首長経験者が見る政治の世界──国政の構造的問題と民主主義の課題
前四條畷市長の東修平氏をゲストに迎え、深井龍之介氏と樋口聖典氏が日本の国政が抱える構造的問題について語り合いました。二院制の形骸化、強者が固定化される仕組み、選挙制度の理念不在──市長経験者だからこそ見える国政の課題と、その解決に向けた東氏の挑戦を掘り下げます。その内容をまとめます。
国政に対する三つの課題認識
東氏は市長経験を通じて、国政の構造的問題を痛感したといいます。人口増加と経済成長を前提に作られた社会保障制度が限界を迎えているのに、抜本的な改革ができず、「枝葉の修正」を重ねて複雑怪奇化しているという現状です。
東氏が挙げる課題は大きく三つあります。一つ目は二院制衆議院と参議院からなる日本の議会制度。本来は役割や権限を分けることで多角的な議論を期待する仕組み。が機能していないこと。二つ目は強者が強者であり続けやすい制度になっていること。三つ目は選挙制度に理念がないこと──これらが組み合わさって、変革を起こせない構造が生まれているといいます。
二院制が機能していない理由
諸外国では、上院(参議院)と下院(衆議院)で役割や権限、選ばれ方を明確に分けるのが一般的です。たとえばイギリスには貴族院イギリス議会の上院。世襲貴族や一代貴族、聖職者などで構成され、下院とは異なる視点から法案を審議する役割を担う。があり、アメリカの上院は州代表として機能しています。
ところが日本の場合、衆議院は小選挙区制、参議院は都道府県単位の選挙区制を採用しているものの、実質的には同じ構造だと東氏は指摘します。参議院も人口の少ない都道府県では「一人区」が大半で、これは小選挙区一つの選挙区から一人だけを選ぶ制度。二大政党制につながりやすく、死に票が多く発生するという特徴がある。と構造的に同じです。その結果、衆参で似た傾向の議員が選ばれやすく、衆議院で可決された法案はそのまま参議院でも通過する「カーボンコピー」現象が起きやすくなっています。
そうかそうか。違う選挙制度のように見えて、構造的に同じような方が選ばれやすくなってる。
強者が強者であり続ける構造
二つ目の課題は、一度権力を握った政党や政治家が強者であり続けやすい構造です。日本には政党法政党の定義や運営ルールを定める法律。日本には存在しないため、政党の内部運営や資金管理は各党の自主規制に委ねられている。がなく、政治団体に相続税がかからないため、親から子へ資金を引き継ぎやすくなっています。また選挙区を変える義務もないため、いわゆる「地盤」を世襲しやすい環境にあります。
さらに政党交付金政党助成法に基づき、国が政党に交付する資金。所属議員数と得票数に応じて配分され、大きな政党ほど多額の交付金を受け取る仕組み。も議員数に比例して配分されるため、大政党ほど潤沢な資金を得られます。その結果、執行権限を持ち、企業団体に影響力を及ぼせる与党に献金が集まり、それがまた選挙の強さにつながる──こうした構造が回り続けることで、変革が起きにくくなっていると東氏は語ります。
自分が考えていることを実現しようってなると、政治家として自民党を選ぶのが合理的になっちゃうんですよね。強いから。
深井氏は、自民党に集まる政治家が必ずしも同じ思想を持っているわけではなく、多様な意見の持ち主が実現手段として自民党を選んでいるのではないかと指摘します。その結果、党内に幅広い意見が共存する一方で、政党としての一貫性が薄れ、有権者には「何を支持しているのかわかりにくい」状況が生まれています。
選挙制度に理念がない
三つ目の課題は、選挙制度に明確な理念がないことです。なぜ小選挙区なのか、なぜ比例代表を併用するのか、なぜ参議院は都道府県単位なのか──こうした問いに胸を張って答えられる人はほとんどいないと東氏は言います。
たとえば北欧諸国では、完全比例代表制得票率に応じて議席を配分する制度。死に票が少なく、少数政党も議席を得やすいが、政権が不安定になりやすいという特徴がある。を採用し、政党の政策に投票する仕組みを徹底しています。イギリスやアメリカは小選挙区制で二大政党制を志向しています。それぞれの国には歴史的背景や政治文化に基づいた選択があるのです。
ところが日本の選挙制度は、諸外国の制度を部分的に取り入れた結果、理念なき「ちゃんぽん」状態になっていると東氏は指摘します。その結果、なし崩し的に「国民政党」と呼ばれる自民党に票が集まりやすい構造ができあがっているといいます。
無所属で参議院に挑む理由
こうした課題認識を踏まえ、東氏は無所属で参議院選挙に挑戦する道を選びました。政党政治を否定しているわけではなく、議会制民主主義には政党が不可欠だと認めた上で、「政党のロジックに寄らない国民の思いや変革を訴えられる存在も必要だ」と語ります。
参議院を選んだ理由は、任期が6年間固定されており、衆議院のように解散がないため、中長期的な課題にじっくり取り組めるからです。また諸外国に比べて参議院の権限が強い日本の制度を逆手に取れば、無所属でも一定の影響力を持てる可能性があると考えています。
