ポッドキャストの鬼編集を担うFUBIとは何者か
番組冒頭、楊睿之がゲストの名前をいきなり読み間違えるところから収録は始まります。仕切り直して深井龍之介が紹介したのは、株式会社FUBIの西山直哉さんでした。
FUBIは、ポッドキャストの企画から編集、配信までをすべて手がける会社です。深井によると、4年ほど前からコテンラジオの編集をFUBIが担っているといいます。
実はね、そのFUBIという会社、ポッドキャストの企画から編集から配信まで全てできる会社なんですけど、4年ぐらい前から(コテンラジオの編集を)お願いしてる。
コテンラジオの編集は、聴いているとわからないほど自然に整えられています。深井は、出演者が言い間違いや言い直しを繰り返しても、細かく削って自然な音源に仕上げてくれているのだと説明します。
もう影の権力者です。本当に。(FUBIは)言っちゃいけないことも全部握ってるんで。
この日は、ずっとオンラインでやりとりしてきた西山さんと初めてリアルタイムで顔を合わせる収録でした。しかも西山さんは、深井や樋口聖典と同じ九州大学芸術工学部の出身で、樋口の後輩にあたります。
デザイン専攻の学生が音声コンテンツにたどり着くまで
西山さんは福岡の出身で、生まれは北九州市、幼稚園で福岡市に移り、3年ほど前まで福岡にいたといいます。今は東京・渋谷でポッドキャストのスタジオを構えています。
深井が「なぜポッドキャストスタジオをやっているのか」と逆算で問うと、西山さんはフォーマットそのものの可能性を挙げました。
ポッドキャストのフォーマットが広がったらすごいいい世界になるなと思って。そこに頑張ってみたいなと。
ポッドキャストを聴き始めたきっかけは、九州大学在学中のオランダ留学でした。ソフトウェア開発のインターンをしていた7〜8年前、英語の勉強として英語系のコンテンツを聴き始めたのが最初だったといいます。
そこで西山さんは、英語のポッドキャストの面白さに驚きます。ドラマもドキュメンタリーもあり、サウンドデザイン ── 音の質感や効果音、間の取り方などを設計すること。ポッドキャストではコンテンツの没入感を左右する要素とされるが日本のものと大きく違ったといいます。
ドラマもあるし、ドキュメンタリーもあるし、全然サウンドデザインが違くて、日本と。こんな面白くなるんだみたいな感じで思ってて。
もともとラジオはまったく聴いておらず、アメリカのクオリティの高いポッドキャストから音声コンテンツに入ったのが西山さんの原点でした。
ヒップホップと起業、そして樋口聖典との出会い
大学卒業後、西山さんはすぐにポッドキャストを始めたわけではありません。就活はせず、「とりあえず起業するか」と会社を作ったといいます。
その背景には、新聞販売代理店を営む父が社長だったこと、そして中学生の頃から聴いていたヒップホップの影響がありました。
(ヒップホップ的な)自分の力で生きていくみたいなのがかっこいいなと思ってて。でも俺なんかラッパーとかあんま向いてないしなみたいな感じで。起業ならちょっとそれっぽい生き方なんじゃね?みたいな感じでなんとなく入って。
深井は自身がロック、西山さんがヒップホップと、音楽の流派の違いに触れつつ、互いにリスペクトし合う関係だと語ります。芸術工学部から起業を選ぶ人はほぼいないため、西山さんの進路はかなり尖ったものでした。
樋口聖典との出会いは、西山さんが大学4年の頃にさかのぼります。ヒップホップのウェブメディアを作ろうとして相談相手を探していたところ、九大の先生から樋口を紹介されたのが始まりでした。
その後、再び樋口とつながるのが、ポッドキャストを本格的に始めようとしたタイミングです。聴き込んでいたコテンラジオで「樋口さんという人」が喋っているのを知り、あの樋口さんだと気づいたといいます。
なんか樋口さんっていう人が喋ってるなと思って。よく調べたら、あの樋口さんじゃないってなって。(コテンラジオが)日本一(人気で)あの人だみたいな。
当時流行していたクラブハウスで樋口のいるルームに入り、ポッドキャストをやりたいと相談したところ、樋口はすぐに一緒にやろうと応じました。深井は、樋口が後輩を死ぬほど助けるタイプだと笑います。
実際、相談した翌週には、樋口が西山さんの家にiMacを1台貸してくれたといいます。深井はこれを、人の夢を叶える「いいかねPalette」らしいムーブだと評しました。
コテンラジオの鬼編集を経て、制作会社として立つまで
起業して最初の仕事は、樋口が紹介したポッドキャストを作りたい人の制作請負でした。ただし、コテンラジオの制作を任されるまでには時間がかかっています。
