リモート収録の苦労と、バリューブックスのアンバサダー就任
今回もコロナの感染拡大予防のため、リモートでの収録です。収録前には新しい配信設定の実験に2時間ほどかかり、樋口さんは冒頭から「疲れました」とこぼします。
このリモート収録の設定に2時間かかってから。
苦労のかいあって、リモート特有の「リアクションがワンテンポ遅れる」感覚は解消されたようです。深井さんは、ほぼ電話と同じ感覚で話せるようになったと喜んでいます。
最初のお知らせは、深井さんと楊さんが、インターネットで本の買い取りと販売を行うバリューブックスのアンバサダーに任命されたことです。同社の社員がコテンラジオのファンだったことから声がかかったといいます。

アンバサダーはバリューブックスさんが僕たちが読む本を全部買ってくれるんですよ、代わりに。
コテンラジオは1エピソードにつき数十冊の参考文献を買っており、この支援は大きな助けになると話されています。今後は、二人が読んでいる本を紹介する記事やインタビューも出ていく予定です。
深井さんは、バリューブックスが社会・経済・自然科学・芸術など専門性の高い本の買い取りに力を入れている点で、リスナーとも相性がいいと考えています。コテンラジオ経由で本を売った人には、番組初のグッズとなるステッカーが2枚プレゼントされます。
したらなんかね、もう全員Win-Winじゃん。そしたら三方よしみたいになるじゃん。
さらにバリューブックスは月額10万円の法人サポーターにもなってくれるとのことで、樋口さんは「ちょっと天使ですか?」と驚いています。
サポーター1000人突破と、新特典「アーリーアクセス」
2つ目のお知らせは、月額サポーターが1000人を突破したことと、新しい特典の追加です。新特典の名前は「アーリーアクセス」で、深井さんは「必殺技みたいな」と笑います。
アーリーアクセスっていうのは、ほら、今までは最新シーズンはちょっとずつしか放送されなかったでしょ。
これまで新シーズンは、第1話の放送から1か月〜1か月半かけて順に配信されていました。アーリーアクセスでは、サポーターは最初から全話を聴けます。2021年2月11日から、第一次世界大戦シリーズを全話聴けるようになりました。
あわせて、特典配信の仕組みも改善されます。これまではGoogleドライブで共有する方法で、バックグラウンド再生ができませんでした。新しいサイトではログインするだけで、バックグラウンド再生もアーリーアクセスも利用できます。
新シーズンは1か月以上かけて順に配信。特典はGoogleドライブ共有で、バックグラウンド再生ができない
サポーターは初日から全話を聴ける。専用サイトにログインすれば、バックグラウンド再生も可能
今回のシリーズは全15回ほどの長さになる見込みです。深井さんは、一気に聴かないと覚えきれないかもしれないとも話しています。
一気に聞かないと、ちょっと正直覚えらんないかもしれないシリーズでもあるなと思ったし。
台本117ページ、それでも政治から距離を置く理由
いよいよ本題の「第一次世界大戦 なぜ世界は戦争を選んだのか」です。今回の台本は117ページあり、ローマ帝国シリーズを上回るボリュームだといいます。
これね、俺の卒論の3倍ぐらい。マジで。
深井さんの卒業論文は、社会における猫の存在の変遷をテーマにしたものだったそうです。樋口さんが「クオリティコントロールをするって話はどこに行ったのか」とツッコむと、深井さんは自分がただ好きなだけだと認めます。
あのね、分かった。俺ただ好きなだけだわ、やっぱ。あの、やってたら楽しいからやっちゃう。
第一次世界大戦を選んだ理由も語られます。深井さんは、太平洋戦争や第二次世界大戦のように直近の歴史になるほど政治が絡み、フラットに語りにくくなると話します。そのため、第一次世界大戦が「ギリギリOK」なテーマだと考えています。
楊さんも、第二次世界大戦は各国の立場や責任論から書かれた史料が多く、中立的な文献を探すのに労力がかかると補足します。番組として政治的な主張をするつもりはない、という点も確認されました。
そういうことが知りたいわけじゃないんだよね。主張は自分で考えるから。
深井さんは、政治的な主張が入った本は読んでいて邪魔に感じると言います。客観性には限界があると認めつつも、どの立場の人でも聴けて、自分で解釈できる内容を目指すという方針です。
