ウクライナ戦争は「21世紀の始まり」なのか?
後編の冒頭で、楊さんは前編の豊島さんの話を振り返ります。豊島さんは前編で、国際政治のリアリティと私たちの日々の生活のリアリティは続いている、と話していました。
楊さんは子どもの頃、EUのように国境が薄れ、世界はどんどん一つになっていくと思っていたそうです。その見方が変わったきっかけが、2001年9月11日の同時多発テロでした。
僕はやっぱ子供の時って世界ってどんどん一つになっていくもんだと思ってたんですよ。
(2001年の)9.11の時に世界ってそうはならないんだって思ったんですよ。
楊さんはその後、人は気持ちのよさだけでは一つになれず、それぞれの歴史性を背負っていると学んだといいます。EU統合への希望もありましたが、コロナとウクライナ戦争を経て、世界が一体化していくのは厳しいという肌感覚を持っていると話します。
楊さんがその感覚を言語化してくれた本として挙げたのが、社会学者の大澤真幸 ── 日本の社会学者。現代社会や資本主義、ナショナリズムなどを論じる著作を多数持ちますさんと橋爪大三郎 ── 日本の社会学者。宗教社会学などを専門とし、大澤真幸さんとの共著対談本シリーズでも知られますさんの共著『驚きのウクライナ』書名表記です。
楊さんの理解では、この本はウクライナ戦争を、第一次世界大戦が20世紀を始めたのと同じ意味での「21世紀の始まり」と位置づけています。
覇権がイギリスからアメリカへ移り、世界の中心が旧大陸から新大陸へ。国家モデルは国民国家、経済は資本主義へ移っていった
覇権がアメリカから旧大陸へ戻ってくる。旧大陸で待っているのは国民国家ではなく帝国だとされる
楊さんは、この議論の下地に梅棹忠夫さんの『文明の生態史観 ── 民族学者・梅棹忠夫の代表的著作。ユーラシアの文明を地域ごとに比較し、西欧・日本と大陸の帝国地域を対照的に論じました』があるのではないかと付け加えます。そこではユーラシアにロシア、中国、インド、中東イスラムという4つの帝国があり、多くの民族を支配する構造が示されているそうです。
本の中では、イスラムはまとまれておらず、ロシアはウクライナ戦争で弱さを露呈し、インドは歴史的にグローバルな存在感を発揮したことがない、と整理されているといいます。そのうえで、中国だけが存在感を発揮しつつあり、アメリカの世紀から中国の世紀へ移るきっかけになるのでは、という見方が語られていると楊さんは紹介しました。
米中対立は「トゥキディデスの罠」に陥るのか
楊さんの要約を受けて、豊島さんが注目したのは米中関係です。豊島さんによると、旧大陸の国家は基本的に陸軍を重視する陸の国家で、アメリカは海軍で世界に出ていく海洋国家だといいます。
楊さんが「ランドパワーとシーパワー」の話だと補うと、豊島さんは、覇権国アメリカに挑戦国の中国が挑む構図は非常に大きな動きだと応じます。
豊島さんがここで挙げたのが、ハーバード大学の教授だったとされるグレアム・アリソンのトゥキディデスの罠 ── 台頭する新興国と既存の覇権国が、互いの警戒から戦争に陥りやすいという考え方。名前は古代ギリシャの歴史家に由来しますという議論です。
豊島さんの説明では、覇権国と台頭する挑戦国が争う構図は、アリソンによると人類史上16回ほど起きてきたそうです。例として、イギリスとオランダ、スペインとポルトガル、フランスとハプスブルク帝国、そして米ソの冷戦が挙げられました。
豊島さんは、ロシアはこの戦争で衰退を早めたとも言われ、衰退する国家が今の混乱を起こし、台頭する中国が次の混乱を起こすかもしれないという議論が今されている、と話します。
一方で豊島さんは、旧大陸の帝国に覇権が戻るという視点に、テクノロジーという要素を加えたいと言います。半導体技術で圧倒的な優位を持つのはほぼアメリカで、台湾もそうだというのが豊島さんの見方です。
テクノロジーの文脈で見れば、当面は米中、その先にはインドが来るかもしれない、と豊島さんは考えます。インドは中国の人口を翌年にも追い抜くと言われる一方、貧富の格差が大きく軍事力もまだまだだとして、米中の次にインドというフェーズが来るのではと語りました。
民主主義は世界中に実装できる「普遍」だったのか?
