親子で遊ぶマインクラフトは資本主義の教材?
この番外編は、楊睿之さんが「最近楽しかったコンテンツを雑談したい」と切り出して始まります。以前のNETFLIXおすすめ回や好きなゲーム回の第2弾のような位置づけで、トップバッターは樋口さんです。
樋口さんは「ゲームはマイクラが楽しいぐらい」と話します。息子の虎之介くんが入院していたとき、リモートでずっと一緒に遊んでいたのがMinecraft ── ブロックを積んで建物や世界を作るサンドボックス型のゲーム。自由に作るモードと、資源を集めて生き延びるモードがありますだったそうです。
マイクラをやったことがない楊さんに、樋口さんは「無限にブロックが出てくるレゴブロックみたいなもの」と説明します。遊び方には、ブロックを無制限に使えるクリエイティブモードと、材料を自分で集めるサバイバルモードがあります。
どんなブロックも無限に手に入り、高く積み上げたり街を作ったりできる。渋谷を丸ごと再現した例もある
材料を自分で掘ったり作ったりしないと手に入らない。コンクリートの家を建てるなら素材集めから始める
樋口さんは、サバイバルモードから資本主義が学べると話します。最初に道具へ投資すると、一時的にスピードは落ちても、トータルでは効率よく集められるという考え方です。
だからもうこれ資本主義学べるんですよ。効率よく集めるためには、最初に道具とかに投資した方がトータルいいみたいな。
親子の会話は「お父さん木を集めてくるから、虎之介ちょっとこの倉庫作っといて」「ゾンビ来た」といった、ごく普通のゲームのやり取りだそうです。深井さんは「めちゃくちゃいいじゃん」と繰り返します。
樋口さんは一人ではマイクラをやらないと明かし、深井さんは、虎之介くんと遊んでいるからこそ楽しいのだろうと受け止めます。
虎之介も一生覚えてる可能性とかあるよね。そういう思い出ってさ。
お尻が主人公?おしりたんていへの衝撃
次に話したのは楊さんです。楊さんが子どもたちから教えてもらったのが、顔がお尻の形をした探偵が主人公のアニメ「おしりたんてい」でした。
楊さんが衝撃を受けたのは、お尻という題材そのものです。アンパンマンなら食べ物を分け与えて人を幸せにするのでわかるが、お尻は世界のどの文化圏でもそれほど尊ばれないもの、というのが楊さんの受け止めでした。
深井さんは、洋画でよくある「鼻の下のケツの穴で喋ってる」という悪口を思い出し、「あれマジでやってるやつだよね」と返します。さらに必殺技がおならで、おならの力でヴィランを吹き飛ばしてトラブルを解決すると聞き、深井さんも驚いていました。
楊さんは、汚いとされるお尻をあえて顔にし、正義の味方の主人公に仕立てて子どもたちに好かれていることから、「このキャラは日本でしか生まれない」と感じたといいます。
テンション上がりすぎでしょ。
樋口さんによれば、おしりたんていは本も出ていて、推理小説ほど頭を使わないが謎解きの要素があり、子どもにちょうどいいそうです。樋口さんは、うんこドリルやうんこミュージアムの流れもあるのではと話し、実際にうんこミュージアムにも行ったと明かします。
楊さんはこの衝撃を、ジャンヌダルク ── 15世紀フランスで百年戦争を戦った少女。農民の娘、女性、神の声を聞く者といった属性が重なり、当時の人々を戸惑わせましたがさまざまな属性を兼ね備えて当時の聖職者たちを思考停止させたのと同じくらい、と例えています。
ブラック・ミラーは元気なときにしか見られない
楊さんのもう1つのおすすめは、NETFLIXの短編ドラマシリーズ「ブラック・ミラー」です。人に教えられて2、3本見たといいます。
深井さんはブラック・ミラーを「結構暗い、世にも奇妙な物語の海外バージョンみたいなもの」と説明します。楊さんは、短くてすぐ見られる一方で、エグく、解釈をブーストさせてくれる要素が詰め込まれていると話します。
楊さんによると、ブラック・ミラーでは変身などのSF的な出来事が起きる回もあるものの、それは演出にすぎません。本当に伝えようとしているのは、人間同士の感情のぶつけ合い、どうしようもなさ、絶望であり、そのための脚本がものすごく作り込まれているといいます。
深井さんが強烈だったと振り返るのは、イギリスの首相が人質を取られたような状況に追い込まれ、豚と性行為をせざるを得なくなる話です。深井さんはうろ覚えとしながらも、胸くそ悪いのに何とも言えない感覚が残ったと語ります。
なんか疲れてる時は見たくないですね。
楊さんも、オチはあるものの言葉を失うようなもので、見終わったあとも「これは一体何を言おうとしているのか」と解釈が止まらないと話していました。
アキ・カウリスマキ、真顔なのにずっと面白い映画
ここから深井さんの番です。「めっちゃいっぱいある」という深井さんが最初に挙げたのは、2023年に見つけた自分の中の大ヒット監督、フィンランドのアキ・カウリスマキ ── フィンランドを代表する映画監督。無表情な登場人物と淡々とした語り口、独特のユーモアで知られ、労働者や社会の周縁にいる人々を多く描いてきましたです。
深井さんによれば、カウリスマキ作品は登場人物が白人でも「僕たちの知ってる欧米の映画じゃない」まったく違う感じだそうです。特徴は全員がずっと真顔で、嫌なことが起きても泣き叫ばず淡々としている点です。
