歴史の授業が嫌いだった人に、歴史の何が面白いのか?
この回は、のちのコテンラジオとなる番組の第1回として、準備ゼロの即興で収録されました。聞き手の樋口聖典さんは、番組名を「歴史チャチャチャラジオ」と仮に名乗りながら、自己紹介を始めます。
株式会社ブック代表の樋口さんは、小学校から高校まで歴史が苦手で、ぶっちゃけ嫌いだったと打ち明けます。そのうえで、株式会社コテンの深井龍之介さんと楊睿之さんに、歴史の何が面白いのかを率直に尋ねました。
まあ歴史の授業はクソですけど、(歴史の面白さは)自分と全然違う時代に生きた感覚の違う人間のケースを大量に見れて。
深井さんは歴史を映画やドラマにたとえます。ドラマ自体が嫌いな人はいないように、歴史もジャンルの好き嫌いはあっても、面白くて勉強になり、癒やされも発奮もするものだと語ります。
楊さんは、昔はルールや価値観が今と違うからこそ、振り切った人物が大勢いたことに面白さを見ています。
ああいうやつが成功したりとか、変な形で殺されたりとか、(それを)読んだりすると、人間のあり方って、今の自分らはまだまだ狭いなっていうのを感じますよね。
樋口さんが「37年の、しかも日本の文化しか知らない」と応じると、深井さんはチンギス・ハンの国家観を例に挙げます。当時は国家という概念そのものがなく、基本的な概念から違う一方で、まったく同じものも見つかるのが面白いと話しています。
「学んで何の役に立つのか」への答え
面白さはわかったものの、樋口さんはまだピンと来ていません。エンターテインメントとして楽しいのは理解できても、歴史を学ぶメリットがわからないと率直に問いかけます。
深井さん自身は面白いから勉強しているだけだとしつつ、現実に役立つ場面はたくさんあると答えます。
今自分が思いっきりぶち当たってるケース、仕事でも恋愛でも何でもいいんですけど、すっげえ悩んでた時に歴史勉強すると、めっちゃ同じことしてる(人がいる)みたいな。
樋口さんは、人間の心の形は昔から変わっていないから、昔の人の経験から学べるということかと整理します。楊さんはそこに組織の視点を加えます。
国もだって一つの組織ですし、その組織を作ってるのも人なので。どういう時に人が怒るのか、どういう時に組織がバーって弾けるのかっていうのは、結構今も似てる部分がたくさんあります。
部下が上司に言いたいことを言えないとき、歴史で解決できるか
樋口さんは具体例として、会社員が上司に何かを言いたいのに、どう伝えていいかわからないという悩みを持ち出します。その悩みは歴史で解決できるのかという問いに、深井さんは即座に「韓非子だね」と答えました。
深井さんによれば、韓非 ── 中国・戦国時代末期の思想家。法による統治を説く法家の大成者とされ、その著作は『韓非子』と呼ばれますは今から2200年ほど前の中国の人物で、韓非子と呼ばれています。漫画『キングダム』と同じ時代の人だと聞いて、樋口さんは一気に距離感が縮まったと反応しています。
深井さんは、韓非子が書いたものを「今でいうビジネス書」と表現します。王様を説得する何々の方法や、こういう国は滅びるといった兆候を並べた内容です。
いや、なんかあれですね、バズるブログのタイトル。
全く一緒です。本当にブログタイトルみたいな感じで、2200年前に書いてます、韓非子が。
王様より部下の家が大きくなると国が滅ぶ?
