金のヤンヤン像とは何なのか?
この番外編は、X上で行われた「COTEN RADIO短歌コンテスト」の結果発表回です。Xだけで告知された企画だったため、Podcastだけを聴いている人は知らないかもしれない、と樋口さんは前置きします。
賞品の「金のヤンヤン」は、手のひらに乗るサイズの金属製の仏像で、顔は楊睿之さんを模しています。片膝を立ててあぐらをかいた姿で、番外編にも出演した鷹取亮さんが「面白いから」という理由だけで作ったものだそうです。
なんか数十万をね、投下して。
(金のヤンヤンは)多分あの瞬間、世界で一番無駄な投資の一つだったと思います。
制作はプロの人形師である斎藤義信さんが担当し、オフ会の最中に楊さんの顔を360度撮影して3D化したといいます。深井さんは、偶像としてのクオリティは本当に高いと強調していました。
ただ、何のために作ったのか誰にもわからず、金のヤンヤン像は2年間、楊さんの家の段ボールの中で眠っていました。
時だけがね、これ(金のヤンヤン)を癒したみたいなやつだよね、これ。
短歌コンテストはどう生まれ、どう審査するのか
大量の像をどうするかと考えた末に、リスナーに還元したいという思いから、コテン社内で生まれたアイデアが短歌コンテストでした。
審査員が楊さんではなく樋口さんであることについて、深井さんと楊さんは、金のヤンヤンを巡る争いを避ける仕組みではないかと冗談を交えて推測しています。
あえてね。天皇と将軍みたいな切り分け方されてるのか。
応募総数は351首にのぼりました。楊さんは「万葉集ができるよ」「ちょっとした歌会」と驚き、深井さんは短歌はハードルが高いのに、と感心していました。中には、コンテストがきっかけで古くからの知人と再会した人もいたそうです。
歴史の道しるべと、名もなき人たちを歌った3首
20首の紹介は、まひるの白い月さんの「今に問うその行く末は未知なれど歴史の中にある道しるべ」から始まりました。「現在」と書いて「今」と読ませる歌で、樋口さんは、行く先は未知でも歴史の中にヒントがある、という意味ではないかと読み解きます。
初っ端からちょっとエモい感じで殴ってきたな。
マウントフォレストさんの「歴史には名前残らぬ人たちのバトン渡りて生まれる偉人」は、偉人の裏には名前も残らない多くの人の影響がある、という番組の話を短歌にしたものです。樋口さんは、飛行機の発明がライト兄弟だけの功績ではないという話を例に挙げました。
かさとんさんの「ただそこにただその時に君はいた立てた波紋は今に伝わる」について、楊さんは、当時は普通の人だった誰かの存在が後の世に大きな影響を与えるという「歴史のあり方の一つ」だと語ります。
ここで3人は、自分たちが短歌の文脈や技術をよく知らないことを認め、審査はフィーリングで行うと断っています。
ルソーとガンディー、偉人の意外な一面を詠んだ歌
ゴッサムさんの「学校で教えぬ歴史人権の理想は高くちんこ丸出し」は、「理想」に「ルソー」を掛けた一首です。フランス革命の回で紹介されたルソー ── 18世紀フランスの思想家。『社会契約論』などでフランス革命に大きな影響を与えた一方、私生活では奇行のエピソードも伝わっていますの逸話がもとになっています。
社会契約賞を与えたいです。
このバランスがいいですよね。ふざけとこの真面目さのね。
続く、先生、育児がつらいですさんの「六歳がルソー知ってる得意顔八歳すかさずちんちん出した人」では、6歳と8歳の子どもがフランス革命編を聴いている様子が浮かびます。樋口さんは、子どもが聴いていると思うと下手なことは言えないと苦笑していました。
アオザキさんの「ガンディーの偉業にやまないリスペクト。でも孫と寝るのはどうかと思うよ」は、ガンディーが性欲を克服する修行として孫娘と裸で寝ていた、という本編のエピソードを詠んでいます。
これをどう解釈するかは人それぞれだなと思って出したエピソードですね、これね。