深井さんは大事に見ていてまだ7作ほどですが、「労働者三部作」と「敗北者三部作」は全部素晴らしかったと話します。どちらも独立した話で、70分ほどと短いのもいいそうです。
深井さんがカウリスマキを知ったきっかけは、何も知らずに見た「マッチ工場の少女」でした。良すぎて驚き、監督を調べたといいます。
何がいいのかよくわかんないんですよ。でもね、いい映画ってね、何がいいかよくわかんねえんだよ。
深井さんは、マッチ工場の少女について、明るい話ではないのに「真顔なのにずっと面白い」「次どうなるん?」と見続けられると話します。樋口さんが調べると1990年の作品で、ベルリン国際映画祭でインターフィルム賞を受賞していました。
深井さんが好きな映画は、クリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」と、デヴィッド・リンチの「エレファント・マン」です。カウリスマキ作品は、その2本に食い込むほどの、何年かに一度しか見つけられない映画だったといいます。
Baldur's Gate 3の自由度はなぜすごいのか?
深井さんが次に挙げたのは、いまプレイ中の海外RPG「Baldur's Gate 3」です。日本人には受けが悪いとも言われ、難易度が高いゲームだそうです。
Baldur's Gate 3の元になっているのはテーブルトークRPG ── ゲームマスターの語りとプレイヤーの会話、サイコロで物語を進める対面型のゲーム。紙とペンで遊ぶことからアナログRPGとも呼ばれますです。想像の中で進むゲームジャンルをテレビゲームにしたのがこのシリーズで、深井さんは1作目が出たのは自分が中高生の頃だったと振り返ります。
物語は、主人公たちがイカのような種族に捕らえられ、頭に幼虫を入れられるところから始まります。ただ深井さんは、ストーリーは重要ではなく、面白さを言葉にするのが難しいと話します。
深井さんが挙げたBaldur's Gate 3の最大の特徴は、「めっちゃ自由」なことです。宝箱1つを開けるにも、深井さんは次のような方法を挙げています。
- 鍵をハックして開ける
- 敵を倒して鍵を手に入れる
- 敵から鍵を盗む
- 魔法で開ける
- 剣で壊す
それが全部に対してそんな感じなんですよ。なんで、あらゆる方法でやるとインタラクティブにその世界のありようが変わっていくんですよ。
キャラクターはプリセットから選ぶことも自作することもでき、パーティーも1人から4人まで自由です。敵とほとんど戦わない進め方もある程度はできるといいます。
さらに、宝箱が開くか、相手を説得できるか、攻撃が成功するかといった判定は、テーブルトークRPGと同じくサイコロの確率で決まります。重要人物を殺すことさえできる世界で結果が確率で揺れるため、「次どうなるの?」がずっと続くそうです。
すごい執念と意志がないとこんなゲーム出来上がんないでしょみたいなクオリティ。
深井さんは、日本のゲームは平和で可愛いものが多く、それはそれで素晴らしいとしたうえで、Baldur's Gate 3のような海外のゲームは殺伐として残酷だと対比していました。
美味しんぼの海原雄山がずっと面白い理由
深井さんがNETFLIXで見たアニメとして挙げたのは、意外にも「美味しんぼ」でした。樋口さんも「むちゃくちゃ意外やった」と驚きます。
深井さんによると、美味しんぼは構図がいつも同じです。夫婦喧嘩や、失恋してご飯を食べない娘といった人間関係のトラブルを、必ず料理で解決します。
主人公の山岡さんは、新聞社のぐうたら社員ですが、料理の知識と味覚は抜群です。陶芸家で美食倶楽部を主宰する海原雄山 ── 漫画「美味しんぼ」に登場する美食家で陶芸家。主人公・山岡士郎の実父で、美食倶楽部を主宰し、料理をめぐって息子と激しく対立しますとは実の親子ですが、絶交しており、2人がグルメで対決するのが作品の大枠です。
深井さんが推すのは、海原雄山が息子を侮辱するときの生き生きとした顔です。ほうじ茶の味ひとつで「誰だこの料理を作ったのは」と怒るほど、些細なことで揚げ足を取り、侮辱のレパートリーが尽きないといいます。
まっすぐで。芸術家だから。美しいものは美しいって認めちゃうんだよ。
深井さんは、海原雄山が憎めないのは、山岡さんがおいしい料理を作ると何も言えなくなる素直さがあるからだと話します。もう1つ面白いのが、悪役として出てくる人たちの様式美です。
トラブル
人を馬鹿にする人や人間関係のトラブルが登場する
料理
山岡さんたちが料理で問題に向き合う
反省
悪役も料理を食べると「自分が悪かったです」と必ず反省する
深井さんは美味しんぼを「水戸黄門の料理バージョン」と表現し、あれほど人を馬鹿にしていた人がちゃんと反省する姿に「いい人だな、みんな」と思うそうです。
深井さんは最近のアニメとして「薬屋のひとりごと」や「フリーレン」、リメイク版「うる星やつら」も見ていると話します。うる星やつらには、男として育てられた女性キャラが登場し、今の価値観では虐待にあたる設定ですが、リメイクでもちゃんと出てきたと受け止めていました。
ダンジョン飯と孤独のグルメ、コンテンツはなぜ無限なのか?
