1.2億円の調達は「一般的ではない方法」だった
株式会社COTENは、ベンチャーキャピタルのドーガン・ベータから資金調達を行いました。この回は、そのプレスリリースに合わせて収録されたお知らせ回で、出資したドーガン・ベータの渡辺麗斗さんがゲストとして同席しています。
深井さんによると、COTENの今回の調達は「全く一般的ではない新しい方法」で行われました。深井さんは、この調達がどんなものかを伝えること自体に意味があると考え、出資者である渡辺さんに来てもらったと説明しています。
ベンチャーキャピタルの担当者と投資先の起業家が一緒に収録する構図は、あまり見かけないものです。起業家と出資者は利害を共にする一方で、究極の状況では利害が一致しない関係でもあり、本来は一定の緊張関係があるべきだと深井さんは話します。深井さんと渡辺さんは、10年ほどの付き合いがあるといいます。
調達額は約1.2億円です。深井さんは、COTENのステージのスタートアップなら3〜5億円ほど調達してもおかしくないとし、1.2億円は「ちょっと刻んだ」くらいの金額だと受け止めています。
深井さんが強調するのは、金額ではなく中身です。今回の調達は、一般的なスタートアップ投資とも、ESG投資やインパクト投資とも違うものだといいます。その違いを伝えるには、それぞれの投資の仕組みから説明する必要があり、この回は投資の歴史的背景から話が始まります。
これちゃんと説明しないと、なんかただのエモい感じで、なんかポスト資本主義みたいな。いや、それ俺一番嫌なんで。
スタートアップ投資は、なぜ「短期間の急成長」を求めるのか
深井さんはまず、従来のスタートアップ投資を説明します。短期間の急成長を目指す株式会社が、株式を発行して新しく資金を調達する仕組みです。
株式を発行するとき、起業家は事業計画を作ります。そこでは、アルファベットのJのように一度沈んでから急上昇するJカーブ ── 事業の立ち上げ期に赤字が膨らみ、その後に急成長して利益が伸びていく曲線のこと。形がアルファベットのJに似ていることから呼ばれますを描き、2〜3年は赤字を掘っても4〜5年目から大きく成長する、という見通しを示します。
株を買ってもらえば起業家は使える現金を得られ、企業価値が上がれば投資家はキャピタルゲイン ── 株を買ったときより売ったときの価格が上がった分の利益のこと。スタートアップ投資では、上場や事業売却の際に得られることが多いですを得られます。上場やM&Aで株を売ることで、究極的には100倍になって返ってくることもある世界だと深井さんは説明します。
渡辺さんは、ベンチャーキャピタル側の視点を補足します。ベンチャーキャピタルも人からお金を預かっていますが、銀行と違い、リスクのある会社に投資すると事前に説明し、たとえば10年の期間はお金を引き出せないという約束をしてもらっているといいます。
逆に言えば、ベンチャーキャピタルは10年で結果を出さなければいけません。渡辺さんは、複数の投資先のうち多くがゼロになっても、一部が大きく伸びれば全体で2〜3倍になる、というリスクの取り方を例に挙げています。
このリスクの取り方があるからこそ、投資先には「短期間」と「急成長」が求められます。渡辺さんは、そういう会社に投資する仕組みとしてベンチャーキャピタルが生まれた、という順番だと話しています。
起業家側の感覚では、最初の2〜3年に運営資金があれば一気に市場を押さえられます。逆にこの期間を緩やかに成長してしまうと独占体制が取れず、5年後、10年後にあまり儲からない状態になる、と深井さんは説明します。
事業計画の「確からしさ」と、VCが見ている人柄
深井さんは、他の会社のナンバーツーとして3社ほどで従来型の資金調達を経験してきた、スタートアップ畑の人です。その経験から、事業計画の妥当性や蓋然性、つまり「どれだけ確からしいか」が重要だと話します。
5年後の姿がいろいろ変わることは、お金を出す側も起業家も分かっています。それでも、どこまで確からしいところまで詰め切れるかが、起業家の重要なスキルだと深井さんは考えています。
できるだけ不確定要素を消し、理性でわかる範囲で全てを明らかにしていき、って感覚。それ(確からしさの追求)を途中で諦めちゃやっぱ全然ダメで。
深井さんによると、事業計画の確からしさは投資家を説得するためだけのものではありません。まず自分の事業計画を自分のために固めることが先で、それがないと「全部適当な人」になってしまうといいます。
ベンチャーキャピタルが見るのは、事業計画だけではありません。市場に市場性があるか、たとえばポッドキャスト市場が日本で5年後、10年後にどれくらい成長しうるかといった点も、厳しく見られます。
