無所属の挑戦が民主主義に問いかけるもの──前四條畷市長・東修平氏に聞く政治構造の転換
歴史を面白く学ぶコテンラジオの番外編に、前四條畷市長の東修平氏がゲスト出演しました。無所属で参議院選挙に挑戦した東氏は、政治構造そのものを変えるため、あえて既存の枠組みを使わない道を選びました。政治と国民の情報格差、制度疲労を起こした政党政治、そして地方と国政の関係――構造的問題に切り込む3時間の対話から、民主主義の次の形が見えてきます。その内容をまとめます。
無所属という戦略──バグを起こすことの意味
東氏は無所属で参議院選挙に挑みました。周囲からは「なぜ政党に入らないのか」と繰り返し問われ続けたといいます。しかし東氏にとって、無所属であることは戦略的選択でした。
直ちに僕が入ったから何かを変えるということじゃなくて、意識の変革が起きるってことですよね。これが長い目で見た時に効いてくる。
東氏は「みなし政党公職選挙法において、政党要件を満たさないものの、一定の候補者数を擁立することで政党と同等の扱いを受けられる仕組み。選挙戦を有利に進められるが、同時に既存の政治構造に組み込まれるリスクもある。」を作れば選挙戦を有利に進められることを知っていました。しかし、それでは瞬間的に既得権益側に回ってしまうと考えます。
東氏が狙うのは、「見たことのない現象」を起こすことです。制度を変えるのは3ステップ目であり、最初に必要なのは「バグ」、つまり既存の枠組みでは起こり得なかった事象だといいます。
歴史を振り返れば、制度が先に変わることは稀です。民主主義の歴史でも、民主的制度が整う前に、人々の認知が変わりました。東氏は「認知が変わらない限り行動が変わらない」と指摘します。無所属での挑戦は、個人のメリットはないものの、民主主義を機能させるために極めて論理的な行動だというのです。
情報の非対称性を解消する
東氏が参議院議員として取り組みたいことの一つが、情報の透明化です。国会議員には質問主意書国会議員が内閣に対して提出する文書による質問。内閣は7日以内に答弁書を作成し回答する義務があります。野党議員でも活用でき、行政の内部情報を引き出す強力な手段です。という権限があり、必ず内閣から返答を得られます。これを駆使すれば、行政の内部情報を国民に開示できます。
東氏が市長時代、契約情報を徹底的に調べたところ、不透明な点がいくつも見つかりました。たとえば随意契約競争入札を経ずに特定の業者と契約すること。少額契約や緊急時などに認められますが、透明性が低く、癒着の温床になりやすい側面もあります。の上限を回避するため、契約を分割している事例もあったといいます。
百万以下が随意契約だとしたら、九十九万に分割してるとかね。これって結構気づけないんですよ。
こうした情報は市長が本気で探さないと見つかりません。国レベルではもっと大規模に発生している可能性があります。東氏は、特定の人を責めたいのではなく、構造を変えたいのだといいます。問題を指摘すること自体が目的ではなく、「なぜこれが起きるのか」という問いを国民が持てるようにすることが重要だと考えています。
SNSとプロパガンダ、そして規制の危うさ
SNSが政治に与える影響について、東氏は二つの問題を指摘します。一つは、政党が直接プロパガンダできる体制が整ったこと。もう一つは、アテンションエコノミー人々の注意(アテンション)が希少資源となる経済構造。SNSでは短く刺激的な情報が広がりやすく、実力とは別の基準で評価される傾向があります。によって実力と影響力が乖離することです。
一方で、SNS規制には慎重な姿勢を示します。表現内容に政府の解釈が入る余地を与えることは、独裁制への第一歩だからです。
無法地帯は良くない。名誉毀損の刑罰を重くし、「道端で殴る」のと同じレベルの常識として浸透させるべき。
厳罰化には賛成するが、行政が表現内容を解釈してアカウントを閉じるような規制は極めて危険。
東氏は飲酒運転の厳罰化2006年、福岡市で幼い子ども3人が飲酒運転の車に巻き込まれ死亡した事故を機に、道路交通法が改正されました。厳罰化と取り締まり強化により、飲酒運転は社会的に許されない行為として認知が変わりました。を例に挙げます。かつては田舎で許容されていた飲酒運転も、厳罰化によって倫理が変わりました。同様にネットでも厳罰化は必要だと考えつつも、表現規制そのものには警戒します。
複雑すぎる政治と直接民主制の可能性
深井氏は「政治が複雑すぎて詰んでいる」と指摘します。政治家と国民の間には膨大な情報の非対称性があり、国民は仕事をしながら政治を全てキャッチアップすることは不可能です。イシューは700以上あり、地方の課題も含めれば無限に近い。
情報が多すぎて、イシューも多すぎて。詰んだなって思ってるんですよ。