樋口さんに具体例をせがまれた深井さんは、韓非子が挙げた国が滅ぶ兆候をいくつか紹介します。その一つが「王様の家よりも部下の家のほうが大きくなったら国が滅ぶ」というものです。
深井さんはこれを会社に置き換え、ある部署だけが変に膨らみ、部分が全体を超えていく状態にたとえます。会社全体ではなく自分たちの部署のためだけに働く集団ができることだと説明し、樋口さんは「レジスタンス部隊」と言い換えました。
もう一つの例は、社長が占いにハマりだすというものです。韓非子には「占いにハマったら滅びる」とそのまま書いてあると深井さんは話します。
昔の人は占いを信じていたのでは、と驚く樋口さんに、深井さんは時代背景を説明します。戦いが続く戦国時代では合理的な判断ができる人が勝ち残るため、この時代の中国人はめちゃくちゃ合理的だったといいます。
韓非子が説く、命がけの「上司の説得術」とは
韓非子は、王様を説得することがいかに難しいかを書いています。樋口さんの言う通り、王様は今でいう上司にあたります。
深井さんによれば、当時の進言は失敗すればクビや減給では済まず、殺される命がけのものでした。そのうえで深井さんは、韓非子の主張を超ざっくり要約します。
上司はいろんな人がいるよねと。いろんな人格とか性格のやつがおるよねと。
まずそいつらの人格と性格を超ちゃんと把握して、その人が言うこと聞いてくれる言い方で言わないと、お前がやりたいことって全然できないんだよっていうことを言ってるのが韓非子。
たとえば名声が好きな君主には、その政策が名声につながると伝える、という具合です。樋口さんが「女性が好きならモテますよと言う」と例えると、深井さんは「超浅いけど、それ」と認め、それを突き詰めて言語化したのが韓非子だと話します。
言いたいことがある
自分には実現したいこと、伝えたいことがある
上司の人格を把握する
君主・上司にはさまざまな性格の人がいるので、相手の性格をきちんとつかむ
聞いてもらえる言い方で伝える
名声好きなら名声につながると説くなど、相手が聞き入れる形に変える
やりたいことが実現する
相手に合わせて伝えなければ、自分のやりたいことはできない
楊さんは、今考えれば当たり前の内容だとしながらも、その価値を強調します。
深井さんが「日本は弥生時代ですからね」と添えると、樋口さんは弥生時代に何をしていたのかと笑い、深井さんは「ネズミに米を食べられないよう必死に守っていた」と返しています。
思想家・韓非子は、何をした人だったのか?
韓非子に興味が湧いた樋口さんが、歴史的に何をした人なのかを尋ねると、深井さんは「意外と何もやってない」と答えます。韓非子は思想家として登場し、『韓非子』という本を書いた人物です。
深井さんによると、出自ははっきりしないものの、韓という国の王子や貴族的な立場の人だったと言われています。のちに『キングダム』にも登場する始皇帝のもとへ自分の考えを持ち込み、めちゃくちゃ評価されたといいます。
樋口さんはこれを「パワポを持ってプレゼンしに行く」ことにたとえ、深井さんも同意します。王様を説得する方法を書いた人だけに、説明がうまかったというのが深井さんの見立てです。
ただし、内容によっては命を落とします。樋口さんの確認に、深井さんは「余裕で殺される。何人も殺されてますから」と答えています。
550年続いた戦国時代は「シリコンバレー」だった
命がけでなぜそんなことをするのか、という樋口さんの疑問に、深井さんは「楽しいよそれ」と身を乗り出します。深井さんは、当時の中国では戦国時代が550年続いたと説明します。
日本の戦国時代は100年ほどでも家康や秀吉のような偉人が大勢出ました。550年も続いた中国では、楊さんが言ったような尖った人物がめちゃくちゃ出てきたと深井さんは語ります。
深井さんによれば、長い戦乱の結果、身分がなくてもすごいことを言えば大臣まで一気に上がれる超実力社会が生まれました。現代に匹敵するか、それ以上の実力社会だったといいます。
シリコンバレーみたいな、本当に。その時に俺が実現したいこの理念を、国家を使って実現してやるってやつらが出てきたんですよ。
樋口さんが「ベンチャーですね」と言うと、深井さんは「しかもソーシャルベンチャー寄りの、課題解決寄りの」と付け加えます。老子 ── 春秋時代の思想家とされる人物で、道家の祖。無為自然を説き、作為的な統治を批判しましただけは「全部どうでもいい」と言ったものの、それ以外の思想家たちは国という器で理念を実現しようとしたと説明しています。
深井さんによると、彼らは生まれた国だけでなくさまざまな国を遊説して回り、気に入られた王様に雇われて政策を実現したり、将軍として戦争に行ったりしました。孫子や韓非子もそうした人物だといいます。
樋口さんは、社長や投資家にひたすら会いに行き、ベンチャーキャピタルにプレゼンし、自治体で補助金をもらう現代の起業家の姿に重ねます。深井さんが「ずっとデューデリ受けて」と返すと、樋口さんは「社会、進歩してないですね」と笑っています。
理念型の起業は2500年前にもあった?
