なぜ青柳さんは2年ぶりに呼ばれたのか
今回の番外編のゲストは、樋口さんが経営する株式会社BOOKの社員で、樋口さんの右腕とされる青柳考哉さんです。青柳さんは2年前、コテンラジオの初ゲストとして出演しています。
収録は、織田信長編などを10時間ほど話した直後に行われました。疲れ切った状態の青柳さんに対し、深井さんは「青柳さんの話がこの世で一番面白いと思っている」と言い、改めての出演を頼んだ形です。
青柳さんのヤンキーの話は、田川の拠点「いいかねパレット」を訪れるリスナーの間ですでに有名になっています。リスナーが「青柳さんのヤンキーの話を聞きに来ました」と鼻息荒くやって来るため、青柳さんは「僕は素人で芸人じゃない」とハードルの上がりぶりに困っていると話します。
樋口さんは、パレットの事務所で初めて青柳さんの話を聞いたときのことを振り返ります。
やばい、えっ、こんな笑ったんだっていうぐらい俺呼吸できなかったもん。肺が痛かったもん。
深井さんは、キャスター付きの椅子ごと転げ回り、向こうのデスクにぶつかるほど笑っていたそうです。リスナーが10万人以上いる場で披露することになり、青柳さんは「ドSがすごい」とぼやきつつ、何度も話してきた話を始めます。
緊急事態宣言の夜、ミニストップで何が飛んできたのか
最初の話の舞台は、コロナ禍で最初の緊急事態宣言が出ていた時期の田川です。どこの飲食店も閉まっている中、青柳さんは後輩のリュウちゃん、ささやんと一緒に、パレットでの仕事のあとに飲みに行こうと考えました。
青柳さんの読みは、田川の人間はモラルが欠けているので、どこかで必ず「闇営業」をしている店があるはずだ、というものでした。向かったのは、田川一番の繁華街にある飲み屋街です。
飲み屋街の近くには、土日になると30台ほどの車が止まる広いミニストップがあります。店内の客は2人ほどしかおらず、実質的に飲み屋街の駐車場として使われているのに、店側も何も言わないといいます。
ところがその夜、いつもは20〜30台止まっている駐車場に、車がほとんどありませんでした。青柳さんたちは、さすがにヤンキーもいないだろうと思いながら車を降ります。
すると向こうから、若いヤンキーが5人から7人ほど歩いてきました。お互い久しぶりに人に会った状況で、そのうちの1人がいきなり帽子を地面に投げつけ、「おーい」と威嚇してきたそうです。
このときは、仲間のヤンキーが「調子乗んなよ」とその若者をたしなめ、帽子を投げた若者は「あ、わりっ」と言って去っていきました。
青柳さんたちは商店街に入り、夜中まで開いているネパール人のカレー店や、たこ焼き店、スナックを見て回ります。端から端まで100メートルほどの飲み屋街を歩いても、本当に1軒も開いていませんでした。
諦めて戻ろうとしたところ、さっき帽子を投げたヤンキーたちが再び向こうから近づいてきます。距離が3メートルほどになったとき、若者はポケットを探り、100円ライターを地面に投げつけました。
100円ライターは割れて、銃声のような音とともに火花を散らしたといいます。帽子はもう一度投げているので、帽子程度ではもうビビらないだろうと考えたのでは、というのが青柳さんの見立てです。
闇営業を期待
緊急事態宣言下でも開いている店があるはずだと飲み屋街へ
1回目の威嚇
若いヤンキーが帽子を地面に投げつけ、仲間にたしなめられる
店探し
商店街を端から端まで歩くが1軒も開いていない
2回目の威嚇
再会したヤンキーが100円ライターを投げつけ、破裂させる
ヤンキーの行動に「ロジック」はあるのか
話を初めて聞いた出演者は、人に物を投げてビビらせるのは田川のヤンキーの習性なのか、と青柳さんに尋ねます。
青柳さんによれば、パレットを訪れるコテンラジオのリスナーからも、同じような質問をよく受けるそうです。リスナーは「どのような背景で、そういうロジカルな行動に出るのか」と聞いてくるといいます。
青柳さんの答えは、そういうものではない、というものです。目の前に人がいる、だから威嚇するという非常にシンプルな構成で、青柳さんはこれを冗談まじりに「これがリベラルアーツです」と説明してきたと話します。