西山さんによれば、ポッドキャストを始める前の最初の3年ほどは、いろいろやってはやめてを繰り返し、何もうまくいかなかったといいます。
色んな失敗をして、お金がなくなって。(それで)そういえばあん時のポッドキャストあるじゃんみたいな感じで、まためっちゃ聞き出して、やっぱ面白いなみたいな感じで始めた。
樋口が紹介した番組の制作を重ね、樋口周りの番組をきれいに作れるようになったところで、ようやくコテンラジオの編集も任されるようになりました。当初の編集は、西山さん自身がすべて手がけていました。
コテンラジオの編集は相当な大変さがありました。西山さんは、噛んだ部分を編集した後で「今までの3分全部なしで」と言われることもあったと振り返ります。
めっちゃ噛んだのを編集した後で急に3分後ぐらいに今までの3分全部なしでとか言われて。え?何?と思って。
一方で、西山さんは他をあまり知らなかったため、これがポッドキャストの普通だと受け止めていたといいます。深井が同じ編集内容をラジオの人に話すと、逆に驚かれるといいます。
こんな編集コストかけないよね。だって俺ら。(それでも)すごいクオリティ高いの出せるんだな。
深井は、樋口が最初からこだわっていた基準をそのまま引き継いだことが大きいと語ります。深井と樋口が音楽をやってきたため、音質への要求度が常人より高かったことも初期条件でした。
ラジオとポッドキャストは何が違うのか
話題は、FUBIが今手がける事業へ移ります。現在は企業向けの企画制作、いわゆるブランドポッドキャスト ── 企業のブランドを伝えるために制作されるポッドキャスト。広告枠を買うのではなく、番組そのものをブランドの表現として作る手法を軸にしているといいます。
深井が「ポッドキャストはラジオとどう違うのか」と後輩相手のタメ口で尋ねると、西山さんは端的に答えました。
ラジオはマスメディアなので、誰が、いつ聴き始めても面白くなければならず、面白さが最大化されています。一方ポッドキャストは、頭から通して聴く前提で、深さに振り切ることができるといいます。
その具体例として、西山さんはFUBIが手がける「ニッチフレグランス」という香水の番組を挙げます。運営はセレクトショップのノーズショップで、家族で歩いていて気になる花壇に鼻を突っ込むほど香りに詳しい社長が喋っているといいます。
その番組には、樋口のような役回りとして、言語化のうまいライターの夏雄さゆりさんが参加しています。香りを情景で表現するのが特徴です。
この香りはすごいタワマンの頂上でふっかふかのガウン着たマダムが膝にシャム猫を乗せて下を見ている時の匂いですねみたいな。
その情景表現に対し、社長が「当たらずとも遠からず」と応じ、どの成分がそう感じさせるのかを解説していきます。この掛け合いが番組の面白さになっています。
数千人のニッチな熱狂が、採用や来店を動かす
深井が気にしたのは、そうしたニッチな番組が企業ブランディングとして成立するのかという点です。西山さんは、香りを嗅いでみたいと言って店舗を訪れる人が結構いると答えます。
さらに、番組経由で入社してくる人まで出てきているといいます。ニッチな熱狂が、来店にも採用にもつながっているのです。
最近はそれ経由で会社に入社してくる人とかいるみたいで。(この会社で働きたいと思ったと言って)
この現象が起こるリスナー規模を深井が尋ねると、西山さんはジャンルによるとしつつ、数千人でも十分成立すると答えました。熱狂が大事なジャンルであれば、企業はブランドとして何を出してもいいという考え方です。
深井は、プラモデル、ワイン、掃除、化粧品など、熱狂的なファンがいる領域を次々に挙げていきます。とくに化粧はもうアートの領域だとして、音声との相性の良さを強調しました。
さらに深井は、YouTubeとポッドキャストの違いにも踏み込みます。西山さんは、YouTubeは広く届けるのに最適な一方、ポッドキャストはデフォルトで広く拡散しないぶん、深さに振り切れると整理します。
広く届けることに最適。誰が・いつ聴いても面白い必要があり、面白さやアテンションを最大化する
デフォルトで拡散しないぶん深さに振り切れる。数千人規模の熱狂的コミュニティに深く刺さる
トランプ勝利とビデオポッドキャスト、迫る次の波
これからのポッドキャストがどうなるかという話題では、西山さんはビデオポッドキャスト ── 音声を主体としながら動画でも配信する形式。図解や過剰なテロップを使わず、ながら聞きに適したYouTube上の長尺対談番組を指すという大きな波を挙げました。
ビデオポッドキャストは実態としてはYouTubeの長尺対談番組ですが、体験の中心がオーディオファーストになっている点が特徴です。テレビをつけっぱなしにして垂れ流すような、ながら聞き前提のコンテンツが普及するといいます。
