唯一の理解者ヘファイスティオンを失った英雄
アレクサンドロス編の最終回は、アレクサンドロスが初めての挫折を味わう場面から始まります。深井さんは、外の敵には無敵だったアレクサンドロスが、内部からの反発でアイデンティティの確立に悩んでいたと説明します。
そのアレクサンドロスを支えていたのが、恋人であり親友でもあったヘファイスティオン ── アレクサンドロスの幼なじみで側近。ホメロスの英雄アキレウスとパトロクロスの関係になぞらえられることも多い人物ですです。二人は幼い頃から双子のようだと言われて育ちました。
もう自分と本当に何て言うか、人格が半分重なってるみたいな感覚で育ってきたヘファイスティオンが、この一番彼が支えて欲しい時に病死します。
ヘファイスティオンの死を受けて、アレクサンドロスは取り乱して泣き叫び、3日3晩食事もとらず部屋に閉じこもったといいます。周囲は死んだのではないかと心配するほどでした。
ところがアレクサンドロスは、4日目に部屋から出てきて立ち直ります。深井さんはこの切り替えの早さを「超優秀」と評し、樋口さんは驚きつつも少し悲しさを感じていました。
どんだけ落ち込んでも四日目に切り替えてるから。
遠征の帰路、バビロンで迎えたあっけない最期
アレクサンドロスは、インドから引き返す帰り道でもなるべく戦いながら進み、遠征路の半分ほどを戻ったバビロン ── メソポタミアの古代都市で、現在のイラク中部にあたります。古くから交易と政治の中心でしたまで来ます。そこで今度はアラビア半島を征服したいと言い出していました。
側近と会議をしていた最中、アレクサンドロスは急に倒れます。介抱されるとすぐに起き上がって大丈夫だと言うものの、また倒れることを繰り返し、何かの病気ではないかと騒ぎになりました。
倒れてからの10日間で、アレクサンドロスはどんどん憔悴していき、そのまま亡くなります。死因はマラリアとも言われますが、はっきりとはわかっていません。年齢は32、33歳ぐらいでした。
アレクサンドロスの最期の経緯を、時間の流れで整理すると次のようになります。
なんか、こんなあっけないすかね。
樋口さんの「散ったわけでもなく」という戸惑いに対して、深井さんはアレクサンドロスの人生を線香花火にたとえました。
線香花火のような人生ですよね。
深井さんは、大成功の途中でいきなり死んだことも、アレクサンドロスが英雄視される理由の1つだと考えています。ペルシャを倒し、インドのポロスのところまで進んだ帝国は、ペルシャ帝国にギリシャを加えた分だけ広い大帝国でした。
遺言なき死が招いた50年の後継者戦争とは?
アレクサンドロスの急死で問題になったのは、ちゃんとした跡継ぎがいなかったことです。ずっと遠征していたうえ、女性への関心も薄かったため、子どもがほとんどいませんでした。
アレクサンドロスは途中でロクサネと結婚していましたが、ロクサネの子どもがまだお腹の中にいる段階で、アレクサンドロス自身が急死しています。深井さんは、父フィリッポス2世が死んだ時にアレクサンドロスがすでに20歳ぐらいだった状況と対比します。
こうして、超大帝国を誰が治めるのかという後継者争いが始まります。知的障害のあった兄アリダイオスはまず外され、妻ロクサネとお腹の子どもは権力闘争の中で殺され、幹部たちは互いに対立していきました。
遺言を残さず死んだから。誰がお前王様してくれっていう話をしなかったから。ここから五十年間ぐらい戦争し始めるんですよ。
このディアドコイ戦争 ── アレクサンドロスの死後、「ディアドコイ(後継者)」と呼ばれた将軍たちが帝国の支配をめぐって争った一連の戦争ですでは、最後まで自然死できた幹部は1人か2人ほどで、残りはみな戦死したといいます。母オリンピアスも妻も争いに加わり、2人とも命を落としました。
7人ぐらいで争った後継者戦争は、最終的に3つの王朝に分かれて決着します。そこから先の歴史は、ローマへとつながっていきます。
大王の急死
