年寄りが敬われるのは「ストック型社会」だから?
コテンラジオ番外編の後編は、ゲストの若新雄純さんが前回を振り返るところから始まります。若新さんは、前回の「自己認識は自由であっていい」という話を聞いて、すっかり明るい気持ちになったと話します。
若新さんによれば、時間が経てば誰でも年数は重なっていきます。そこで、美容クリニックでのアンチエイジングと並行して「自分は若い」と勝手に捉えれば最強になれるのではないか、と冗談めかして語りました。
もう一つ若新さんが引っかかったのが、事前に聞いた「お年寄りが敬われる傾向にある社会はストック型社会である」という話です。若新さんは、ストック型社会が絶対ではないという点こそコテンラジオらしいと感じ、後編ではフロー型社会とは何かを学びたいと切り出します。
樋口さんは、ストック型社会を「年齢を重ねるとともに価値が溜まっていく社会」と整理します。若新さんは、社会階級や富が蓄積し、社会の分業が複雑になると、たいていストック型になると補足しました。
一方のフロー型社会の例として挙がったのが狩猟採集社会です。若新さんは、獲った鹿は何年も貯めておけず、その瞬間に分けるしかないと説明し、毎日ゼロからスタートするのがフロー型だと語ります。
富や階級、影響力が蓄積・継承される。農耕社会以降に広がり、年長者が敬われやすい
獲物などを貯められず、その日の体力や冴えで成果が決まる。狩猟採集社会が例
では、インターネットで若者が瞬発的に稼げる現代はフロー型なのか。若新さんは、お金は時間が経っても価値が残り、政治や経済界で上り詰めることもできるため、あくまで「ストック型の中のフロー的振る舞い」だと見ています。
まああとあれか、Twitterのフォロワー数とかももうあれか。
樋口さんのこの指摘に若新さんも同意し、フォロワー数という影響力も積み重なるストックだという話になりました。
クラブハウスはなぜフロー型になれなかったのか
ストックとフローの話から、若新さんは一時期日本で流行したクラブハウス ── 2021年ごろに日本で急速に広まった音声SNS。ルームに入って、その場限りのリアルタイムの会話を聞いたり参加したりできるのが特徴でしたを思い出します。テーマごとに自由に集まれる場でしたが、若新さんはフォロワー数が表示される点に最初から違和感があったそうです。
若新さんにとってクラブハウスは、その日たまたま出会った人の話が面白くて盛り上がる、瞬間的に流れていく場のはずでした。ところが実際には「相互フォローの部屋」まで生まれ、フォロー返しを求め合う動きが出てきたといいます。
話の途中で若新さんは突然言葉に詰まり、「別のところでもストックとフローの話をしていた」とデジャブのような感覚を口にします。樋口さんは「今ストックじゃなくてストップしてますよ」とツッコミを入れ、スタジオは笑いに包まれました。
気を取り直した若新さんは、クラブハウスで結局フォロワーの多い人が強くなり、刹那的なやりとりが楽しめなくなって嫌になったと振り返ります。すぐ消えるタイプのSNSは他にもスナップチャットなど色々出てきたものの、日本ではあまり流行らなかった印象があるそうです。
クラブハウスでは、いい話が盛り上がってもログが残らないことが惜しまれていた、と若新さんは思い出します。そこから「結局、人はストックされたいのか」「進歩的な社会はストックの社会なのか」と深井さんに問いかけました。
ストック社会を壊すのは戦争、そして転生ものの流行
深井さんは「進歩的」という言い方は避けつつ、ストック型社会を、階級が複雑で、富が蓄積でき、階級が継承できる社会と説明します。若新さんは、株式会社もまさにそうだと応じました。
深井さんによれば、歴史上ストック型社会は固定化しすぎると破壊されることがあり、それを最も大きく壊すのが戦争です。直近では世界大戦で金持ちが一気に貧乏になり、明治維新やフランス革命のような革命でも同じことが起きたといいます。
多分そのストック、どんがらがっしゃんが終わった後にある一定の勢力圏が築かれるまでの間とかが多分平和なんですよね。
深井さんは、固定化されるところまでは平和でも、固定化が長引くと不満がたまっていくと続けます。そして、それをわかりやすく示しているのが今の日本だと指摘しました。
