ヒトラー編の反響と「分厚すぎる」台本
コテンラジオの今回の新テーマはフランス革命です。本題に入る前に、樋口さんと深井さんは前回までのヒトラー編に大きな反響があったことを振り返ります。
樋口さんは、中学1年生のときの副担任の先生が番組を聴いていたと知り、驚いたそうです。その先生は樋口さんの後輩の母親にあたり、後輩から直接そう伝えられたといいます。
俺一番びっくりしたのが、中学の時の中一の時の副担任の先生が聞いてたって。やばいでしょ。
深井さんは、リスナーの数が反響の出やすい規模に達したのだろうと話します。リスナーは2000数百人ほどで、47件のエピソードを全部聴き終えた人もいて、なぜか約5%がアメリカからだといいます。
二千数百人ぐらいなんですよ、今。
一方で、フランス革命編は準備した内容の量が膨大です。樋口さんは、喋るためのメモをプリントアウトしようとして分厚さに驚いたと明かします。
内容分厚すぎるんで、まあでもこれ面白い内容なんでね、ささっといきたいと思います。
フランス革命は中学校で必ず習う言葉ですが、実際に何がどうなって革命が起きたのかを知らない人は多いのではないか、と樋口さんは問いかけます。
フランス革命の前、人間は「誰かの所有物」だった
深井さんはフランス革命をずっと扱いたかったものの、複雑なので番組に慣れてからにしようと考えていたそうです。そのうえで、フランス革命を「今の世界の当たり前を作った近代の革命」だと位置づけます。
教育を受けること、人権、自由、平等、自分の持ち物を他人に奪われない権利などを、現代の人々は当たり前に享受しています。深井さんによれば、フランス革命が起こるまで世界ではそれが全く逆でした。
僕たちがすごく当たり前に享受しているのって、このフランス革命が起こるまで、世界では全く逆で、全然当たり前じゃなかったんですよ。
革命前の世界では、奴隷が金持ちの所有物だったり、貴族だけが特権を持って平民には権利がなかったりしました。裁判でも貴族が優遇され、平民はすぐに負けるような状態だったと深井さんは説明します。
国そのものも王様の所有物と考えられていました。フランス革命が起きたのは1789年で、日本でいえば江戸時代の中期ごろにあたり、土地が殿様のものだった時代です。
深井さんは、フランス革命をきっかけに世界が人権や自由や平等に目覚め、その延長線上に今の世界があると話します。楊さんは、明治維新もその影響を受けた節があると補足しています。
人も国も誰かの所有物。貴族が特権を持ち、平民には権利がほとんどなく、裁判も不公平
人権・自由・平等が意識され始め、今の「当たり前の権利」につながっていく
なぜ今フランス革命なのか?
なぜこのタイミングでフランス革命を取り上げるのかについて、楊さんは最近のニュースを挙げます。大企業などの既存の組織が、下の立場の人から疑問を突きつけられる構造が、いろいろな場所で目立っているといいます。
話の流れで深井さんが「吉本ですか?」と具体名を出してしまい、楊さんが「出してしまいましたね」と返す場面もありました。樋口さんも、大学のスポーツ部の問題や政治家に関するリークが増えている印象を語ります。
何か既存の大きなものが崩れ去っていくとか、揺さぶられていくっていうのを勉強する上で一番いい例が実はフランス革命ですね。
深井さんも、ずっと続いてきた旧体制が限界を迎えたときに世界がどう動くかを学ぶうえで、フランス革命は学びやすい題材だと同意します。
始皇帝の改革とは何が違う?理念で動いた社会変革
深井さんが今回フランス革命を取り上げた一番の理由は、フランス革命が「イデオロギーベースの社会変革」だからです。比較対象として、番組で以前扱った始皇帝の時代の改革が挙げられます。
始皇帝の時代には、法家 ── 中国の春秋戦国時代に現れた思想の一派。法律と賞罰による厳格な統治を説き、秦の国家体制づくりに大きな影響を与えましたが国の統治システムを根本から変えました。深井さんによれば、法家の改革は「どうやったらうまく治められるか」というHowtoの話から始まったものです。
けど、フランス革命、全然考え方が違ってて、俺たちはこういうことを信じてる、こういう社会にしたいんだと。
それを実現するために、メリットとかデメリット関係なく命かけてそこに突っ込むみたいな。それで世界がマジで変わっていったんですよね、ここから。
どうすればうまく治められるかというHowtoから始まった統治システムの改革
「こういう社会にしたい」という理念を、損得に関係なく命がけで実現しようとした変革
深井さんは例として、革命家サン=ジュストの演説を紹介します。サン=ジュストは、フランスに一人でも不幸な人や貧しい人がいるのを放置してはいけないと語り、徳や愛や幸福が地球上全体に行き渡るよう努力しようと呼びかけたといいます。
