アレクサンドロス回はなぜ「勉強っぽくなかった」のか
番外編の冒頭、3人は直前に収録したアレクサンドロス大王のシリーズを振り返ります。樋口さんは登場人物の名前がややこしいと嘆き、父王の名前を言えずに深井さんから「フィリッポス」と訂正される一幕もありました。
なんか今までで一番、漫画の主人公を追ってる感じがしました。
本当に講談とか落語とかを聞いてる感覚で、すげえ没入感があったですね、物語に。
樋口さんが印象に残った場面として挙げたのは、ペルシア王が逃げるシーンです。ところが王の名前が出てこず、深井さんが「ダレイオスね」と補うと、樋口さんは「勉強じゃないから、覚えるとかじゃない」と笑って返しました。
続いて連絡先の話になります。深井さんによると、これまで番組で案内していたメールアドレスは受信できていなかったそうです。メールを送って返信が来ていない人は、番組側が読めていない可能性があるとして謝罪しました。
お便りが想定以上に届いていることから、3人は専用のアドレスを新たに作ることにします。新しいアドレスはYouTubeの概要欄と、各Podcastの説明欄に掲載すると話されています。
子育て中の母親からのお便りと、吉田松陰を支えた家族
1通目のお便りは、子育て中の母親からのものです。楊さんの紹介によると、子どもに発達障害があるかもしれないと戸惑う中で、日本の歴史を知ろうと歴史系のラジオを探し、コテンラジオにたどり着いたといいます。
このお便りの送り主は、番組でキリストやガンディーのような「遅咲き」の人物を知り、勇気をもらったそうです。子育てで一喜一憂し不安を抱えていたものの、歴史を通じて人生を長いスパンで捉えられるようになり、「息子も何か言われるかもしれないけれど、もしかしたら天才なのかもしれない」と思えるようになったと書かれていました。
ガチで響いてるじゃないですか。楽しいです、またやってくださいとかじゃなくて、本当に響いてるじゃないですか。
深井さんは、自分が歴史から受け取った感動と同じようなものを、紹介を通じてリスナーが受け取ってくれていることが嬉しいと話します。
お便りには吉田松陰が幼い頃は真面目だったと本にあった、とも書かれていました。これに対し楊さんは、番組で話した吉田松陰はかなり破天荒だったと返し、深井さんは体罰を受けながら育ったうえで「お母さんがよかった」と付け加えます。
どんな状況でも吉田松陰の個性を完全に100パーセント肯定してる。あれはね、感動した。
深井さんが特に感銘を受けたのは、吉田松陰の家族が「社会ではこれが大事だからこうしなさい」と一切言わず、何をしても味方し続けた点です。松下村塾 ── 吉田松陰が萩で主宰した私塾。高杉晋作や伊藤博文など、幕末から明治にかけて活躍する多くの人物が学びましたは学費を取らず、塾生に食事を出す費用も家族の持ち出しでした。母や兄は、松陰(虎次郎)が元気になるならそれでいいと、文句も言わずに支えていたといいます。
家族の無条件の肯定
母や兄が、何をしても松陰の味方をし続けた
金銭・生活面の支え
学費を取らない松下村塾の費用や食事を家族が負担した
尖った個性の発揮
松陰が自分のやりたいことに突っ込める土台になった
この話から、楊さんは偉人を一人の力だけで語ることへの疑問を示します。アレクサンドロス大王にも父がいたように、偉人として評価されるまでには、その前にいた人たちの存在があるという指摘です。
樋口さんも、吉田松陰の家族のような歴史の表舞台に出ない人たちが、たどれば何百人もいるはずだと続けます。歴史のピラミッドの頂点に吉田松陰がぽつんと見えているだけで、そこに至るまでには多くの人がいる、というのが2人の受け止め方です。
収録中に届いた2通目は何を伝えていたのか
2通目のお便りは、アレクサンドロス回の収録中に届いたものです。送り主は外資系の広告代理店に勤めたのち、フリーのコピーライターとして働いており、近くベルリンへ行く予定だといいます。
この送り主は、激務の中で自分の人生について思考停止していたところ、コテンラジオに出会ったそうです。自分の人生は長い歴史のほんの一部にすぎず、焦ってもどうにもならないと気づかされた、と書かれていました。
樋口さんは、ちょうどアレクサンドロス回のエンディングで話した内容とそのまま重なると驚きます。お便りでは、深井さんが話していた「行為そのものよりも存在が大事」という考えにも勇気づけられたと触れられていました。
「存在が大事」という考えについて、樋口さんは番組が伝えたい大きなテーマの一つだと話します。現代だけを見ていては理解できず、歴史を見ないとわからない考え方だという点でも、3人の意見は一致していました。
このお便りにはリクエストも添えられていました。1つはイギリスの産業革命 ── 18世紀後半のイギリスで始まった、機械化による生産方法と社会構造の大きな変化。工業化と資本主義の発展を大きく進めましたと資本主義を扱ってほしいというもので、樋口さんは次回か次の次あたりでお金の歴史をやる予定だと応じています。
もう1つは、分断と言われる時代に何が分断を呼ぶのか、どんな思想や視点があるのかを知りたい、という要望です。楊さんは、多様性の中で人々が分かれていることや宗教のことを指しているのではないかと推測しつつ、こうしたメッセージが番組のエネルギーになると喜びました。