破壊
戦争や革命で蓄積された富や階級がリセットされる
再蓄積
ゼロからストックが積み上がり、勢力圏が築かれる過程は比較的平和
固定化
ストックが固定されたまま長期化する
不満の蓄積
頑張っても報われない感覚が広がり、破壊を望む心理が生まれる
深井さんがその兆候として挙げるのが、転生ものの流行です。若新さんが親ガチャ ── 親の経済力や環境で子どもの人生が左右されることを、ランダムに景品が出るガチャになぞらえた言葉。2021年ごろから広く使われるようになりましたも同じ話だと重ねると、深井さんもうなずきます。
あれ(転生もの)死なないといけないわけでしょ。死なないといけないってことは、この社会がめちゃくちゃ固定的だとみんなが思ってるってことですよ。
深井さんは、40〜50年前なら、自分が頑張れば人生をなんとかできるかもしれないという感覚があったはずだと話します。転生ものは、固定化したストック社会で生きづらさを抱える人たちの「破壊行為」だという見立てです。
若新さんは、ストックは便利な一方、長期化すると格差や報われなさといった制度疲労を生むと整理しました。深井さんは、本当は頑張れば向かえる社会なのに、ほとんどの人がそう思えないバランスになっていることが問題だと付け加えます。
耐える日本と、スマホが加速させた社会の変動
若新さんは、日本は100年ちょっと前までほとんどが農民で、特に雪の降る日本海側では備蓄が欠かせなかったと話します。日本の農業スタイルは完全にストック型で、どれだけ蓄積できるかで立場が決まっていったという見方です。
深井さんは、日本は人為的な変動が少ない社会なので、うまくやるより「何かが起きたときにどれだけ耐えられるか」という発想が強いと応じます。手元にあるメットライフ生命の調査で、将来やお金への不安が大きいことも、日本人的な特徴なのだろうと語りました。
ただし深井さんは、これからの社会の変動は半端ではないと見ています。その分水嶺として深井さんが挙げたのが、スマートフォンの発明です。
コミュニケーション技術が新しくなると、世界の回転するスピードが速くなるっていうのが過去必ず起こってるんですよ。
深井さんは、文字、紙、活版印刷の発明でも変動のスピードは速くなったと説明します。10年ほど前にスマートフォンが登場し、誰もが簡単にインターネットにつながれるようになってからの変化は「めっちゃ早い」と強調しました。
若新さんは、社会が良くなったかどうかは歴史が評価することだとしたうえで、変化のスピードが速いことは観察できると受け止めます。深井さんは、そのスピードの中で100歳の自分を想像しても当たらないだろうと話し、樋口さんは「怖いですよね」と応じました。
何を貯めればいいかわからない時代に、趣味と思い出を
未来が予想できないなら、何を蓄積しておけばいいのか。若新さんは、蓄積の魅力は変わらなさそうだとしつつ、「老後2000万」も現時点で想像できる貯めておくべきものの一つに過ぎないと指摘します。
樋口さんは、お金だけでなく信用を貯めてクラウドファンディングで引き出すことや、人に親切にしておくと万一のときに助けてもらえることを例に挙げます。いろいろな場面を想定して、ポートフォリオを組んでおくのが現実的かもしれないという考えです。
この話で、若新さんはようやく先ほどのデジャブの正体を思い出します。仕事のほとんどはストック型だが、アートや表現活動はフロー的だという話をどこかで聞いていたものの、作品が流通し売上になるなら、アートも結局ストックだと感じていたそうです。
そこで若新さんが提案したのが、将来に備えるポートフォリオの一つとしての「趣味」です。深井さんは即座に「めっちゃいいと思う」と賛同しました。
若新さんは、クラブハウスは趣味を語るには最高だったと振り返ります。好きだった特撮『機動刑事ジバン』の話は身の回りでは誰にも通じないものの、クラブハウスで呼びかければ世界中から数人は集まるかもしれない、そういう場だったといいます。
前回若新さんが言ってたのは遊び心みたいな話してたじゃないですか。なんかあれが足んないんだと思うんだよね、今全般的に。
いや、なんかストック万歳みたいなあれがあって、ストックしないともったいないみたいな感じがあるんですよね。
