安定を求めた人が、なぜ大企業を2年で辞めたのか
深井龍之介さんは大学卒業後、有名な上場大企業に就職しましたが、約2年で退職しています。楊睿之さんは、せっかく安定した職に就いたのになぜ辞めたのかを、以前から聞きたかったといいます。
意外にも、深井さん自身は今のベンチャー中心の経歴に反して、もともと「結構安定志向」だったと話します。そのうえで、辞めた理由は「全然安定してないことがよくわかったから」だと説明しています。
大企業にいることが最も安定しない時代に突入したし、(経営企画で)経営の中枢を見せてもらったんだけど、それがいい経験になったんだけどね。
深井さんによると、大企業が大きな利益を上げられるのは、仕組み化が進み、ガバナンス ── 組織を統治し、指示や意思決定が正しく実行されるようにする仕組み。企業統治とも訳されます、つまり指示系統がうまく回っているからです。その裏返しとして分業が細かく進み、社員の属人性に頼らず成果が出る体制になっています。
深井さんは、この体制がいかにすごいかはベンチャーを経営し始めてから実感したと認めています。ただ当時は、自分の仕事に汎用性がなく、「この業界の、この職種の人だけがやるやつ」だと感じ、そこに強いリスクを覚えたといいます。
もう一つの違和感は、求められる成果の半分以上が人間関係の調整だったことです。大組織では調整コストとコミュニケーションコストが非常に高く、そこを回すことが大きな成果になります。
けど、それ(調整がうまいこと)って意味あるんだっけ?って思ったわけ、当時は。
ちなみに(自分は)全然うまく調整できなかったんだけど。
深井さんは、今の経験が将来の自分にどう生きるのかを描けず、相談しても満足できる答えは得られなかったと振り返ります。早く出たほうがいいと感じ始めていたところに東日本大震災が起こり、「いつ死ぬかわからねえ」と思って退職を決めたそうです。
退職に迷いはなかったといいます。自分が大企業に向いていないこと、欲しいスキルとマインドが身につかないこと、そして日本の製造業の構造的な限界を見てしまったことが、複合的な理由として語られています。
仕組み化とガバナンスが効き、社員の属人性に頼らず成果が出せる
分業で仕事の汎用性が低く、成果の多くが社内調整に費やされる
上の図は、深井さんが大企業の仕組みを「すごい」と認めつつ、個人のキャリアとしてはリスクを感じた構図を整理したものです。現在の深井さんは、大企業にいる価値もよく感じられるようになったと付け加えています。
生活の安定は、どこから生まれるのか
楊睿之さんは、大企業を辞めるときに生活の安定は考えなかったのかと尋ねます。深井さんの答えは、当時も今も変わらない考えに基づいています。
大企業にいることで生活が安定する時代はもうとうの昔に終わっていて。
深井さんによれば、この激動の時代に安定した生活を送るには、自分がスキルをつけること以外に方法はほとんどありません。ここでいうスキルとは、さまざまな組織やグループの中で社会的な成果を出せる力のことです。
深井さんは、そうしたスキルは大企業でも身につけられるとしつつ、道のりは遠いと話します。人の上に立つ経験はかなり後にならないとできず、細分化された狭い範囲を任されるため、俯瞰的な視点を持ちにくいからです。
持てるよ。もちろん持ててる人ももちろんいらっしゃるし、持てるけど(俯瞰的視点は)持ちづらいよね。ベンチャーと比較したら。
「やりたいこと」より「エネルギーが出ること」を選ぶ
深井さんは現在、顧問を務める会社の社員やプライベートの知人から、キャリアや転職の相談をよく受けています。楊さんは、その相談に深井さんがどんなアドバイスをしているのかを尋ねます。
深井さんは、人によって答えは違うと前置きしたうえで、まず「やりたいことが明確に決まっている人」と「まだ模索している人」に分けるべきだと話します。明確に決まっている人はほとんどいないものの、たまにいるといいます。
明確に決まってるんだったら、給料が低かろうが、条件が難しかろうが、難易度が高かろうがどうだろうが、さっさとやった方がいい。
一方、模索中の人については、エネルギーが出やすいことを選んでいくべきだと深井さんは考えています。仕事はよく「社会的な価値」と「自分が好きかどうか」で語られますが、深井さんはその見方をほとんどしていません。
深井さんは、エネルギーが出ることと、やりたいことは必ずしも一致しないと話し、ダイエットにたとえて説明しています。
別にダイエットが好きでやるわけじゃないでしょ。食事制限なんてしたいわけじゃないじゃん。けど、めっちゃ痩せたいって思ってたらダイエットするわけじゃん。
つらいとわかっていてもやろうと思える、その気持ちの出方で仕事を選ぶほうが、長期的には成長もし、成果も残るというのが深井さんの考えです。
給料・条件・難易度にかかわらず、さっさとやる
エネルギーが出せる仕事内容と人間関係を基準に選ぶ
給与のフルマックスで仕事を受けると何が起きるのか
楊さんが「できること」という軸も大事ではないかと投げかけると、深井さんはお金の仕組みから話を広げます。お金は、できて実績があることに対してしか払われないというのです。
深井さんによれば、給与は過去の実績と、できると証明できることにしか値段がつきません。だから値段にこだわりすぎると、自分の経験を消費するだけで、投資がない状態になってしまいます。
じゃないと、自分の過去の経験を消費していってフィニッシュする。
そこで深井さんが勧めるのは、やったことがなく、まだ値段がつかないけれど、やらせてもらえて、しかもエネルギーが出る仕事を何割か含む職場です。全部そうした仕事だと年収が下がりすぎるものの、何割か年収を下げてでも選べば、市場価値とやりたい仕事ができる状況に近づき続けるといいます。
具体例として深井さんは、20代で転職するときに、自分ができる仕事の給与のフルマックスで受けると、その仕事だけをさせられてしまうと指摘します。
できる仕事を給与フルマックスで受ける。その仕事だけを任され、給与もやりたい仕事も伸びない
給与を下げても未経験の仕事に挑戦する。30代ぐらいで好きな仕事がかなりできるようになる
やったことないけどチャレンジさせてください。その代わり給与は低くてもいいですにしないと、もう給与絶対上がんないんだよ。
深井さんは、給与を上げるためにやるのではないと断りつつ、一時的に収入を下げてでも投資になる仕事を選ぶことを、転職の判断軸に必ず入れるよう若い人に伝えているそうです。
まとめ
深井龍之介さんは、大企業の仕組みのすごさを認めつつも、自分のキャリアの安定は個人のスキルからしか生まれないと考えて退職しました。その経験から、転職相談では「エネルギーが出るか」と「経験への投資があるか」を軸にするよう勧めています。
- 深井さんが大企業を辞めたのは、分業による仕事の汎用性の低さと、成果の多くが社内調整だったことにリスクを感じたためです
- やりたいことが明確な人はさっさとやり、模索中の人はエネルギーが出せる仕事内容と人間関係で選ぶのがよいと語られています
- 給与は過去の実績にしかつかないため、値段にこだわると経験を消費するだけになりがちです
- 一時的に収入を下げても未経験でエネルギーが出る仕事に挑戦すると、30代ぐらいで好きな仕事ができるようになると深井さんは話しています



