「人間を理解するのって忍耐がいる」とは?
三蔵法師シリーズを終えた3人は、番外編として、深井さんがTwitterに投稿していいねが多く集まったつぶやきを取り上げます。テーマは、歴史上の人物の勉強の仕方についての投稿です。
深井さんの投稿によると、歴史上の人物を勉強し始めた最初は、実は全然面白くありません。その人の気持ちや決断の背景がまったく想像できないからです。
それでも時間をかけてその人物を追いかけていくと、少しずつ想像しやすくなり、やがて共感できるようになるといいます。深井さんは投稿の中で、人間を理解するのには忍耐がいると書き、それは生きている人間に対しても同じだとしています。
勉強し始め
気持ちや決断の背景が想像できず、面白くない
時間をかけて追求
少しずつ想像しやすくなる
共感
その人物に共感できるようになる
樋口さんは、この姿勢がもともと深井さんにあったものなのか、それとも歴史から学んだものなのかを尋ねます。深井さんの答えは、昔は人を理解する姿勢がまったくない人だった、というものでした。
全く人の気持ちも分からなければ、感情も想像しないし、人が言ってる言葉にも注目してない。(人の気持ちを)考えるってフローがもうそもそも脳の中になかったので、完全にスキップして生きてたんですね。
深井さんによると、こうした状態は大学生ぐらいまで続いていました。社会に出て苦労する中で後天的に身につけ、さらに歴史の勉強でブーストされたことで、今では生きる上で役に立つスキルの一つになっているといいます。
サークル仲間を号泣させた、深井さんの一言
人を理解しようとしなかった頃の深井さんには、周囲との軋轢がたくさんありました。東芝 ── 日本の大手電機メーカー。深井さんは新卒で入社していますに入社した当初は、部署の年上の社員たちが何を考えているのかを想像しようとする気持ちがまったくなかったといいます。
当時は特にあれしてたのが、相手の言葉に集中しすぎてたんですよ。何を言ってるかってことばっかり見て、こんなこと言ってるからお前はこうだとか、そういうことを言ってた。
深井さんは、当時の自分をTwitterのレスバトルのような揚げ足の取り合いにたとえます。それに意味がないと気づいたのは、周りよりずっと遅かったと振り返ります。
深井さんが空気を読まなかったのは職場だけではありません。大学のバンドサークルでは、趣味でボーカルを頑張っていた女性に対して、深井さんが今でも覚えている一言を投げかけています。
なんでそんな下手くそで才能ないのにやってんの?
いやいやいや、これはひどい。想像より相当ひどいぞ、これは。
深井さんには、相手を傷つけようという意図はまったくありませんでした。本人の感覚では、桃を見て桃だと言っているのと同じレベルの、ただの事実の指摘だったといいます。
なんでそんなこと言うのかって言われてびっくりしたんですよ、僕。え?なんで?みたいな。事実言ったけどみたいな。
楊さんは「20歳ぐらいでそれなら、小2でももうちょっと気を使える」とツッコみつつ、言われて傷ついたことはないのかと尋ねます。深井さんは、当時は言われても落ち込むことはなく、「この人から見たら下手なんだね」と思うか、逆ギレするかのどちらかだったと話しています。
そんな深井さんが22歳で大企業に入れば、事故が起きるのは当然です。深井さんは毎日2時間説教されていたといい、今ではよく説教を続けてくれたと感謝しているそうです。
ロジックで人の気持ちをインストールする
深井さんが変わるきっかけは、仕事での苦労でした。実家がとても貧乏だったため、若い頃の深井さんは「絶対に社会的に成功してやる」と強く思っていたといいます。
それなのに、仕事はうまくいかず、コミュニケーションもとれない。そこで深井さんは、もともとロジックで問題を解決するタイプだったこともあり、人とのやり取りを全部ロジックで把握していきました。
深井さんによると、このやり方は受験勉強でも同じでした。中学2年生ぐらいまで成績は田舎の学校で真ん中ほどでしたが、貧乏すぎて「いい学校に行かなかったら死ぬかも」と思い、ロジックで効率化を目指して勉強法を編み出したそうです。
コミュニケーションの面で深井さんに一番効いたのは、論理的に説明してくれる人の存在でした。
今、お前はこういう話したけど、相手はこういう風に受け取って、こういう風に感じてるよみたいなことを言われたら、それ全部インストールしていけるんで、ロジックは。
深井さんは今振り返ると、自分は人の気持ちがわからない人というより、育ち方が特殊すぎて「完全なる異文化の人」だったのだと考えています。相手の文化を教えてもらえれば理解できた、という感覚です。
楊さんはこれを、並ぶ習慣のある国で、並ぶことを知らずに割り込んで怒られる状況にたとえます。深井さんの大学時代の一言も、ひどいことを言ってもいい世界しか知らなかったからだ、と2人は整理しています。
