なぜモンゴルにリーダーが必要になったのか
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前回までは遊牧民の特徴と歴史が語られてきました。今回はいよいよチンギス・カン本人が登場する場面から始まります。
深井さんは、当時のモンゴル高原が戦国時代のような状況になっていたと説明します。人口増加に加えて、この頃モンゴル高原の寒冷化 ── 気候が寒くなる現象。寒さで家畜が大量に死ぬと生活が成り立たなくなり、遊牧民は食料や物資を求めて移動や略奪を迫られましたが進んでいたことが背景にありました。
寒くなったことによって、家畜が大量に死んだ時があったみたいで。やっぱり南下を余儀なくされていく。
略奪や戦争が必要になると、それをまとめるリーダーが求められます。ここで名前が残る最初のリーダーが、チンギス・カンの3代前にあたるカブル・カンでした。
深井さんによれば、カブル・カンは軍事的な能力に加えて、戦利品を公平に分配し、周りが納得する評価を与える力があったのだろうと考えられています。彼によってバラバラだったモンゴル族が一度統一されます。
モンゴルは西遼派、金からの誘いを断った理由
統一を果たしたカブル・カンは、金という国と戦い始めます。前回説明されたとおり、当時のモンゴル高原では金と西遼が代理戦争を繰り広げており、モンゴル族は西遼派として金と戦う立場にありました。
モンゴル部は強く、金に侵入して略奪を重ね、連戦連敗させた末に上京会寧府という首都まで攻め込みます。追い詰められた金は、カブル・カンに和睦を申し出ました。
その条件は、毎年モンゴルに牛と羊と米と豆を送り、さらにカブル・カンに王の称号を与えるというものでした。ただし金には皇帝がいるため、王になるとは金の臣下になることを意味します。
めちゃくちゃよそ者だったんだけど、自分の会社のめっちゃ偉い人にしてあげるから勘弁してって言った。
好条件に見えますが、カブル・カンはこの申し出を断ります。理由は記録に残っておらず、西遼派だったからではないかと推測されるにとどまります。
細かいことは何も残ってないので、学者さんがもう想像するのみなんですけどね。
金が仕掛けた代理戦争、タタルとの抗争
断られて困った金が考えたのは、代理戦争をさらに加速させることでした。そこでモンゴル部のライバルとして擁立されたのがタタル族です。タタールとも呼ばれます。
深井さんはタタルについて「6つの大きな氏族からなる、すごく大きな集団だった」とだけ簡単に説明します。細かい情報を伝えても聞き手がしんどくなる、という判断からでした。
この人たちの細かいところを伝えても聞いてる方がしんどい気がした。
タタルは金の国と地理的に近く、血のつながりや交易もあったため、モンゴルよりも先進的な文化や物を取り入れていたと考えられています。
一方、西遼側でモンゴル高原の中心となる派閥はケレイトでした。ケレイトにはグル・カンというリーダーがいます。この後の話にも関わるため、深井さんは覚えておくよう促します。
戦場で生まれたテムジン、いい血筋なのに最下位スタート
モンゴル部は西遼側についてタタルと戦っており、まさにこの抗争の最中にチンギス・カンが生まれました。戦いは激しく、カブル・カンの次のアンバガイ・カンはタタルに殺されています。
ここで深井さんは、カンとバートルという2つの役職を区別するよう伝えます。カンがリーダーの称号であるのに対し、バートルは勇士を意味する称号でした。
系譜をたどると、フトラ・カンの兄弟がバルタン・バートル、その息子がチンギス・カンの父イェスゲイ・バートルです。名前にバートルがつくことは、カンほど偉い立場ではないことを示していました。
10人ぐらいしか部下がいないのよ、イェスゲイ・バートルって。その息子として生まれたチンギス・カンが世界帝国作ってるわけ。
血筋自体は悪くありません。初代カンのカブル・カンが曽祖父にあたるため、カンになる資格は持っていました。ただし父イェスゲイが出世していないため、スタート地点は低かったのです。
権利は持ってるけど、レースでは最下位みたいな、いう状態から始まった。
曽祖父が初代カンのカブル・カン。カンになる資格は持っていた
父イェスゲイは部下10人ほどのバートル。出世レースは最下位から
青き狼はまだらだった、モンゴルの起源神話
チンギスの幼少時代については、ほとんど何もわかっていません。書物として残ってはいるものの、伝説色が強く、史実ではないだろうと考えられています。
有名な「蒼き狼」という呼び名も、チンギス自身を指すわけではありません。楊さんが、モンゴル族の起源にまつわる神話を紹介します。
モンゴル族の一番最初の祖先は、青きオオカミと白きメス鹿が交わってできた民族だっていう伝説があるんですよ。
さらに深井さんは、この「青き」が誤訳らしいという話を付け加えます。本来は「まだらの狼」だったというのです。
まだらのオオカミだったんだ。
楊さんは、これはもともと2つの部族が合体し、それぞれの神話を組み合わせた結果ではないかと想像を語ります。あくまで推測ですが、ありそうな話だと受け止められました。
敵の武将の名を息子につける、テムジンという名前の由来
モンゴル族には2つの大きなグループがありました。東部を遊牧するタイチウト族と、西部のキヤト族です。チンギスはキヤト族の出身でした。
どちらも良い血統で、交互にカンを出す関係にありました。父イェスゲイも当然キヤトです。そしてチンギス・カンになる前の本名はテムジンといいます。
このテムジンという名前の由来が衝撃的です。テムジンはタタル族の武将の名前で、生まれた瞬間あたりに父イェスゲイが討ち取った敵の名前だというのです。