後継者指名も遺言もないまま帝国の王が亡くなる
後継者戦争
7人ぐらいの幹部が約50年争い、帝国を維持できなくなる
3王朝の分立
アンティゴノス朝マケドニア、プトレマイオス朝エジプト、セレウコス朝シリアが残る
ローマの台頭
西の都市国家ローマが力をつけ、これらすべてを取っていく
プトレマイオス朝エジプトに現れる女王がクレオパトラで、その女王に惚れていくのがカエサルです。そしてカエサルが英雄視していたのが、ほかならぬアレクサンドロスでした。
深井さんによれば、アレクサンドロスの戦い方やファランクスはローマに引き継がれ、ローマは今のヨーロッパの基礎を築いていきます。樋口さんの「後から来たのが全部かっさらっていく」という言葉に、深井さんはマケドニアも同じだったと応じます。
諸行無常だよね。
あのヒーローだったアレクサンドロスはどこへ
長い時系列でアレクサンドロスの物語を見終えた樋口さんは、ワクワクさせてくれたアレクサンドロスはどこへ行ったのか、という気持ちになっていました。
切ないです、なんか。夕焼け見てる感じです、なんか今。
深井さんは、この感覚こそ感じてほしかったと話し、今の時代にも同じことが言えると続けます。いまもてはやされている人もそうでない人も、時の流れの中では一瞬だという見方です。
樋口さんは、後継者たちの中に好きな人物がいると紹介します。名前は忘れたものの、7人ぐらいいた後継者の中で1人だけ早々に争いから降りて旅に出て、その記録を日記に残した人物がいたといいます。
だからブロガーになったんですよね。ブロガー。僕、ああいう生き方最高に好きですね。
深井さんは、本当にぐちゃぐちゃになる争いだったから嫌になったのだろうと応じ、もう少し生きていたら全然違う世界になっていたはずの伝説的な人物だと、アレクサンドロスを振り返りました。
事業承継の難しさ、スタートアップと明治維新に見る
エンディングで樋口さんは、アレクサンドロスの物語から事業承継の難しさを感じたと話します。会社でも、立ち上げに必要な能力と、それを継いで保守する能力はまったく違うという話です。
深井さんはこれに同意し、アレクサンドロスはまさにその転換点を経験していたと指摘します。スタートアップでも、初期・中期・レイターステージで必要なスキルと文化が全然違うといいます。
深井さんは、同じ構造が明治維新にも見られると例を挙げます。時代ごとに中心になる人物のタイプが移り変わっていく流れです。
樋口さんはこの流れを「綺麗に見える」と表現しました。深井さんは、勉強していると一本の映画を見終えた後のような感慨を覚え、人生とは何か、自分のやっていることは何かという問いに入っていくと話します。
どれほど優秀でも、後世はコントロールできない
深井さんは、英雄として戦ったアレクサンドロスの戦略や戦術も、こういう終わり方を見ると「あれは何だったんだろう」と感じると話します。樋口さんも、勝ち取ったペルシャは結局ローマが取っていったと応じました。
深井さんによれば、アレクサンドロスの残したものは実はめちゃくちゃ残っています。ただし、自分が意図した形では残らないというのが歴史の常だといいます。
深井さんはアレクサンドロスを、今生きている誰よりも優秀かもしれない、数千年に1人の人物だと評価しています。そのうえで、その中で自分たちが何をするかが面白いと問いを投げかけました。
樋口さんの答えは「何もしない」か、記録していくことに意義を見出して歴史家になるか、というものでした。深井さんは、ベンチャーの人たちは社会を変えようとするし、自身も歴史のデータベースの研究開発をそうした思いで進めていると話します。
この感覚、このダブルスタンダードな感覚が僕は自分で感じてて、すごく新鮮っていうか、面白いんですよね。
樋口さんは、この気持ちを実家の庭掃除にたとえます。秋口に落ち葉を掃いて綺麗にしたのに、寝て起きたらまた落ち葉が落ちていたという経験です。