人の気持ちを考える思考フローがなく、相手の言葉尻ばかりを見ていた
仕事の苦労と論理的な説明、歴史の勉強を経て、人を理解しようとする姿勢がスキルになった
人を「機能」として見るとチームが壊れる
話はツイートのテーマに戻ります。深井さんは、さまざまな価値観を持つ人をどう理解するかを、歴史の勉強、社会文化人類学 ── 異なる社会や文化を、その内側の論理に沿って理解しようとする学問。自分の価値観をいったん脇に置く姿勢を重視しますの考え方、仕事での経験を通して身につけてきたといいます。
深井さんによると、これは何度も反復訓練したもので、今では筋肉のように反射でできるようになったそうです。楊さんは、ロジックで一度理解すれば済むはずなのに反復が必要だという点に、心で理解することの難しさを感じています。
深井さんは仕事でチーム崩壊なども経験する中で、自分の弱みを見せること、自分の感情を示すこと、相手の感情を受け取ることの大切さを学んだと話します。
今は人間はむしろロジックなんかほぼ関係なく、感情だけでこう挙動してる動物だなぐらいの受け取り方をして。
ただし深井さんは、その理解自体はロジックで行っているといいます。ホッキョクグマが寒いところに住むように、人間はそういう動物だと捉えている、という感覚です。
楊さんも自分は近いタイプだとし、チームビルディングの例を挙げます。得意な仕事をさせればモチベーションが上がり、パフォーマンスと成果が上がるから、その人をそこに配置する、という考え方です。
深井さんは、ベンチャーで大きな目標に挑む中での経験を語ります。人を「これができるからいい、できないからダメ」と見ていると、信頼関係が築けず、チームが崩壊することがよくわかったといいます。
できないことはちゃんと事実として認知するんだけど、それだけで見てしまうともう大崩壊するなっていうのがすごく分かってから、すごくその感情部分を重視するようになりまして。
楊さんも、嘘をつかない、人を裏切らないほうがいいのは、悪いことをすると自分の感情が嫌になるからだと話します。深井さんは、そういう人には倫理観ではなくロジックで善悪を考える中国古典 ── 諸子百家など古代中国の思想書。人の行動や統治のあり方を理屈立てて論じたものが多くありますや、唯識論 ── 大乗仏教の思想の一つ。あらゆる存在は心の認識によって成り立つと考えます。玄奘がインドから持ち帰り広めたことで知られますがお勧めだと語っています。
人は人を理解できない。それでもわかろうとする姿勢
深井さんが歴史上の人物を勉強して学んだのは、人が人を理解することはできない、ということでした。勉強すればするほど、逆説的にわからなくなっていくといいます。
そのうえで深井さんは、わからないこと自体は当たり前で、大事なのは理解しようとする精神のあり方だと考えるようになりました。その姿勢こそが、相手の感情に影響を与えるからです。
僕が(相手の)ことを分かろうとしてることの方が、(相手)にとって大事なんだってことが分かってきてから、その姿勢で歴史の人物を見るようにしてるんですよ。
深井さんによると、わかろうとする姿勢で大切なのは、フィルターをかけないことです。たとえば玄奘 ── 唐代の中国の僧。インドへ渡って仏典を持ち帰り、『西遊記』の三蔵法師のモデルとなった人物ですを見るときに自分が仏教嫌いなら、その時点でフィルターが入ってしまいます。政治思想の違う相手に対しても同じです。
ただし、このフィルターを外すのはとても難しいことです。深井さんは、自分を形づくっているこだわりを捨てて人を見ることになるからだと説明しています。樋口さんは、これを仏教でいう無我に重ねます。
深井さんは、一つの尺度で測らないことの大切さも強調します。コテンラジオではお金の歴史などで、評価する面によって結果が変わることを何度も見てきました。人間も同じで、悪い人もいい人もいないという姿勢で見るには、大きな忍耐が必要だといいます。
耐え忍ばねば理解できないんです。でもこれを続けた時にブレイクスルーが必ずあるんですよね。このブレイクスルーは気持ちいいよね。
楊さんは、それまでピントが合っていた眼鏡を外し、違う焦点で見直すようなものだとたとえます。樋口さんも、自分が心地よく感じる眼鏡を捨てることだと続けました。
深井さんは、これからは誰もが価値観の違う人と働く時代になるので、この姿勢はますます必要になると考えています。樋口さんは、すぐに相手を判断しないこと、判断しない苦しさに耐えることの大切さを挙げています。
一回判断しないし、自分の今の既存の価値観で回っている自分の脳みそを一回わざと思考停止させる必要があると思うんですよ。
矛盾した考えを使い分ける「自我の操縦者」とは?