深井さんが「めっちゃ面白かった」と挙げたのが、まだ途中まで見ているアニメ「ダンジョン飯」です。ダンジョンに潜る話なのに、戦いではなくモンスターを料理して食べることがメインのグルメアニメだといいます。
樋口さんが調べると、スライムやバジリスク、ゴーレムまで料理する作品でした。深井さんは、普通に食べたらまずいスライムも、クラゲに近いと考えて調理すればうまくなる、という発想に感心します。
そしてこんなのよく思いつくなって思う。本当に。なんていうか想像力がすごい。
グルメ系コンテンツが好きな樋口さんは、「孤独のグルメ」を挙げます。樋口さんによると、孤独のグルメはうんちくを語らず、飯に向かう一人の男の姿勢だけを淡々と描いている点が魅力です。
樋口さんは大学時代に原作漫画を読んで衝撃を受けたといい、「深夜食堂」も好きだと話します。さらに、刑務所の囚人たちが今まで食べた飯がいかにうまかったかをエピソードトークするだけの「獄門飯」も面白いと紹介しました。
樋口さんは、思いつくだけでなく、ちゃんと実現することがすごいのだと応じます。
エレファント・マンが問いかける人の自尊心
最後に深井さんが語ったのは、ジャンヌ・ダルクの収録を控えた前日に久しぶりに見返した映画「エレファント・マン」です。
深井さんによると、エレファント・マンはビクトリア朝期のイギリスを舞台にした、象のような皮膚の質感を持つ男性の物語で、史実に基づいています。見世物小屋で人権を与えられずに生きてきた男性が、ある医師と出会ってから人間として扱われるようになります。
見世物小屋で見世物にされ、人間として扱われない。自尊心がなく、人と喋るのが怖くて話せない
医師との出会いで人の優しさに触れ、少しずつ話せるようになり、急速に自尊心を取り戻していく
深井さんは、エレファント・マンから人の自尊心とは何かという問いを強く感じるといいます。中学生ぐらいで見た記憶しかない樋口さんに、深井さんは「今見た方がいい」と勧めます。
今見た方がいい。マジで。これ自尊心の話だから。自尊心の観点で見てみてほしい。
深井さんが特に感動すると話すのは、主人公が「I'm not an animal. I am a human being(俺は動物じゃない。人間なんだ)」と言う有名な場面です。そこに至るまでの心理描写も見どころだといいます。
主人公は顔が歪んでいて表情が読み取りにくいのに、演技で感情を伝えている点も、深井さんは絶賛します。医師役は「羊たちの沈黙」でハンニバルを演じたアンソニー・ホプキンスで、主人公を初めて人間扱いする人物として登場します。
樋口さんが調べると1980年の作品で、深井さんは、わざと白黒で作られていると補足します。深井さんが「白熱しました」と振り返り、樋口さんがリスナーにもいろいろ見てみてほしいと呼びかけて、この回は締めくくられました。
まとめ
この雑談回では、3人がゲーム、アニメ、映画、ドラマを自由に紹介し合い、作品の面白さを言葉にしようとする過程そのものが楽しめます。おしりたんていやダンジョン飯の発想に驚き、カウリスマキ作品の「わからないけどいい」に浸り、最後はエレファント・マンを通じて人の自尊心へと話が深まりました。
- 樋口さんは息子の虎之介くんとマインクラフトで遊び、サバイバルモードから投資の考え方を教えている
- 楊さんは、お尻を主人公にしたおしりたんていを「日本でしか生まれない」キャラと受け止め、ブラック・ミラーの作り込まれた脚本にも圧倒された
- 深井さんは、アキ・カウリスマキ作品を「わからないけどいい」最高の映画と評し、Baldur's Gate 3の自由度にも制作者の執念を感じている
- 美味しんぼの様式美やダンジョン飯、孤独のグルメから、3人はコンテンツの想像力が無限であることを語り合った
- エレファント・マンは、見世物として扱われた男性が自尊心を取り戻す物語として、深井さんが今こそ見てほしいと勧める作品





