聴いた人に何をしてほしいのか
いいかねPaletteの話をひと通りした後、深井さんは「この放送を聴いた人に、誰に何をしてほしいか」を整理しようと切り出します。
深井さんによると、いいかねPaletteは経済合理性を否定していません。一方で、その発想からは出てこない「別領域のバグ」のようなものを世の中に生み出すことが大事だと考えています。お金は個別の事業ごとに稼ぐというスタンスです。
そのうえで深井さんが一番大事だと話すのは、まずこの取り組みの考え方に賛同しているかどうかです。賛同する人にはそれぞれ得意不得意があり、コテンは言語化が得意で、BOOKとは「質感」がまったく違うといいます。
その質感が違う人たち同士が緩やかに連携する。これが僕今回呼びかけた方がいいことなんじゃないかなと思ってんだよね。
深井さんは、放送をきっかけにパートナーが増えて売上が伸びるのは嬉しいけれど、それは一つの手段でしかないと話します。BOOKが言語化を苦手とするならコテンが補い、コテンが苦手な身体知の領域は他の人が担う、という関係を思い描いています。
深井さんはさらに、こうした助け合いは「ただの貸し借り」ではないと続けます。目の前にいて、どうなるかわからないけれど助けたいから助ける。人間がもともと持っているこの文化を、今の社会は経済合理性の名の下に抑えすぎているというのが深井さんの見立てです。
青柳さんも、最初から「パートナーシップを組もう」と考えていたら、コテンとは出会っていなかったかもしれないと振り返ります。出会いのきっかけとなった飲み会では、パートナーシップという言葉は一言も出なかったそうです。
そういう世界じゃない[[セレンディピティ::思いがけない偶然から価値ある発見や出会いを得ること。狙って起こせない幸運な偶然を指す言葉として使われます]]みたいなものに、実はとてつもない価値があって、しかも再現性が不能ですと。
深井さんは、再現できないものこそ、生成AIが台頭する次の時代に大事になると話します。数字で説明できないもの、言語化できないものが軽んじられすぎている状況を、深井さんは変えたいと考えています。
共感した人のために、番組の問い合わせ欄にBOOKの連絡先を載せることになりました。深井さんは、悩み相談のような連絡でもかまわないと話しています。ビジネスモデルづくりが得意な人が、いいかねPaletteの理念を壊さない範囲で関わってくれることにも期待しています。
下手に中途半端に得意な人来ると、あの理念潰しながらビジネスモデル作ってこようとするからすげえめんどくさいんだけど。
青柳さんによると、BOOKでは会社の理念とは別に、社員全員に個人理念を作ってもらっています。「社会をもっと面白く」という理念を体現するには、関わる人それぞれが理念を持つことが重要だと考えたからです。そこを儲けの論理で押し流されると、わけがわからなくなってしまうといいます。
地方で旗を立てると何が起きるか
樋口さんは、いいかねPaletteを使って何かをすることはきっと面白いと話します。その理由は、田川のような地方では一人の影響力がとても大きいことです。
めっちゃ音楽作れるやつで、パソコン触れて、自分で演奏もできるみたいな人が一人ポーンとここに来るだけで、多分田川中の音楽シーン作れるんですよね。
樋口さんは、そうした人なら田川の子どもたち数千人に影響を与えられるかもしれないと話します。深井さんは、地方にとっては人が来ることが大事なのだと受け止めます。
青柳さんも、産業が少なく、経済が衰退し、少子高齢化が進む地域だからこそ、旗を立てればその分野で1位になれるジャンルが多いと話します。ローカルで活動するメリットを聞かれたとき、青柳さんはよくこう答えているそうです。
田川の「兄貴文化」と九州のセーフティーネット
深井さんは、地域ごとの特性に目を向けます。深井さんから見ると、樋口さんや青柳さんに共通するのは「兄貴文化」です。姉貴でもかまわないとしたうえで、要は面倒見のよさが際立っているといいます。
深井さん自身は上下関係が得意ではありません。それでも北九州周辺の文化はとても心地よかったそうです。
兄貴がいて、困ったらとりあえずこの人頼ったらなんかしてくれそうみたいな状態が信じれるみたいなってあんまなかったんで。