若新さんは、遊びや趣味の経験はその瞬間に消費されてよいはずだと話します。樋口さんが釣りのキャッチアンドリリースを例に出すと、若新さんは、備蓄できなければ価値がないと思っている人には、魚を放す意味がわからないのだと応じました。
若新さんにとってのカラオケも同じです。デビューするわけでも披露するわけでもなく、その瞬間が気持ちよくて楽しい。海外旅行のような体験もフロー的なものだといいます。
若新さんは、メットライフ生命の同シリーズで宇宙飛行士の野口さんと対談した際、「人生が良かったと保証してくれるのは過去の思い出だけ」という話になったことを紹介します。思い出はその瞬間はフローでも、他人には否定されない新しい形のストックになるのかもしれない、という気づきです。
社会に規定されるストックか、「マイストック」か
若新さんは、今の社会でチヤホヤされる老人になるには、お金や地位といった社会的なストックが必要だと話します。地元・福井の「大老害」になるのがキャリアビジョンだと半分冗談で語りつつ、それは社会に規定されたもので、失えば終わりだと指摘しました。
一方で、社会のどこにも残っていなくても、自分の頭の中に確かな思い出がストックされていれば、人生は良かったと思えるかもしれない、と若新さんは続けます。本当は海外旅行に行きたかったのに行かなかった人と、行きたいときに行った人とでは、自分がどんな人間かという認知も変わるといいます。
若新さんはさらに、昔を思い出すときも今の認識で見ているのではないかと話します。大変だった10年前も、今ポジティブに見れば「いい経験だった」になり、ネガティブに見れば「二度と経験したくない」になる。起きた事実は変わらなくても、認識は今決まっているという考えです。
そこで出てきたのが、社会的なストックとは別に、自分にとっての「マイストック」を自由に積み上げるという発想です。5年後に価値が残るかわからないものではなく、普段はフローに見えても思い出として残るものを積み上げた人は、社会が激変しても裏切られた感覚を持たず、満足して死ねるのではないかと語られました。
お金や地位、実績など他人にも意味があるもの。社会に規定され、失えば終わりで、社会の変化で価値が変わりうる
趣味や旅行、思い出など自分にしか意味がないもの。その瞬間はフローでも記憶に残り、裏切らない
対談ではさらに、今の時代は「自由に生きていこう」という話がある一方、会社では「課長だから敬え」のように社会から決められることも多く、どうしても社会側に引っ張られるという話になります。そして、社会側に引っ張られてはいけない、自分側で決めたほうがいいという強い言葉も出ました。
どうせ社会変わるから、しかも。
ね。社会が変わったら、今社会的に価値があるとされているストックは本当に役立たない可能性があるってことですよね。
深井さんは、社会に頑張って合わせても、10年後には社会が全然違うものを大事にしていて「あのとき合わせたのは何だったのか」となる、と続けました。
「自分で決める」時代を生んだ人権の広がり
樋口さんは、社会が決めたことに人間がはまるほうがうまくいった時代もあったと補足し、深井さんも「ほとんどがそう」と認めます。では、なぜ今は自分で決めたほうがいいのか。樋口さんが「激動の時代だから」と考えたのに対し、深井さんの答えは違いました。
深井さんによれば、約200年前にフランス革命やアメリカ独立宣言で人権の考え方が出てきたものの、当初は世界に全然浸透しませんでした。それが200年かけて少しずつ広がってきたといいます。
深井さんは、かつて人権は男性のインテリが自分たちで考えていたものだったと話します。それを今はみんなが自分ごととして考え、自由に生きていいと思い始めていることが、60年前や100年前との大きな違いだといいます。
だから女性だからといって家に入らなくていいんだとか思い始めてるから。でも20年前思ってなかったわけじゃないですか。
ただし深井さんは、社会は「決めていい」とも言いながら、非言語で「決めるな」とも言ってくると指摘します。そこを頑張らないといけないのが今の時代だという見方です。