楊さんは、自身の要約で抜けていた論点を補います。橋爪さんと大澤さんの指摘の一つは、民主主義や資本主義は文化的に醸成されたもので、誰もが民主主義的であることは難しいのではないか、というものです。
楊さんの整理では、社会秩序を打ち立てる技術は文化や社会ごとにあり、それをグローバルに実装できると思っていたのが近代だった、ということになります。
楊さんは、20世紀のアメリカによるベトナムやアフガニスタンへの関与を、自由と民主主義と資本主義を世界中に実装しようとする試みと捉えます。アフガニスタンからの撤退はその失敗を意味している、というのが楊さんの受け止めです。
豊島さんが「変える」とはコントロールの意味かと尋ねると、楊さんは、各社会の意思決定の方法は外からの圧力では変えられない、つまり文化なのではないか、という意味だと説明しました。
楊さんによると、イスラム、ロシア、インド、中国にはそれぞれの意思決定の方法があります。ただ中国だけは、橋爪さんが「ジェネリック」と表現したように資本主義を着実にキャッチアップし、資本主義というゲームの中でアメリカと張り合えるようになっている、という話だそうです。
楊さんはここから2つの視点を引き出します。1つは、西側の視点を唯一の正しい見方だと思いがちだが、実は相対化できるということです。もう1つは、それでも米中が対立に突き進もうとしている現実がある、ということでした。
その価値観のすれ違いが表に出る話題として、楊さんは台湾を挙げ、豊島さんに意見を求めます。
「秩序」の中国と「自由」のアメリカ、なぜ台湾で火花が散るのか
豊島さんは、米中が根本的に対立するのは、国家や政府についての考え方がまったく違うからだと説明します。
豊島さんによれば、中国にとっては秩序が一番大事です。始皇帝の統一以来、王朝が変わっても、今は共産党が事実上支配していても、巨大な国土と中華をまとめるには強力な中央の権力が必要だという考え方があり、権力の集中が認められやすいといいます。
一方のアメリカについて、豊島さんは、建国した人たちがヨーロッパの圧政から逃れてきたため、そもそも権力を信用していない国だと話します。議会、裁判所、大統領に権力を分け、効率を犠牲にしてでも独裁者を生まないようにしてきたという見方です。
中国から見れば、アメリカの言う自由は混沌でしかなく、春秋戦国時代のように多くの人が死ぬカオスを避けることが優先される、と豊島さんは続けます。
秩序を最重視。巨大な国土をまとめるため、中央への権力集中を認める。混沌(カオス)を避けることが大事
自由を最重視。建国の経緯から権力を信用せず、議会・裁判所・大統領に分散させ、効率より独裁の防止を優先する
この2つの思想がぶつかる場所が台湾だ、と豊島さんは言います。台湾にも総統という強い指導者はいますが、陣営としては西側の民主主義の価値観に近く、それが社会に根づいているといいます。
豊島さんの説明では、台湾はかつて国民党の強い支配下にあり、蒋経国 ── 台湾の国民党政権の指導者で、父・蒋介石の後を継いで総統を務めた人物。晩年に戒厳令を解除しました蒋経国の時代を経て、李登輝 ── 台湾の元総統。台湾出身者として初めて総統となり、民主化を進めたことで知られますさんのころから変わり始めました。人々が納得するプロセスの中で民主主義を選び、アメリカ側にいたほうがよいと考える人も多いそうです。
さらに豊島さんは、香港の例を見るにつけ、中国共産党の支配は受け入れられないという理解が台湾で広がっていると話します。ただし形式上はアメリカも「一つの中国」を認めているため複雑で、日本にとっても次の危機の入り口は台湾から来る、というのが豊島さんの見方です。
香港の雨傘運動は、なぜ台湾で「自分ごと」だったのか
楊さんは、香港で雨傘運動が盛り上がっていた時期、ちょうど台湾に住んでいたそうです。台湾ではこのニュースが非常に注目され、楊さんの周りには香港に行きたがる台湾の人も多かったといいます。
雨傘運動に連帯しないと次は台湾なんだっていう危機感がすごく大きかったんですよね。
日本に帰国してみたら、誰もその話(雨傘運動)してないから、僕すっごくびっくりしたんです。
