「好き」が経済を動かす時代へ──丸井グループ青井浩社長が語る、応援投資とCOTENカードの可能性
歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)の番外編に、丸井グループ代表取締役社長の青井浩さんがゲスト出演。COTENとのクレジットカード共同発行を機に、「好きが駆動する経済」「応援投資」という新しい価値観について語りました。慶應義塾大学文学部フランス文学科卒業という異色の経歴を持つ青井社長が、人文知をビジネスにどう活かしてきたのか。その内容をまとめます。
丸井グループとCOTENの出会い
丸井グループといえば、都会に建つ「0I0I(マルイ)」の看板でおなじみの百貨店です。青井浩社長は1961年東京都生まれ、慶應義塾大学文学部フランス文学科卒業後、1986年に丸井(現・丸井グループ)に入社。2005年から代表取締役社長を務めています。
COTENと丸井グループの縁は、2023年にCOTENが実施した資金調達から始まりました。深井龍之介さんは振り返ります。
青井さんとは2023年の資金調達で出資していただいて以来、出雲にご一緒したり、龍玄さんのところにも一緒に行かせていただいたりと、ずっと連携させていただいてきました。
さらに2024年からは、深井さんが丸井グループのリベラルアーツ的なアドバイザーにも就任。単なる出資先という関係を超えて、思想的な共鳴が深まっていったようです。
COTENカード誕生──ヘラルボニーの成功モデル
今回の協業の第一弾として、COTENのロゴが入ったエポスカード「COTENカード」が発行されることになりました。番組内では紙のプロトタイプが紹介され、COTENのキャラクター「PUI(プイ)」がデザインされた券面と、クルーが描いた切り絵調のデザイン券面の2種類があることが明かされました。
この取り組みのモデルとなったのが、障害のあるアーティストの作品をアートとして発信するヘラルボニー福祉を起点に新たな文化を創ることを目指す企業。障害のあるアーティストの作品をファッションやプロダクトに展開し、アートとビジネスの新しい関係を提示しています。とのコラボレーションカードです。
ヘラルボニーさんの作家さんの絵が券面に印刷できて、さらにカードを使うと作家さんに一部のポイントが還元される。入会時に1,000円、利用時に0.1%ほどが作家さんに直接届く仕組みです。
このヘラルボニーカードは、従来のクレジットカードの価値観を覆す反応を引き起こしました。青井社長が語るには、これまでクレジットカードの訴求ポイントは「どれだけ還元してくれるか」「ゴールド・プラチナといったステータス」の2つが中心でした。
しかしヘラルボニーカードでは、「私がどれだけ寄付できるか」という**利他的な動機**が支持されたのです。現在3〜4万人の会員が利用しており、カードを持つことが「自分がどういう人間か」を表現する手段になっているといいます。
ステータス重視:ゴールド・プラチナなど「自分の価値を高く見せる」
経済合理性:ポイント還元率「自分がどれだけ得できるか」
アイデンティティ表現:好きなものを通じて「自分がどんな人間か」を示す
応援・寄付:「相手にどれだけ貢献できるか」という利他的動機
「推し」から「好き」へ──言葉の選択に込めた思想
番組内では、「推し活」ではなく「好き」という言葉を選んでいる理由が語られました。樋口聖典さんが気づいたように、「推し」という言葉には「誰かに対して推薦する」というニュアンスがあり、対象が比較的限定されます。
推しがいる人は盛り上がるんですが、2人に1人は「私、推しがいないんです」と引け目を感じる。でも、家で飼っている犬や猫が大好き、電車が好き、山が好き、お城が好き──そういう好きもある。十人いれば十人の好きがあるんです。
深井さんも「推しは孤独を突破する」という樋口さんの表現に共感しつつ、「好き」の方が包摂的だと語ります。推し活が「濃い好き」だとすれば、「好き」はもっと広く、誰もが持っている感情です。
この「好き」という言葉の選択には、より多くの人を巻き込みたいという戦略的な意図があります。意識の高い1割の人だけでなく、残り9割の人にも届く言葉として、「好き」を選んでいるのです。
好きが駆動する経済とは何か
青井社長は、従来の経済が「お金、資源、労働力、データ」といった要素で駆動してきたのに対し、これからの成熟社会では**「好き」という感情**が経済を動かす可能性があると語ります。
物質的な豊かさが満たされた国では、効率性や経済合理性だけでは解決できない課題がある。環境問題、格差──こうした課題に、「好き」という衝動を入れると、ビジネスが踏み込めなかった領域にもアプローチできるんじゃないか。
深井さんはこれを「やる気」という言葉で補足します。全リソースの中で最も希少なのは「やる気」であり、お金では買えない。好きという感情こそが、そのやる気の源泉になるというわけです。
