明るいオープニングは「ごまかし力」の話から
ヒトラー編の初回は、テーマとは対照的な明るい雑談から始まります。樋口さんは、収録に慣れて話が流暢になってきたことを振り返り、「噛んでも関係ないと思えることが流暢さだ」と話します。
樋口さんは、この考えをギターソロにたとえます。弾き始めの頃は、ミスをしたときにカバーできないから弾けない、というのが樋口さんの見立てです。
トゥーで間違っちゃったとしても、ティウイって上げることができれば、これ要は間違いを正解にすることができる腕力なんですよ。
なるほどね。ちょっとかっこいいこと言ってますけどね。ごまかしと。
実力ってごまかし力ってことですね。
樋口さんによれば、オープニングを明るくしたのは、今回のテーマが「破滅的に暗くなりそう」だからです。
ヒトラー編は、なぜ「夜寝れなくなる」ほど重いのか
樋口さんが発表した今回のテーマは「独裁者ヒトラー破滅へのカウントダウン」です。樋口さんにとってのヒトラーは「独裁者」というイメージしかなく、どんな人生を送り、世界にどう影響したのかを学んでいく回になります。
深井さんは、歴史には面白いものだけでなく、悲惨な歴史もあると話します。深井さんは大学時代にヒトラーを勉強したことがあり、今回改めて学び直したときには気持ちが沈んだといいます。
ヒトラー、大学時代に一回僕勉強したことがあって。で、今回改めて機会があったので、勉強した時に、あのちょっとね、夜寝れなくなったもん。
そのため樋口さんは、人の生き死にの話が出てくるとしても、客観的に事実を淡々と学ぶというスタンスを最初に確認します。深井さんも、通勤中に聴くリスナーを気遣いつつ、このテーマ自体はとても興味深いと話します。
番組の姿勢は、悲惨な歴史を避けるのではなく、共感しすぎず事実を淡々と学ぶというものです。
ドイツ人ではなかった?ヒトラーの生まれと人物像
深井さんによると、ヒトラーが生まれたのは1880年代ごろです。生まれた場所はドイツではなくオーストリアで、ドイツとの国境のすぐ近くでした。のちにドイツへ移りますが、厳密にはドイツ人ではありません。
生まれた場所は、あの、実はこの人オーストリア人です。ドイツ人じゃないんですよ。
ヒトラーの人物像を一言で表すなら、深井さんの言葉では「すごいアーティスティックな偏屈者」です。ヒトラーは画家を目指し、そこそこ上手い絵も描いていましたが、画家になれず、ひょんなことから政治家になっていきます。
深井さんが特に強調するのは、ヒトラーの感情の使い方です。深井さんは、ヒトラーが生きるエネルギーの大半を怒りから生み出していたと語ります。
深井さんは同時代のガンディー ── インド独立運動の指導者。非暴力・不服従を掲げ、イギリスの植民地支配に抵抗しました。ヒトラーとほぼ同じ時代に活動していますと比べ、慈しみや愛情から力を出すガンディーとはエネルギーの出し方が真逆だと見ています。
怒りからエネルギーを生み出し、ずっと怒っている
慈しみや愛情から来る力の出し方をする
能力はないのに、何が突出していたのか?
樋口さんが「子供時代から優秀だったのか」と尋ねると、深井さんは諸説あると断ったうえで、「能力もあんまりない」というのが自分の結論だと答えます。歴史に名を残した人物としては意外な評価です。
(ヒトラーに)戦争の戦略的な思考力があったかって言ったらないし、人をマネジメントしてモチベートする能力があったかって言ったらない。
深井さんは、ヒトラーには物事を順序立てて進める能力も、忍耐力もあまりなかったと続けます。一方で、ヒトラーに突出していたものとして深井さんが挙げるのは、怒りで人を動かす才能と、自分を信じきる力です。
怒りのエネルギーで人の怒りを煽るっていう才能が死ぬほどあるんですよ。
深井さんが挙げる「自己確信力」とは、自分の言っていることを疑わず、間違いかもしれないとも思わない力です。人の意見に迎合せず、自分の意見を曲げて妥協することも絶対にしなかったといいます。
| 項目 | 評価 | 深井さんの説明 |
|---|---|---|
| 戦略的思考力 | ない | 戦争の戦略を考える力はなかった |
| マネジメント力 | ない | 人を動かしモチベートする力はなかった |
| 段取り・忍耐力 | あまりない | 物事を順序立てて進め、耐える力は弱い |
| 怒りを煽る才能 | 非常にある | 怒りのエネルギーで人の怒りを煽る |
| 自己確信力 | 非常に強い | 自分を疑わず、妥協しない |
樋口さんは、福岡の警固公園 ── 福岡市中央区天神にある公園。繁華街の中心にあり、人が多く集まる場所として知られていますの喫煙所で世の中への不満をつぶやき続けるおじさんにたとえます。深井さんはそこまでではないとしつつ、視野が狭いまま突き進み、人の意見を受け入れない力はとても強かったと話します。
ヒトラーに「思想」はあったのか?