樋口さんは、本筋と関係ないこうした逸話も大事で、偉人をこうして語れるのは歴史との距離が近づいた証かもしれない、と話しています。
リスナーの日常と歴史がつながる瞬間
オモテさんの「寝付けない娘を抱っこ。真っ暗な廊下が歴史と繋がる場所に」は、夜中に寝付けない娘を抱いて廊下に出て、小さな音でコテンラジオを聴いている情景として読まれました。
歴史弱者っていう立場でやりますって始めたみたいな部分があるから、これ(オモテさんの短歌)は結構くるもんがありましたね。
カブリンコさんの「スパルタを走りながら聞いてたら勢いついて家路は遠し」は、スパルタ編で気持ちが高ぶって走りすぎてしまった、というおっちょこちょいな一首として笑いを誘いました。
ヤマモトさんの「俺はいいよ。難しすぎない。もう見えない父の目にまた歴史がにじむ」について、深井さんは、勧められた父親が一度は「難しすぎるんじゃない」と断ったものの、目が見えない父親にも歴史の情景が浮かんだ、と読み解きます。「にじむ」は目にかかる言葉でもあります。
そうだね。目が見えない人でもあれ(コテンラジオ)できるからね。
トルコ、車、子育て、大学への道
ジュンさんの「火の元を遠く離れて異文化の温度取ること、古典に学ぶ」は、「火の元」に日本を、「古典」にコテンを掛けた歌です。Xの補足によれば、トルコで人種・宗教・慣習の違う人たちをマネジメントするうえで、コテンラジオで学んだ人文知が役立っているそうです。深井さんはオスマン帝国の回を思い出していました。
タカオさんの「マイカーをタイムマシンにする古典ラジオと走る二車線道路」について、楊さんは「二車線」を今と歴史の2本の道ではないかと解釈しました。
それも歌の力ですからね。作者の意図を超える時もありますから。
おたかさんの「ママなぜ?戦争お金?ヘレンケラー。任せて私は古典リスナー」では、子どもの質問に答えられる母親の姿が浮かびます。楊さんは「なんで戦争したの?」のような質問は意外と答えに詰まるものだと話していました。
カズジャガイモさんの「還暦を前に歴史の沼に落ち、人生初の大学へ上がる」に、深井さんは「生涯学習ですよね、まさに」と称賛します。楊さんは「還暦」の「暦」と「歴史」の「歴」の重なりを、樋口さんは沼に「落ち」て大学へ「上がる」という上下の動きを指摘しました。
3人の名前を織り込んだ超絶技巧の短歌
クシリフシ909さん読み方の「深き世の柳のごとく別れしが編み整いて樋より流る」は、深井さんの「深」、楊さんの姓の日本語読み「柳」、樋口さんの「樋」を織り込んだ一首です。
作者の注釈によれば、柳のように枝分かれしながら長く続く歴史が、相互に関連付けられ、樋から流れる水のようにウェブ(編み)から流れてくる様子を歌ったといいます。
真言みたいな感じになってるね。情報の圧縮がすごい。
草野大地さんの「ヤンヤンと樋口深井がヨーヨーにヤンヤヤンヤと紡ぐ人の世」は、ヤンヤンの音を繰り返した歌です。樋口さんは自分と深井さんが1回ずつしか出てこないと笑いつつ、3人が楽しそうに話す様子が目に浮かぶと評しました。
偉人と世界、人文知、新しい戦前
西田永基さんの「偉人いて世界が変化そうなのか。人の意向か世界の意思か」について、樋口さんは、偉人がいたから世界が変わったのではなく、大きな流れの最後に出てきたのがその人だった、というケースは多いと語ります。
SENMさんの「開かねばならぬ扉は人文知道しるべなき変革の今」には、楊さんが「古典のビジョンみたい」と反応し、樋口さんは「高杉晋作が読みそう」と重ねました。
むぅさんの「新しい戦前となりもがきつつ過去の歴史が師となりにけり」は、今の世界情勢を「新しい戦前」と捉え、もがきながら歴史を師として進む歌として読まれました。深井さんは、「新しい戦前」という言葉だけで状況が伝わることに歌の力を感じています。
社会を動かすのは制度か需要か