日本では第一次世界大戦がほとんど知られていない、という話も出ます。楊さんは、日本が主要なプレイヤーではなかったため、学校であまり教えられないのは仕方がないと話します。
だってなんならさ、誰が勝って誰が負けたかもみんな知らないでしょ。おそらく。
死傷者が「2桁違う」戦争と、2つの問い
第一次世界大戦は、主にヨーロッパを戦場とした戦争です。深井さんによれば、その最大の特徴は、それ以前の戦争と比べて死傷者の数が桁違いに多いことです。
めちゃくちゃ死傷者出てるんですよね。これ正直、この統計自体にいろんな開きがあるんだけど、2000万人とか。
ヨーロッパ中を巻き込んだ三十年戦争 ── 17世紀前半、神聖ローマ帝国を舞台にカトリックとプロテスタントの対立から始まり、ヨーロッパ各国が介入した戦争。1648年のウェストファリア条約で終結しましたでも400万人ほどでした。その後のナポレオン戦争 ── 19世紀初頭、ナポレオン率いるフランスとヨーロッパ諸国の間で起きた一連の戦争。フランス革命の理念や国民軍がヨーロッパ中に広がるきっかけになりましたでも500万人弱で、これがそれまでの最大規模でした。第二次世界大戦は、さらにその倍ほどの規模になります。
このシリーズで深井さんが伝えたいことの1つ目は、なぜこれほど多くの人を殺すことができたのかです。これについては、どんな経緯で殺傷の技術が発達したのかを追っていきます。
2つ目は、なぜ人々は戦場に行き、死ぬことができたのかという問いです。今の感覚でも、大戦前の人々の感覚でも、行けと言われて素直に行くものではなかったといいます。
今の感覚でも行かないし、世界大戦の前の人たちの感覚でも行かなかったんです。なのに世界大戦はみんな死ぬの分かってても行ったんですよ。
楊さんは、これほどの人間を動員するには膨大なリソースと、社会全体の大規模なコンセンサスが必要だったと指摘します。そのコンセンサスがどう生まれたのかも、システムの変化として今後のテーマになります。
震源地はフランス革命。「昔の人はバカだった」を超える
深井さんは、第一次世界大戦を理解するにはナポレオン、つまりフランス革命以後の世界秩序まで遡る必要があると話します。それまでの信仰を基盤にした社会から、人権という概念が生まれ、フランスで革命が起きました。
フランス革命を震源地として波が広がり、周辺国が反応します。その反応にフランスがまた反応する、という連鎖が折り重なった先の通過点に、世界大戦があるという見方です。
人権概念の誕生
信仰を基盤にした社会から、人権を軸にした社会へ
フランス革命
ヨーロッパの大国フランスで革命が起こる
周辺国の反応
震源地から波が広がり、各国が反応していく
反応の積み重ね
反応が折り重なり、その通過点として世界大戦に至る
深井さん自身、かつては世界大戦の犠牲者の多さを見て、昔の人は少し愚かだったのではと思ったことがあるそうです。樋口さんも、その感覚はわかると応じます。
で、僕は昔、その世界大戦とかで人がいっぱい死んだみたいなのを見た時に、昔の人ちょっとバカなのかなって思ったことがあったんですよね。
当時の人々は、15歳や18歳の息子でさえ戦場に送り出しました。人権から始まったはずの流れが、なぜ子どものような若者を兵士にするところまで行き着いたのか。深井さんは、みんながバカだったわけではなく、誰も抗えない大きな流れがあったと語ります。
なんか人権尊重と真逆な気がしますよね。
貴族の戦争から国民の戦争へ。総力戦はなぜ生まれたのか
深井さんは、大戦以前の戦争を基本的に「貴族同士の戦争」だったと説明します。国王が自分の所有物である国家の利害のために戦い、傭兵同士を戦わせて、城が落ちれば終わりにするという一定のルールがありました。
一定の、ゲームのルールみたいなのが成り立ってたもんね。
フランス革命以後は、国民が主権者になったことで、戦争が国民のためのものに変わっていきます。樋口さんは古代のアテネに似ていると反応し、深井さんも、参政権を持つとそういうことが起こると認めます。
その結果として生まれたのが国家総力戦 ── 軍隊だけでなく、経済・産業・国民生活のすべてを戦争遂行に動員する戦争の形態。第一次世界大戦で本格化した概念ですです。兵士だけでなく、戦場にいない女性や子どもまでが戦争のために働く体制が、第一次世界大戦で完成しました。
国王が自分の利害のために戦う。お金で雇った傭兵同士が戦い、城が落ちれば終わるというルールがあった
