完成品では差がつかない時代に何が起きているのか
コテンラジオ番外編の中編は、前編では話しきれなかった尾原和啓さんの著書『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』がテーマです。冒頭で、そもそもプロセスエコノミーとは何かが問われます。
尾原さんによると、プロセスエコノミーとは文字どおり、プロセスが経済の中心になるという考え方です。プロセスの反対にあるのは、アウトプット、つまり完成品です。
これまでは完成品で稼ぐのが当たり前でした。しかしインターネットの時代には、どんなに良いものを出してもすぐに真似され、品質が高い水準でそろって差がつかなくなると尾原さんは説明します。
差がつかなければ安売り競争になり、完成品では儲けにくくなります。そこで、作り手の思い、工夫、試行錯誤といったプロセスのほうに希少性が生まれ、人はそこでファンになり、お金を払うようになるというのが尾原さんの見立てです。
尾原さんは、完成品でお金がもらえなくなったわけではないとも補足しています。ただ、アウトプットだけでは勝負しにくい時代だからこそ、プロセスを中心に考えたほうがいいという整理です。
聞き手からは、商品が企業のポリシーで選ばれるようになっているという指摘も出ます。尾原さんはこれにうなずきつつ、ポリシーが良くても製品が悪ければ選ばれないと述べ、どこの製品も本当に良くなってしまった時代の悩みだと話しています。
完成品で稼ぐ。良いものがすぐ真似されて品質で差がつきにくく、安売り競争に陥りやすい
作り手の思い・工夫・試行錯誤に共感したファンが、完成品を選んだり、過程そのものにお金を払ったりする
BTSとモーニング娘。は何が違うのか
プロセスエコノミーの成功例として、尾原さんはデジタルエンターテインメントの分野を挙げ、その代表として韓国のBTSを紹介します。新曲が最短で10億回再生を記録した例にも触れています。
聞き手は、日本のモーニング娘。もプロセスエコノミーではないかと問いかけます。尾原さんはそれを認めたうえで、両者の違いを説明します。
モーニング娘。の時代は、あくまでCDという完成品で稼ぐのが中心でした。一方のBTSは、コロナ禍でライブを開きにくくなったことも含めて、新曲に至るまでの苦労や制作過程を公開しています。
BTSの制作過程の映像は、ARMY ── BTSのファンの呼び名。SNSでの発信や応援活動の熱量の高さで知られていますと呼ばれるファンが編集し直して広めることもあります。尾原さんによると、BTSは制作過程そのものやファンクラブのようなサブスク ── サブスクリプションの略。月額などの定額料金で、継続的にサービスやコンテンツを受け取る課金形態ですでも稼いでいます。
尾原さんが強調するのは、プロセスでファンになってもらう手法そのものは、ハロプロやAKBの時代からあったという点です。違うのは、昔は完成品だけで勝てたのに、今は完成品だけでは勝ちきれない、勝ち続けられない時代になったことです。
聞き手は、完成品の前にマネタイズのポイントを作りやすくなったことも重要だと指摘します。尾原さんは、プロセスでも稼げるテクノロジーがこの3年ほどで整ったと応じています。
尾原さんによると、変化の1つは、素人でも高品質な発信ができるようになったことです。以前のプロセス開示はブログや写真が中心でしたが、今はVLOGと呼ばれる質の高い動画を個人でも出せます。
さらに、日々の配信の中で投げ銭ができるようになりました。尾原さんは、ライブ配信でヤンヤンさん(楊睿之さん)にスーパーチャットが飛ぶような場面を例に挙げ、番組側もライブ配信でスーパーチャットを受け取ったのは新鮮な体験だったと振り返っています。
楽天の売れる店長に共通する3つの条件とは
プロセスを愛してもらうためには3つの条件がある、と尾原さんは著書に書いています。この条件は、もともと楽天で売れる店長が持っている特徴だといいます。
商品だけを見れば、Amazonのほうが届くのが早いといった場面は多くあります。それでも楽天の特定の店長がわざわざ選ばれる理由として、尾原さんは次の3つを挙げます。
1つ目はコミットメント、つまりやりきる力です。こんなものを海外から仕入れてくれた、こんな時期でも届けてくれた、ラッピングがきれいだ、といったところにお客さんはやりきる力を感じます。
2つ目はマイクロインタレストです。尾原さんの説明では、普通ならありえない細かいところに強くこだわることを指します。