深井さんは、この特性がまさにいいかねPaletteで発揮されていると話します。まったく同じ理念でも、他の地域の人がやれば形が変わるはずだという見方です。前回話題になった「しょーもな」と言いながら助ける態度も、同じ文化圏から来ていると深井さんは考えています。
深井さんが九州に感じるのは、セーフティーネットの強さです。精神的にも実際的にも、ここにいればどうなっても大丈夫で死なない、という感覚があるといいます。
確かに俺らもそうだし、みんなもこの辺そうですけど、困ったらなんか言えよってよく言うんですよね。
深井さんは、この地域には困った人が多かった時期があったのではないかと推測します。そのうえで、任侠 ── 弱い者を助け、義理や人情を重んじる気風。日本では博徒や侠客の世界と結びついて語られることが多い言葉ですの世界も一種のセーフティーネットだと話しています。
田川と出雲、土地ごとの質感の違い
深井さんは月に1回以上、出雲に帰っています。出雲にも面倒見のいい人はたくさんいますが、その質は田川とまったく違うといいます。
出雲とかってもっとなんて言うんですかね、ホーリーな感じなんだよね。
深井さんによると、出雲は行くと心が洗われ、縁起がいい感じがする土地です。一方の田川は、兄貴や姉貴がいて頼れる感じの土地です。どちらが優れているという話ではなく、質感が違うということです。
この田川と出雲の違いについて、青柳さんは料理にたとえています。
兄貴・姉貴のような人がいて、困ったら頼れる。青柳さんのたとえでは「自然料理」
ホーリーで、行くと心が洗われ縁起がいい。青柳さんのたとえでは「懐石料理」
毎日懐石料理では嫌になるように、人生のシーズンによって食べたい料理は変わります。深井さんと樋口さんも、田川に行きたい気分の時と出雲に行きたい気分の時を使い分けられるとよいと話します。
樋口さんは、地域創生で耳にする「大きくなってもここにずっと住んでくれ」という言葉があまり好きではないといいます。20代で学びたい人や稼ぎたい人は、一度東京や海外に出たほうがいいかもしれないからです。
移動の自由っていう。
樋口さんは、外に出た人が田川に戻ってきて何かをするのが大事だと話します。ただし、必ずしも戻る必要はなく、大切なのはどういう関係性を組むかだといいます。
青柳さんはさらに、住所という概念がいずれなくなるかもしれないと考えています。年に何か月かは出雲、何回かは東京、何回かは田川に滞在し、それぞれの土地で多重に人と関係する生き方が、この10年ほどで広がっていくのではないかという見立てです。
そうなると地域に求められるのは、関係してもらえる場所になることです。青柳さんは、そのためには住んでいる人や関わる人の意識が変わり、自分たちの街を自分たちで面白くしようと動くことが重要だと話しています。
成功事例をまねる地方創生はなぜうまくいかないのか
樋口さんが地方創生で一番嫌いだというのは、一人勝ちしようとする人たちです。
要は自分のとこにだけ人を呼ぶ。自分のとこだけ勝てばいいって思って、その戦略立ててる人たちいるけど、んなことで栄えるわけないから。
樋口さんによると、人口を増やす、企業を誘致するといった発想はパイの取り合いです。パイの取り合いには必ず勝ち負けが生まれます。これに対して、この回で語られているのは、質感の違いに応じてそれぞれの役割があるという考え方です。
樋口さんは、個人も組織も地方も、自分の特性を生かす以外の生き方はもともとできないと話します。
樋口さんのもとには、いろいろな地方から視察が来ます。その中には手法を学びに来る人が一定数いて、「いいコンテンツはどうやって作ればいいのか」「住民として人をつなぎとめれば文化が起きるのか」と尋ねられるそうです。
一個の成功例がいいからっていって、バーって全員やり出したら多様性担保じゃないし、そもそもできないし。
樋口さんは、いいかねPaletteをモデルケースにしたいとは考えています。ただし、まねてほしいのは手法ではなく、あり方や考え方のレベルです。「これをやればなんとかなる」とは一切言えない、なぜならやっている人が違うから、と話しています。