こうした言葉は古代中国の法家なら絶対に言わない、と深井さんは話します。法家ではない墨子 ── 中国の戦国時代の思想家。差別のない愛「兼愛」や侵略戦争の否定を説いた墨家の祖とされますのような人は言っていたものの、こうした理想をガチで掲げる人々が政権を取って国を作っていった点が特異だといいます。
理想に燃えた30代の政権は、なぜ派手に失敗したのか
深井さんによると、理想に燃えた革命家たちは国づくりで「すげえ派手に失敗」します。楊さんも「ドロドロですよ」と言い添えます。
ものすごく理念に燃えた、とても素晴らしい考えを持った人たちが、正義感を持って国を変えていこうとして、クソほど失敗して、いろんなやつ殺しまくって。
樋口さんは、革命が成功したから今の人権が整った世界がある、という印象を持っていたと言います。それに対して深井さんは「成功が何かなんですよね」と返します。
深井さんの説明では、旧体制が壊れたことをもって革命と呼ぶなら、フランス革命の旧体制は確かに壊れました。しかし、新しく何を作ればいいのかを誰もわかっていなかったといいます。
革命を担ったのは若い人ばかりで、スキルもありませんでした。楊さんは、20〜30歳くらいの、自分たちと同じような若手社会人が一気に政権を取り、どうしようかと迷ううちに殺し合いになったと説明します。
深井さんは今の日本に置き換え、50代や60代が多い政権を全部排除して、自分たちぐらいの世代だけで内閣を組んで物事を決めるような状況だとたとえます。
旧体制の崩壊
革命によって古い体制は壊れた
設計図の不在
新しく何を作ればいいのか誰もわからなかった
若さと経験不足
30代前後が中心で、経験も知識も足りなかった
大混乱と流血
理想に燃えるあまり極端な行動も起こり、多くの人が犠牲になった
予想外の着地
誰も想像しなかった地点に着地し、そこから今の世界につながる
深井さんは、だからこそフランス革命はいろいろな評価の仕方ができると話します。番組で繰り返し伝えてきた歴史は複数の尺度で同時に測って理解するという考え方に、まさに当てはまる題材だといいます。
楊さんは、フランス革命期の状況を「国全体がソーシャルベンチャー化している」と表現します。イデオロギーをもとにみんなで同じ方向へ進もうとする一方で、ベンチャーのようにエネルギー同士のぶつかり合いが続いた、という意味です。
ギロチンと生存権、命がけの理念が残したもの
樋口さんは、楊さんのたとえから今のスタートアップ界隈の雰囲気も感じると言います。深井さんは、スタートアップは人を殺さないと前置きしたうえで、命がかかったときに人間がどう振る舞うかがフランス革命には表れると話します。
深井さんによれば、革命の中では最終的に多くの人がギロチンで殺されます。それでも取り乱す人は少なく、立派な死に方をしていく人が多かったといいます。
もちろん利害で動いてる人も死ぬほどたくさんいるんですけど、やっぱり理念で動いてる人の割合がとても多い。
深井さんは、サン=ジュストの兄貴分にあたるロベスピエール ── フランス革命期の代表的な政治家。弁護士出身で、のちに革命政府の中心人物となり、恐怖政治を主導したことでも知られますにも触れます。今の憲法にある、最低限の生活を送る権利や幸福を追求する権利も、フランス革命から出てきたものだと説明します。
深井さんによれば、それまでは貧しく生まれた人に幸福になる権利はありませんでした。人権派弁護士のロベスピエールは、政府側の人間として、みんなに生きる権利があり、それが一番大事だという演説をしたといいます。
みんながだから幸せになっていいんだっていう話をしてるんですよね。
楊さんは「身分に関わらずね」と補い、深井さんはその直前まで王様がいたことを強調します。深井さんは、フランス革命は世界史の重大事件トップ10に確実に入り、感覚的にはトップ3に入ると語ります。
樋口さんの「なぜそんなに一気に変わっていくのか」という問いを受けて、その答えは次回から掘り下げることになり、今回の話はここで締めくくられました。
まとめ
フランス革命編の初回では、フランス革命が人権・自由・平等という現代の当たり前の源流であること、そしてそれが損得ではなく理念で動いた変革だったことが語られました。同時に、経験の浅い若者たちの政権は大混乱と流血を招き、誰も想像しなかった地点に着地したという複雑さも予告されています。
- フランス革命以前は、人も国も誰かの所有物で、平民には権利がほとんどなかった
- 始皇帝の時代の法家によるHowto型の改革と違い、フランス革命は理念をもとに命がけで社会を変えようとした
- 旧体制は壊れたが、30代前後が中心の革命家たちは新しい国の作り方を知らず、派手に失敗した
- 生存権や幸福追求の考え方もフランス革命から出てきたと紹介されている
- フランス革命は「素晴らしいとも、クソだとも言える」出来事で、複数の尺度で見る必要がある