雨傘運動を知らない聞き手のために、楊さんは経緯を説明します。楊さんによると、香港は阿片戦争 ── 19世紀に清とイギリスの間で起きた戦争。清が敗れ、香港島がイギリスに割譲されるなど、中国の近代史の転機となりましたでイギリスに敗れた中国がイギリスに貸すことになり、長くイギリスの統治下にあった後、中国に返還されました。
楊さんの説明では、返還時、共産党の一極支配の中国と、イギリス風の制度を持つ香港とで一国二制度 ── 一つの国の中で、異なる政治・経済制度の並存を認める仕組み。香港やマカオの返還にあたって採用されましたをとり、政治の仕組みを急に変えないと約束したそうです。
返還
香港がイギリスから中国に返還され、一国二制度で香港のルールを維持すると約束される
介入
香港の人々の期待よりも急に、中国政府が香港の行政に介入して制度を変えていく
反発
香港の若者たちが中国の支配に反対する運動を始める。これが雨傘運動
楊さんは、介入という表現は自分の見方だとしつつ、香港の人もそう受け取ったのではないかと話します。
台湾が香港と似ているのは、中国の一部とされ、中国に合流する可能性がゼロではない点です。合流時に一国二制度を約束されても、その後に実質的に介入されるのではないか、という恐れから、香港に連帯しようという空気が生まれたと楊さんは説明します。
楊さんによると、台湾では若い人も含め誰もが雨傘運動の話をしていたのに、日本では同世代の誰もその話をしていなかったそうです。台湾の問題は日本の問題につながっているのに、なぜこんなに関心がないのかと驚いた、と振り返りました。
台湾有事はいつ起こりうるのか?中国が描くシナリオ
続いて、台湾の問題が日本の安全保障にどうつながるのかを、豊島さんに整理してもらう流れになります。
豊島さんはまず香港の経緯を補足します。1997年ごろに特別行政区となった香港は、返還後もある程度自由でしたが、締め付けが強まり、林鄭月娥 ── 香港特別行政区の元行政長官。在任中に大規模な抗議デモが起き、統制が強化されましたさんが行政長官の時代には、事実上親中派しか議員になれない状況になったといいます。
台湾の人々にとってはまさに「今日の香港、明日の台湾」で、中国に支配されればああなるのかという絶望感と焦りがあった、と豊島さんは話します。日本ではどうしても他国のことという受け止めで、温度差が大きかったという見方です。
豊島さんによると、香港は返還の約束があったため、軍隊を使わず政治的に締め付けることができました。しかし台湾には、共産党が入って支配するという約束事はありません。
台湾の人々の拒否感が強いため、中国は軍事的に統一せざるを得ないかもしれないと考えるようになっている、と豊島さんは見ています。中国は軍事演習の映像を大々的に公開し、台湾を落とせるというメッセージを発しているそうです。
時期について豊島さんは、軍事統一には時間がかかり、2030年代ごろではないかというのが専門家の大まかなコンセンサスだったと話します。本の中では「起こるかどうかではなく、いつ起きるかの問題」とも書いたそうです。
ただ最近は、フィナンシャル・タイムズなどで2020年代に起こりうるという指摘も出ているといいます。相手が2030年代と見ているなら、その先を制するという考え方もありうる、と豊島さんは説明しました。
豊島さんは、その場合に日本の準備が万端とは言い難いと話します。起きれば日本に大きな政治経済的インパクトがあるため、具体的なシナリオを本の後半の3分の1ほどで書いたそうです。
どの国が関わってくるのかという問いに対し、豊島さんが示したのは、中国がアメリカの戦力を分散させようとするシナリオです。
北朝鮮の動き
中国との協議のもと、北朝鮮軍が韓国を脅す軍事行動を活発化させ、在韓米軍などが張り付けられる
ロシアの動き
ロシアへの働きかけで極東のロシア軍の動きが活発になり、自衛隊の北部方面隊や米軍の一部も警戒に回る
台湾侵攻
相手の注意と戦力が分散したところで、台湾を落としに行く
聞き手からは、そうなると海を挟んで日本が面している国がすべて関わり、国内に米軍基地もある日本はかなり危ういのでは、という声が上がります。
