麺のキャラクターを左右する加水率とは
麺のキャラクターと聞くと、太さや細さ、ストレートやちぢれ麺といった形状を思い浮かべる方が多いかもしれません。
ですが、それ以上に重要なのが今回のテーマである加水率だと、ハッシュロイヤルさんは話します。
加水率の違いは、麺の口当たりや噛んだ時の弾力、透明感といったビジュアル、さらには茹で時間やスープとの相性まで、麺のほぼすべてを左右するといいます。
個人店のカウンターやテーブルに「◯◯%の超多加水麺を採用」といったポップを見たことがある方もいるでしょう。
この数値と実際に食べるラーメンの関係が理解できると、作り手がどういう思想でその一杯を設計しているかが見えてくると話されています。
つまりですね、あなたの推しメン、推し活の推しメンですね。どういう作り手、どういうラーメン屋さんを推し活したいか。この作り手があなたにとって面白い取り組みをしているかどうか、こういうことが明確にわかるようになります。
加水率はどう計算するのか
ラーメン用の中華麺の加水率は、一般的に30から35%が標準とされています。
加水率とは、製麺する時に小麦粉に加える水分の割合のことです。この標準より水分が少ないものを低加水麺、多いものを多加水麺と分類します。
たとえば小麦粉が1キロあり、そこに水を300グラム使う場合、加水率は30%となります。
ただし中華麺は小麦粉と水だけでなく、かん水や塩、卵黄、全卵、卵白、クロレラエキスなどの材料も使われます。
ややこしいのは、これらの質量を水側で数えるか小麦粉側で数えるか、明確な決まりがないことです。
番組では『中華そばNEO 進化する醤油ラーメンの表現と技術』に載る、とあるラーメン店のレシピを例に計算しています。
粉が合計11.5キロ、水が4キロ、かん水150グラム、塩110グラムという構成です。
水だけでカウントすると加水率は約34%。一方、かん水と塩を溶かした「練り水」として水側にまとめると約37%になります。
同じ材料でも、計算の仕方だけで3%も変わってしまうというわけです。
水4kgを、粉とかん水・塩を合わせた約11.76kgで割り、約34%
かん水と塩を溶いた約4.26kgを、粉11.5kgで割り、約37%
低加水麺と多加水麺、それぞれの特色
ある製麺会社の資料をもとに、ご当地ラーメンの加水率が北から順に紹介されています。
| ラーメン | 区分 | 加水率 |
|---|---|---|
| 旭川ラーメン | 低加水 | 約26〜30% |
| 札幌ラーメン | 高加水 | 約35〜40% |
| 喜多方ラーメン | 高加水 | 約38〜42% |
| 京都ラーメン | 中加水 | 約30〜32% |
| 博多ラーメン | 低加水 | 約26〜28% |
わかりやすいのが喜多方ラーメンと博多ラーメンの比較です。
多加水麺は食感がもちもちして喉越しがよく、あらかじめ水分を多く含んでいるため伸びにくいのが特徴です。
一方、低加水麺は食感が硬めで歯ごたえや歯触りがよく、水をあまり含んでいないぶんスープを吸収しやすく、伸びやすいという特徴があります。
ここに作り手の視点として茹で時間が関わってきます。多加水麺は茹で時間が短くて済むのです。
茹でるという工程は、麺に水を中まで浸透させながら熱を加える調理だとハッシュロイヤルさんは説明します。
多加水麺は製麺した時点ですでに水を浸透させ終わっているため、温度を上げるだけでよく、早く茹で上がるのです。
喜多方市の好きな店「アジアン食堂」での実食データでは、メニュー写真と提供されたラーメンの写真のタイムスタンプの差がたった4分だったといいます。
もちろんね、このラーメン作るのって麺茹でるだけじゃなくて、チャーシューを乗せたりとか、メンマ、ナルト、ネギって盛り付けて運んできて、これで合計四分っていうことなんですよ。
喜多方ラーメンの麺は2.2から2.5ミリの太麺で、中華水麺なら茹で時間だけでも4分以上かかるのが一般的です。それだけ多加水麺の茹で上がりは速いのです。
麺とスープの相性はこうして決まる
低加水麺はスープを吸収しやすいと紹介されました。製麺段階で加える水分が少ないため、麺の内部にスープが入り込む余地が多く残っているからです。
器に盛り付けた瞬間から周囲のスープをどんどん吸い、麺自体に旨味が染み渡ります。その反面、伸びやすいので素早く食べる必要があります。
博多ラーメンの麺量が少ないのもここに関係します。茹でる前の重量で100グラム前後が一般的です。
博多ラーメンに代表される豚骨などの濃厚スープは濃度も粘度も高く、麺が吸うスピードが遅くなります。
そのため伸びやすい低加水麺でも、伸びる時間が緩和され、濃厚スープとちょうど都合がよいのです。