初期のスタートアップでは、CEOや取締役の人格にも成功率が大きく左右されます。ビジネスへの理解、人の信頼を得られるか、途中で投げ出さないかが見られ、出資を受けたあとは運命共同体として株主と信頼関係を築いていく、というのが深井さんの理解する従来のスタートアップ投資です。
スタートアップ投資では届かない領域はどこか
深井さんは、従来のスタートアップ投資には良い面と悪い面があったと整理します。良い面は、新しい領域にチャレンジできる人が増え、今までなかった事業がたくさん生まれたことです。
悪い面として、深井さんは資本主義全般と共通する貧富の差の拡大を挙げます。そのうえで、一番の問題は、スタートアップではチャレンジできない領域がまだ存在していることだと話しています。
その例として深井さんが挙げるのが、受験戦争と関係のない教育の領域です。とても重要なのに、そこでスタートアップが大量に生まれているかというと難しい、と深井さんは見ています。COTENの歴史データベースも、同じような領域にあるといいます。
要は市場性がなかったりするんですよ。市場性がない領域だと(社会にとって)重要だとしても、VCもお金流せないし、起業家もそこに張れなかったりするわけですよね。
市場の蓋然性やスケーラビリティを、お金という指標で説明できないと、リスクマネーは流れません。社会にとってどれだけ良くても、ベンチャーキャピタルは投資以上のお金を返さなければいけないからです。
深井さんは、直近の大きな問題として、こうした投資スタイルが環境問題に適用されないことも挙げます。環境、人権、戦争といった「お金ではないけれど大事なこと」に関係ない領域で、ビジネスは動き続けてきたといいます。
起業家の感覚では、それこそが自分たちの役目だという思いさえあったと深井さんは振り返ります。自分たちが富を生み、それが再分配されて税金となり、社会がうまく回っていくかもしれない、という感覚です。
ESG投資はなぜヨーロッパから広がったのか
深井さんによると、10年ほど前からESG投資 ── 環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)への配慮を投資判断に組み込む考え方。欧州を中心に広がり、日本でも大企業を中心に重視されていますが出てきました。お金の論理だけで回していると、環境や人権、企業統治がこぼれ落ち、世界が変な方向に行ってしまう、という問題意識から生まれたものです。
深井さんは、ESGはアメリカではなくヨーロッパが主体となって打ち出したものだと説明します。半分以上は、中国やアメリカに対抗してEUという経済圏を守るための政治政策でもある、と深井さんは見ています。
このまま普通の経済競争をしても勝てないため、環境と人権に配慮した経済を法律などで定め、市場に「そっちでないと儲からない」という空気をつくる。そうしてEUが生き残るという戦略だと深井さんは説明し、渡辺さんは「市場を作ってポジションを取ろうとした」と言い換えています。
ESG自体は非常に素晴らしいものだと個人的にも思ってますし、言ってる内容正しいと思うんですよ。環境に配慮した方がいいし、人権に配慮した方がいいし、ガバナンスあった方がいいよね。
深井さんは、こうした政治的な背景は批判ではなく事実として話していると断ったうえで、「やった方がいいこと」を最初に言って牽引する戦略だと位置づけています。ESG投資は、リーマンショックを一つの転換点として広がってきたと深井さんは見ています。
深井さんは、ヨーロッパではESG投資を知らない日本人が驚くレベルで浸透しているようだと話します。渡辺さんも、ヨーロッパではクリーンテックや森林資源の活用といった環境関連のスタートアップにお金が集まっていると補足しています。
深井さんによると、自分たちが出すCO2を将来的にプラスマイナスゼロにすると論理的に証明できない企業や、サプライチェーンで人権侵害をしている企業には、お金を出さないという態度が取られています。年金を運用する機関投資家までもがESG投資をしている点が、ヨーロッパのすごさだと深井さんは話します。
「ESGはリターンがない」という常識は変わったのか
聞き手からは、ESG投資はリターンがなくても我慢する投資なのか、という質問が出ます。深井さんの答えは「全然違います」というもので、ESG投資はリターンもあると主張しているといいます。
ESG投資が出てきた当初は、環境や人権に配慮すれば市場での競争力が弱くなり、金の亡者として振る舞ったほうが儲かるというのが一般的な常識でした。今はその常識を「古いことにしようとしている」段階で、実際に古くなる可能性も十分ある、と深井さんは話します。