でも昨日綺麗にして、今日も恐らく掃除をして綺麗にするっていうことに意味を、どう、何て言うんですかね、見出せるかっていうのが人生なんじゃないかって思ったんですけど。
「こうなるからやる」ではなく「やりたいからやる」
深井さんは、アレクサンドロスが生きたことによる影響は確かに大きいと話します。1つはペルシャがいなくなり世界の状況が大きく変わったこと、もう1つはアレクサンドロスの存在がカエサルやナポレオンの支えになったことです。
ただ、アレクサンドロス自身はそこまで想定していなかったはずだと深井さんは考えています。人間がこうしようと思ってやったことは、ほとんどがそうではない形で影響を与えていくといいます。
だから影響がないことじゃなくて、思ったような影響が出ないんだけど、めちゃくちゃ影響出るわけ。
その影響はプラスとは限りません。アレクサンドロスの出現はマケドニアにとってはプラスでも、ペルシャ帝国にとっては超絶的なマイナスでした。深井さんは、こうした影響が人知を超えたレベルで広がっていくことを歴史から強く感じるといいます。
そのうえで深井さんがたどり着いた答えが、やりたいからやるという動機です。結果を理由にする動機と、自分の内側を理由にする動機を並べると、違いがはっきりします。
勝てる、成功する、金持ちになる、社会が変わるといった結果を理由にする
そうしたい自分がいるから動く。エネルギーが湧き、動機として最もナチュラル
深井さんは、アレクサンドロスも戦うのが楽しいから戦っていたし、曹操もそうだと話します。この考えは吉田松陰編の1回目の時点ではまだ言えなかったもので、多くの人物を紹介してきた今だから伝わると考えて口にしたといいます。
いや、これ朝の電車で泣いてる人絶対いますよ。今こうやって出勤してる俺は本当にやりたいことやれてるんだろうかって思いながら泣いてる人いますよ。
墨子の生き方と、つながっていく歴史
深井さんは、エネルギーが出ることをやるのが結果的に一番社会に影響を与えると続けます。その生き方を最も体現していると感じた人物として、「墨の子」と書く墨子 ── 中国の戦国時代の思想家。差別なく人を愛する「兼愛」や、侵略戦争を否定する「非攻」を説きましたを挙げました。
深井さんによれば、墨子は社会が変わるから、結果が出るからやると考える人には絶対できないことをしていて、生きている間には何もできていないのに、めちゃくちゃ影響を与えているといいます。
今のやつを知ってから牧師を勉強し直した時に、なんかすごい感じることがあったなと思って。
話が墨子にまで広がったことについて、樋口さんは壮大なストーリーを紡いでいるような気がしてきたと話します。深井さんも、たくさんの回を重ねたからこそ、知っている前提で話せるのが楽しいと応じました。
深井さんは、歴史はやればやるほど全部つながっていくと話し、そのつながった後の状態を最初から提供したいから歴史のデータベースを作っていると語ります。歴史によって人生観や世界観が変わる感覚は、積み重ねることでリアルに体験できるといいます。
まとめ
アレクサンドロス編の最終回は、親友ヘファイスティオンの死、バビロンでの急死、そして約50年続く後継者戦争を経て、物語がローマへ引き継がれていく様子を描きました。深井さんは、数千年に1人の英雄でさえ後世をコントロールできないという歴史の感覚から、「やりたいからやる」という動機こそがナチュラルだという結論を語っています。
- 親友ヘファイスティオンを失ったアレクサンドロスは、3日3晩閉じこもったのち4日目に立ち直った
- アレクサンドロスはバビロンで倒れてから10日後、32、33歳ぐらいで急死した
- 遺言も跡継ぎもないまま始まった後継者戦争は約50年続き、帝国は3つの王朝に分かれ、やがてローマがすべてを取っていく
- 深井さんは、人の行いは意図どおりには残らないが、思わぬ形で大きな影響を与えると話す
- 結果を理由にするのではなく、やりたいからやるのが一番ナチュラルな動機だというのが深井さんの結論