けんさしつさんの「制度より需要実体先にあり揺り戻しつつ社会は進む」は、番組で何度も語られてきた内容を凝縮した一首です。
需要・実体
まず人々の需要や実態が先に生まれる
制度
それを追いかけて制度や仕組みが変わる
揺り戻し
揺り戻しを繰り返しながら社会が進む
あの長いコメントをめちゃくちゃ短歌でコンパクトに言ってるみたいなやつ。
樋口さんは「次の民主主義の歴史とか、もう五七五で終わったらいいんじゃないですか」と冗談を飛ばしました。楊さんは、この洞察が語られたのは番組の比較的初期で、懐かしさを覚えたと話しています。
最後の1首は、こうさんの「崇める人拝む人皆救いなく自ら叩け地の扉を」です。深井さんは、崇めても拝んでも救いはなく、自分の頭で歴史を学びながら考えよ、という意味ではないかと解釈しました。
大賞は「真っ暗な廊下」の一首
紹介しきれなかった応募作は、X(旧Twitter)でハッシュタグ「#COTENRADIO短歌」を検索すると見られます。そして樋口さんが、2つで迷った末に選んだ大賞を発表しました。
大賞はオモテさんの「寝付けない娘を抱っこ。真っ暗な廊下が歴史とつながる場所に」です。
テストで点を取って評価を得るための勉強としてしか、僕はずっと(歴史と)向き合ってきてなかった。
樋口さんは、歴史を学者やマニアだけでなく一般の人に、誰でもいつでも聴ける音声で届けたいと考えて番組を始めました。まさにそれを体現している一首だったことが、立ち上げに関わった身として嬉しかったと語ります。
じゃあ(大賞に)選んだ理由、嬉しかっただね、これ。
短歌はそんなもんですからね。響いたものが一番良かったんじゃないですか。
樋口さんはさらに、廊下は「つながる場所」であり、「真っ暗」は暗中模索する不安とも読めると話します。そんな場所が歴史とつながることに、未来への希望も感じたといいます。
深井さんと楊さんの推し短歌
深井さんが印象に残ったのは、3人の名前を織り込んだ「深き世の柳のごとく」の一首で、「編み」がウェブだとわかった瞬間に驚いたといいます。
楊さんはヤマモトさんの「俺はいいよ。難しすぎない。」の歌を挙げ、作者と父親の両方の気持ちが想像できる点に惹かれたと話します。この歌は樋口さんにとっても第2候補でした。
少しでもこのラジオがお父さんの、少し人生の楽しみであったり、やりがいに少しでもなればいいなと、僕は素直にちょっと思いましたね。
樋口さんは、難しいと言っていた父親が実はよく聴いてくれている構図に、番組を始めたときの思いが重なったと語りました。楊さんは、樋口さんが加わったことでコテンラジオが多くの人に聴かれるようになったのは事実だと応えています。
次の企画と資金調達のお知らせ
金のヤンヤン像はまだ数十体残っており、好評なら次の企画も考えているそうです。大賞のオモテさんには、後日自宅に金のヤンヤン像が届けられます。
最後に深井さんから、COTENの資金調達を報告する特別編の告知がありました。ポスト資本主義の資金調達の報告で、10月上旬ごろに公開予定、約1時間半の内容になるといいます。
お金の歴史から資本主義からいろいろ聞いた上で、この告知を聞くと、また意味がわかってくると思うんで。
まとめ
金のヤンヤン像という謎の賞品から始まった短歌コンテストは、351首の応募を集め、リスナーが番組をどう聴き、何を受け取ってきたかを映し出す場になりました。
- 応募351首から社員が20首を選び、樋口さんが審査員として大賞を決定した
- 大賞はオモテさんの「寝付けない娘を抱っこ。真っ暗な廊下が歴史とつながる場所に」
- 選んだ理由は、誰でもいつでも聴ける音声で歴史を届けたいという番組の原点と重なったから
- ルソーやガンディーの逸話、社会の変化の構造など、番組の内容を凝縮した歌が並んだ
- 後日、COTENの資金調達を報告する約1時間半の特別編が公開予定