環境や人権に配慮すると競争力が落ち、リターンは減ると思われていた
ESGに配慮しないほうが儲からず、配慮したほうがリターンもあるという文脈が、懐疑論はありつつもヨーロッパで主流になりつつある
深井さんは、ESGの中身も具体的に挙げていきます。Eは気候変動、空気や水の汚染、廃棄物処理、生物多様性など。Sは人権、公衆衛生、個人情報保護、従業員の安全、ダイバーシティとインクルージョン、児童労働、文化遺産の保護などです。
Gは法令遵守や独占の禁止、節度のある経営や節税です。税金をまったく払わないように頑張っている企業は、Gの観点で問題になると深井さんは説明しています。
消費者の側でも、人権侵害のあるサプライチェーンを持つ企業の製品は買わないエシカル消費や、そうした企業に就職しないという動きが出ています。深井さんは、現実に市場経済がESGによって変容していると見ています。
ESGに配慮する計画が出せなければクビになるっていうのを、実は株主側から圧力をかけてるっていう構造なので、これも恐らくほとんどの人は理解されてない可能性。
株主といえば、儲かるように経営者へ圧力をかける人たちだと思われがちです。ところがESGの文脈では、株主がESGに配慮するよう大企業のプロ経営者に圧力をかけている、というのが深井さんの指摘です。
インパクト投資とベンチャーフィランソロピーは何が違うのか
深井さんは、ESGのさらに先と言われるインパクト投資も紹介します。日本にもまだ小ぶりながら存在している投資の考え方です。
ESG投資は、あくまで「お金が儲かるからESGに配慮しよう」と言っています。これに対してインパクト投資は、お金も追求しつつ、社会的・環境的インパクトがどれくらいあるかを定量化し、価値としてカウントしようという考え方だと深井さんは説明します。
深井さんの理解では、インパクト投資は儲からないことを目指しているわけではありません。株主のリターンが50倍になる案と100倍になる案があったとき、必ず100倍を選ぶのではなく、50倍でも大きなインパクトがあれば100倍に匹敵すると考えられるのがインパクト投資だといいます。
深井さんは、ある国で1万人いる児童労働が半分になった、ゼロになった、ということを社会的なリターンとして考えるのがインパクト投資だと具体例を挙げています。
渡辺さんは、ベンチャーフィランソロピーという考え方も補足します。これまで寄付をしていたような人たちが、立ち上げ期の非営利団体や非営利に近い活動をする企業に、自走できるまでのお金を投資していく活動だといいます。深井さんは、ベンチャーフィランソロピーは10年ではなく30年、50年といった超長期で事業を見る考え方なのではないかと話しています。
| 投資の種類 | 何を重視するか | お金のリターンとの関係 |
|---|---|---|
| スタートアップ投資 | 短期間の急成長とキャピタルゲイン | 投資額以上のお金を返すことが前提 |
| ESG投資 | 環境・社会・企業統治への配慮 | 配慮したほうがリターンもあると主張 |
| インパクト投資 | 定量化した社会的・環境的インパクト | リターンは追求しつつ、インパクトも価値に数える |
| ベンチャーフィランソロピー | 非営利に近い活動が自走するまでの支援 | 市場経済の外に近く、超長期で見る |
ESGでもインパクト投資でも、なぜCOTENには出資できないのか
ここまでの流れを聞いて、聞き手は「それならCOTENもこれで出資を受ければいい」と考えます。ところが深井さんの答えは、そのどれでも出資がおそらくできない、というものでした。
恐ろしいことにこのどれでも出資がおそらくできないんですよ、(COTENに)。
深井さんは、今回の出資を一旦「COTEN投資」と呼び、ESG投資ともインパクト投資とも考え方が違うと話します。そのうえで、考え方の違い、なぜ既存の方法では投資できないのか、それをどう乗り越えるのかを順に説明していきます。
前提として深井さんは、市場経済をすばらしいものだと考えていて、消すつもりも、それ以前に戻すつもりもないといいます。ただ、ESGやインパクト投資のように、人々の意識と努力で市場経済を変容させることは現実的に可能だと考えています。
このようなリソース、人ですよね。人の配分が不適切だなというふうに思ってる。これが市場経済がクリアできていない問題の中で一番でかい問題だっていうのが僕が思ってること。
