久々のリアル収録。アワードと新マイクの報告
コテンラジオのこの回は、福岡の緊急事態宣言が明けて久々に3人がそろったリアル収録から始まります。本編の前に、番組まわりの告知とお知らせがいくつか続きます。
まずはJapan Podcast Awards ── 日本のPodcast番組を対象にしたアワード。リスナー投票による賞や、部門ごとの賞が設けられています2020の報告です。コテンラジオ自体は賞を取れず、投票による順位で3位だったと話されています。
一方で、楊さんが以前ゲスト出演した農家のタネさんの番組が、Spotify NEXT CREATOR賞を受賞しました。同じ福岡発のPodcastということで、樋口さんは「福岡をポッドキャストの国にしましょう」と盛り上がります。
深井さんからは、番組と株式会社コテンの歴史データベースづくりを応援するサポーターの案内がありました。月額1000円以上の支援で、最新シリーズの1話目の放送時点から10回目ぐらいまでを一気に聴けるほか、ボーナスエピソードも用意されています。
これ(サポーター)は本当に善意の連鎖にしていきたいというふうに思っていて、物を売ってる感覚で提供してるわけではないです。
法人サポーターのVALUEBOOKSとのコラボ企画では、本を売った人にメモが書き込めるしおりがプレゼントされます。キャンペーンコードは、エリザベスの「LIZ」をつけた「COTENLIZ」です。VALUEBOOKSのオンライン本棚機能「Library」に、コテンラジオの参考文献がまとめられたことも紹介されました。
最後は機材の話です。樋口さんはこれまでShureのSM58を使っていましたが、Shureからポッドキャスター向けのマイクMV7を3本提供されたといいます。ところが当日、深井さんだけが自分の分を家に忘れてきてしまい、図らずも新旧マイクの音質を聴き比べられる回になりました。
エリザベス1世とは、どんな時代の人だったのか?
本編のテーマは、エリザベス1世の生涯です。吉田松陰、勝海舟、ガンディー、アレクサンドロス、ヘレン・ケラーなどを扱ってきた、一人の偉人に焦点を当てる「ヤバい人列伝」シリーズの新しい回にあたります。
エリザベス1世は、今のイギリスにあたるイングランドの女王です。樋口さんが名前を聞いたことがあると言うと、楊さんは今のイギリス女王がエリザベス2世であることを補足し、今回扱うのは「1世」のほうだと整理されます。
エリザベス1世が生きたのは16世紀で、以前のシリーズで扱ったルターの宗教改革と重なる時代です。日本でいえば織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の時代にあたります。
(エリザベス1世は)産業革命につながる土台を作ったと言っても過言ではない人。
深井さんによると、イギリスは19世紀から20世紀にかけて勃興していきますが、エリザベス1世はその礎を築いた人物です。ただし楊さんは、当時のイングランドがまだ本当に弱い国だったことを強調します。
楊さんの言い方では、エリザベス1世はイングランドが上昇していく最初の「0.5歩」ぐらいを作った人です。この人がいなければ、イングランドは他国に侵略されていたかもしれないし、違う形になっていたかもしれない、と話されています。
王権の強い国だけが勝ち残る。中央集権の時代
16世紀のヨーロッパは、ローマ教皇の権力がさまざまな理由で落ちていき、代わりに王様の権力、つまり主権国家 ── 教皇や皇帝などの上位権力に従属せず、領域内で最高の統治権を持つ国家のこと。近世ヨーロッパで形成が進んだとされますの力が上がってきた過渡期です。
その中で幅を利かせていたのが、ハプスブルク家とヴァロワ家でした。深井さんは、当時のヨーロッパは国を単位にするより、「どの家がどう力を持っているか」で捉えたほうが分かりやすいと説明します。
楊さんは、ヨーロッパの王室は国をまたいで婚姻するのが普通で、全体が親戚同士のような関係だったと補足します。建前上は共存共栄でしたが、その中で権力闘争や上下の争いが生まれていきました。
深井さんはこの構図を日本の戦国時代にたとえます。権威が落ちていく教皇は天皇のような立ち位置で、その下に戦国大名のような家々がいて、最強のハプスブルク家と次に強いヴァロワ家がぶつかり合っている、というイメージです。
深井さんの説明では、この時代に力を持てたのは王様の権力が強い国でした。旧権力に対抗して国をまとめ上げられる国が強く、この流れが絶対王政 ── 国王が強い権力を一手に握る統治体制。常備軍や官僚制を基盤とし、近世ヨーロッパで広まりましたへとつながり、最終的にはフランス革命で壊れていきます。
逆に、神聖ローマ帝国は諸侯の反乱、オスマン帝国の侵攻、宗教問題によって分裂し、イタリアも同じように分裂しました。中央集権化に成功したのはスペインとフランスで、だからこの2国が強かったといいます。
教皇権の低下
ローマ教皇の権力がさまざまな理由で落ちていく
王権の台頭
代わりに王様の権力、主権国家の力が上がってくる
明暗が分かれる
神聖ローマ帝国やイタリアは分裂し、スペインとフランスは中央集権化に成功する
二大巨頭へ
国をまとめ上げたスペインとフランスが強国になる
仲違いしてる人と一致団結してる人で、どっちが強いかって話なんです。当然仲違いしてる人は弱い。
楊さんも、中央集権国家は調達できるリソースの量が全然違うと付け加えています。
ハプスブルク家は15世紀半ばごろから連続して神聖ローマ皇帝に即位するようになり、結婚によって領土を獲得する戦略で、ネーデルラント、ボヘミア、ハンガリーへと広がっていきました。マクシミリアン1世の時代を経て、ついにはスペイン王家とも結びつきます。