捉えて殺した敵の名前を息子に付けてるんですよ。
むちゃくちゃするやん。
深井さんによれば、モンゴル族には出産後に初めて遭遇したものの名前を新生児につける習慣があったとされます。楊さんは、こうした慣習は今も一部の部族に残っていると補足します。
子供が生まれた時に、ちょうどこの星が空にあったから、通ったから、この星の名前を付けた。
生まれた年すらはっきりしません。書物によって1154年から1167年まで大きな開きがあります。牧民は生年月日に関心が薄く、記録を残さなかったためだと語られます。
結婚式の隊列から奪われた母、掠奪で始まる一家
母のホエルンは、コングラトという部族の出身でした。しかも父イェスゲイに略奪されてきた女性だと言われています。
さらに驚くのは、その奪われた状況です。ホエルンは結婚のために移動していた隊列から、イェスゲイに奪われてきたと語られます。
結婚に行くために移動している隊列からイェスゲイが奪ってきた。
パンクだな。
深井さんは、父イェスゲイが自らの力をつけようと動いた過程も説明します。政治闘争でぐちゃぐちゃになっていたケレイトに介入し、トーリルという人物をカンの位につけたのです。
これによってトーリルは、イェスゲイのおかげで自分がカンになれたという恩を負うことになります。トーリル・カンは後にチンギスの上司になる重要人物ですが、最終的にはチンギスに殺されると深井さんは付け加えます。
彼らにしては多分精一杯生きてるんだろうな。身を守るために。
父イェスゲイの死と、受け継がれた恨み
イェスゲイはキヤトの立場から、ケレイトと団結して勢力を強めようとしていました。しかし、この同盟はキヤトには歓迎されても、もう一方のタイチウトにとってはどうでもよいものでした。
ここからタイチウトはイェスゲイを嫌い始めます。そしてイェスゲイが死んだ後、その恨みは息子であるテムジン、つまりチンギスへと向かうことになります。
キアトだから。イエスゲイへの恨みはテムジン、チンギスに向いて、これで青年期にとても苦労した。
父イェスゲイは、タタルに毒殺されたと言われています。チンギスがまだ幼い頃の出来事でした。その後チンギスは母ホエルンに育てられ、とても苦労したと考えられています。
父の死とともに部下は散り、キヤト族はまとまりを失います。すると相対的にタイチウトが力をつけ、キヤトの血統を持つテムジンは邪魔な存在として狙われるようになりました。
長男であったチンギスは、ジョチやカチウン、テムゲ、ベルグテイといった弟たちの世話もしたのではないかと言われています。あまりに馴染みのない名前と状況に、樋口さんは戸惑いを見せます。
なんかもう結構本当に違う星で起きてることなんじゃないかっていうくらい。
このままスターウォーズとかでもおかしくない。
なぜ勉強したことがないのか、欠落した遊牧民の歴史
名前も状況も馴染みがないという感想に対し、楊さんは重要な指摘をします。それは、これまで学んできた歴史の中で遊牧民をほとんど習ってこなかった証拠だというのです。
ここで深井さんが、複雑な勢力図をもう一度整理します。金と西遼がモンゴル高原で代理戦争を繰り広げ、その中に多くの部族が群雄割拠していました。
代理戦争
金と西遼が高原の部族を味方につけて争う
部族
ナイマン、メルキト、ケレイト、モンゴル、コングラト、タタルが群雄割拠
モンゴル内部
タイチウトとキヤトの2グループに分かれる
チンギス
キヤト出身。タイチウトから嫌われハードモードで始まる
深井さんによれば、今名前が出た部族のうち金派閥はタタルだけで、あとはすべて西遼派でした。モンゴルの中のキヤトとして生まれたチンギスは、父イェスゲイの代からタイチウトに嫌われ、まさにハードモードのスタートだったのです。
部族はなぜ代理戦争に参加したのか
樋口さんは、そもそも部族たちが何のために金や西遼のために戦っていたのかと尋ねます。深井さんの答えは、一番は交易であり物資だというものでした。
具体例として挙げられたのがタタルです。タタルは金に近い場所におり、まず金と交易ができます。そのうえで、さらに奥にいるモンゴルやコングラトとも交易し、中間マージンを取れる立場にありました。
そういうことも、要は彼らの収入につながってたりするわけ。
つまり部族どうしにははっきりした利害関係があり、それが複雑すぎて統一を妨げていました。金と西遼はその状態を意図的に維持し、統一させないようにしていたとされます。
この複雑な状況を、後にチンギスが統一していくことになります。樋口さんは、世界帝国までの距離がいかに果てしないかを実感したと締めくくりました。
ここからの世界帝国までの距離はすごいでしょう。
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まとめ
チンギス・カン編第3回は、世界帝国を築いた男が実は敵だらけの最下位からスタートしていたことを描く回でした。血筋は悪くないものの、父の代から敵に囲まれ、名前も掠奪もむちゃくちゃな環境で少年時代を送っていたことが語られました。
- モンゴル部は西遼派として金と代理戦争を戦い、曽祖父カブル・カンが一度統一を果たした
- チンギスの本名テムジンは、生まれた頃に父が討ち取ったタタル族の武将の名前に由来する
- 母ホエルンは結婚の隊列から父イェスゲイに略奪されてきた女性だった
- チンギスは良い血筋を持ちながら、父の出世不足とタイチウトの恨みで最下位から始まった
- 部族が代理戦争に参加した動機は交易の利益で、その利害の複雑さが統一を阻んでいた







