ポッドキャストやるなら名乗ったほうがいい
冒頭でけんすうさんが切り出したのは、ポッドキャスト配信者へのちょっとしたお願い。「名乗ったほうがいい」というものでした。けんすうさんが運営する文字起こしサービスPoddyけんすうさんが手がけるポッドキャストの文字起こし・話者分離サービス。本エピソードでも言及されている。では、誰が喋っているかを判別するのに名乗りの有無が大きく影響するそうです。
樋口さんは「収録の時に話者情報を保存しておけばいいのに」とソフトウェア側での解決を提案しますが、現状は名乗りが頼り。二人なら問題ないものの、三人になると一気に難しくなります。例として挙がったのがコテンラジオ深井龍之介・楊睿之・樋口聖典らによる歴史を扱う人気ポッドキャスト番組。三人体制で進行する。。二回目以降は名乗らないため、けんすうさんが手動で話者を修正しているとのこと。
「面白いこと言うのは樋口さん」っていうプロンプトを入れたらちょっと良くなりました。
最悪やん。もう僕、面白いこと言えなくなったら樋口じゃなくなるんすね。
AI生成ポッドキャストが人間を上回った日
本題のニュースコーナーで紹介されたのは、衝撃的な数字でした。AIメディア会社Inception Point AI米国のAIメディア企業。AI生成のポッドキャストを大量に制作・配信していることで知られる。が、1エピソードあたり1ドルでポッドキャストを量産しているという話。
同社は4,000〜10,000本の番組を保有し、週に約3,000エピソードを公開しているとのこと。CEOは「近い将来、地球上の半数の人がAIになると信じている」とまで語っているそうです。
AIが作ったものを人間がレビューする番組
ここからけんすうさんが面白いアイデアを展開します。「AIが作ったものを人間は見たくないが、作った側は評価されたい」という非対称性に注目し、AIポッドキャストを人間がレビューする番組を提案しました。
同じ発想を以前、AI絵のサイトでも提案したことがあるそうです。美術評論家10人を集め、AI絵の出展料を作者から取って評価する。10人の評論家が絶賛したAI絵なら人間も見たくなるし、作者は評価料を払ってでも見てほしい──プラットフォーム、評論家、作者の三方が成り立つ仕組みです。
AI制作者
評価されたい欲求+出展料を払う
プラットフォーム(人間の番組)
出展料で評論家フィーをまかなう
リスナー
「人間が絶賛したAI作品」だから聞きたくなる
樋口さんはさらに発展させ、「AIにリサーチさせて世のAIポッドキャストを調べ、その要約をAIに喋らせて、それと人間が会話する」という構成を提案。ある程度溜まったところで実際の本編を聞いてレビューする回をやる、という流れです。
前の文と一番遠いことを言い続けるAI
続いてけんすうさんが提示したのは、人間には絶対にできない番組のアイデア。「一文ずつ、絶対に前の文章と関連しない、一番遠いことを言い続けるAIポッドキャスト」です。
人間はどうしても連想してしまう生き物で、「小指をタンスにぶつけました」の後に違う話題を、と言われても、体の一部や家具の話に引きずられてしまいます。しかしAIなら本当に遠い話題に飛べる。実際にその場で生成してみると、こんな具合になりました。
樋口さんはこれを「脳みその全然使ってない筋肉を使いそう」と評し、けんすうさんは「人間が毎朝、AIが生成した無関係な文章100行を1時間かけて読む番組」というアイデアにまで発展させました。AI時代に皆が文字起こしで内容を掴もうとするなか、それを全部無効化するコンテンツ──という逆張りの面白さがあります。
オチだけ先に決めて、人間があたふた合わせる
樋口さんが落語の三題噺客から即興で3つのお題をもらい、そのすべてを盛り込んだ落語をその場で作って落ちをつける伝統的な即興芸。を引き合いに出し、AI×ポッドキャストへの応用を提案します。芸人時代、コントを作る際に相方とよくやっていた手法でもあるそうです。
これをポッドキャスト版にすると、たとえばAIがランダムに出した3つの単語をテーマに30分喋る雑談番組。さらに発展形として、5分おきにAIが過去の文脈を踏まえた指示と踏まえない指示を交互に出して進行を変える、という案も出ました。
けんすうさんは「架空のポッドキャストのタイトルを100個先に作っておく」と展開。タイトルだけ決まっていて、何を喋るか分からない状態でリスナーが追いかける構造です。樋口さんはさらに「最後の一文だけ決まっている」というパターンを提案しました。
「あと五分だけ寝たいと思ったんだよ、そこで」で必ず終わる。
「結局まとめると、虫が一番ってことだよ」で必ず終わる。
「来週は絶対こんなこともうやめてくださいね」で必ず終わる。
AIが作ったコンテンツを人間っぽく見せようとすると全然面白くないけど、AIが作った縛りに人間が合わせる、そのわちゃわちゃしたものとか緊張感があると面白いんですよね。
AIは楽するためじゃなく、人格がないから使う