尾原さんによると、マイクロインタレストを持つ人が信じられるのは、そのことが好きでしょうがなくて、損得を度外視してやっているからです。深井さんはそれを「ピュアってことですよね」と受け止めています。
尾原さんは具体例として、日本のワインの10本に1本は実店舗を含めても楽天で売られていること、楽器も10本に1本が楽天で売られていることを紹介します。チリワインが好きすぎて、その良さを広めたいから売っているような店長がいて、そういう人から買いたくなるという話です。
尾原さんはここで、楽天の店長の話は「そのままコテンラジオでしょ」と指摘します。深井さんは、コテンラジオには何を買ってもらえばいいかがまだ用意できていないと応じています。
(コテンラジオは)エコノミーじゃないもんね、今ね。プロセスになってる。
3つ目の条件として尾原さんが挙げるのが、弱さの自己開示です。コミットメントとマイクロインタレストだけでは感謝は生まれても共感は生まれにくく、弱さを開示すると人は助けたくなり、同じ値段ならそこで買おうと思うようになるといいます。
コテンラジオが打ち明けた「弱さ」と本当のWhy
弱さの自己開示の話を受けて、深井さんはコテンラジオは自己開示ができているのかと尋ねます。尾原さんは、やりながら自然とできていると答えます。
深井さんは、まだできるかもしれないと言いながら、コテンラジオの現状を率直に語り始めます。多くの人の力を借りて番組を作っているのに、関わる人たちに適正な報酬を渡せるほどにはまったく儲かっていない、という話です。
これほどの才能を投下している人たちに対して適正な報酬を渡すほど、全く儲かってないなと思うので。
尾原さんは、深井さんがさらりと言ったことこそが信用を生んでいると指摘します。才能のある人たちが、世の中がお金を払わない歴史というテーマにこだわり、完成度の高いポッドキャストを届け続けていることが信頼の源になっているという見方です。
だって誰にも(本を)60冊読んでくれって言われてないですからね。自分たちが読まないと気が済まないだけですからね。
尾原さんによると、世の中のお金儲けや肩書きといった物差しとは別のところで生きている人たちだと伝わると、そこに信用が生まれます。ただし弱さの自己開示がないと、「この人たちはこれだけで生きていける人たち」だと受け取られてしまうといいます。
深井さんはこれを受けて、サポーターには深く感謝しているものの、資金はまったく足りないと明かします。歴史データベースを作るには、あと15億円ほど必要になるかもしれないという話です。
尾原さんは、それこそがプロセスエコノミーだと応じます。コミットメントとマイクロインタレストで信頼を得たうえで、その人の裏側にもっと大きなWhyがあると気づくと、人はその大きなWhyと一緒に冒険したくなるという説明です。
この流れの中で、深井さんはこれまで言いづらかった本音を口にします。深井さんが本当にやりたいのは、コテンラジオそのものではないというのです。
僕はね、コテンラジオやりたいわけじゃなくて、得意なだけなんです、多分。
僕がやりたいのって、属人的に歴史を人類が享受するという構造自体を、もうやめてしまいたい。
深井さんによると、1人の人間が語れる歴史には限りがあり、司馬遼太郎さんのような人もいつかは亡くなります。歴史データベースは、歴史が得意な人間の頭をコンピューター上に再現するような永続的な装置になりうるため、自分の時間は人類のためにデータベースへ使うべきだと考えているといいます。
イーロン・マスクのMTPはなぜ電気自動車から始まったのか
深井さんの話を受けて、尾原さんは『プロセスエコノミー』から少し離れ、エクスポネンシャル ── 「指数関数的」の意味。変化が足し算ではなく掛け算で加速していく様子を表す言葉ですという考え方を紹介します。技術が重なり合うことで、変化の速度はどんどん上がっています。
尾原さんによると、人間はアンラーニングが苦手なため、変化を現状の延長線上にある直線で考えてしまいます。だからこそ、指数関数的な変化に合わせた目標を設定できる人に、人は集まるといいます。
こうした目標の立て方を、尾原さんはMassive Transformative Purpose ── 略してMTP。世界を大きく変えるような壮大な目的のこと。シンギュラリティ大学の関係者らが提唱した概念として知られていますと呼びます。尾原さんは関西弁で「めちゃめちゃ今とちゃうように変わるような目標でっせ」と言い換えています。