深井氏は一つの解として直接民主制国民が直接、法律や政策を決定する制度。スイスなど一部の国で採用されています。代議制民主主義では対応しきれない複雑な問題に対し、市民が自分の身近な環境世界から決定していく形が考えられます。を挙げます。自分の環境世界のことを決める延長線上で国政が決まる設計にすれば、情報処理の負荷が下がるかもしれないというのです。
東氏はこれに応じ、議会制度そのものの再設計を提案します。たとえば衆議院を比例代表制政党の得票率に応じて議席を配分する選挙制度。個人ではなく政党に投票するため、少数意見も反映されやすい一方、政党乱立のリスクもあります。のみにして国家的マターに特化させ、参議院は地方代表として身近な問題を扱う。これにより考えるべき情報量を減らせるかもしれません。
衆議院
比例代表制のみ。外交・防衛など国家的マターに特化。少数乱立を避けるため、総理大臣は国民が直接選ぶ(期間限定の大統領制的手法)。
参議院
地方代表として、身近な地域課題を扱う。地域に影響する議論に絞ることで、判断に必要な情報量を減らす。
さらに東氏は、期間限定で総理大臣を直接選ぶ制度を提案します。たとえば5年間だけ大統領制国民が直接、行政のトップを選ぶ制度。アメリカやフランスなどで採用されています。議院内閣制と違い、首相(大統領)は議会の信任に依存せず、強いリーダーシップを発揮できます。を導入し、強制的に元の議院内閣制に戻るようにしておけば、変革を一気に進められるかもしれないというのです。
これぐらいドラスティックなことを考えてる政治家がいない方がやばいよね。
現実には既存政党がこれを通す可能性は低いものの、少数政党が束になれば不可能ではないと東氏は考えています。政治家とは「ルールを疑う存在」であり、ルールに則って仕事する存在ではないはずだと強調します。
地方と国政──中央集権化の逆説
形式上は地方分権が進んだはずの日本ですが、東氏は実態として中央集権化が進んでいると指摘します。理由は政党政治にあります。
政党は成果を宣伝するため、「我が党が実現しました」と言える国政レベルの政策を増やします。本来、給食費や保育料は地域ごとに事情が違うはずなのに、国が一律に決めてしまう。地方の多様性が失われ、脆弱性が高まっていると東氏は警告します。
政党の宣伝戦略
「我が党が実現した」と主張するため、国政レベルの政策を増やす必要がある。
地方の自主性喪失
本来地域ごとに違っていいはずの政策が、全国一律で統一される。税の使い道も国が決める比重が高まる。
脆弱性の増大
地方の多様性が失われ、変化の時代に適応しづらくなる。
東氏は、変化の時代には47都道府県がそれぞれ違う政策を試す方が健全だと考えます。どこかで芽が出る可能性を残すべきで、全国一律は芽を摘む行為だというのです。
一方、地方政治のプレイヤー不足も深刻です。東氏が市長を退任する際、民間転職サイトで後継者を公募したところ、216名の応募がありました。機会があればやってみたいと考える人は一定数いるのです。
四條畷ってさほど有名でもない市で応募者が二百十六名いたんですよ。どこかで機会があればやってみたい人は一定数いる。
しかし公職選挙法選挙運動のルールを定めた法律。解釈の余地が大きく、何がレッドカードか明確でないため、新人には極めて不利な構造になっています。たとえばペットボトルのお茶を「注ぐ」のはOKですが「渡す」と買収になるなど、複雑な運用がされています。が複雑すぎて、新人が挑戦しづらい構造があります。東氏は選挙制度の簡素化が、地方政治を活性化する鍵になると考えています。
まとめ
東氏の無所属での挑戦は、個人的には不利ですが、民主主義を機能させるための論理的な行動です。制度を変える前に、まず「見たことのない現象」を起こすことが必要だと東氏は考えています。
政治と国民の間には膨大な情報格差があります。政治家が持つ情報を国民が知れるようにすること、そして政党政治の構造そのものを変えることが求められています。SNSは新たな課題を生んでいますが、表現規制には慎重であるべきです。
複雑すぎる政治に対し、直接民主制や議会制度の再編など、大胆な発想が必要かもしれません。地方と国政の役割分担を見直し、地方の多様性を取り戻すことも重要です。
樋口氏が指摘したように、この議論を聞くには3時間かかります。政治家の本音を知るには、テレビの短い尺では不可能です。東氏のような声が埋もれない仕組みを作ること、そして国民一人ひとりが考え続けることが、民主主義を機能させる条件なのかもしれません。
- 無所属での挑戦は、政治構造を変えるため「バグ」を起こす戦略的選択
- 情報の非対称性を解消し、国民が知るべきことをオープンにすることが重要
- SNSは政党のプロパガンダを容易にする一方、表現規制は慎重であるべき
- 複雑すぎる政治に対し、直接民主制や議会再編など大胆な発想が求められる
- 地方分権を実質化し、多様な政策実験を可能にすることが変化の時代に適応する鍵
- 政治家は「ルールを疑う存在」であり、構造変革を恐れてはいけない