コテンラジオが生まれた経緯を尋ねられても、答えは「たまたま」だといいます。廃校に長期滞在し、そこから市議会議員になって田川市の市政に関わる人が出てきたことについても、同じく「たまたま」だそうです。
深井さんは、個別の成功事例に目を向けすぎるとこうなってしまうと指摘します。大事なのは、化学反応が起きる可能性を持った「るつぼ」を作るという姿勢で、それは姿勢からしか生まれないといいます。
再現性はないけど、ある
樋口さんが言う「再現性はないけどある」とは、次のような意味です。コテンラジオを別の場所でもう一度生む再現性はありません。けれど、こういう人たちがたくさん生まれる確率を上げることはできます。
樋口さんが手がけるポッドキャストラボ福岡も、同じ考え方で運営されています。数がたくさんあって多様性があれば、その中からいくつか面白いものが生まれるかもしれない、という発想です。
クオリティを上げていくっていうことにやりがちだと思うんですけど、僕はそれじゃあ第2のコテンラジオは作れないってはっきり。
深井さんは、この二つの考え方の違いを一言でまとめます。
何個かに絞って育て、市場に合わせ、KPIを決めて品質を上げる。選択と集中の発想
数と多様性を確保し、面白いものが生まれる確率を上げる。いいかねPaletteの発想
深井さんは、地方でユニコーン企業 ── 評価額10億ドル以上の未上場スタートアップ企業のこと。非常に珍しい存在であることから、伝説の生き物ユニコーンにたとえられていますを作ろうとする動きにも疑問を投げかけます。エコシステムと大量の失敗者がいなければ、そうした企業はまず生まれないからです。
税金をそこに本当に本気で投入して説明責任果たす覚悟あってそれ言ってんの?って思うんだけど。
樋口さんは、岡田斗司夫さんの話を紹介します。登録者1000万人のYouTuberであるヒカキンさんは、本人の才能だけで立っているのではなく、それを支える大量の「屍」による三角形の面積が必要だという話です。
深井さんはこの話を受けて、いいかねPaletteが未来から逆算せずに投資できる理由を説明します。
ポテンシャルプールを作る
多様な人が集まる場を、狙いを定めずに用意する
たくさんのものが生まれる
すごいものも、いろいろな基準で「しょうもない」ものも出てくる
エコシステムが育つ
大量の試みの中から、狙っては作れない成功が生まれる
青柳さんはこれを畑にたとえます。いろいろな草が生えるが、その草の養分によって実る実があり、草が悪いわけではない、という考え方です。深井さんは、あらゆるタンパク質を入れた水の中で、ある時ふと生命が生まれるような話だと応じます。
いつ生まれるかもわかんないし、あの、それがどんなやつかもわかんないんだけど、そのタンパク質を溜めてる水がないとそれは絶対起こらない。
深井さんは、このことを理解できる人たちが集まって緩やかに連帯しよう、という呼びかけで話をまとめます。
言語化できなくても「わかっている」
深井さんは、今回の話を言語化はしていなくても、身体知でわかって実践してきたことが大事だと話します。青柳さんは、事業の話をするたびに言語化しようとしているものの、なかなかうまくいかないと打ち明けます。
深井さんは、言語化もまた一つの文化にすぎず、すべてではないと答えます。
じゃあお前寿司職人に聞いてみろよと。分かってねえのかこの人はってなるじゃないですか。
樋口さんも、宮大工に聞いてもおそらく言語化はできないが、だからといって技術が劣っているわけではないと続けます。深井さんが身体知について学んだのは仏教からだそうです。
仏教っていうのはやっぱり身体知の存在を認め、真理に到達するには言語知では不可能であるという結論を出してますから。
説明できること。コテンが得意とする領域で、今の日本社会ではこちらが重視されすぎている
寿司職人や宮大工のように、言葉にできなくてもわかっていること。仏教は修行によってこれを重んじる
深井さんは、体でモヤモヤを感じていながら、どう解消すればいいかわからない人が今はたくさんいる気がすると話します。言語知が優位だと思い込むと、自分の体が感じていることを優先できなくなるからです。
青柳さんは、まず物事をありのまま受け止め、それが何なのかを自分の中に落としていく作業が大事だと話します。その過程で「今まで誰かが何とかしてくれると思っていた」「自分は誰かに生かされていないか」と気づくこともあるといいます。