これは自宅の鍋の締めにも当てはまります。鍋の終盤はスープが濃くなっているので、低加水麺と相性がよいと話されています。
逆に、澄んだサラサラのスープに低加水麺を合わせると、スープを吸いすぎてあっという間に伸びてしまうため、向いていません。
一方、多加水麺は伸びにくいので、たっぷりの麺量に適しています。
北関東や東北では並でも200グラム、大盛りだと300グラムということもザラだといいます。
その代わりスープを吸いにくいため、ちぢれ麺や手もみで折り目をつけ、そこにスープを絡ませる形状にしていると説明されます。
自宅では、女性やお子さんなどゆっくり食べたい人には多加水麺が向いていると話されています。
ただし市販の中華麺には加水率が書かれていないため、見分けは難しいのが実情です。
硬めで歯ごたえがよく、スープを吸いやすく伸びやすい。豚骨などの濃厚スープや鍋の締めに向く
もちもちで喉越しがよく、伸びにくく茹で時間も短い。大盛りやゆっくり食べたい時に向く
加水率の常識と、ラーメンの未来
低加水麺はこってりスープ、多加水麺はあっさりスープに合う。これは事実ですが、なぜこの組み合わせになったのかをハッシュロイヤルさんは考察します。
博多ラーメンのルーツである久留米ラーメンは、元々スープが濁っていませんでした。店主が見張りを母親に任せて外出した際にうっかり濁ってしまい、食べてみたら美味しかったので出したところ受けた、という逸話が語られています。
その濁った濃厚スープに合うように低加水麺が生まれた、という記述に対して、ハッシュロイヤルさんは違和感を覚えたといいます。
いや、細いのはわかるよ、茹で時間短くしたいならね。でもさっきも言ったでしょ、加水が高い方が茹で時間短くするには有利なわけですよ。
さらに低加水麺は、ものづくりの観点で作るのが大変だと説明されます。
そんなリスクを負ってまで加水率を下げたのは、本当は下げざるを得なかったのではないか、というのがハッシュロイヤルさんの仮説です。
つまり、気温が高い地域では多加水麺が打てなかったのではないか、と考えられるのです。
加水率には上げる限界があります。水が多すぎると生地になりません。麺は生地をそのまま薄く延ばして細く切るため、手で扱えるまとまりが必要なのです。
温度が高いと小麦粉の酵素が活性化し、生地が柔らかくなりすぎてたるんでしまいます。逆に水温や室温、粉の温度を下げれば多加水麺が打てるようになります。
2026年現在は製麺所も個人店も温度管理をしっかり行っていますが、昭和前期のようにエアコンの性能が不十分な時代は、温度をうまく管理できなかったと推測されます。
そのため温暖な九州地方は低加水麺、寒い東北などは古くから多加水麺が根付いた、と考えるのが自然だとまとめられています。
温暖な地域
昔は室温・水温・粉の温度を下げにくく、多加水の生地が扱えなかった
結果
低加水麺しか打てず、それに合う濃厚スープが定着した(九州など)
寒冷な地域
室温・水温を低く保てたため多加水麺が打てた
結果
もちもちの多加水麺が古くから根付いた(東北など)
現在は個人店でも製麺室に空調が入り、年中温度管理できるようになりました。そのため「濃厚スープ=低加水麺」「淡麗スープ=高加水麺」という常識に囚われない店が徐々に出てきています。
その一例が、愛知県名古屋市の「海老そば緋色」の看板メニュー、濃厚海老そばです。
鶏白湯と甘エビのコク深い濃厚スープに、滑らかでしなやかな高加水麺を合わせています。2019年のオープン当初はここまで攻めていませんでしたが、2021年あたりから独自路線を進め、人気が年々増しているといいます。
安心できる美味しさよりも、新しい体験、新しい価値観を提供するっていう店が、これから未来の店としては求められるんじゃないか。
一方でまだ保守的なエリアも多く、こうした常識に囚われない推しの店があればぜひ教えてほしいと呼びかけられています。
まとめ
今回は加水率をテーマに、麺に使う水の量だけでラーメンの印象が大きく変わることが解説されました。食感やスープとの相性、地域ごとの違いまで、加水率を軸にすると一杯の設計思想が見えてきます。
- 加水率とは製麺前の小麦粉を100とした時の水分の割合で、中華麺の標準は30〜35%
- 低加水麺は硬めでスープを吸いやすく濃厚スープ向き、多加水麺はもちもちで伸びにくく大盛り向き
- 多加水麺は水を含んでいるぶん茹で時間が短く、喜多方ラーメンでは提供まで約4分という例も
- 温暖な地域は低加水、寒冷な地域は多加水という違いは、昔の温度管理の限界による可能性がある
- 空調が普及した現在は、海老そば緋色のように濃厚スープ×高加水麺など常識に囚われない店も登場している