楊さんは、判断を保留し続けるのは、数学でいえば一度できた公式を疑い続けることだと指摘します。公式は一度作れば使い続けられて便利なので、判断しないままではパフォーマンスを出しにくいのではないか、という問いです。
これに対し、判断しないと物事が動かない場面は確かにあるが、10回に1回ぐらいは自分を捨てて世の中を眺めないと、パターン化の牢獄に入ってしまう、という答えが返ってきます。
深井さん自身もこの点で悩んだ時期があり、たどり着いた結論は自我の持ち方でした。深井さんは、自我を「自分という人間の操縦者」だと捉え、自分と操縦者を分けて考えています。
軽に乗ってます。その軽はエンジンがちょっと弱いですと。燃費はいいけど、この坂が登れませんってなったら落ち込まないでしょ、別に。
深井さんによると、車と自分を同一視していると、人は坂を登れないことに落ち込みます。自分を操縦している側だと考えれば、場面ごとに思考方法を使い分けられるようになるといいます。
深井さんは、仕事で使う思考方法と歴史で使う思考方法は6割ほど重なり、4割ほど違うと話します。歴史を学んで「存在自体に価値がある」と本気で思っていても、会社経営にその概念を持ち込むだけでは成果は残りません。
性能の限界にそのまま落ち込み、矛盾した考えを持つことをダメだと感じる
性能の限界を受け止め、場面ごとに思考方法を使い分けても人格は崩れない
深井さんは、現代は自我の認識の仕方を誤っている人が多く、矛盾した考えを持つことをダメとする風潮があると感じています。けれど、矛盾した2つの思考を同時に走らせるのは全然OKだというのが深井さんの考えです。
楊さんも、相手や環境が変われば考えが変わるのは自然なのに、多くの人がそれを「ブレる」と表現することに疑問を持っていたといいます。
一貫性ある人間なんていねえから。全員ないから。矛盾の塊だから。
深井さんは、こうした人間理解に基づいて自我を組み立てたことで、昔よりだいぶ生きやすくなったと語ります。「こうあるべき」「すべき」という考えもかなり減ったそうです。Twitterの投稿から始まった話は、最後に「フカイ君なだけに深い話」という締めで終わりました。
まとめ
今回の番外編では、人の気持ちを考える思考フローがなかった深井さんが、仕事の苦労と論理的な説明、歴史の勉強を経て、人を理解しようとする姿勢を身につけるまでが語られました。人は人を理解できないからこそ、わかろうとする姿勢と、矛盾を抱えたまま思考を使い分ける自我の持ち方が大切だと話されています。
- 深井さんは大学生まで人の気持ちを考える発想がなく、サークル仲間に「なんで下手くそで才能ないのにやってんの?」と言って泣かせたことがある
- 仕事での苦労を、相手の受け取り方を論理的に説明してもらうことで乗り越え、反復で身につけた
- 人を機能だけで見るとチームが崩壊するという経験から、感情を重視するようになった
- 人は人を理解できないが、フィルターを外してわかろうとする姿勢には忍耐が必要で、続けるとブレイクスルーがある
- 自分を「操縦者」と捉えれば、矛盾した思考方法を場面ごとに使い分けても人格は崩れない