独裁国家に囲まれた日本、危機感はどう変わったのか
豊島さんは、日本が置かれた環境をこう説明します。北朝鮮、ロシア、中国という、事実上の核保有国がいずれも至近距離にあり、しかもいずれも独裁国家だという点です。
民主主義国家であれば、議会で武力行使をめぐる議論が始まるなど、外から観察できる兆しがあります。しかし独裁国家は意思決定がブラックボックスで、今回もプーチン大統領の最後の決断がいつ下されるかは最後まで見えなかった、と豊島さんは話します。
一方の日本は、民主的な議論で物事を決めるため時間や手続きがかかり、自衛隊をめぐる法的な制約もあります。豊島さんは、日本が相当チャレンジングな状況にいると見ています。
豊島さんによると、ウクライナの戦争が始まってから、自衛隊や外務省の中の危機感は一段違うそうです。これまで「次の担当者が考えればいい」とされていた問題が、自分の代で考えなければならない問題になってきたのかもしれない、と話しました。
ここで聞き手は、普段の生活ではこうした話にリアリティを感じにくいと率直に語ります。そして、中国はロシアとウクライナの動きをずっと見ているのではないか、と問いかけました。
豊島さんは、中国軍にとってロシア軍はかつて仰ぎ見る存在で、ある種の先生だったと説明します。中国軍はロシア製の武器を使ってきましたし、空母「遼寧」もウクライナで造られ、ソ連海軍に属していた時期があるものだそうです。
そのロシア軍が無残な負け方をしているのを見て、中国はロジスティクスやドローンの使い方などを相当見ているはずだ、と豊島さんは言います。台湾は台湾で、圧倒的な軍事力に攻め込まれたときにどう戦い抜くかを、ウクライナの戦い方から学んでいるという見方です。
聞き手が「中国はロシア目線で、台湾はウクライナ目線で見ている」とまとめると、豊島さんは、前線の軍人は双方の立場から細かく分析しているだろうとしつつ、大まかにはそう言えるかもしれないと応じました。
アメリカはなぜ「台湾を守る」と言い続けるのか
西側の反応が世界の方向性を決めるのではないか、という問いに対し、豊島さんはバイデン大統領の発言に注目します。バイデン大統領は、台湾を守るのかと問われると「守る」と言い、それは明らかに計算して言っているそうです。
豊島さんによれば、背景にはアフガニスタンからの撤退があります。タリバンに追われるようにカブールが陥落し、大使館員も撤退する姿を見て、同盟国には「アメリカは守ってくれないのでは」という懐疑論が広がりました。
アメリカが最も恐れたのは、中国がそこから誤ったメッセージを受け取り、台湾も同じように見捨てると思われることだ、と豊島さんは説明します。だからこそ、絶対に守るとコミットしているという見方です。
聞き手がオバマ大統領の「世界の警察をやめる」という発言の影響を尋ねると、豊島さんはさらに長い文脈を示します。
豊島さんは、レッドラインを引きながら何もしなかったことで、アメリカは約束を実行できない国なのか、とコミットメントの信頼が揺らいだと話します。
同時に豊島さんは、中国を強くしたのはアメリカでもあると指摘します。ニクソン大統領はソ連と中国の両方を敵に回せないため中国と手を組む選択をし、それ以来アメリカは中国に技術援助などを重ねてきたそうです。
豊島さんはこれを、アメリカが自らフランケンシュタインを作ってしまい、今そのフランケンシュタインと戦わなければならなくなっている状況だとたとえました。
日本は「何がしたいのか」を決められているのか
聞き手は、台湾有事で日本がどこまで関わるかは、憲法の解釈や自衛の範囲などを今まで以上に細かく決めなければならない難しい問題だと話します。しかも初めての状況で瞬時に判断しなければならず、日本が対応できるのか不安だといいます。
楊さんはそこに、日本の行為が他国にどう見なされるかという論点を加えます。情報提供、兵器供与、基地の提供のどこからが戦争状態なのかは国際的な合意がなく、日本が国内法で「ここまでは大丈夫」と決めても、他国がそう見るとは限らない、という指摘です。
