一人で続ける「科学系ポッドキャストの日」続編
今回のテーマは、麺を茹でる湯、つまり茹で湯です。前回に続き、番組独自に「科学系ポッドキャストの日」の続編として、水と麺の関係を掘り下げます。
水と言いつつ、実際に扱うのはお湯の話です。ただ温度が違うだけで、同じH2Oなので、これも水の話だと説明されています。
今回は完全にユーザー目線の内容です。店選びそのものではなく、初めて訪れた店で必ず見てほしいポイントを伝えるのが狙いだといいます。
麺を茹でる場所が見えるお店の場合、もうどなたにでもすぐお役立ていただける内容ですし、その即効性も非常に高いので、ぜひ最後までお付き合いください。
逆に、麺を茹でる場所が客席から一切見えない店舗設計だと、今回の内容は役に立たないとのことです。
古い茹で湯は不純物の宝庫
最初のポイントは「茹で湯が濁ったままの店には要注意」です。もともと無色透明のはずの湯が濁っているのは、相当まずい状態だといいます。
これは見た目が汚い、不衛生といった嫌悪感の問題ではありません。科学的に見て、麺が美味しく仕上がらない状態であることが問題だと強調されています。
茹で湯が無色透明に近い、綺麗に澄んだ状態を保って店を回しているところは、麺を美味しく仕上げることを明確に意識している店だと言えるんですね。
ここで言う「古い茹で湯」とは、開店から一時間以上経ち、何十玉も茹でているのに、湯を足したり交換したりせず使い続けている状態を指します。
麺を茹でるたびに、生麺の表面からは様々なものが流れ出ています。まず流出するのが打ち粉です。
さらに、グルテン中の水溶性タンパク質であるアルブミンや、着色に使われるクチナシ色素なども流出します。
これらが古い茹で湯に蓄積して溶け込み、透明だった湯がどんどん濁っていくというわけです。
茹で湯は弱酸性がベスト、しかし現実はアルカリ性に寄る
ここからはラーメン店に限定した話です。打ち粉などの流出はうどんやパスタでも起こりますが、次のポイントは中華麺だけの現象です。
うどんやパスタになくて中華麺にあるもの、それはかん水です。
一部には青森市などに実在する無かん水麺の店もありますが、大多数の中華麺にはかん水が入っているとご認識くださいとのことです。
かん水がなぜ使われるのか。それは中華麺独特の強いコシを生むからだと、端的に説明されています。
問題は、麺を茹でるとこのかん水が茹で湯に流れ出ることです。すると茹で湯はどんどんアルカリ性に寄っていきます。
ところが、麺を美味しく仕上げるには茹で湯は弱酸性がベストなのです。具体的にはpH値5から6が理想とされています。
理由は、小麦粉の体積の約90%を占める澱粉のα化にあります。
pH値5から6だと、澱粉中のアミロースの溶け出しが最も少なく、アミロペクチンの膨潤効率が最も高くなります。だから弱酸性が理想とされるのです。
膨潤とは、ぷくっと膨らんでみずみずしくなること。その効率が最高になるのが弱酸性というわけです。
ところがかん水はアルカリ性です。湯に流出し続けると、澱粉が溶け出す割合が高くなり、もちもちから遠ざかってモソモソとした食感になってしまいます。
粘性、つまりミヨーンとした粘り気を司る物質。溶け出しは少ないほうがよい。
弾性、つまりボヨンとした弾力を司る物質。膨潤効率が高いほどよい。
これらの重要な物質が、アルカリ性の湯だとどんどん茹で湯に流れ出てしまうというわけです。
茹で湯の状態で店の意識が全て見える
では店側はどうしているのか。営業中は絶え間なく麺を茹でるため、茹で湯のpHはどんどん上がっていきます。
そこで、茹で釜の湯を何割か捨てて、蛇口から水や湯を足す光景を見かけたことはないでしょうか。あれこそ茹で上がりの品質を保つためのpH調整作業です。
ハッシュロイヤルさんの実体験では、注文直後に麺茹で担当のスタッフがわざわざ断りを入れに来たこともあったそうです。
すいません、ちょっとお湯を換えますんで、お時間いただきます。
客席全体に向けて宣言するケースも過去に見かけたといいます。黙って交換するだけでも十分ですが、こう説明してくれると、時間がかかるのも納得できてありがたいと話されています。
交換のタイミングは店によります。一例として、神奈川県の人気店いいだ商店が挙げられました。
いいだ商店は完全予約制で、11時・12時・13時・14時と1時間刻みの計4回転。お湯は毎回、つまり1時間ごとに交換しているそうです。
席数は17席で、ラーメン用とつけ麺用に茹で釜を1台ずつ計2台使用。連食する客も想定すると1回転あたり約25人分を、茹で釜1台で12〜13人前ほど茹でる計算になります。そのペースで完全に真新しい湯に入れ替えているとのことです。
店主の翔太さんによれば、食感だけでなく、アルカリ性の湯で茹でると麺にアルカリ成分が強く残り、狙った味にならない点にも配慮しているそうです。
ただし、ここまで徹底する店は非常に稀だといいます。
そこで、ハッシュロイヤルさんが実践している2つの方法が紹介されました。
店を出る戦法は本気の実践だそうで、泥水のような色の茹で湯を見て、何も食べずに帰ったことが実際に3回あるといいます。
ただしこの戦法には博打要素があります。券売機で先に食券を買うシステムで、しかもその場所から厨房が見えない店では使えないからです。
その場合は一度腹をくくって食べ、管理がアウトだと思ったら二度と行かない、ブラックリスト入りにするしかないと話されています。
茶色い茹で湯で味わったドツボの実体験
券売機の場所から厨房が見えない店で、まさにドツボにはまった経験も語られました。つい3、4年前の出来事だそうです。
東京都内の手打ち麺を売りにする人気店で、食券を買い、長く並んでようやくカウンターに座ったところ、茹で湯がまっ茶色だったといいます。
これ抹茶じゃないですよ。まっ茶色、濃い茶色っていう意味ですけれども。もうそれ見た瞬間、いやな予感したんですよ。
実際に出てきたラーメンは、麺を持ち上げた一発目からボトボトと次々ちぎれ、その先がスープに落ちていったそうです。
食べ進めた最後に短い麺が残るのは珍しくありませんが、これは届いて一発目の箸での出来事でした。長年の食べ歩きでは本当にいろいろ起こると振り返っています。
なお、収録日は7月31日ですが配信は8月のため、ハッシュロイヤルさんはラーメン食べ歩き満25年を経過し、26年目に突入したとのことです。
今回の参考文献は、山田昌治さんの著書『麺の科学 粉が生み出す豊かな食感・香り・うまみ』が挙げられました。科学系が好きな人なら面白いと感じられる本だといいます。
まとめ
今回は、麺を茹でる湯の色から、その店が麺の仕上がりにどれだけ意識を向けているかを見抜く視点が語られました。濁った茹で湯は麺を美味しく仕上げられない状態のサインであり、こまめに交換する店ほど信頼できると考えられます。
- 茹で湯はもともと無色透明で、濁りは打ち粉やかん水などの流出が蓄積したサイン
- 麺のもちもち感を生むα化には弱酸性(pH5〜6)が理想だが、かん水の流出で湯はアルカリ性に寄る
- 茹で湯をこまめに交換する店は、麺の品質と味を守る意識が高いと判断できる
- 厨房が見える店では茹で湯の色を確認し、濁っていたら通うかどうかの判断材料にできる
- いいだ商店のように1時間ごとに湯を全交換する徹底した店もあるが、非常に稀