青柳さんをさらに驚かせたのは、1回目の帽子では仲間が怒ったのに、銃声のような音がした2回目のライターでは誰も怒らなかったことでした。青柳さんは当時、二度とこの街には行かないと思うほど怖かったと振り返ります。
正月のスナックで森俊くんは何をしたのか
2つ目の話は、ある年の正月、青柳さんが兄や友人たちと田川の飲み屋街に繰り出したときの出来事です。正月の飲み屋街にはヤンキーがたくさん出るそうで、青柳さんは一度「歌舞伎町か」と言いかけ、すぐに「夜10時ぐらいの博多駅程度」と言い直しています。
最初に入ろうとした2階のスナックは満席でした。そこに青柳さんの兄の同級生、森俊森俊くんがいて、仕事関係の人と飲んでいても面白くないと言い、青柳さんたちに合流します。
一行が下の階のスナックで飲んでいると、店の入り口の外で大きな音と怒鳴り声が聞こえ始めました。若者たちが店の前で喧嘩をしていたのです。
スナックのママは、正月は若い子が暴れ回るから外に出ないほうがいい、と言って店の鍵を閉めさせます。青柳さんは、営業中の店が鍵を閉めるのはむちゃくちゃだと思いながらも従いました。
昔からやんちゃだった森俊くんは、外の騒ぎに「あ?」と反応します。青柳さんたちは、知らない人たちの喧嘩だから放っておこうと何度も念を押し、森俊くんも「分かっちょる、もう出らん」と答えました。
ところが、青柳さんがトイレに行っている間に店のドアが開く音がして、森俊くんが外へ出て行ってしまいます。追いかけると、外では10人近くが1人を囲んでおり、森俊くんはその中の1人の髪をつかみ上げて「あ?」と凄んでいました。
青柳さんたちが謝ると、相手から「こいつは喧嘩を止めよったやつぞ」と言われます。森俊くんが髪をつかんだのは、喧嘩を仲裁していた人だったのです。
喧嘩している側と止めている側の区別がつかないまま、目の前の1人の髪をつかんで凄んだ
髪をつかまれたのは仲裁役で、殴られていた側も「この人は止めてくれていた」と訴えた
結果として、その場で一番悪い人は森俊くんになり、青柳さんたちは謝りながら森俊くんを店に引きずり込んで鍵を閉めました。青柳さんはこの出来事を、単純すぎてかえって複雑になる、と表現しています。
樋口さんは、話の中の森俊くんが「こいつらと飲みよっても面白くねえ」以外、ほとんど「あ?」しか言っていないことに注目し、非言語で生きている、と感心します。青柳さんは、この2つの出来事が自分の中で田川を象徴する出来事だったと話しています。
ヤンキーには「数の原理」がある?
青柳さんは、こうした出来事はしょっちゅうではないものの、田川に戻ってパレットを始めてからの5年ほどで5、6回はあったと言います。一方の樋口さんは、自分は遭遇していないと答えます。
(ヤンキーに遭ったことは)いいかなパレット始めてからはないですね。
青柳さんは学生時代、福岡の繁華街へ出るときは靴下の中に1万円を隠していたそうです。カツアゲで財布を取られ、ポケットの小銭はジャンプさせられて見つかるからで、実際に親に迎えに来てもらったこともあると話します。
話題は、アラブの民族衣装で田川を訪れた鷹鳥屋 ── 鷹鳥屋明さん。アラブの装束で活動する中東研究者・中東ビジネスの専門家で、コテンラジオにもゲスト出演していますさんが、駅で暴走族の隣に立っていたというエピソードに移ります。青柳さんは、鷹鳥屋さんの姿は暴走族の想定を超えていて、絡んではいけないと感じたのではないかと推測します。
青柳さんによると、ヤンキーには人数によって態度が変わる「数の原理」があるそうです。
| 人数 | 行動 | 補足 |
|---|---|---|
| 1人 | 基本的に絡んでこない | 1人で絡んでくるのは本当に危ない人 |
| 3人 | いきなり大きい声を出す | こちらをビクッとさせて反応を見る |
| 5人 | 声かけが始まる | 「どっから来た?」など |
| 10人 | 3人ほどが先陣で来る | 部隊のように動く |
20人ほどのヤンキーが鷹鳥屋さんに出会ったら、という想像では、最初は「その服どこで買ったん?」と敵意なく絡んでくるかもしれない、と青柳さんは話します。ただし鷹鳥屋さんが「あ?」と返せば喧嘩になるかもしれず、青柳さんは「あ」が喧嘩のスイッチだと言います。