主権者である国民が戦う。女性や子どもも戦争のために働き、どちらも死んでも戦い続ける
規模の違いは動員率にも表れています。約10年前の日露戦争は日本が出し切った戦争でしたが、兵員として動員したのは全人口の2〜3%でした。これに対し、第一次世界大戦のドイツやフランスでは20%に達したといいます。
うわ!10倍やん。
女性は兵器工場や、男性が抜けた電車の運転手などの仕事を担いました。国家に貢献した結果、女性が参政権を得ることにもつながったと深井さんは話します。
さらに当時の列強は多くの植民地を持っていました。イギリスならオーストラリア、ニュージーランド、インドなどから兵士を動員しており、本当にさまざまな国の人々が参加した点も、それまでの戦争とは大きく違います。
世論をつくり、戦争を煽った新聞
深井さんが次に挙げるのはマスメディア、特に新聞の影響です。第一次世界大戦の時期は、国家が国民国家 ── 国民が主権を持ち、国民の共同体として成り立つ国家のあり方。フランス革命以後、ヨーロッパを中心に広がりましたになっていく動きと連動して、新聞が一般国民に浸透していった時期でした。
今の人々はインターネットやテレビで国民同士の意見の違いやコンセンサスを確かめています。当時は新聞しかなく、新聞が世論をつくり、その新聞がさまざまな形で戦争を煽っていきました。
当時は新聞がそれやってたんです。それを反省して、今新聞はそういうことをしないようにしてると思うんですけど、当時結構平気でそういうことやってて。
楊さんは、政治の側が新聞に金を渡して好意的な記事を書かせたり、政府の中に新聞課のような部署を作って世論をコントロールしたりしたと補足します。逆に、コントロールしきれない民衆の感情が政治決定に反映される構造も生まれていきました。
鉄道・砲弾・株式会社。大量殺戮を可能にした技術と資本
大量の死者を生んだ背景には、技術の発達があります。1つ目は鉄道です。それまでは1か所に何百万人も集まることはできませんでしたが、鉄道によって大量の兵士を短期間で送れるようになりました。
2つ目は機関銃や大砲です。第一次世界大戦で使われた砲弾は13億発で、日露戦争の500倍にあたると深井さんは紹介します。日露戦争で史上最大と言われた奉天会戦 ── 1905年、日露戦争中に満州の奉天(現在の瀋陽)周辺で行われた陸戦。当時としては最大規模の会戦とされますでも33万発でした。
ヴェルダンの戦いではドイツが2000万発を使ったといいます。これだけの砲弾を作るために、女性が兵器工場で働く必要があったという話につながります。
この技術の背景として、株式会社の発達も挙げられます。鉄道には巨額の資金が必要でしたが、資金を集めやすい株式会社の形態がそれを可能にしました。楊さんは、企業同士がリソースを結びつけるコンツェルン ── 複数の企業が資本関係などを通じて1つのグループとして結びついた企業形態。ドイツで発達し、日本の財閥もこれに近い形ですやトラストも次々に現れたと付け加えます。
株式会社の発達
巨額の資金を集められるようになる
国際的な市場競争
大砲や砲弾を作る株式会社が市場で競い合う
生産性の急上昇
それまでより圧倒的な速さで技術が発達する
戦争への転用
毒ガス、戦車、潜水艦、戦闘機が本格的に投入される
この時点で、番組が過去に扱ったフランス革命、コミュニケーション史、お金の歴史の要素がすべて入っていることに驚きの声が上がります。深井さんは、この順番でやれば理解しやすいから、このタイミングで第一次世界大戦を扱ったのだと話します。
なぜ1914年だったのか。当時の人は戦争を防げたか
深井さんは、なぜ1904年でも1925年でもなく1914年に大戦が起きたのかにも理由があると話します。この時期に、政治的な状況が世界大戦へ向かうように完全に符合してしまったという見方です。
それが必然か偶然かは意見が分かれますが、どちらに捉えても大きくは変わらないと深井さんは考えています。条件は人の意思を超えたところで揃っていったといいます。
相当むずいと思う。本当に。マジでむずい。だからそれは今後僕たちが生きる中ですごい学びになると。
例として挙がるのがビスマルク ── 19世紀のプロイセン・ドイツ帝国の政治家。ドイツ統一を主導し、首相として巧みな同盟外交でヨーロッパの勢力均衡を保ちましたです。彼は世界秩序を保つため巧みな外交を行いました。彼のおかげで大戦を防げていたとも、彼の死後に大戦へ向かったとも言え、解釈が難しいと深井さんは話します。