樋口さんが「ヒトラーは実力やシステムではなく、思想で人を動かすタイプか」と尋ねると、深井さんはそれも否定します。前回扱ったブッダには自分の思想がありましたが、ヒトラーには独自の思想もなかったというのが深井さんの見方です。
この人がマインカンプ、あの我が闘争の中で言ってる内容なんていうのは、その同時代のちょっと前の時代の人たちの思想をつぎはぎしてるだけで、別にそんなオリジナリティーがあるかって言ったらないです。
我が闘争 ── ヒトラーの著書で、原題は『Mein Kampf(マイン・カンプ)』。自伝的な内容と政治的主張をまとめたもので、ナチスの思想を広める役割を果たしましたについての評価を、深井さんは批判ではなく冷静に見た結果だと強調します。
深井さんがヒトラーを学び直した2つの問い
深井さんがヒトラーを改めて勉強した理由は、2つの疑問でした。1つ目は、30歳までニートで何の実績もなかった人間が、いきなり政界に現れて首相になり、第二次世界大戦を起こしたのはなぜか、という問いです。
それほどの社会的影響を与えたこの人間が、えーと、なんでいきなり出てきたのかっていうのがまずわからなかったから。
樋口さんは、ヒトラーが30歳までニートだったことを知らなかったと驚きます。深井さんによれば、ヒトラーは首相になるまで実績らしい実績がなかったにもかかわらず、首相になってしまいます。
2つ目の疑問は、ホロコースト ── ナチス・ドイツによるユダヤ人などの組織的な大量虐殺。エピソード説明では、ユダヤ人を中心に600万人もの民間人が殺されたとされていますが、近代国家であり民主主義国家だったドイツで国家的に起きたのはなぜか、という問いです。
ヒトラーが自分で殺してるわけじゃなくて、国全体に仕事としてユダヤ人を大量虐殺するという仕事を渡して、それをもうなんか忠実に遂行した結果があれなんですけど、なんでそんなことがこの民主主義の近代国家で起こるのか。
問い1
30歳まで実績のないニートが、なぜ首相になり第二次世界大戦を起こせたのか
問い2
ホロコーストが、なぜ民主主義の近代国家ドイツで国家的に起きたのか
シリーズの狙い
何十冊を読んで得た一定の定見をシェアする
深井さんは、何十冊かを読んで一定の定見を得たと話します。ただし、それが正しいかどうかはわからないとも断っており、ひとつの見立てとして共有するという立場です。
30歳までのヒトラーは何をしていたのか?
30歳までの仕事を尋ねられた深井さんは、ヒトラーは画家志望として絵を売って生きていたと答えます。とはいえ、絵で生計を立てることはできず、途中でホームレスも経験しています。
結論から言うと、絵を売って生きてました。だから生きていけてないんですよ。途中ホームレスとかも経験してるんで、彼は。
アーティストになれなかったヒトラーは、その後、第一次世界大戦に兵士として従軍し、戻ってきて政治家になります。深井さんはこれを「この時代じゃないとありえないキャリア形成」と表現します。
深井さんによれば、第一次世界大戦に行った経験と、その戦争でドイツが負けたことが、ヒトラーの人生に大きな影響を与えます。それまでのヒトラーと、その後のヒトラーは違うのだといいます。
エリートの父と、努力しない息子
樋口さんは、ヒトラーは幼少期からエリートだったと思っていたと話します。深井さんによると、エリートだったのはヒトラーの父親のほうです。
ヒトラーの父親は、恵まれない環境からのたたき上げで、学歴はないものの高収入の公務員に出世した人物でした。父親は息子も公務員にしたかったのですが、ヒトラーはその言葉を聞かず、グータラに過ごしていたといいます。
俺は将来偉大なアーティストになるぜ。でも頑張らない。
たたき上げで出世した高収入の公務員。息子も公務員にしたかった
偉大なアーティストを夢見るが、努力はしない
樋口さんが「口だけ」と言うと、深井さんは「今の時代にもそういう人はいます」と応じます。初回はここで終わり、軍隊に入ってからのヒトラーの人生は次回以降に語られます。
まとめ
ヒトラー編の初回では、深井さんが、ヒトラーを「怒りで動く偏屈なアーティスト」として描きます。そして、能力も思想も乏しかった人物がなぜ独裁者になり得たのか、という問いを立てています。
- ヒトラーはドイツ人ではなく、ドイツ国境近くのオーストリアで生まれた
- 深井さんは、ヒトラーのエネルギーの大半は怒りから来ており、怒りを煽る才能と自己確信力が突出していたと見ている
- ヒトラーは30歳ごろまで画家志望で実績がなく、ホームレスも経験した
- 第一次世界大戦への従軍とドイツの敗戦が、ヒトラーを大きく変えたとされる
- シリーズを通した問いは、実績のない人物が首相になれた理由と、民主主義国家でホロコーストが起きた理由である