深井さんの仮説では、環境問題も人権問題も貧富の差も、人類の優秀な人材が適切な量だけ配分されれば解決されうるものです。たとえば優秀な人材が大量に回れば、CO2を排出しないエンジンが開発される可能性もあると深井さんは話します。
深井さんは、人々が労働者として市場からお金を得て生きている以上、お金を得られない領域には人が行けず、そこに偏りが生まれると考えています。このリソースアロケーション ── 人やお金などの資源を、どの領域にどれだけ配分するかということ。アロケーションは「配分」を意味しますの適切化こそが、COTEN投資の究極的な目的です。
ESG投資は環境・社会・企業統治の問題を解決するためのもので、インパクト投資も定量化できるインパクトを対象にしています。どちらもアロケーションの適切化を目的にしているわけではない、という「出どころ」の違いが超重要だと深井さんは話します。歴史データベースは、ESGのどれにも一般的には入らない領域だといいます。
未来は測れるのか、なぜ投資判断は「呪術」になるのか
深井さんが既存の投資の問題として挙げるのは、未来の予測可能性や定量化できることへのスタンスです。インパクト投資は、定量化しなければお金の配分のコンセンサスが得られないから、なるべく定量化しよう、と言っていると深井さんは理解しています。
未来を予測することってめちゃくちゃ重要だと思ってるんですよ、僕は。だけど、人類史を見てきて、僕が感じているのは、未来を精緻に予測ができた人類が存在しないということなんです。
深井さんは、ブッダやイエス・キリスト、マルクスの影響をソーシャルインパクトで測れたかと問いかけ、それは絶対に無理だと話します。大きな方向性はある程度予測できても、定量化して精緻に予測したものは基本的に当たらない、というのが深井さんの見方です。
インパクト投資をする人も、スタートアップのシード投資をするベンチャーキャピタルも、そのことは百も承知だと深井さんは言います。それでも実際の投資委員会では、まるで予測が当たるかのような説明をせざるを得ません。
深井さんは、定量化には「予測の定量化」と「コンセンサスの定量化」の2種類があると整理します。予測の定量化は、仮説を立てて検証するために欠かせないものです。起業家が何年後に何人の従業員がいて、どれだけ売り上げが必要かを計画するのも、そのためです。
ところが株主とコンセンサスを取る過程では、数字が「合意を得るための数字」に引っ張られていきます。聞き手が「鉛筆なめなめ」と言い換えたように、これくらいの数字でないと通らないからこの数字にしよう、という話になっていくのです。
仮説を立て、検証し、ずれたら修正し続けるための数字。事業を進めるうえで欠かせない
株主などと合意を取るための数字。通すための数字が一人歩きし、呪術になっていく
これね、中国古代にね、亀の甲羅がね、もう戦争に行くって決めてんの。みんな。決めてんだけど、亀の甲羅が右に割れてくれないと戦争に行けないんですよ。
深井さんは、亀の甲羅が右に割れるまで割り続けるのと同じように、事業計画のPLがJカーブさえ描けばコンセンサスが得られるのだと話します。投資家は起業家の数字を下方修正して見ていて、起業家は本気でその数字に届くと信じている、という関係です。
出資する側も起業家も、通すための数字を作り、儀式の場ではそれが理性的なものとして扱われます。そのまま大元のお金の出し手にも説明され、「満を持して全員で予測を外し続ける」のが人類のやっていることだと深井さんは表現します。深井さんは、ESG投資もインパクト投資もこの誤謬に陥っていると考え、それをメタ認知しようと提案しています。
歴史データベースと教育は、なぜ投資されにくいのか
深井さんは、予測可能な領域では予測の思考を使えばよいとしつつ、蓋然性がそもそも低い領域もあると話します。COTENの歴史データベースは、まさに何が起こるかわからない領域です。
そこに頑張ってさ、俺が蓋然性説明できるよ。自分で言うのもなんだけど、俺できると思う。で、3億5億集めようと思ったら集めれると思うけど、それ呪術だから。
深井さんが恐れているのは、呪術に合わせることでプロダクトが歪むことです。歴史を全部検索可能な外部ストレージとして人類が持つべきだという話は、どう儲かるか以前の問題だと深井さんは言います。
歴史データベースは、経営判断の場でも使えるので儲かるはずだと深井さんは考えています。ただ、「経営判断に使えるから儲かる」と説明して資金を集めると、経営判断用のデータベースから作ることになり、本来のプロダクトを毀損してしまうといいます。
深井さんは、起業家の多くが、本当はもっと壮大な夢を持ちながら、市場に合わせてコンセンサスを取るために事業計画を引っ張られていると話します。これが、リソースアロケーションを阻害する最後の要因だというのが深井さんの考えです。