ここで樋口さんから、エピソード全体を貫く核となる視点が提示されます。AIを「楽するため」「効率化のため」に使うアプローチでは、もう面白いものは作れない。逆に、AIには「人格がない」からこそできることがある、という発想です。
具体例として樋口さんが挙げたのが、コテンラジオで楊睿之さんに「100の質問」を投げた企画。AIに作らせると「あなたが歴史から最も学んだことは?」「あなたの座右の銘は?」といった、関係性的に今さら聞けない"ぬるい質問"が出てきます。しかしAIを言い訳にすれば成立する。そして実際に聞くと、意外な答えが返ってくるそうです。
けんすうさんもコテンラジオをほぼ全部聞いているそうですが、深井龍之介さんの「海が怖い」という話を、それまで一度も聞いたことがなかったといいます。これだけ発信している人でも、質問される向きが固定されていれば、引き出されない側面がある。AIなら、本人や共演者からは出てこない切り口でその扉を開けられます。
関係性や文脈を考慮して洗練される一方、ベタな質問は「今さら聞けない」と削られてしまう。
人格がないので、ベタでぬるい質問も平気で投げる。意外と聞かれたことがなく、新しい答えが出る。
ポッドキャストは「背骨」になる
2本目のニュースは、クリエイター向け課金プラットフォームPatreonクリエイターがファンから直接月額課金で支援を受けられるサブスクリプションプラットフォーム。米国発。のポッドキャスト収益が前年比33%増の6.29億ドルに達した、というもの。4万7,000人を超えるクリエイターが、760万件の有料会員から収益を得ています。
ヒップホップ系のジョー・ブデンさんは月平均100万ドル、約1.5億円を稼ぐ規模。ジャンルとしてはポップカルチャー&コメディ、ライフスタイル&趣味、教育&情報の3つが大きいそうです。
注目すべきは、PatreonのCOOのコメント。「リーチはかつての意味を持たなくなった。ポッドキャスティングはもはや単独フォーマットではなく、より複雑なマルチメディアクリエイタービジネスの背骨になっている」。
樋口さんはこれを次のように解釈しました。番組そのものへの課金ではなく、その人がYouTubeライブや音楽活動など多方面で展開しているコンテンツ群の中心、つまり「自分を出す喋り」の部分がポッドキャストとして残り、ファンエンゲージメントの軸になっている、ということ。
文字より喋り、喋りより音楽
ここからけんすうさんが、ポッドキャストの弱点である「音楽を流せない問題」を逆手に取るアイデアを出します。AIで作った曲を、さも有名ミュージシャンの曲であるかのように紹介して流す音楽番組。バックストーリーも全部嘘で固める、という企画です。
樋口さんはこれを別の方向に発展させます。たとえばお菓子業界の人が、本気で業界の問題と未来を語った後、「さあ、最後にこの曲を聴いてください」と言って、その喋りを元にAIが作った曲が流れる。『笑ってはいけない』のラスト日本テレビ系で長年放送された大晦日特番。番組内で起きた出来事を歌詞に織り込んだ曲がエンディングで流れる演出があった。や結婚式の最後の映像と同じ構造です。
樋口さんは音楽の力が強すぎることへの怖さも吐露します。東日本大震災後に川辺で原発反対のバンドがライブをしていた映像、ミュージシャン三宅洋平さんの選挙演説など、内容よりも音楽の説得力で聴く人を持っていってしまう例を挙げました。だからこそ、長尺のポッドキャストの締めくくりに、その日の話を元にした曲を流すというフォーマットには大きな可能性があります。
もう一つ、けんすうさんが指摘したのは別のニーズ。「本当のことを聞かなきゃ」と頭が思うのに疲れている人にとっては、一行ずつ意味のないことを喋るAIのほうが安心して流せる──BGV(バックグラウンドボイス)としての需要があるかもしれない、という視点です。
まとめ
けんすうさんと樋口さんの会話は、AI生成ポッドキャストが量で人間を超えたというニュースから始まり、最終的に「人間にしか引き受けられない縛り」をAIに作らせる、という逆転の発想にたどり着きました。AIに楽をさせてもらうのではなく、AIに無茶をさせて、人間がそれにあたふた合わせる──そこにこそ、ポッドキャストがまだ面白くなる余地があるのかもしれません。
番組の最後には、リスナーへの呼びかけも。今回出たアイデアのうち、気になったものがあれば誰でも自由にポッドキャストにして配信してほしい、というオープンな提案で締めくくられました。
- AI生成ポッドキャストが新規フィードの45.7%を占め、1社で1日325本制作する時代に突入した
- AIが作ったものは見たくないが作った人は評価されたい、という非対称性をビジネスにできる
- 前の文と一番遠いことを言い続けるAIなど、人間にはできない縛りこそAIの活用領域
- オチや100話分のタイトルを先に決めて、人間があたふた合わせる構造に面白さがある
- AIは楽するためではなく、人格がないからこそ「ベタすぎる質問」を投げられる
- Patreonでポッドキャスト収益が前年比33%増、マルチメディア展開の「背骨」になりつつある
- 文字より喋り、喋りより音楽。30分話した後にその話を元にした曲が流れる構造がエモい