西山さんは、アメリカの事例としてトランプ大統領の当選を挙げます。ポッドキャスト戦略の勝利だと言われているというのです。
アメリカだと今回のトランプが当選したのもポッドキャスト戦略に勝利したからみたいに言われてるんですよ。
最終日に若者の無党派層をポッドキャストで獲得できたことがキーファクターだったとされ、日経ビジネスでも「ポッドキャストポピュリズム」という言葉が出ているといいます。深井は、政治家がポッドキャストをやれば社会が変わりそうだと反応します。
選挙はテイラー・スウィフト対ジョー・ローガンとも言われました。トランプ側についたジョー・ローガンの番組でトランプが3時間喋り、その姿を聴いた人が印象を変えたという構図です。
トランプがジョー・ローガンの番組で3時間ぐらい喋って、3時間も喋ってるのを聞いたら、なんかこいつ意外といいおっさんだなみたいに、なんかそうなるらしいです。
3時間の対話を聴けるのは、ながら聞き前提のポッドキャストならではです。うるさいエフェクトもなく、ただ長く喋るのを聴くことが、人の行動を最も変えるのだと西山さんは語ります。
アメリカのポッドキャスト史と日本の黎明期
日本は教養系のポッドキャストが海外に比べて多いと深井が指摘すると、西山さんはコテンラジオのインパクトの強さに加え、日本がまだ黎明期であることを理由に挙げました。エンタメがまだ浸透しきっていないというのです。
アメリカでは教養やニュースに加え、ドキュメンタリーや調査報道が非常に多いといいます。そもそもアメリカでポッドキャストが人気になったきっかけ自体が、調査報道もののコンテンツでした。
あるジャーナリストが、被疑者が逮捕され完結したはずの事件に疑問を持ち、取材を続ける中で「この人は犯人ではないのでは」と気づいていきます。リスナーは毎週続きを求め、番組は熱を帯びていきました。
結局裁判やり直しになって。(冤罪とされた人が出てきて)その後てかポッドキャスト面白くない?ってなって、一気に広がった。
この出来事は2012年から2013年頃のことだと西山さんは語ります。技術としてはすでにあったポッドキャストが、1つの調査報道コンテンツをきっかけに一気に広まったのです。
深井は、自分たちがポッドキャストについて引くほど知らないと率直に認めます。西山さん自身も、インプットは文字入力のほうが向いており、コテンラジオも音声チェック以外では聴いていないと明かしました。
コテンラジオがなぜ細部までこだわるのか
話は再び編集のこだわりに戻ります。コテンラジオは音質だけでなく、話す内容のチェックも徹底しています。リスナーが増えるにつれ、チェックポイントも増えていったといいます。
初期は200人ほどの前で喋るような感覚でしたが、今は何十万人もが聴いています。コンプライアンス上言ってはいけないことを避け、正しく伝える必要が高まったのです。
加えて、歴史を扱う番組だからこそ、変なことを言っていないか自分たちでチェックする文化が根づいています。プロジェクト管理ツール上で、単語の言い方や音声のつなぎ方まで細かく指摘が入るといいます。
日本で一番細かいんじゃないかな。
深井は、音の言い方が違う部分を別の箇所からつなげてほしいといった指摘に対し、「俺そんなことできんのかな」と思いながら対応していると語ります。この積み重ねが、あの自然な音源を支えています。
一人語りへの挑戦と、コテンラジオでは出せない毒
楊睿之が別番組の話を振ると、深井は自分がもともと一人語りが苦手だったと明かします。しかし最近はできそうな感覚があるといいます。
そのきっかけは2024年の忙しさでした。準備なし、資料なしで講演をこなし続けた結果、一人で喋り続ける力がついたのです。
(講演を)準備なし、資料なしでやってたずっと。しかも講演だからさ、基本的に一人で喋るしかないじゃん。それやり続けてたらできるようになってきた。
深井は、頭の中にあるのにアウトプットできていない考えを、音声で話して配信しつつ文章化する形に効率の良さを感じています。移動中やタクシーの中など、本も読めない細切れの時間の活用先としても考えているといいます。
もう1つの動機が、コテンラジオでは出せない毒の存在です。番組がパブリックな存在になり、株式会社の事業になったぶん、深井はかなり気を使って喋っています。
僕こんな丸くないのよ。もう少しなんか毒があるところをそのままリリースする場所とかも欲しいなみたいな。評判下げたいけど安全に下げたいから。
深井はこれを「適正化したい」と言い換えます。嫌なら聞かなければいいニッチ向けの場として、一人が複数の番組を持つ形はちょうどいいと考えています。