考え方が是正された先の例として、深井さんは企業による地域の教育への投資を挙げます。地域に根差した株式会社がその地域の子どもたちに投資することは、スタートアップ投資でも従来の事業投資でも説明できず、ESG投資ではマイナスをゼロにする枠に入らず、インパクト投資でも効果が測れないといいます。
それでも、上場企業のほとんどが長年、受験戦争ではない教育や、子どもが多様な大人に会える機会に投資していたら、今の日本は変わっていた可能性が高いのではないか、と深井さんは問いかけます。歴史を踏まえずに企業や政治が判断していることも、同じくもったいないことだと話しています。
利益は出す。では、VCは投資家にどう説明するのか
深井さんは、COTENの調達が既存の投資に合わせると歪むと考え、合わせずに進めることにしました。この投資に価値を感じる人たちから出資を受けて実績を残せば、COTENに続く未知の事業もたくさん出てくる可能性があるといいます。その出資を引き受けたのが、ベンチャーキャピタルであるドーガン・ベータでした。
聞き手は、これが「利益を出さない」という話と混同されてはいけないと確認します。深井さんの答えは明確で、市場経済の中で、歴史と社会をつなぐ人たちがお金を得ている状態を作るべきだという立場です。
財団から供給され続けてやりますとかでもなく、寄付で成り立ちますでもなく、直接企業が歴史に投資すべきでしょ。だってその価値あるじゃん、あなたたちにとってって思ってるわけだよね。
深井さんは、歴史に従事する人たちが年収2000〜3000万円ほどもらうのが適切なアロケーションだと考えています。今はまだ出せていないものの、それを目指すなら、市場経済の中でかなりの売り上げを立てる必要があります。
ただ、そこに至るプロセスは、まだ存在しない市場の話なので、アナロジーとしても意味がないと深井さんは言います。では、お金を預かるベンチャーキャピタルは、自分たちの投資家にどう説明したのか。深井さんの答えは「このまま説明しました」でした。
深井さんは、ベンチャーキャピタルには説明責任があることを認めたうえで、LP ── リミテッド・パートナーの略。ベンチャーキャピタルのファンドにお金を預けている出資者のことですに説明するところから頑張ってほしいと話します。本当に合理的なのはこういう考え方ではないか、と大元の出し手に伝えてほしいということです。
渡辺さんは、「分からなさ」にもレベルがあると整理します。いくつかの可能性のうちどれになるかがわからない状態と、そもそもどうなるかわからない状態はまったく違い、少なくとも一つひとつの可能性は理解できるところまでは行くべきだといいます。
渡辺さんは、説明の難しさをSaaS ── ソフトウェアを月額などで提供し、継続的に料金を受け取るビジネスモデル。前例が多く、将来予測のパラメーターが共通しているのが特徴ですと比べます。SaaSならパラメーターが共通していて全員の頭の中が一発でそろいますが、COTENはビジネスモデルが複数あるかもしれず、前例もないので、説明がとても大変だといいます。
PLで表現せずに、だから今回投資したし、IPO義務もなしで通してるんですよ。
リターンが何で返ってくるかは不明だが、返したいし返す、と言って出資を受けたと深井さんは話します。渡辺さんが「娘さんをくださいと言って、わからないけど頑張りますと言っているみたい」と笑うと、深井さんは、予測については誰よりも四六時中考えていると返しています。
新しい呪術のルールと、ファンドの1割という提案
深井さんは、すべての投資をこの形にすべきだとは考えていません。世の中の9割ほどの投資、たとえばSaaSのような事業には、従来の投資をすればよいといいます。問題は、ESGやインパクト投資まで含め、ほとんどの投資が予測可能性への信仰にとらわれていることです。
でもホモサピエンスって呪術的な儀式的なコンセンサスとか基本取れないんで、儀式を違うバージョンに変えましょうって話をしてるんですね。
深井さんは、合理的に何かをしようと言っているのではなく、今の呪術に意味があるのかを問いかけているのだと説明します。新しい呪術のルールを作ればいいというのが深井さんの提案で、起業家もベンチャーキャピタルもそれをする人たちだと考えています。この出資には1年以上かかったといいます。
渡辺さんは、この挑戦が市場経済の中で行われる点を一番面白いと話します。市場経済の外では、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のような巨大な寄付や、税金を使った道路・病院・警察のように、直接のリターンを求めない活動がすでにあるからです。