深井氏は、東氏が現在「無職」であることに注目します。政治家でない一国民として、これだけ明確な課題意識を持って挑戦する姿勢は貴重だと評価します。日本では立候補者自体が少ないため、こうした挑戦が増えることが民主主義にとって重要だと語りました。
変革をもたらす地域政党の可能性
深井氏が「この構造をどう変えるのか」と問うと、東氏は地域政党の台頭に期待を寄せます。大阪維新の会のような地域政党が各地で立ち上がり、連携することで、既存の国政政党と均衡する勢力になる可能性があるといいます。
重要なのは「倒す」ことではなく「均衡させる」ことだと東氏は強調します。一つの政党が突出して強い状態ではなく、複数の勢力が切磋琢磨する環境こそが、民主主義を機能させるために必要だというわけです。
これは無数のチャレンジが必要で、たくさんの死体の上に成り立ってる。それに挑んでいくしかない。
東氏の言葉には、明治維新を引き合いに出しながら、変革には多くの犠牲が伴うという覚悟がにじみます。しかし、その困難を乗り越えなければ構造は変わらないという強い信念も感じられます。
民主主義教育の不足
深井氏は、国政の構造的問題に加えて、もう一つの課題として「民主主義教育の不足」を挙げます。国民、地方議員、さらには国会議員の一部でさえ、民主主義の本質を理解していないのではないかと疑問を呈します。
東氏はこれに同意し、自身の経験を振り返ります。小学校時代、クラス委員選挙で「やりたい」と手を挙げた子どもたちが、結局自分に投票していなかったという事実に気づき、「この思いを背負って学級委員をやろう」と決意した体験が、民主主義の本質を学ぶ貴重な機会だったと語ります。
一方で中学校の生徒会選挙では、先生が「どちらか降りるように」と説得し続け、結局選挙が行われなかったといいます。この対照的な経験から、日本の教育現場では「誰かが傷つくことを避ける」ことが優先され、民主主義の実践機会が失われていると指摘します。
深井氏は、投票に行かないことの長期的影響を、教育の中で「経験的に」理解させるべきだと主張します。たとえば、わざと投票しないクラスと投票するクラスを比較し、結果の違いを実感させるといった取り組みが必要だといいます。
本当は小学校とか中学校でめちゃくちゃやるとかやらないといけないんだろうなっていうのはすごい感じて。
疑問を抱きづらい制度設計
東氏は、日本の税制や社会保障制度が「疑問を抱きづらい」設計になっていると指摘します。たとえば源泉徴収制度給与から税金や社会保険料を天引きし、雇用主が代わりに納付する制度。納税者は手取り額しか見ないため、税負担の実感が薄れるという特徴がある。は、戦時中に効率よく税収を上げるために導入された仕組みで、行政効率の面では優秀ですが、民主主義の観点では問題があるといいます。
会社が税金や社会保険料を天引きしてくれるため、多くの人は「手取りがいくらか」しか意識しません。そのため、どれだけの税金を払っているのか、社会保障制度がどう設計されているのかを考える機会が失われているというのです。
本来個人が確定申告すべきなんですが、そこで初めて、こんな税がかかってて、これはおかしい、変えなきゃみたいな意見を持ちやすい。
さらに東氏は、国民年金の受給額が全国一律であることや、医療保険料が地域の医療環境に関係なく同じであることにも疑問を呈します。都市部と地方では生活コストや医療アクセスが大きく異なるのに、制度がそれを反映していないというのです。こうした矛盾に気づきにくい環境が、構造的問題を温存する一因になっていると語ります。
まとめ
今回の対談では、日本の国政が抱える構造的問題が浮き彫りになりました。二院制の形骸化、強者の固定化、選挙制度の理念不在──これらが組み合わさって、変革を起こしにくい環境が生まれています。
東氏は、こうした課題に対する解の一つとして、無所属で参議院に挑戦する道を選びました。また、地域政党の台頭や民主主義教育の充実が、長期的な変革につながると信じています。
深井氏は、民主主義の本質を理解し、疑問を持つ力を養うことの重要性を強調します。制度の問題だけでなく、国民一人ひとりの意識が変わらなければ、真の変革は起きないというわけです。
話の最後、深井氏が「仮に当選したらどうするんですか?」と問いかけたところで次回へ続きます。一国民として課題意識を持ち、無所属で挑戦する東氏が、当選後にどう行動するのか──その具体的なビジョンが次回明かされます。
- 日本の二院制は構造的に似た議員が選ばれやすく、衆参で「カーボンコピー」が起きている
- 強者が強者であり続けやすい制度により、権力が固定化し変革が起きにくい
- 選挙制度に明確な理念がなく、なし崩し的に一党優位の構造ができている
- 地域政党の台頭と連携が、既存政党と均衡し民主主義を機能させる鍵になる
- 民主主義教育の不足と、疑問を抱きづらい制度設計が、構造的問題を温存している