豊島さんは、どう見なされるかも重要だとしたうえで、その前提として「日本がどうするのか」を考える必要があると話します。
豊島さんが示した有力なシナリオの一つは、中国海軍の艦艇による台湾の海上封鎖です。そのとき、先島諸島や与那国島など日本の一部の島が、中国の武力制圧を受ける可能性があるといいます。
自国の領土が制圧されれば、国際法上、撃退する権利が生まれ、日本は自衛権を発動して自衛隊を出動させることがありえます。豊島さんはこれを最悪のシナリオとし、自衛隊員が血を流す離島奪還作戦が現実になる状況をどう決断するかが一つの問題だと話しました。
もう一つの論点が、台湾への武器支援などです。豊島さんによれば、台湾は日本にとって国ではないため、援助の枠組みがそもそもありません。中国がそうした援助を敵対行為と見なす可能性もあるといいます。
それでも豊島さんは、日本は自分の行動がどう見られるかを気にしがちだが、そもそも日本は何がしたいのか、どうすべきだと考えるのかを、ここ数年でちゃんと議論する必要がある、というのが率直なところだと話します。
一方で豊島さんは、平和安全法制 ── 2015年に成立した安全保障関連法の総称。集団的自衛権の限定的な行使や、他国軍への後方支援などの枠組みを定めましたによって米軍への燃料補給などの枠組みは少しずつ整いつつあるとも言います。ただ、それが実際に運用できるのか、試したことがあるのかは別で、大臣が集まってシナリオのもとで動く閣僚演習はやったことがないそうです。
豊島さんは、演習が中国を刺激しかねないという政治的配慮もあり、自重すべき時期もあるだろうと認めます。そのうえで、台湾有事がリアリティを帯びてきた今、日本としての備えや安全保障の議論をしておくべき時期はすでに来ているのでは、という議論がなされているのは事実だと話しました。
ジャーナリストが情報発信する意味とは
楊さんは話題を変え、豊島さんが積極的に情報発信することの意義を尋ねます。学者や政治家の発信と、ジャーナリストの発信の違いをどう捉えているのか、という問いです。
豊島さんは、ウクライナについて本を書いたり動画で解説したりすることに「負い目」があると明かします。豊島さんは国際政治学の修士課程まで進みましたが、博士号を持ち、地域紛争やアメリカ外交に詳しい先輩がたくさんいるからです。
豊島さんによれば、学問の世界はファクトと一次資料が揃ったうえで丁寧に解釈していくものです。ただ、物事が速く動く現代では、それだと間に合わない場面もあるといいます。
その中間に入るのが報道で、初報に加えて学者をスタジオに招いて解説してもらうのは、一般の人々とアカデミズムが出会う場を提供する仲介者の役割だ、と豊島さんは説明します。
今回は戦争が進行中で、しかもヨーロッパで起きているため英語の情報や分析が非常に多いそうです。豊島さんは、それを日本語に置き換えてなるべく早く届けることに意味があると考えたといいます。
豊島さんは学生時代、ボスニアやシリアをバックパッキングで旅し、その経験を修士論文に生かしていたそうです。そして、戦争は世の中の最大の理不尽だと話します。
豊島さんは、前線で撃ち合うロシアとウクライナの若者は、たとえば浅草の雷門で偶然出会えば、言葉もほぼ同じなので記念撮影を頼み合うような二人だったかもしれない、とたとえます。それが、一人の政治家が戦争を始めると言った瞬間に、死ぬまで撃ち合う状況になってしまうというのです。
半世紀以上前に凄まじい戦争を経験した国の人間として、その理不尽さを即時性をもって伝える意味がある、と豊島さんは考えています。台湾の問題も避けて通れないとして、YouTube解説でできることはやろうと考えたのが原点だそうです。
豊島さんは、分析不足への批判も受け止めながら、学問でも現場でもない中間地点の報道機関の人間としてやるしかない、と話しました。
これに対して深井さんは、情報の速さと正確さはトレードオフで、役割分担だと応じます。
| 担い手 | 重視するもの | 役割 |
|---|---|---|
| 学者 | 正確さ | ファクトと資料が揃ったうえで丁寧に解釈する |