深井さんは、そうした流れはリソースアロケーションとして効率が悪いと考えます。重要なことに財団が投資しているとすれば、それよりあまり重要でないことで一度お金を稼いでから回していることになるからです。重要ならば、そのコンセンサスを得て直接投資できるはずだと深井さんは話します。
深井さんは、今の形のスタートアップ投資が5年後、10年後も同じように行われているとは思えないと話します。どうせ変わるなら、早く変わったほうがいいという考えです。
渡辺さんは地方にいる立場から、地方交付税や交付金による再分配ではなく、住んでいる人たちが自ら課題を解決しようという動きが民間から起きていると話します。補助金を得るための書類づくりが仕事のようになり、税の再分配は高コストになっているという指摘です。
渡辺さんは、ベンチャーキャピタルは最初に一定期間お金を預かるという段階でコンセンサスを取れる仕組みだと話します。そこで「一部はわからないものにも投資する」と合意しておけば、一件ごとの説明コストが下がる可能性があるといいます。ファンドを作るサイクルが3〜5年ほどなので、タイムラインとしても合いそうだと見ています。
深井さんも、ファンド全体の1割ほどをこの投資に充てるのがよいのではと話します。避けたほうがいいのは専用ファンドを作ることで、全ファンドが何割かをこの投資に充てている状態を担保し、9割と1割の呪術の違いを自分でメタ認知できることが大事だといいます。
LPへの説明
ファンドを作る段階で、一部はわからないものに投資すると伝えて合意を取る
ファンド内の1割
全ファンドが一部をこの投資に充て、専用ファンドにはしない
個別の投資
一件ごとに予測の正しさを説明するコストが下がる
アロケーションの変化
教育や歴史など、測れないが重要な領域に人とお金が回る
渡辺さんはCOTENの何に投資を決めたのか
最後に、渡辺さんがCOTENの何にほれて投資したのかが語られます。渡辺さんはまず、株価の考え方から説明を始めます。
渡辺さんによると、株価は将来生まれる利益をリスクで割ったものとして考えられます。COTENの場合、将来の利益はどれになるかわからず幅があります。一方でリスクは、誰がやるかによって決まるといいます。
起業家が諦めてしまえば、その先の利益は絶対に出ません。企業が終わるのはキャッシュが尽きたときではなく起業家が折れたときだ、という言葉も紹介されています。事業の解像度や、最悪でも存続できる売り上げをどこにつなげば立てられるかを持っている起業家ほど、リスクは下がると渡辺さんは話します。
渡辺さんと深井さんは10年来の付き合いで、深井さんには渡辺さんの投資先を何社も手伝ってもらってきたといいます。深井さんが歴史にかける思いを会社の立ち上げ期から聞いてきたからこそ、何かにはなるだろうとリスクが下がる部分に投資家としてかけた、と渡辺さんは説明しています。
理念への共感など、ほれている部分はたくさんあるものの、最後の意思決定では人を見たというのが渡辺さんの答えです。同じことを別の会社が言っていても、投資できたかはわからないといいます。深井さんや今のメンバー、これから集まるメンバーを含めたCOTENに投資するのが、この未来に対してよいと考えたそうです。
ただの資金調達の報告のはずが、投資の歴史から投資の未来までを語る回になりました。聞き手からは、資金調達のお知らせでここまでの話をした例はない、ワクワクする話だった、という感想が出ています。
まとめ
COTENの約1.2億円の資金調達は、PLでの予測に頼らず、IPO義務もなしで「わからないものをわからないまま」出資を受けた点に特徴があります。深井さんは、ESG投資やインパクト投資を評価しつつも、未来を予測できるかのように合意を取る「現代の呪術」をメタ認知し、人類のリソース配分を適切にすることを目指しています。
- 従来のスタートアップ投資は、ベンチャーキャピタルの仕組み上、短期間の急成長を前提にしており、市場性のない重要な領域には資金が流れにくい
- ESG投資はリターンもあるという文脈でヨーロッパから広がり、インパクト投資は社会的インパクトを定量化して価値に数えようとしている
- 深井さんは「予測の定量化」と「コンセンサスの定量化」を分け、後者が一人歩きして通すための数字になることを呪術と呼んでいる
- 提案は、全ファンドが1割ほどを予測できない領域に充てることを、LPとの最初の合意に組み込むこと
- 渡辺さんの投資判断の決め手は、将来の利益よりも、リスクを下げる「人」を見たことだった