夜中のジョイフルの睨み合いを、うどんが止めた
3つ目は、青柳さんの先輩である大石祐介大石祐介さんが、パレットのイベントに北九州のギタリストを連れてきた夜の話です。そのギタリストは、北九州でヤンキー系として知られる人気バンドのメンバーで、喧嘩っ早いという噂を青柳さんも聞いていました。
コロナ禍で店が閉まりがちだったため、打ち上げは川崎町のジョイフル ── 九州を中心に展開するファミリーレストランのチェーン。大分県発祥で、深夜営業の店舗も多いことで知られていますで行われました。青柳さんによれば、昔は夜中の危険度が高い店だったそうです。
一行が盛り上がっていると、パンチパーマの40〜50代くらいの客が「うるせえな」と言ってきます。ギタリストは「俺プッチン来ちゃったかもね」と反応し、店内で両者の睨み合いが始まりました。
青柳さんたちが双方に抱きついて止めようとしても、2人とも「あ?」と言うばかりでした。そこへ大石さんが割って入り、喧嘩相手にこう声をかけます。
大石さんの言葉は、自分は那珂吉那珂吉のほうでうどん屋をやっているので、今度よかったら食べに来てください、一杯サービスします、というものでした。相手もギタリストも「え?」と呆気にとられたといいます。
相手は言葉を返さなければと思ったのか、「北条の方?」と場所を確かめ、「じゃあ今度行くわ」と応じます。そのまま「まあまあ」と場が収まり、喧嘩は終わりました。
挑発
離れた席の客が「うるせえな」と絡む
一触即発
ギタリストが反応し、店内で睨み合いになる
制止の失敗
青柳さんたちが抱きついて止めるが、双方「あ?」のまま
うどんの勧誘
大石さんが自分のうどん屋に来てほしいと声をかける
収束
相手が「今度行くわ」と応じ、場が収まる
青柳さんは、3人とも誰一人まともにコミュニケーションが取れていないのに喧嘩が収まった、と振り返ります。出演者たちは、大石さんは仲裁の効果を計算したのではなく、「この人うどん好きかも」と直感的に思っただけではないか、と笑いながら想像を膨らませます。
なお大石さんのうどん屋、たぬき庵たぬき庵は本当においしい店で、バンド関係者も多く集まるそうです。
信長も戦国武士も「ヤンキー」だったのか
話のあと、出演者たちはこの面白さがリスナーに伝わるかを気にしつつ、ヤンキーの話を文化人類学やフィールドワークになぞらえます。青柳さんは、これは田川の一側面にすぎず、いいところも他にあると念を押します。
出演者の1人は、第一次世界大戦 ── 1914〜1918年の世界規模の戦争。各国の思惑が絡み合い、当初は誰も想定しなかった長期戦と大規模な被害に至りましたで人々が誰も思っていなかった結果に向かっていったのと同じだ、と指摘します。うどんの話をなぜしたのかは誰にもわからないのに、結果として喧嘩は止まった、という点です。
さらに、その日収録した織田信長編にも話がつながります。信長の行動原理を合理的に読み解こうとしがちだけれど、実際は「パッとひらめいて」動いていたのかもしれない、と出演者たちは話します。
青柳さんも、ライターを投げたヤンキーについて「そこに理由はない」と語ります。理由を探しちゃダメで、人は自分たちが予想するようには動かない、というのが青柳さんの実感です。
最後に出演者たちは、「私の街にもこういう人がいます」といったお便りを募集し、放送できないボーナスエピソードはいいかねパレットで生で聞いてほしいと呼びかけて番組を締めくくりました。
まとめ
今回の番外編は、田川で青柳さんが遭遇したヤンキーたちの3つの出来事を通じて、人間の行動が必ずしも合理的な理由で動いていないことを、笑いとともに伝える回でした。
- ミニストップ前のヤンキーは、帽子の次に100円ライターを投げつけ、理由なく威嚇してきた
- 正月のスナックでは、森俊くんが喧嘩の仲裁役の髪をつかみ、単純すぎて複雑な事態になった
- 夜中のジョイフルでは、うどん屋への誘いという予想外の一言で睨み合いが収まった
- 青柳さんは、ヤンキーの行動に理由を探すのではなく、目の前に人がいるから威嚇するというシンプルさを見るべきだと語った
- 出演者たちは、信長の行動原理も同じように直感で動いていたのかもしれないと、歴史の見方につなげた