尾原さんがMTPの実践者として挙げるのがイーロン・マスクです。テスラのミッションには電気自動車という言葉が一言も書かれていない、と尾原さんは指摘します。
尾原さんの説明では、イーロン・マスクがやりたいのは、世界を持続可能なエネルギーの社会にすることです。そこから電気自動車に至るまでには、次のような因果の連鎖があります。
目的
世界を持続可能なエネルギーの社会にしたい
課題
太陽光や風力は発電できる時間が限られるため、電気を貯めるバッテリーを安くする必要がある
量産
バッテリーを安くするには大量に作る必要がある
最初の市場
高価なバッテリーでも買ってもらえる製品として、電気自動車のスーパーカーを作る
この説明に深井さんは「それで電気自動車やってんだ。すげえな」と驚き、聞き手からは、電気自動車はバッテリーを安くするための手段だという整理も出ます。尾原さんは、家庭にバッテリーが置かれる状態を作るための最初のステップでもあると補足しています。
尾原さんは、この構造をそのまま深井さんにも当てはめます。変化の時代には、一人ひとりが自分なりの歴史の羅針盤を持つ必要がありますが、そのたびに深井さんが説明していては追いつきません。
そこで、誰もが深井さんのように自分に合った歴史を再編し、自分の羅針盤を作れる時代にしたい、というのが深井さんのMTPだと尾原さんは言葉にします。コテンラジオはその第一弾であり、歴史データベースはその次の礎だという整理です。
いや、マジでそれ(説明は)僕よりもずっと表現がうまいです。
尾原さんはさらに、大きな未来に一緒に冒険したくなると、プロセスにお金が集まると話します。テスラは主要自動車会社上位6社の合計よりも時価総額が大きい一方、販売台数はその30分の1ほどだと尾原さんは紹介し、将来もっと大きな存在になると思われているから株価が上がると説明しています。
尾原さんによると、日本のポッドキャストで1位のコテンラジオにエンジェル投資家がお金を出しているのも同じ構造です。深井さんは、これまでいろいろな人に説明してきたのに全然伝わらなかったと漏らします。尾原さんは笑いながら、「アカシックレコード」という説明は少し怪しく聞こえてしまうと助言しています。
歴史データベースは「答え」ではなく「物語」を探す装置
深井さんは、データベースがあると世の中がどうなるのかを感覚的に伝えるのは難しいと話します。そのうえで、データベースは深井さんがいつもそばにいて、歴史の傾向をいつでも聞ける状態に近いと説明します。
尾原さんは、データベースには2つの種類があると整理します。多くの人はデータベースを答えを出す装置だと考えがちですが、本来は大きなデータの中から自分の物語を見つけるものでもあるといいます。
トレンドを分析し、全体がどちらの方向へ向かっているかを予測する
ありえない振る舞いを拾い、自分や自社に接続して新しい機会や自分だけの物語を見つける
尾原さんは、歴史データベースは明らかに後者のためのものだと述べます。深井さんも、要は検索ができるということだと応じています。
聞き手は、深井さんのように大量の本を読んで話せる人は限られていると指摘します。深井さんも、時間がかかるからだと認め、尾原さんのような別分野のプロフェッショナルが毎回同じ歴史の勉強をすべきかといえば微妙だと話します。
この人が僕と同じぐらい歴史わかってたら、めっちゃ経営もっとすごくなるだろうなとか、書いてる本がもっとすごくなるだろうなって思ってるんですよ。
深井さんによると、その知識を毎回人に渡すことはできず、深井さん自身の人件費を使うわけにもいきません。しかしデータベースがあれば、完璧ではないにせよ、それが徐々に可能になるといいます。
聞き手は、本を読み、解釈し、話すという3つのステップのうち、本を読む部分を大きく圧縮できれば、解釈力と話す力がある人がコテンラジオのようなものを生み出せる可能性が増えると指摘します。60冊を読む時間がない人でも作れるようになるだけで価値がある、という見方です。
英雄が100人に増えると産業が生まれる
聞き手は、歴史データベースを「論語みたい」だとたとえます。尾原さんはこれを受けて、論語は過去の英雄の振る舞いを再生産する装置であり、完璧な聖人君子にはなれなくても、それに近い人を大量に生み出すための仕組みだと説明します。
尾原さんによると、インターネットの良さの中で一番大事なのはデモクラタイズ ── democratize。「民主化」の意味で、一部の人だけが使えた力や道具を多くの人が使えるようにすることを指しますです。たった1人の英雄しか使えなかった才能を、100人、1万人、100万人が使えるようになることだといいます。