ドイツ皇帝ヴィルヘルムが愚かだったから、という書き方をする本も多いそうです。しかし深井さんは、そうした見方では反省につながらないと考えています。
主要国の政府中枢では、多くの人々が戦争を回避しようと動いていました。それでも突入してしまった理由を学ぶことこそ、世界大戦を学ぶときに大切なことだと深井さんは強調します。
日本・イギリス・アメリカ。国によって違う「世界大戦」の重み
日本も第一次世界大戦に一応参戦しており、地中海に艦船を出していました。ただし戦死者は415人で、2000万人規模の全体から見れば小規模です。第二次世界大戦では、日本の軍人・軍属の戦死者は230万人にのぼりました。
深井さんは、日本は第一次世界大戦でいろいろ学んだものの、その学びを生かせずに第二次世界大戦へ突入したという構図を指摘します。一方、フランスやイギリスでは、第一次世界大戦のほうが圧倒的に多くの人が亡くなっています。
だから世界大戦って言ったら第一次世界大戦のことを指す。
| 国 | 死者 | 補足 |
|---|---|---|
| フランス | 約140万人 | ヨーロッパの主要な戦場国 |
| イギリス | 約70万人 | 大戦まで覇権を握っていた国 |
| アメリカ | 約12万人 | 戦争末期に参戦し、被害は比較的少ない |
| 日本 | 415人 | 地中海に艦船を出すなど、一応の参戦 |
戦争末期に参戦したアメリカは消耗が少なく、この大戦をきっかけにイギリスからアメリカへと覇権が移っていきます。日本も、日露戦争で疲弊していたところから、お金を貸す側に回って経済成長しました。時代は明治から大正へ移るころです。
深井さんは、第一次世界大戦と第二次世界大戦は本来切り分けて考えるべきではない、1つの大きな戦争だと話します。シリーズを聴き終えてからヒトラー編の冒頭を聴くと、そのことがよくわかるといいます。
「クリスマスまでに終わる」はずだった戦争と、学び方の心得
次回以降の予告として、第2話と第3話では技術の発達を扱う予定です。そのうえで深井さんは、大戦が7〜8月ごろに始まったとき、誰もがクリスマスまでに終わると思っていたことを紹介します。
実際には4年間ぐらい続いた。だから出征していく兵士とかの映像が残ってるんだけど、笑顔で出征していったりしてる。
国家総力戦を経験した国は、まだ世界のどこにもありませんでした。技術が発達しているから戦争はすぐ終わる、とみんなが考えていたのです。
そもそも技術が発達してるから戦争ってすぐ終わるってみんな思ってたんですよ。けど、そうじゃなかった。
楊さんは、当時のヨーロッパも今と同じくグローバル化が進み、各国が貿易で緊密に結びついていたと話します。相手を攻めれば自国経済にも跳ね返るため、戦争はしないだろうという認識もあったようです。
最後に深井さんは、興味がある人は自分で本を読むべきだと勧めます。今回はバリューブックスから届いた約40冊と手持ちの約10冊、合わせて50冊ほどに加え、論文も読んだといいます。
全部超詳細に読んでるわけじゃないですけど、50冊プラス今回論文も読んでますんで。
深井さんは、エッセンスを深めたい人は15冊ほど読むと見識が変わるだろうと話します。そのうえで、番組の内容を正解だと思わずに聴いてほしいと締めくくりました。今回は学びが大きかったため、いつもより削らずに話していく予定です。
このシリーズの次のエピソードはこちら
まとめ
シリーズ第1回は、第一次世界大戦の全体像と、この戦争をどう学ぶべきかという姿勢を示す回でした。死傷者の桁違いの規模、国民の戦争への転換、新聞と技術と資本の発達が重なり合い、人々が戦争を選んだ背景が浮かび上がります。
- 第一次世界大戦の死傷者は約2000万人で、それまで最大だったナポレオン戦争の500万人弱を大きく上回った
- フランス革命以後、戦争は貴族同士のものから国民の総力戦へ変わり、独仏の動員率は全人口の20%に達した
- 新聞による世論形成、鉄道や砲弾の技術、株式会社による資本の集中が、大量殺戮を可能にした
- 当時の人々を「愚かだった」と片づけず、戦争回避を試みても突入した理由を考えることが学びになる
- 「クリスマスまでに終わる」と思われた戦争は約4年続き、覇権はイギリスからアメリカへ移っていった