若新さんは、インターネットで情報が速くなったことで、「もっと自由であるべき」「猫や犬も尊重するべき」という感覚だけが先に走り、社会の実態は遅れていると整理します。深井さんは、世界で最も進んだ人権の議論がSNSですぐ届くため、感覚だけが先に来てしまうと応じました。
深井さんは、同性と結婚できない日本の結婚制度への疑問もその一例として挙げます。ポリアモリー ── 関係者全員の合意のもとで、同時に複数の相手と恋愛関係を持つ考え方や生き方を指す言葉という概念も出てきた今、結婚制度が1対1でなくなる可能性すらあると見ており、民主主義の制度は意識の変化に追いつかないと語ります。
ずっとビハインドする社会制度の中で生きていくという、ある意味すげえ時代生きてんだよな、我々。
樋口さんが「これは個人がどうにかするしかない」と言うと、深井さんは、ある程度社会を無視して自由にやる人はすでにいて、自分たちもそうだし、それは結構楽しいと答えました。
社会ではなく自己認識をハックする
樋口さんは、小さな単位で動く人が増えていくと見ています。例として挙げたのが、コテンの歴史データベース事業です。本来は国がやってもおかしくない公共的な事業ですが、民主主義の中でみんなを納得させてお金を集めるのは難しく、民間でやるしかないと考える人が出てくるといいます。
樋口さんは、コテンが株式会社という仕組みを使いながら、お金の集め方を一般的な営利企業とは少し違う形にしていることを「ハック」と表現します。若新さんはそれを「0.7歩先ぐらいの感じ」と言い表しました。
このハックという言葉を受けて、若新さんは今回はっきりわかったことがあると話します。僕らがハックできるのは社会ではなく、究極的には自己認識であり、自分の中のストックだということです。
若新さんによれば、社会の制度をハックして変えようとしても、時代の変化は速すぎ、個人でできることにも限界があります。老いについても、社会的な文脈での老後や老人をハックするのではなく、自分が老いることへの感覚をハックすることが大切だという考えです。
深井さんは、ここ10年ほど「ハック」がライフハックのように「うまくやる」文脈で使われてきたことを「ナンセンス」と語ります。うまく生きることやキャリアをうまく積むことより、自己認知の側にアプローチしないといけないという主張です。
若新さんは、人生の豊かさや幸福は自作自演できるものだと考えています。他人に認められて実績が追いついて初めて意味があると思い込むと時間がかかり、社会や他人の評価は当てにならないからです。
そこで若新さんが提案したのが、社会的な安心の老後ではなく、自己満足して死ぬという考え方です。人生に自己満足するにはどれくらいのお金が必要か、何があるといいかを考え、お金はそのための活動資金として位置づければいいといいます。
なんかこう、幸せのためのお金なのであって、人生の目標が別にストックをすることではないですもんね。
深井さんは、本質的なストックを考える過程でお金の話も必ず出てくるので、それをメットライフ生命の企画の中で考えられたら面白いと話します。最後に樋口さんが人生のテーマを「太ったから痩せる」と答えると、深井さんは「逆ストック」「ストックの手放し」だと笑って応じ、対談は締めくくられました。
告知では、若新さんと深井さんの対談記事がメットライフ生命の特集企画「もしも若新が100まで生きるなら」に掲載されていること、若新さんのポッドキャスト『若新雄純のあたらしい経営?』が配信されていることが紹介されました。
まとめ
後編では、高齢者が敬われる背景にある「ストック型社会」を出発点に、変化の激しい時代の年の重ね方が語られました。社会が決めるストックに合わせるより、趣味や思い出といった自分だけのストックを積み上げ、自己認識をハックすることが、老いと向き合う鍵として示されています。
- 年長者が敬われるのは、富や階級、影響力が蓄積・継承されるストック型社会だから
- ストックの固定化が長引くと不満がたまり、深井さんは転生ものや親ガチャの流行をその兆候と見ている
- スマホ以降の変化は速く、今価値があるとされるストックが将来も役立つとは限らない
- 趣味や思い出のような、フローに見えても自分の中に残る「マイストック」は裏切らない
- 人権の感覚が広がった今、社会ではなく自己認識をハックし、自己満足して生きることが提案された