さらに青井社長は、「好き」を原動力にすることで、意識の高い1割だけでなく、残り9割の人にも社会課題解決に参加してもらえると語ります。
社会課題を前面に
「環境問題を解決しよう」「格差をなくそう」
→ 意識が高い1割の人しか動かない
好きを入り口に
「好きなアーティストを応援」「好きな番組を応援」
→ 気づいたら社会課題解決に貢献していた
応援投資という新しい概念
青井社長が語るもう一つのキーワードが「応援投資」です。マラソンのエピソードを引きながら、見ず知らずの人を応援したいという気持ちが誰にでもあると語ります。
マラソンで沿道の子どもやおばあちゃんが応援してくれる。誰から頼まれたわけでもないのに。その応援の気持ちの受け皿をデザインできれば、経済活動にもっと潤いが生まれるんじゃないか。
深井さんはこれを「贈与」という言葉で捉え直します。欧米的な寄付が「過去やるべきだったことを今やる(バックデート)」であるのに対し、日本的な贈与は「まだ何もテイクしていないのに、未来にギブする」というニュアンスがあるといいます。
COTENカードも、まさにこの「贈与」「応援投資」の思想を体現しています。カードを使うことで、利用額の一部がCOTENに還元され、人文知と社会の架け橋という活動を支援できる。深井さんの言葉を借りれば、「自分が持っている余剰のリソースを、この人たちに託したら世界がもっと良くなる」という感覚です。
さらに青井社長は、COTENカードの独自性として「日常の支払い全体が応援になる」点を挙げます。家賃、光熱費、食事──あらゆる支払いをCOTENカードで行えば、その一部がCOTENに還元される。「ご飯を食べている時にこれで払ったらCOTENを奢っていることになる」という深井さんの言葉に、樋口さんも「確かに幸せになれるかも」と共感しました。
フランス文学科出身社長の挑戦
番組の終盤では、青井社長の経歴にも話が及びました。東証プライム上場企業の社長の中で、フランス文学科出身は「おそらく自分一人」だという青井社長。深井さんと樋口さんは、文学部出身であることへの共感を隠しません。
文学部の中にも文学部中の文学部っていうのがあるんですよ。文学専攻の方々。僕たちは社会学や比較宗教で、もう少し周縁なんです。でもフランス文学は仏文──メインストリームですよ。
青井社長は、社長就任後まもなく会社が経営危機に陥り、7年間にわたって修羅場をくぐり抜けたと振り返ります。その際、自分が最も深く取り組んでいた文学や人文知が「意外と役に立った」といいます。
ビジネスの中でリベラルアーツが役に立つということを、もっと他の人にも伝えていきたい。自分が助けてもらった人文知に恩返ししていきたいという思いがありました。
COTENラジオを聴いて「社会と人文知の懸け橋」というミッションに共感し、出資を決めたという青井社長。深井さんは「人文知を好きでいてくれる大きい会社の経営者がいることがめちゃくちゃ嬉しい」と語り、「文学部に入ってよかった」という樋口さんの言葉に、3人で笑い合いました。
番組は次回も継続され、青井社長がどのように人文知をビジネスに活かしたのか、具体的なエピソードが語られる予定です。
まとめ
丸井グループ青井浩社長との対談は、クレジットカードという身近なツールを通じて、経済のあり方そのものを問い直す内容でした。「好きが駆動する経済」「応援投資」という言葉に込められたのは、効率や損得だけでない、人間らしい経済活動への希望です。
COTENカードは、利用者が日常の支払いを通じて「人文知と社会の架け橋」という理念を応援できる仕組みです。ヘラルボニーカードの成功モデルを踏まえ、好きという感情を入り口に、より多くの人が社会課題解決に参加できる回路を作ろうとしています。
フランス文学科という異色の経歴を持つ青井社長が、経営危機の中で人文知に救われた経験。その恩返しとして、人文知の価値を社会に広めたいという思い。そしてCOTENの「人文知と社会の架け橋」というミッションへの共感。これらが重なり合い、今回の協業が実現しました。
次回はさらに、青井社長がどのように人文知をビジネスで活用してきたのか、具体的なエピソードが語られます。「文学部はビジネスで使えない」という先入観を覆す、貴重な証言になりそうです。
- COTENと丸井グループが共同でクレジットカードを発行。利用額の一部がCOTENに還元される仕組み
- ヘラルボニーカードで成功した「好きを応援する」モデルを踏襲。カードを持つことが自己表現の手段に
- 「推し」ではなく「好き」という言葉を選び、より多くの人が参加できる設計に
- 青井社長が提唱する「好きが駆動する経済」「応援投資」──経済合理性を超えた価値の創造
- フランス文学科出身の青井社長が、経営危機で人文知に救われた経験から、人文知の社会実装を目指す
