもいい」とも提案。新番組を立ち上げるハードルを下げる仕掛けです。
アイデア1:子供に聞かせたいポッドキャスト
樋口さんが最初に出したアイデアは、車内や家のリビングで子供に聞かせられるポッドキャスト。「めっちゃ勉強になる」必要はなく、刺激になったり視野が広がったりすればいい。背景には、自身が制作に関わっていた「算数ワクワクラジオ吉本興業の数学芸人・たかた先生が算数の楽しさを語ったポッドキャスト。樋口さんが制作に関わっていた番組。」での成功体験があります。
この番組では、たとえば「身近にある数でどこまで大きい数を言えるか」というテーマで、万・億・兆・京といった単位を歌で覚える企画を実施。すると子供たちから「いかに早く言えるか」を競う音源が送られてくる流れが生まれたそうです。ピタゴラスなど数学者の話をすれば、後日「あの人どうなったんやろね」と子供が話題にする──そんな浸透の仕方をしたといいます。
キャラを立てるという演出
樋口さんはさらに踏み込んで、「キャラになってやる」案を提示します。たとえば森の中の教室で、クマの先生がリス君に教えるという設定。ただし低学年向けすぎないよう、イメージは『ダウンタウンDX』のトスポくんバラエティ番組『ダウンタウンDX』に登場するキャラクター。見た目はキャラクターだが、声はおじさんで完全な子供向けではない、絶妙な立ち位置。くらい。見た目はキャラだが、声は普通の大人。聞き手も大人でいい。
「クマさんだよ!今日は算数を教えるよ!」
大人は聞き続けにくい
キャラはいるが声と話し方は大人
親子ともに聞ける
映像面は生成AIで作ったアニメ・CGキャラに口だけ動かす程度でよく、ビデオポッドキャスト音声に加えて映像も配信するポッドキャスト形式。SpotifyやYouTubeでの視聴が増えている。として流すという構想です。けんすうさんも「子供向けはまだまだ広がる余地がありそう」と同意しました。
アイデア2:音そのものを楽しむポッドキャスト
けんすうさんが続けて出したのは、「声以外の音」を主役にするアイデア。ポッドキャストは音楽を流しづらいため声中心になりがちですが、気持ちのいい音はもっとあるはずだと指摘します。
具体例はキーボードの打鍵音。YouTubeには各種キースイッチメカニカルキーボードのキーの軸部分。種類によって打鍵音や打鍵感が大きく変わり、自作キーボード愛好家の間で重要視される。の音を比較する動画が多数あるのに、ポッドキャストにはほとんどない。「今日はこのキースイッチをこのキーボードで30分カタカタします」だけでもニッチな環境音として成立するのでは、と。
焚き火(火を見たい)
料理ASMR(食べ物を見たい)
キーボード打鍵
波の音、川のせせらぎ
「どこの音か」が価値になる
けんすうさんは、かつて持っていた沖縄の海のCDを引き合いに出します。中身は全部「波の音」なのですが、収録された海岸が1曲ごとに違う。素人には区別がつかなくても、こだわって録られたものだとわかると聞き方が変わる。フリー音源集にある「川の音」とは違って、「どこの場所か」が情報として効いてくるのです。
どこの海かが大事とかが面白いですね。
「今日は福岡県なんとか小学校の校庭の声です」とかで、各小学校の音が流れるとかだと、なんかちょっと面白い。
地元の音だとわかれば一回は絶対聞く。流しておくだけで街に活気がある感じがして嬉しい。真面目に聞かなくていいから再生のハードルも低い──と、メリットが次々挙がります。
環境音が変える「聞く体験」
環境音をどう設計するかで、聞く体験は大きく変わります。樋口さんは、最初に情景を言葉で説明しておく案を提案。「今日は5月で結構暑い、さっきまで晴れてたけど今は曇り、目の前は海が広がっていて、後ろには昭和に建てられた古いホテル、カモメが飛んでます」──そう前置きしてから音を流すと、リスナーの入り込み度が変わる、と。
けんすうさんは昔のラジオで「今日は東京の丸の内の雑踏の音をお届けします」という番組があったと記憶を呼び起こします。さらにジェットストリーム東京FM系列で長年続く深夜のラジオ番組。飛行機のジェット音をBGMに、ナレーターが詩的なエッセイを朗読することで知られる。のように、飛行機の音をBGMに詩的なナレーションを重ねる手法も、寝る前の心地よさを生む例として挙がりました。
BGMの代わりに環境音を入れる
樋口さんは、コテンラジオ歴史を題材にした人気ポッドキャスト。深井龍之介、ヤンヤン、ムロ(樋口聖典の友人)らが出演。のムロさんがやっていた「どうせ死ぬ3人」を例に出します。この番組はBGMの代わりに、街・ししおどし・森などの環境音をフリー音源で入れていたそうです。それだけで聞き手の感覚はガラッと変わる、と。
「映像がないからどこで撮っても同じ」ではなく、収録場所そのものをコンテンツの一部にする。これはまだまだ手付かずの領域だと2人は口を揃えます。
田舎だから撮れるポッドキャストがある
アイデアは具体例とともに次々飛び出します。夫婦の収録で居間に子供がいて、「お母さん、牛乳がない」と乱入する。それをそのまま流す。ラジオでは絶対あり得ない、ポッドキャストならではの味です。
あの「ライブ会場の近くで音漏れしてるところで撮る」は著作権的にどうかは置いといて、いや勝手に漏れてるからしょうがなくね?で。「今日はこれが漏れてます」はめっちゃ面白いかもしれない。
すぐハックしようとする。
スキー場で流れているJ-POPも話題に。安っぽいスピーカーと山の反響が混ざった独特の音は「なぜかエモい」。あそこで撮るポッドキャストもあっていい、と意見が一致します。
この発想は、「都会の有名人と喋れないと面白いポッドキャストにならない」という思い込みを覆します。地域固有の音風景こそが武器になる。喋るのが苦手でも、音だけでポッドキャストを成立させられる可能性が広がります。
まとめ
この回で出されたアイデアは大きく2つ。子供向けに学べる要素を持ったポッドキャストと、収録環境や音そのものに価値を見出すポッドキャストです。どちらも「喋ること」だけがポッドキャストの本質ではないという発想に支えられています。声が主役でなくてもいい、場所が情報になり、ノイズが個性になる。「マダナイ」はその余白を埋めるアイデアを、これからもパクリ自由で配り続けていきます。
- Podcast Expo 2026は演者・関係者・リスナーの段差がない「ぐちゃぐちゃ」な空間で、マルシェ思想が間口を広げている
- 番組名「マダナイ」は、まだない番組のアイデアを2人で出し合い、リスナーがパクって使える設計
- 子供向けは「ザ・勉強」ではなく、キャラ立てと遊び心で大人も聞ける作りに余地がある
- 声以外の音──キーボード打鍵音や特定の場所の波・校庭の声──を主役にするポッドキャストが未開拓
- 収録場所の情景描写や環境音をBGM代わりに入れると、リスナーの没入感が変わる
- 田舎・地域固有の音風景こそが、喋りが苦手な人でも参入できる新しい切り口になる