尾原さんは、歴史データベースによって深井さんのような人が100人になれば、その100人がさまざまな人に助言できると話します。全国の小学校の先生が歴史データベースを使い、子どもが自分のなりたい姿に近い歴史を学べれば、子どもが自分から歴史を学びたくなるかもしれないとも述べています。
尾原さんの話で重要なのは、全員が深井さんになる必要はないという点です。1人のときは英雄でも、100人、1万人になると産業が生まれると尾原さんは説明します。
歴史から学び、歴史を羅針盤にして自分の物語を作っていく産業が生まれる。そうしたWhyを大きく示すほど、コテンラジオをもっと応援したくなる人が増えるというのが尾原さんの見立てです。
これがプロセスエコノミーだ。
このWhy、言ってなかったですもんね、あんまりね。
サポーターは石垣を積む人。乾けない世代とお金の使い道
尾原さんは、コテンラジオのリスナーやサポーターを、城の石垣を積む人のたとえで説明します。不平を言いながら重い石を運ぶ人もいれば、自分が生きているうちに城は完成しなくても、何代も先の人が平穏に暮らせることの一部に関われるなら幸せだと語る人もいる、という話です。
尾原さんによると、コテンラジオのサポーターはコンテンツ代を払っているのではありません。歴史データベースを作り、歴史の産業を生み出すための石垣の1つを担っている人たちだといいます。尾原さんは冗談まじりに、それなら1000円は安くないかと投げかけています。
聞き手は、尾原さんが好んで使う「乾けない世代」という言葉を紹介します。昔は欲しいものが多く、お金を自分の渇きを埋めることに使うしかなかったが、今の日本では生活の最低限が満たされ、余ったお金をどこに使うかで個性が出るようになったという話です。
聞き手はそれを、お金が投票権になったということだとまとめます。尾原さんも、まさにその通りだと応じています。
ないものが多く、車やカラーテレビを手に入れることが快楽だった。売上目標を達成すれば感謝され、銀座でシャンパンを開けることが報酬になった
ないものがなくなり、どんな意味の中で生きるか、どんな仲間といるか、何に夢中になれるかに価値観が移った
尾原さんは、今はサイゼリヤでも十分おいしいのだから、銀座で高いお金を払うより、良い仲間と歴史的に意味のあることの一部にいたほうがいいと考える人が増えていると話します。そして、大きな意味を一番提供してくれるのは歴史だと述べています。
聞き手は、可処分所得を自分の快楽に使ってもいいし、コテンのサポーターになってもいい、選べるようになったことが自由だと話します。一方で、何が幸せかわからなくなる難しさもあり、羅針盤があることが助けになるのではないかとも述べています。
尾原さんはここで、タモリさんがある番組で「今の若い人って自分で自分を決めなきゃいけないんだ、つらいね」と話していたことを紹介します。昔は生まれた村が、その後はいい大学やいい会社が人生を決めてくれましたが、会社の寿命は個人の寿命の3分の1ほどになり、地域のつながりも薄れたと尾原さんは説明します。
聞き手は、多くの人は自分で決めている感覚がないまま時間やお金を使っていると指摘します。自分の時間やお金を何に使っているかを意識的に見直す人が増えれば世界が少し幸せになり、その中でコテンを選んでくれたら嬉しい、と話しています。
刺激には慣れても、学びには飽きない
尾原さんは、YouTubeはテレビの歴史を10倍の速さでたどっているという見方を紹介します。テレビもYouTubeも、最初は無料で刺激的な情報を楽しめることが受け、いたずらや豪華絢爛な企画が流行しました。
しかし尾原さんによると、人間は刺激にいずれ慣れてしまいます。そのなかで、慣れることなく面白さが続く唯一のものが学びだといいます。
尾原さんは、学び系のテレビ番組に長寿番組が多いことを例に挙げます。YouTubeでも3年ほど前から刺激に飽きた人たちが学びに向かい、中田あっちゃんがヒーローになり、そこにコテンラジオが来たという流れだと説明しています。
ただし尾原さんは、日本では学びが人から押し付けられるものだったとも指摘します。自分から面白いと思える学びだからこそ、飽きずに続けられるという話です。
聞き手は、日本の学びはゴールを決めて成績を積み上げる理性的なものとして定着してきたが、これからは感情や直感で面白さを感じ、それをエンジンにして学ぶ形もありうると、尾原さんの本を読んで考えたと話します。