| 記者(現場) | 即時性 | 現地で命の危険を顧みず取材し、情報を届ける |
| 報道・解説(中間) | 両者の橋渡し | 一般の人とアカデミズムをつなぎ、早くわかりやすく届ける |
その情報の速さと正確さっていうのって、早く正確に全て100パーするっていうのは無理だと思っていて。
僕ら(コテンラジオ)が学者とエンタメの多分僕ら間ぐらいを取り持つみたいな意識でやってるんですけど、それと多分同じで、どっちも必要なんだけど、その間も同じように必要みたいな。
豊島さんは、本当に努力しているのはウクライナに入り、命の危険を顧みずカメラを回している記者たちで、自分もその情報を得ているとして、まず現場のジャーナリストに最大の敬意を払いたいと話しました。深井さんは、それをまとめてわかりやすく届ける豊島さんも含め、全員が協力し合っているように見えると応じています。
国際政治と無関係な人はいない。最悪を想定しつつ希望を持つ
締めくくりに深井さんは、今回の準備を通じて、自分がこれほどリアリティを持って世界を見ていなかったと改めて感じたと話します。
本当にこんなにリアリティを持って世界を見てなかったなって改めて思ったんですよね。
深井さんは、リスナーにも同じような認識の人が多いのではないかとし、私たちの生きる世界が国際情勢とひと続きだという認識を少しでも渡せていればうれしい、と語りました。
豊島さんは、国際政治と無関係な人はこの世に一人もいないと応じます。会社に通う、百貨店で買い物をする、旅行に行くといった日常も、国家同士が何千年もの戦争の末に国境を引き、共存に合意した秩序のうえに成り立っている、という説明です。
豊島さんは、その秩序が崩れればすべてが崩れると話します。ある日突然、自分も死ぬかもしれないというのが、その原点だといいます。
深井さんは、今回詳しく話せなかった核の問題についても、豊島さんがテレ東BIZで公開している約50分の解説動画をあわせて見てほしいと呼びかけました。
最後に豊島さんは、危機感を煽る印象を与えたかもしれないとして、補足を加えます。かつて米ソが大量の核兵器を突きつけ合っていた時代に比べれば、世界はよい方向に向かっている面が確かにある、という点です。
豊島さんは『ファクトフルネス』にも触れ、識字率や教育は普及し、貧困や飢餓で亡くなる人も減っていると話します。未来は結局私たちの決断次第で、悪くもなりうるけれど、アップサイドのほうが大きいと信じたい、と語りました。
豊島さんは、動画ではいつも危機感を強調していると言われるが、あくまで最悪のシナリオを一応考えておこうという立場で、基本的には世界はよくなっていくと信じたいと話します。深井さんは、最悪の事態を想像しつつ希望を持って進むという両方が大事だと改めて感じた、と応じました。
豊島さんは告知として、著書『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか』が第3版ほどまで版を重ね、台湾有事のシナリオも書いていると紹介しました。
まとめ
この回では、ウクライナ戦争を「21世紀の始まり」と見る視点から、米中対立、香港と台湾、日本の安全保障、そしてジャーナリストの役割へと話が広がりました。豊島さんは危機への備えを求める一方で、世界はよい方向にも向かっているとし、最悪を想定しながら希望を持つ姿勢を示しています。
- ウクライナ戦争は、覇権が旧大陸に戻る「21世紀の始まり」とする見方があり、豊島さんはそこにテクノロジーの視点を加え、米中の次にインドを挙げた
- 秩序を重んじる中国と自由を重んじるアメリカの価値観が衝突する場所が台湾で、香港の雨傘運動は台湾で強い危機感を生んだ
- 台湾有事は2030年代とする見方に加え、2020年代の可能性も指摘されており、日本は「何がしたいのか」を議論して備える時期に来ていると豊島さんは話す
- 情報の速さと正確さはトレードオフで、学者・現場の記者・その間をつなぐ報道がそれぞれ必要だという役割分担が語られた
- 国際政治と無関係な人はおらず、日常は国家間の秩序のうえに成り立っている。最悪を想定しつつ、未来の可能性を信じることが大切だとされた