その結果、宗教改革の回にも登場したカール5世が、スペイン、スペインが持つアメリカ大陸の領土、そして神聖ローマ帝国のすべてを支配することになりました。深井さんは、それが全部親戚だという点にハプスブルク家の強さがあると話します。
楊さんは、この強大な勢力に対して、イングランドのような弱い勢力がどう振る舞い、どう付き合っていくかが、今回の物語の大筋の一つだと位置づけています。
ハプスブルク家、ヴァロワ家、テューダー朝。三つ巴の戦国時代
ハプスブルク家の拡大に対抗したのが、フランスのヴァロワ家です。特にカール5世は、オスマン帝国と戦う際に、ローマ教皇のもとでキリスト教圏をまとめ上げているのは自分だという態度をとりました。
ヴァロワ家としては、それが面白くありません。深井さんは「何お前がリーダーみたいな顔しとんねん」と抗争を挑んでいく構図を、「ほんとマフィアみたいな話」と表現します。
ヴァロワ家は、イングランドとの百年戦争 ── 14〜15世紀にイングランドとフランスの間で断続的に続いた戦争。王位継承や領土をめぐって争われましたがある程度終わったあと、常備軍の設置や官僚制の整備を進め、王権を強める体制を整えていきました。
ヴァロワ家とハプスブルク家は、イタリアのナポリやミラノの支配をめぐって戦います。宗教改革の回で触れたフランソワ1世とカール5世の戦いは、実はハプスブルク家とヴァロワ家の抗争だった、というのが深井さんの整理です。
今回の会は、これがハプスブルクとヴァロアの戦いであることを理解してないと、エリザベスの苦労がよくわかんないので、そういう理解の仕方をしてほしい。
深井さんはここで勢力を整理し直します。当時のヨーロッパで大きな存在だったのは、次の3つの家だといいます。
| 家 | 主な支配地域 | 立ち位置 |
|---|---|---|
| ハプスブルク家 | 神聖ローマ帝国、スペイン | 最強。婚姻で領土を広げた |
| ヴァロワ家 | フランス | ハプスブルク家に対抗する二番手 |
| テューダー朝 | イングランド | 弱小。エリザベス1世と父ヘンリー8世の家 |
このほかにも、独立していたベネチアや、オスマン帝国といった勢力が存在し、各勢力がバチバチに戦う戦国時代だったと説明されています。
イングランドのテューダー朝は、強い勢力に巻き込まれ、どちらかについては離れるのを繰り返しながら生き残る必要がありました。その小国を最終的にスペインに勝たせ、勃興させる礎を築いたのがエリザベス1世です。
深井さんは、エリザベス1世は最後まであまり幸せそうではなく、ずっと苦労していた人だと語ります。よく勉強し、冷静な判断力を持ち、女性差別を受けながらも、内政や宗教の問題を一つずつ乗り越えようとしました。
深井さんによれば、エリザベス1世にはクリアできなかった問題もありますが、滅びなかっただけすごいと言えるほど難易度が高い状況でした。楊さんは、三国志でいえば蜀のような立ち位置かもしれないとたとえています。
なぜ王族同士の戦争は終わらないのか?
16世紀ヨーロッパの王家が戦争を繰り返した理由について、深井さんは2つを挙げます。1つは、誰か一人が突出すると周りが潰し合う勢力均衡 ── 特定の国が強くなりすぎないよう、他国が連携して力のバランスを保とうとする考え方や状態のことの原理です。
もう1つは、結婚による領土拡大を基本戦略にしていたため、ほぼ全員が他国の王位継承権を主張できてしまうという事情でした。
フランスの王様がイングランドに対して、「いや、そこの王位は俺の親戚だから私にもあるんじゃないですか」と。
王位継承権を相互に主張できるため、王位が安定しません。楊さんは、微妙に血がつながっているからこそ利益の対立に一気に火がつき、血みどろの争いに発展することもままあったと補足します。
深井さんは、第一次世界大戦シリーズで触れた、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世とイングランド王やロシアのニコライ2世がいとこ同士だった話も、この背景から生まれたものだと説明します。日本で天皇の親戚が朝鮮の李王朝になることは起こらない、という対比も出てきました。
さらに、カトリックかプロテスタントかという宗教の違いでも勢力が分かれます。樋口さんはこれを「宗教と土地と家」の3つのレイヤーとしてまとめ、深井さんも同意します。
宗教と土地と家っていうそれぞれのレイヤーでそれぞれの結び方をするから、本気で複雑で訳分からんことになるんです。
楊さんはこれをヨーロッパの特徴だと述べ、深井さんは、この捉え方で映画などを見ると「なるほど」と思える場面が出てくるはずだと話します。
テューダー朝に至るまでのイングランドの歴史は、時間の都合でサポーター特典に回し、楊さんが話すことになりました。本編の次回は、テューダー朝の始まりから語られる予定です。
まとめ
エリザベス1世編の第1回は、主人公の生涯に入る前に、16世紀ヨーロッパの勢力図を整理する回でした。強大なハプスブルク家とヴァロワ家の間で、小国イングランドがどれほど難しい立場にあったかが、次回以降の物語の前提になります。
- エリザベス1世は16世紀のイングランド女王で、のちのイギリス勃興の礎を築いた人物とされる
- 当時は教皇権が落ち、中央集権化に成功したスペインとフランスが強国になっていた
- ヨーロッパは国ではなく「家」で見ると分かりやすく、ハプスブルク家とヴァロワ家が二大巨頭だった
- 婚姻による王位継承権の主張と、宗教・土地・家の3つのレイヤーが、争いを複雑にしていた