樋口さんは、ベンチャーや起業が大事と言われだしたのはここ10年ほどの感覚だと話します。深井さんも、ここ50年や100年の歴史を見ても起業が重視されるのは最近だと同意します。
特に最近は、お金儲けのためではなく、ビジネスモデルを作りながら社会課題の解決を目指すソーシャルベンチャーのような理念型の起業が目立つと深井さんは指摘します。そのうえで、2500年前も一緒だと語っています。
ベンチャーから大企業へ。秦の統一で諸子百家が消えた理由
その流れは一度落ち着いたのか、と樋口さんが尋ねます。深井さんの答えは、秦が中国を統一したことで、王が進言を聞き入れる必要がなくなったというものです。
競う相手がいないから、どちらかというと言うこと聞いて欲しくなった。だから大企業になっちゃった。
深井さんによれば、進言するより言うことを聞かせるフェーズに入り、諸子百家 ── 春秋戦国時代に現れたさまざまな思想家や学派の総称。儒家、道家、墨家、法家、兵家などがありますは全員いなくなりました。それまでの時代は、思想家にとってのゴールデンタイムだったといいます。
樋口さんが「大企業病でまた滅びるのでは」と続けると、深井さんは秦と漢の結末をそれぞれ会社にたとえます。
戦国時代は超実力社会のベンチャー期。王は進言を求め、諸子百家が理念を売り込んだ
秦の統一で大企業に。言うことを聞かせるフェーズに入り、諸子百家はいなくなった
深井さんによると、秦はワンマン経営すぎて滅び、それを反省した漢は大企業病でその後滅んだといいます。樋口さんは「やってること本当に一緒ですね」と驚いています。
「政治に愛は必要ない」法家と、ハートで動く思想家たち
樋口さんは、中国最初の統一国家である秦を支えたのが韓非子の思想だったと確認します。深井さんはその考えを「政治に愛は必要がない」と表現し、樋口さんは「法律が必要だ」と言い換えます。
深井さんによれば、諸子百家は人によって主張がまったく違い、韓非子は法律の「法」に「家」と書く法家 ── 法と賞罰による厳格な統治を説いた学派。韓非はその大成者とされ、秦の統治に影響を与えましたと呼ばれる派閥に属します。超合理的で、かつ論理的な人たちだといいます。
樋口さんが対照的な存在として孔子を挙げ、仁や徳を大事にしたと話すと、深井さんは孟子はもう少しハートフルだと加えます。さらに、愛が大事だと説いた墨子とは、愛もいらないとする韓非子が逆の立場だと語っています。
超合理的・論理的。政治に愛は要らず、法律が必要だとする
孔子は仁や徳、孟子はよりハートフル、墨子は愛を大事にする
名前が次々に出てきたところで、樋口さんは「お二人が詳しすぎて途中からついていけない」と降参しています。
続けたい番組の形と、上司に殺された韓非子という後味
試しにやってみた収録でしたが、樋口さんは「これやっていきたいですね」と手応えを口にし、深井さんも「俺もやりたい」と応じます。続けるにはリスナーの声が必要だとして、2人は感想や「これについて語ってほしい」という提案を呼びかけました。
樋口さんは、部下が上司に伝える方法のような悩みを歴史から解決する「課題解決型ラジオ」というイメージを語ります。先生は出演者ではなく、歴史上の偉人がなってくれるという構想です。
ところが深井さんは、ここで韓非子の結末を明かします。
韓非子は、上司を説得する方法を編み出して、めっちゃベストセラーっぽくなったんですけど、この人最後殺されるんですよ、上司に。
え?は?いや、全然ダメじゃないですか。
樋口さんは「終わり悪けりゃ全部ダメ」「後味悪っ」と笑いつつ、次はハッピーエンドの人物をと期待を寄せます。それでも十分面白かったと締めくくり、最初の収録は幕を閉じました。
まとめ
コテンラジオの原点となるこの即興収録では、歴史嫌いの樋口さんの素朴な問いから、韓非子の説得術と戦国時代の実力社会が現代のビジネスに重なる様子が語られました。相手の性格に合わせて伝えるという知恵の一方で、その本人が上司に殺されたという結末が、問いを投げかけたまま余韻を残しています。
- 深井さんは、歴史を「感覚の違う人間のケースを大量に見られる」ドラマのようなものだと語った
- 韓非子は、上司の人格や性格を把握し、聞き入れてもらえる言い方で伝えなければやりたいことは実現できないと説いた
- 550年続いた中国の戦国時代は超実力社会で、理念を国で実現しようとする思想家たちはベンチャーのようだった
- 秦の統一で進言の需要が消え、諸子百家はいなくなったと深井さんは説明した
- 上司の説得術を書いた韓非子自身が最後は上司に殺されたことが、「参考にしていいのか」という余韻を残した