尾原さんは、自身の本はどれも、前の時代の成功ルールにしがみつく人を脅すのではなく、次の時代のルールもあなたは得意だと伝えるために書いていると話します。『アフターデジタル』に続き『プロセスエコノミー』でも、ものづくりの成功体験が強い日本人に向けて、職人やニコニコ動画のように手段そのものを楽しめる国民性を思い出してほしいと考えているといいます。
結果のために我慢する国と、逃げることを楽しんだNetflix
尾原さんは、楽天の店舗向けの社内大学である楽天大学の学長、仲山さんの言葉を紹介します。目的には、結果を目的とするものと、プロセス自体を目的とするものの2種類があるという考え方です。
尾原さんによると、本来の人間は、発見が楽しい、次に何が起こるか知りたいといったプロセスそのものを楽しむ人が多かったといいます。ドライブや『水曜どうでしょう』のように、走ること自体が楽しいという感覚です。
ところが日本はメーカー社会になる過程で、良いものができるまでは我慢し、失敗を減らして安くて良いものを作る国になったと尾原さんは説明します。結果のために途中は我慢する、という姿勢です。
尾原さんは、正解が決まっている時代にはそれでよかったと話します。早くたどり着いた人が勝つので、息継ぎせずに走り切れば勝てたからです。しかし変化の時代には正解がどこにあるかわからないため、途中を楽しみながら、気づいたら遠くに来ていたという進み方に変わってきているといいます。
深井さんは「いやーこれ響くなあ」と反応し、経営の現実について率直に語ります。
このまま行くと潰れるけど、よっしゃ楽しもうみたいにするのってすごい難しいけど大事なんだなって、なんか改めて今ちょっと思ったね。
尾原さんは、そうした姿勢で歴史的に成功した会社としてNetflixを挙げます。Netflixはもともとレンタルビデオの事業から始まり、どこにでも店舗があるブロックバスターという強力なライバルを前に、生き残る道を探し続けた会社だといいます。
尾原さんによると、Netflixは最初から結果を見ていたわけではありません。その時その場で生き残れる方向に進み、しかもそれを苦しみではなく楽しみながらやっていたら、気づけば遠くまで来ていたといいます。
逃げることを楽しみながら逃げるって、めっちゃいい表現ですね。
学園祭とバーニングマン、ハレとケの往復
深井さんは、収録直前に話していたバーニングマンを思い出し、バーニングマンは大学の学園祭のようなものだと感じたと話します。学園祭は学生が作るのでプロのイベントよりクオリティは低いかもしれませんが、お金をもらわずに必死でやり、一生の思い出になることがあります。
それで着金しながら(失敗したら)自分に全部負債来るけど、気にせずできるかっていうメンタリティーをどうやって発揮していくか(が面白い)。
尾原さんは、キングコングの西野さんが語る「ハレの日とケの日」の考え方を紹介します。祭りでありえない自分を出して次の何者かを見つける場所と、見つかった得意なことをひたすら磨く日常、この往復が大事だという話です。
尾原さんはバーベキューを例に挙げます。料理が得意な人は料理を作り、いい肉やいい酒を知っている人はそれを持ち寄ります。見返りなく一番いいものを出し合うことで、あの人は肉の焼き方がうまいとわかり、次からそういう場に呼ばれるようになるといいます。
普段ありえない自分を出し合い、その人の得意や深い思いが見つかる。ファンになるきっかけが生まれる
見つかった得意をひたすら磨く地味な時間。ハレの日を知るファンが「もう一度輝きを見たい」と応援する
深井さんは、尾原さんの本で紹介されている、Googleが業務時間の20パーセントを好きなことに使ってよいとした制度は、まさにハレにあたるのではないかと尋ねます。尾原さんは、会社である以上80パーセントは結果に基づく必要があるが、残りの20パーセントは見たい世界やできると思うことに賭けるのだと説明します。
深井さんは、普通に生きていればハレの日がないまま過ごせてしまうとも指摘し、ハレの日がないのは良くないと話します。尾原さんによると、ケの日がなければ食べていけないが、人はそのためだけに生きているわけでもありません。
尾原さんは、インターネットは日常でつながる場所であると同時に、遠くの人も一気に集まれる祭りの場にもなると話します。祭りで見つかった人は、月額サポートやBTSのような再生回数、企業のスポンサーシップなど、日々のプロセスの中で応援される道が開けるといいます。