歴史を学ぶと、意識の範囲はどこまで広がるのか
お便りを受けて、樋口さんは自分の体験から歴史を学ぶ意味を語ります。樋口さんは福岡県の田川市の出身で、人口5万人に満たない小さな町だと紹介し、アレクサンドロス回の流れから「ポリスですね」と冗談を交えました。
樋口さんによると、大学で福岡市に出て車で行き来するようになると、行動範囲が一気に広がり、福岡県くらいが自分の感覚に入ったそうです。その後東京に出ると、行ったことのない場所も含めて日本全体が意識の範囲に入ったといいます。
田川
生まれ育った狭い地域が感覚の範囲
福岡市
大学進学で行動範囲が広がり、福岡県くらいが入る
東京
日本全体が意識の範囲に入る
歴史を学ぶ
同じ広がりを時間軸の方向に起こす
樋口さんは、歴史を学ぶことはこの広がりを時間軸の側で起こす行為だと考えています。今だけで生きていると、リアルに感じられるのは昭和の戦争あたりからのせいぜい数十年ほどにとどまるというのです。
何千年も前も同じように人間が普通にいたんだっていう感覚が結構やっぱピンとくるんですよね。このラジオ聴いてると。
樋口さんは、コテンラジオがディテールや人間の息遣いを大事にして歴史を伝えているからこそ、遠い過去が自分の範囲内に入ってくると話します。
寿命延びてる感じです。
1981年生まれの樋口さんは、まるで今から2500年前から生きているような感覚だと言い直し、土地の広がりという空間的な拡張に加えて、時間的な拡張もあると整理しました。楊さんも「それがしたかった」と応じています。
悩みを相対化し、ガンディーに背中を押される
話題は、歴史が悩みとの向き合い方にどう効くかへ移ります。問題解決すれば済む悩みばかりではなく、答えのないことに悩むと、特に若い頃は何もできなくなってしまう。そんなときに歴史を知っていることが助けになる、という話が交わされます。
「相対化できる」という表現に、樋口さんは何度も深くうなずきます。落ち込んだときに吉田松陰の本を読むと、批判をものともせず突き進む姿に勇気が湧くという話も出て、その共感は本人と吉田松陰に似た部分があるからではないか、とも語られました。
楊さんは、アレクサンドロス大王が伝説の英雄アキレウスに自分を重ねていたことになぞらえます。歴史上や伝説上の人物の中に自分を見つけ、自分の人生の意味を知るのではないか、という見方です。歴史では人物の死に際まで見られるので、最後まで知ったうえで重ねられる、という点も挙げられました。
ガンディーは俺、今まで触れてきた歴史上の人物の中で一番心つかまれたんです。
樋口さんにとってのそうした存在はガンディー ── インド独立運動の指導者。非暴力・不服従を掲げてイギリスの植民地支配に抵抗し、世界中の市民運動に影響を与えましたです。以前から暴力や争いが好きではなかったものの、戦って変えてきた歴史があることも知っていたため、自分の考えに迷いもあったといいます。
それでも、非暴力を貫いて世界を変えた人物がいると知ったことで、樋口さんは小さな世界でも自分に何かできるのではないかと思えたそうです。ガンディーはその後の判断基準にも影響を与えていると話しています。
伴走っていうか、なんか後ろからふわっと「いいんだよ」って。抱きしめて、「いいんだよ」って言われてる感覚。
楊さんはこの感覚を、歴史の良い学び方の一つだと受け止めます。まだ番組で紹介した人物はごく一部で、歴史には大量の人物がいると話し、そう感じてもらえるきっかけを作れているなら本望だと語りました。
無料で聴くリスナーにできる応援とは
最後に、樋口さんはお便りへの感謝をあらためて口にします。リスナーがどう受け取ったかを知れることがやりがいになると話し、楊さんはいつかオフ会もできたらいいと続けました。
樋口さんは、リスナーにお願いしたいこととして、YouTubeのチャンネル登録と、Twitterや身近な人に「コテンラジオ面白いから聴いてよ」と勧めることを挙げます。
ただで聞いてるわけですよね、皆さん。あなたたちにできること何個かあります。
樋口さんによると、番組はまだ1円の収入もないものの、意味があると思って続けているそうです。いろいろな人に聴いてほしいので、協力ではなく応援をしてもらえるとありがたいと話しました。
楊さんは、リスナーと一緒に歴史を学んでいく番組にしたいと語ります。今後もTwitterやメールでのお便りを待っており、メールには基本的に必ず返信すると伝えて番外編を締めくくりました。
まとめ
今回の番外編では、子育て中の母親とコピーライターからのお便りをきっかけに、歴史を学ぶことで人生を長いスパンで捉え、悩みを相対化できるという実感が語られました。吉田松陰を支えた家族やガンディーの生き方は、出演者自身にとっても勇気の源になっているようです。
- 1通目のお便りでは、遅咲きの偉人を知ったことで、子育ての不安を長い目で捉えられるようになったと伝えられた
- 吉田松陰の尖った個性の背景には、彼を無条件に肯定し支え続けた家族がいたと語られた
- 樋口さんは、歴史を学ぶことを意識の範囲を時間軸の方向に広げる行為だと表現した
- 歴史を知ると自分の悩みを相対化でき、ガンディーのような人物が背中を押してくれると話された
- リスナーにはチャンネル登録や口コミでの応援、お便りの送付が呼びかけられた