さらに深井は、ポッドキャストは難しい内容がちゃんと伝わりやすい点にも触れます。X上で内容を画像化して拡散すると、聴けばわかるはずのツッコミが来ますが、ポッドキャストではそうしたツッコミが来ないというのです。
(音声は)途中から聞いても意味わかんないから全部聞くしかないし、切り取れないよね、やっぱ。
文脈が切り取られず、変な形で拡散しない。深井は、これこそポッドキャストが炎上しにくい理由であり、コテンラジオが図らずも深さの方向へ進んだ理由でもあると振り返ります。
企業はもっとポッドキャストを使える
楊睿之がFUBIの現状を尋ねると、西山さんは始めた頃より組織になったと答えます。ただし問い合わせは紹介経由が中心で、自前のメディアでの発信はできていないといいます。
深井は今日の話を受けて、企業はもっとポッドキャストをやってよいと考えます。とくに採用への効果に注目しました。
深井が挙げたのは、コア層の採用という論点です。新規事業開発人材のような特殊な人材は、量ではなく質とカルチャーマッチが重要で、そこにポッドキャストの採用パスが効くと見ています。
一年に一人でも会社ってそれで変わっちゃうから。それは大企業でもだよ。数千万とか数億円とかかけまくってる(採用費用の)一部を使ってポッドキャストに投資するみたいなのは正直投資先もうないじゃん。
さらに深井は、社内向けの話をそのまま外に出す価値も指摘します。事業領域のスペシャリストが集まる会社の話は面白く、採用候補者が聴けば一石二鳥になるというのです。
西山さんは、人口が減る中でマスマーケティングで刈り取っても仕方がないという空気があり、コミュニティ形成の手段としてポッドキャストが有効だと補足します。「この指止まれ」のように人を集められるというのです。
聴きたいポッドキャストと、これからの音声メディア
ここからは、あったら聴きたい番組を挙げていく雑談が続きます。深井は釣り、ドライブと相性のよい車、仏像、宗教などを次々に候補に挙げました。とくに宗教は、勧誘色がなく本人たちが大事にしているものが伝わる形なら聴きたいといいます。
本人たちが大事にしてるんだろうな、これ、みたいなやつが聞けたら聞きたい。
西山さんも、マーケ色や売りたい意図が出ると面白くなくなると同意します。話したくて話しているものが聴かれるというのが、両者の共通した実感です。
深井は自分の聴きたい例として、ベースやギターの奏法を音と解説だけで語る番組や、ゲームを徹底比較する番組を挙げます。映像がなくても、レベルの違う視点で3時間語られれば聴いてしまうし、そのまま買ってしまうだろうといいます。
ゲームのポッドキャストでゲームの徹底解説と比較とかは超聞きたい。ディアブロとPathofExileの違いとかをずっと3時間喋りますとかは聞くと思う。
企業の担当者はしばしば「こんなんでいいんですか」「オタクすぎて出していいんですか」と不安がるといいます。しかし西山さんは、それこそが求められているのだと繰り返します。
西山さんは、イギリスに第二次世界大戦を300話にわたり語るポッドキャストがある例も紹介します。深井は、コテンラジオも図らずもその深さの方向に進んだと振り返りました。
深井は、コテンラジオが深さに振り切れた理由として、広告に寄らない構造と、ビューを稼ぐことに偏重しない当初からのスタンスを挙げます。西山さんは、そのスタンス自体が極めてポッドキャスト的だと応じました。
最後に深井は、FUBIに世話になっている立場から、企業で稟議を通せる人はまずFUBIに連絡してほしいと呼びかけて収録を締めくくりました。
まとめ
この回は、音声コンテンツに全振りしてきた西山直哉さんの歩みを通して、ポッドキャストがマスではなくニッチと熱狂のメディアであることを浮き彫りにしました。数千人規模の深い熱狂が採用や来店を動かし、企業にとっても新しい可能性になりうるという視点が語られています。
- FUBIは企画・編集・配信までを担うポッドキャスト制作会社で、4年にわたりコテンラジオの編集を手がけている
- 西山さんはオランダ留学中に英語のポッドキャストの面白さに触れ、ヒップホップ的な生き方への憧れから起業。樋口聖典との縁を経て音声制作の道に進んだ
- ラジオがマス向けであるのに対し、ポッドキャストは拡散しないぶん深さに振り切れる。数千人の熱狂でも来店や採用につながる
- アメリカでは調査報道番組をきっかけに普及し、トランプ当選も「ポッドキャスト戦略の勝利」と語られる。日本はまだ黎明期とされる
- 企業は本当に大事にしていることを深く語る形でポッドキャストを使える。マーケ色を出さず、ニッチな熱狂を狙うことが鍵になる