尾原さんは最後に、昭和のものづくりで勝った成功体験があるぶん、日本では完成品で稼ぐ発想をアンラーニングしにくいと述べます。だからこそあえてプロセスエコノミーという言葉を掲げ、自分がプロセスでヒーローやヒロインになれる物語を考えてみようと呼びかけています。
プロセスエコノミーは仏具だ。言葉が時代を動かす
聞き手は、プロセスエコノミーという言葉を作ったこと自体がすごいと話します。尾原さんは、この言葉を作ったのは自分ではなく、けんすうさんだと明かします。
深井さんは、ゲームの世界では早い段階からアーリーアクセス ── 開発途中のゲームを先行公開し、プレイヤーの反応を取り入れながら完成させていく販売・開発の手法です型の開発がされてきたのに、この概念として解釈されていなかったと指摘します。そのうえで、言葉を与えることはルターやルソーがやったことと同じだと話します。
これ見て、ありえないとは思わなかったじゃないですか。確かにそうだなと思ったんですよね。それってやっぱり(普段から)感じてるってことじゃないですか。
聞き手も、人間は言葉でしか考えられないので、言語化して初めて解釈や議論ができるようになると応じます。尾原さんによると、言葉が生まれたことで、けんすうさん、尾原さん、西野さんのプロセスエコノミーがそれぞれ少しずつ違う形で語られ始め、解像度が上がっていけば完成品とプロセスの両方を選べるようになるといいます。
聞き手は、これを圧縮ファイルにたとえます。最澄・空海編で「仏具はZIPフォルダのようなもの」と話したように、プロセスエコノミーという言葉も、受け取る側のデコーダーがそろうことで中身が正確に解凍されていくという見方です。尾原さんも、仏具は日本国家のような概念を圧縮したものだと応じています。
聞き手が「プロセスエコノミーは仏具だ」とまとめると、深井さんは、ここだけ聞いたらまったく意味がわからないと笑っています。
問いを立てないものは見えない。アンラーニング深井の誕生
尾原さんは、コテンラジオも本も一番大事なのは、未来を作る問いを日常の中に生むことだと話します。プロセスエコノミーもあり得るのではないか、と問いが生まれることで、それまで見えなかったものが見えるようになるからです。
もうほんとそう思う。もうなんか何も言う余地がないぐらいそう思う。
尾原さんは、念仏もある種の毎日の問いだと続けます。南無阿弥陀仏と唱え、阿弥陀様が照らしてくれる未来に向かって生きているのかと問うことで、悪人だからこそ感謝ができるという解釈が生まれ、浄土真宗のようなものが生まれてきたと説明します。
収録は50分ほどに及び、話はプロセスエコノミーにとどまらず生き方にまで広がりました。尾原さんは、深井さんの歴史データベースへの強い思いがよくわかったと話します。
なんか言いづらいんですよね。なんかなぜか。それもちょっと自己分析したいぐらいですけど、すごい今回言えて気持ちよかったですね。
尾原さんは、深井さんは「完成したものでないと開示してはいけない」というアウトプットエコノミーの呪いに少しかかっているのかもしれないと指摘します。深井さんも「かかってるかもしれない」と認め、この日は自分のアンラーニングの回だと話しました。
もうですね、深井さん、芸名をアンラーニング深井にしましょう。
こうして「アンラン深井」という呼び名が生まれ、尾原さんの「アンラン深井とヤンヤン」という一言で場が和みます。次回は、尾原さん自身という人間について話を聞く予定です。
まとめ
今回の対話では、完成品では差がつきにくい時代に、作り手の思いや試行錯誤といったプロセスが価値になるという考え方が、BTSや楽天、テスラ、Netflixの例とともに語られました。その枠組みを通して、深井さんが本当に目指す歴史データベースの意味も言葉になっていきます。
- 良いものがすぐ真似される時代には、完成品だけでなく作り手のプロセスに希少性が生まれ、そこに人が集まる
- プロセスを愛してもらう条件は、コミットメント、マイクロインタレスト、弱さの自己開示の3つだと尾原さんは整理している
- 深井さんが目指すのは、歴史を属人的に受け取る構造を変える歴史データベースであり、尾原さんはそれをMTPとして言い換えた
- 正解が決まっていない時代には、結果のために我慢するより、Netflixのように途中を楽しみながら進むことが力になる
- 言葉を与えることで、ぼんやり感じていた変化を多くの人が解釈し、議論できるようになる