深井さんは、それこそが大人になるということだと受け止めます。親が作ったご飯を食べながら文句を言う高校生のヤンキーを例に、生かされていることに気づかず文句だけ言うのは子どもだと話します。
どっちの人生で終わりたいかって言ったら、やっぱ当事者側に回りたいなと思って、自分がやれることをやろうと思ってやるようになったんですよね。
Paletteの原点になった自治寮
樋口さんは、いいかねPaletteを作るときにモデルにしたものがあると明かします。それは、自身が通った九州芸術工科大学、通称「芸工大」のいじり寮という自治寮です。
樋口さんによると、その寮では寮長もルール作りもすべて学生が担い、映像ができる先輩が後輩に教えるといった技術の継承もありました。学園祭でも、外からミュージシャンや芸人を呼ぶのではなく、舞台装置からすべて自分たちで作っていたそうです。
なんかこの作るのがめっちゃきついけど楽しいよね、俺たちだって。俺たちがやりたくてやってるんだからみたいなのがあって。
深井さんが「幸福だと思う」と応じると、樋口さんは、その幸福は椅子取りゲームにならないと話します。
要は自分の中で作れるんですよ、楽しさを。
樋口さんによると、幸せが体の外にあると「楽しむためにいくら必要か」という話になってしまいます。一方、内側から湧く楽しさなら、100人全員が幸せになることも理論上できるといいます。この体験があったから、樋口さんはいいかねPaletteをやりたかったそうです。
樋口さんは、こうした場は税金を投入したり組織を作ったりするシステムだけでは実現できないとも話します。来て、話して、酒を飲んで、何かをやって「楽しかったね」となることが大事だという考えです。
これって例えば民主主義の話した時に、政治のなんかシステムだけ変えても。
青柳さんも、制度として民主制を取り入れたのに実態は独裁だった例と同じだと続けます。深井さんは、身体感覚がなければ形だけ変えても再現できないとまとめます。
人間嫌いの深井さんは軽音楽部に参加できるか
話は、いいかねPaletteの軽音楽部に移ります。集まってバンドをやる活動で、深井さんはぜひやりたいと言います。ただし、ひとつ問題があるようです。
僕、初めて会う人が嫌いなんですよ。
音楽は、音楽は好きだけど、人間は嫌いなんで。
青柳さんは、深井さんが人間のどこを嫌っているのかを「身体知で」確かめようと冗談を飛ばし、参加するときは隣で通訳のようにフォローすると申し出ます。樋口さんからは「コテンラジオの話題は出さないで」という注文も入り、スタジオは笑いに包まれます。
最後に青柳さんは、一緒に何かやりたい人や、つながってもいいと思った人は気軽に連絡してほしいと呼びかけます。深井さんも、関わり方は何でもいいと添えます。
今の話だと、ここでイベント開く、場所借りをする、住む、とりあえず一日来てみる。もう何でもいいから。
樋口さんは、これまでいいかねPaletteについては「人間動物園」的な側面や、弱った人を救う福祉施設のようなイメージなど、一面しか伝えてこなかったと振り返ります。今回は、その背景にある考え方まで話せたことを喜んでいました。
まとめ
いいかねPaletteが目指しているのは、成功事例を量産することではありません。質感の違う人や地域が緩やかにつながり、狙っては作れない偶然が生まれる「るつぼ」を育てることです。その価値は言語化しにくいものの、身体知として実践されてきたものだと語られています。
- いいかねPaletteは経済合理性を否定せず、その外側にある「バグ」のような価値を生む場として運営されている
- 手法をまねるのではなく、数と多様性で面白い人が生まれる確率を上げる「文化とエコシステム」づくりが重視されている
- 田川の兄貴文化と出雲のホーリーさのように、土地ごとの質感の違いがそれぞれの役割を生むと話されている
- 言語化できない身体知や、内側から湧く楽しさが、椅子取りゲームにならない幸福につながるという考え方が示された
- 共感した人には、イベント、場所借り、1日の訪問など、どんな形でもつながってほしいと呼びかけられている




